暦2000年7月8日11:00~13:00
そろそろ折り返しです。
そこは砂と鉄の街だった。
熱風が吹き荒れ、砂塵が巻き上がる。
食物はほとんど育たず、照りつける太陽は生物を死に導く。
そんな過酷な環境の中でも、人々は生きていた。
そこら中から取れる鉄を使って、地下に頑丈な空間を造った。
空に向けてそびえる塔を造った。
鉄の性質を理解し、応用し、それを生活に組み込んだ。
それが砂と鉄の大都市、アハトである。
さて、そんなアハトで今、なんとも奇妙な事件が起こっていた。
一日の内に何度も何度も、瞬く間に昼夜が逆転するという事件だ。 人為的に起こせるものではない。 明らかに、大精霊が絡んでいる。
アハトの人々はまずエラフの街に調査依頼を出した。 だが、精霊を進行している彼らは大精霊のすることなのだからなんらかの意味がある、自分たちが手を出して良い案件ではないと言って依頼を断った。
アハトの人々は次にフュンフの街に依頼を出した。 最強の街と名高いフュンフであれば、なんらかの助けになってくれると期待したのだ。 だが、フュンフの人々は『昼夜逆転が頻繁に起こると何が困るんだ? 時計はわかるだろう?』と言って相手にしてくれなかった。
アハトの街の人々は最後にフィアの街に依頼を出した。 永世中位と呼ばれるフィアならば、こちらの問題にも真剣に取り合ってくれるだろうと。 しかしフィアは現在不可思議な事件が起こり続けているということで、本当にすまなそうにされながら断られた。
アハトの街の人々は他の街に依頼する事を止め、アハトの街のギルドを頼ることにした。
何故最初に頼らなかったかと言えば、人々にギルドへの忌避感があったからだ。
住民全員で街を造るアハトにおいて、ギルドの職員・冒険者だけがそれに従事ない。 それが、そのことだけがアハトの住民たちは許せなかったのだ。
しかし、事態は緊急を要する。 自分たちの許す、許せないなどに構っている暇はない。
普通の街であれば、フュンフの街が言ったように昼夜逆転なぞそこまで気にする案件でもないのかもしれないが、ここはアハト。 昼は照りつける太陽が熱気を振りまき、夜は隠れた太陽が冷気を振りまく。 時間帯を見極めて適切な服装をしなければ、即座に死につながるのだ。
こうしてアハトの街はギルドに依頼を出し、ギルドは最も信頼できる人物として一人の青年を送り出した。
彼の名はレグレス・ツァイト。 20そこらの青年である。
『何故人間を助ける? 何故人間と共にあろうとする? この800年で貴様は何を見てきた! 答えろリヒト!』
『うふふ、愛の無い目で見てきたあなたにはわからないでしょうね。 そのまま解らないで眠りなさい。 ダンケルハイト。 貴方が眠っていた方が、世の中は平和なのよ!』
「ふむ……君がギルドから派遣された、レグレス・ツァイト君かな?」
「あー。 はい、そうです。 俺がレグレス・ツァイトです」
不安だな。 そう顔に書いてあるな、このおっさん。
ギルドから精霊絡みの依頼と聞いて、なんとなく察しはついていた。 だって現に昼夜逆転起こってるもの。
だけどまさか俺1人だけを送り出すとは思わなかったぜ。
「……だが、我々には四の五の言う権利はない、か……。
レグレス君。 知ってのとおり、現在アハトは未曽有の危機に陥っている。 この際どれほどの被害が出ても構わない。 だから、この現象を止めてくれないか?」
「はい。 そのために来ましたから」
「では、よろしく頼むぞ」
そう言って街の代表であろうおっさんは去って行った。
さて。
『フォイアルやヴァッサは子供だ! その目が眩む事もあるだろう。 だが貴様は違うぞリヒト! 貴様は大精霊でない時を何年過ごしてきた! その最中で見ただろう、人間どもの愚かさを!』
『愚かなのはそちらでしょう、ダンケルハイト。 あなたの言う人間だけれど、あの時のハイエルフだって人間よ? あらあら、そんなことも忘れてしまったの?』
『奴らと今の人間は違う! 一緒にするな! 奴らの純粋な意思への侮辱と受け取るぞ!』
恐らく俺がいる遥か上空。 口論の度に昼夜が逆転し、また戻る。
上を見上げれば闇色の騎士と白い乙女。 恐らく……というか確実にアレらが此度の事件の原因だろう。
つまり、大精霊同士の喧嘩。 アハトの街はしっかり真実を掴んでいたというわけだ。
『同じよ。 同じ人間。 私達とは違う人間だわ』
『愚かだ……! 愚かだぞリヒト! それは、我ら大精霊への侮辱でもあると知れ!』
恐らく上空のアレを仲裁すれば、この事件は解決する。
昼夜だって本当に逆転しているわけではなく、闇と光とが鬩ぎ合っているだけのようだ。
しかし、どうやって止めようかなぁ。
勢いを見るに、両者の力は互角。 まぁとりあえず鉄塔を登って……剣でも投げればいいかな。
『我らが大精霊でなかったあの1500年前の戦争を忘れたのか! それを鎮めたのが、他ならぬ奴らだろう!?』
『そうね。 でも、あの竜の子供を救ったのは人間よ。 忘れたのかしら? ハイエルフ達は何もできなかったあの子供に、私達ですら何もできなかったあの竜の子供を安心させて、全てを解決に導いたあの人間を』
『全体と個を同一視するな! あれは特殊な部類だ!』
『あなただって全体と個を一緒に見ているじゃない。 人間は愚かな個体だけじゃないわ。 うふふ、あなたの曇った瞳で見ているのは、一部の愚かな人間だけ。 違うかしら?』
昼夜逆転の速度が速まっている。
話を聞く限り、闇の大精霊が人間の愚かさを悲観し、光の大精霊がそれを否定しているといった所だろうか。
さて、そろそろ鉄塔の頂上に着く。
『なれば今の時代にいる人間は、全てが愚かな一部だ! 過去、そして未来ならばそうでないものが有り得たかもしれないが、今ここに居る人間は――――!?』
『愚かねダンケルハイト。 目が曇りすぎた大精霊はいらないわ。 ここで、矮小な闇の精霊に戻って――――何!?』
俺が頂上に昇りきると同時、都合よく止まった2精霊の真ん中に向かって、魔力をため込んだ量産品ロングソードを投擲した。 鉄が主流のアハトの街のロングソードは重心がしっかりしていて投げやすいな。
『……人間……?』
『隙を見せたなリヒト!』
俺に気を取られた光の大精霊が闇の大精霊の闇に絡め取られる。 人間じゃ到底為し得ない精霊魔法……いや、精霊そのものの行使か。
「あー、あんたら喧嘩やめてくれないか? この街の人間が困ってるんだ」
いや本当に。 できれば余所で……というか、大陸外とかでやってもらえると助かります。
『ぐっ!?』
『くくく……お前が守った人間に気を取られて敗北するなぞ、さぞかし屈辱的だろうなリヒト! お前はこのまま眠るといい!』
あ、だめだこの精霊達話聞いてくれてない。
仕方ない、実力行使で行くか。
背負っていた沢山の量産品ロングソードに、はち切れんばかりの魔力を込める。
そしてそれを――ブン投げる!
『さらばだ、リヒ――……くっ、何!?』
「おー、魔力込めれば精霊にも当たるんだな……」
『人間……愚かな、我に楯突こうと言うのか……』
いやだって……明らかに光の大精霊サマを殺しちゃう勢いだったし。
それに、言動からして光の大精霊サマの方が正しい気がするんだよなぁ。
もう一度ロングソードを投擲する。 が、弾かれた。
『我らに干渉する魔力……貴様、ハイエルフか?』
「え? いえいえ、俺は人間ですけど……」
あり、やっぱ普通は干渉できないのか。 なんだろう。 このロングソードが特別製、とか? いやいや、これサボテンより安い値段なんだぜ?
『……くっ……うぅ……時の……残滓……』
『時? まさか、この人間は……』
闇の靄に囚われている光の大精霊サマが苦しそうに呻く。 うーん、どうしたら助けられるんだろう。 流石に大精霊クラスに勝てるとは思えないんだよなぁ。
『クックック……そうか、お前、【時の愛し子】/『時を遡る旅人』か! そうか、お前のような人間だったとはな!』
む、聞き取れなかった。
だが俺の事を知っているらしい。 俺って結構有名人?
『クク……そうだな、お前であれば試す価値もあるだろう。
人間、貴様に試練をやる。 見事乗り越えれば……そうだな、この光の大精霊であるリヒトを解放してやろう。 受けるな?』
えぇ……そんなの受けるしか選択肢ないじゃないか……。
まぁ人助けなら俺の仕事の内か。 人じゃないけど。
「えぇ。 どんな試練かは知りませんけど、受けますよ。 光の大精霊様を眠らせるわけにもいきませんし」
『ク、愚かよな……。 だがその粋は認めてやろう!
簡単な試練だ。 我は今から、リヒトをとある場所に閉じ込める。 貴様はそれを見つけ出すだけでいい。 ただし、期限は50年間。 そして貴様以外の人間がリヒトを見つけようとすれば、忽ちその人間は瘴気に蝕まれて死に至るだろう。
そして50年以内に見つけられなければ……リヒトは永遠に眠りに就く。
――――どうだ、簡単な試練だろう?』
いや、どこがですか……。
もう受けてしまったので今更文句は言えないのだが、この時点で俺の手に光の大精霊様の命が握られたと言っても過言ではない。 さらに俺が見つけなければ他の人間が死ぬと来た。
詐欺ってレベルじゃないんだよなぁ。
「質問はしてもいいですか?」
『いいだろう。 これは誓約だということを忘れるなよ?』
誓約?
どういう事だろう。
「光の大精霊様を隠す場所は、このライヒ王国内ですか?」
『肯定しよう。 リヒトを隠すのは、ライヒ王国のどこかだ』
「見つけ出すというのは、俺が光の大精霊様の眠るところに辿り着けばいいのですか?」
『肯定しよう。 その場所に辿り着けば、貴様の勝ちだ』
「最後に。
光の大精霊様を見つけ出すのは、レグレス・ツァイトならいいんですか?」
『……? 我はそう言ったつもりだが? 理解が出来なかったか?』
「いえ、いいんです。 それならば、俺は確実に光の大精霊様を助け出すことができるでしょう」
『ほう……。 言い切るな。 貴様のような人間は久しぶりに見る。 せいぜい我を楽しませてくれ』
それだけ言うと、闇の大精霊様はその身を闇の靄にして、空中に溶けるようにして消えて行った。 光の大精霊様も同じように消えた。
途端、灼熱の太陽光が周囲を照りつける。
「あっつ!?」
腕時計を見れば、時刻は13:00。 そら暑いわ。
しかもここは鉄塔の頂上。
うん。 全速力で降りよう。




