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Esiw Kcolcre Tnuoc(旧題:感謝される男)  作者: 劇鼠らてこ
ツヴァイの街のレグレス・ツァイト
23/33

暦2020年4月15日9:00~12:00


 俺の出生。

 昨日メーアさんに問われて初めて疑問を持ったが、俺は誰から生まれたのだろうか。

 物心ついたときにはもう既に俺だった。 

 最初の記憶は……ダメだ。 思い出せない。

 記憶の断絶など、ありえないはずなのに。


 カラン、という音を立ててスイングドアが開く。 内側に鈴を付けているのか。


 誕生日時計を担当する受付の元に向かうと、そこには緑髪の可愛い女の子が。

 うむ、かわいい。


「本日はどのようなご用でしょうか」


「誕生日時計の系譜を確認したいんですけど」


 ギルドに登録されている誕生日時計には、年齢のほかに様々な情報が記載されている。 精霊の力で動かしているのは針だけだが、ギルド職員らに頼めば親の名前や親戚、師匠の名前などを刻み込めるのだ。 もっとも非常に硬度の高い誕生日時計に傷をつけるのは、専用の工具が無ければ不可なのだが。


「系譜ですね……失礼ですがお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」


「レグレス・ツァイトって言います」


「はい、確認しますので少々お待ちください」


 ツヴァイの街のギルドはアインスの街等と違って酒場と併設されていない。 代わりの併設されているのは簡易的ではあるものの学校だ。 流石学術都市。

 よって、待合いスペースも酒場のような雰囲気ではなくどちらかといえばカフェに近い空気を出している。 座っているのは誰も彼も『私、研究者です』という格好をした、良く言えば頭の良さそうな、悪く言えばヒョロい奴らばかりだった。


 まぁ他人の目を伺うわけでもなく、黙々と学術書を読みながら飲み物を飲んでいる様はどこか静謐さを感じさせるのだが。


「……では?」


「……でも確実に……」


「……レグレス・ツァイトって言った……」


 そう思った矢先にこれだよ。

 待合いスペースの奥。 こちらをみてヒソヒソと話す3人組。

 レグレス・ツァイトって確実に俺を俺だと認識してヒソヒソしてるな。


 ちら、と緑髪のおねーさんの方を見ると、まだまだ時間がかかりそうなドジっ子さを見せていた。 具体的には持っていた資料を落とすという形で。 先輩職員が手伝っている。


 なら、まずは先の疑問を片付けようか。 俺も、あの人たちも。


 3人のいるテーブルの方に歩いていく。 すると、3人はびくっと震えて冷や汗をかき始めた。 そんなに怖いか俺は。

 

「なぁ、アンタら」


「な、なんだね!」


「何か用ですか……僕達は何もしていませんよ」


「っ……私はあなたに興味がある」


 3人組の内、開き直るように宣言した女の子1人を他の2人が凝視する。 おい、勢い付け過ぎて首グキッて鳴ってるぞ。


「アンタらさっき俺の名前出してたよな。 なんか用?」


 少し強めの口調で言うのは、舐められないためだ。

 これで女の子1人だったらもう真摯な紳士モードに入るのだが、今回は野郎が2人いる。

 1人は少年だが、もう1人はおっさんだ。 おっさんには厳しく行こう。


「い、いや、その……だね!」


「アナタの聞き間違いでは? それとも、僕らが言ったという証明でも?」


「レグレス・ツァイト。 あなたの名前で間違いない?」


 吃るおっさんと極めて冷静を装ってごまかす少年。 そして直球で来る少女。

 芸人集団なのか?


「あぁ、俺はレグレス・ツァイトだ。 お嬢さんは?」


「私はエリーヴ・エーヴォ。 歴史を学んでいる」


「ちょ、エーヴォ君!? く、ゴ、ゴホン。 私はエアツェールング・G・レーランという」


「はぁ……。 僕はディアン・アリエーテュ。 エリーヴと同じく歴史を学んでいる」


 おや、つい最近聞いたファミリーネームとミドルネームだ。


「あー、レーランさんのミドルネームはゲシヒテか?」


「ほう……野蛮で粗暴な冒険者かと思えば、それなりに学はあるようだな。 そう、私こそが名門ゲシヒテの――」


「メーアさん……メーアヒェンさんのお父さんだったり?」


「ぶっ」


「ぷっ」


 俺が聴くと、年少2人が噴き出した。 心無しかレーランさんの覇気が萎れた気がする。

 違ったか?


「あー、違いましたか。 じゃあ叔父さんとか?」


「い、いや、私はだな……」


「あはははは! 先生元気出して!」


「ディアン……大声で笑い過ぎ……先生がかわいそう……」


 さらに落ち込んでしまった。

 そして、冷静を装っていたディアン君が大声で、明るく笑いだす。 こっちが元の性格っぽいな。

 エリーヴちゃんも窘めてはいるが、笑いが殺しきれていない。


 第一印象と違って、結構明るい雰囲気の集団なのかもしれないな。


「ゴホン。 よく聞いてくれたまえ。 確かにこんな見た目故に勘違いされることも多い」


 こんな見た目とは、左右に髪を残した禿げ頭の事だろう。 そして丸顔。


「だが、私はメーアの父ではない。 

             ――兄だ」


 What?


「え、え……似てねぇ……」


「うんうん」


「どちらかが……養子……」


「違う! エーヴォ君、初対面の人間に対して信じられそうな嘘を言うのはやめたまえ!」


 むしろ兄である事の方が嘘っぽいんですが。

 

「いや、すみません。 お兄さんでしたか……ちなみおいくつで?」


「誕生日時計を確認しないと正確な歳はわからんが、確か23、4のはずだ」


「み、見えねぇ……」


 明らかに4,50のおっさんだと思ってました。

 これは態度を改めねば。


「いや、失礼しました。 それで、エーヴォさん……でしたか? 俺に何の用でしょうか」


 そう、そのためにこうして出向いたのだ。 

 最初に俺の名前を呟いたのもエーヴォさんだったはず。


「そうだった。 先生少し黙ってて」


「何もいっとらんだろう! 君は目先のものごとに囚われ過ぎだとマイトル先生にも言われていただろう!」


「レーラン先生、こうなったエリーヴに何を言っても無駄ですよ。 見守りましょう」


「そういうことだから。 レグレス・ツァイトさん。 いくつか質問していい?」


「あ、あぁ……」


 なんだ、昨日も同じこときかれたような。 主にレーランさんの妹さんに。


「1つ。 瘴気を吐き出す竜を見た事ある?」


「いや……ないよ。 そんな伝説みたいな存在現代にいないんじゃないか?」


 そんなのがいたら大変なんて話じゃない。

 街の1つや2つ……それこそ、アインスの街やツヴァイの街なんてひとたまりもないだろう。 冒険者としては最高峰の者が集うというフュンフの街ならあるいは……と言ったところか。 


「次。 あなた、1足で山を越えられる?」


「いやどんな化け物だよ。 そんな事はできないよ」


 俺の事をなんだと思っているのだろう。 駆け登る、なら行けるが、1足で越えるなんて事は出来ない。 つかそれ人間か?


「次。 シルドと繋がりある?」


「シルド? あー、盾の名門だっけ? ないけど……」


 シルド。 ゲシヒテ家のように血族が紡ぐ名前ではなく、実力を求められる屋号。

 確かここも1000年以上前からあるはずだ。 現在の筆頭はプラティル・シルドだっけな? 白金のアーマーをガシャンガシャンさせてツヴァイの街を歩いているのを見た記憶がある。


「むぅ……」


 メーアちゃんと同じく、エリーヴちゃんも落ち込んだ雰囲気を出した。

 何故だ。 俺の答えに何の不満があるんだ。


「エリーヴ。 遠まわしに聴かないで、直接聞いたらいいんじゃないか? もしかしたら記述ミスの可能性もあるぞ」


「ゲシヒテ家の書物故にそんなことはないと言い切りたいのだがな……。 何分千年前の事だからなぁ……。 それにフュンフの街の話だ。 当時もフュンフの街は野蛮な冒険者ばかりだったと聞くし」


「……ディアンの言うとおりか」


 なんだ? 千年前の話題? 自慢じゃないが、俺にはそんなに学はないぞ? あ、本当に自慢じゃないやコレ。

 フュンフだって冒険者としての憧れとして知ってるだけだしなぁ。


「レグレス・ツァイト」


「お、おう」


 真剣な目で見られると、どこか気恥ずかしいぞ。 


「――アナタ、1000年前にいな――」




「レグレスさん、系譜の確認が終わりましたー。 これになりますねー」


「あ、今行きまーす!」


 見つかったということは、俺に親がいるということだろう。

 あの違和感はなんだったのか、それはわからない。


 暑くて気が動転していたのかもしれないな。


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