暦1000年3月7日6:00~18:00
連続したセリフの間は一行開けた方が読みやすいんだろうか?
カンカンカンカンカン!
金属と金属を打ち合わせるような音が響く。
「うっさ……なんだよ……。まだ6:00じゃねぇか……。」
だが、この音は――警報だ。
それも、危険度の高い魔物が街へ迫っている合図。
「ギルド行くか……。」
軽鎧にショートソード。いつもの格好に瞬時に着替えて宿を出た。
「南南東の空が昏いな。瘴気絡みか?」
肌がヒリつくような感覚。大物だな。
★★★★
「おーい、これもそっちもっていってくれー! 大至急―!」
「はいはいただいまー! あ、それはそこ置いておいてくださいね。」
「いいか? 竜の奴が正面から向かって来たら、すかさず俺が両断してだな……。」
「やってみろよ、できるんならな。英雄だぜ?」
「ギャハハハハ、できるわけねーだろ! こいつ鳥竜相手に骨折ったばっかだぞ!」
「少しは真面目にせんかい……。」
いつも以上に賑やかなギルド。あんな警報鳴ったんだから、危機的状況かと思ったがそうでもないようだ。
「お、レグレス。来たな。状況は把握しているか?」
昨日、剣士たちを率いていたリーダーに声を掛けられる。名前は知らん。
「いや、すまん。今来たばかりでな。瘴気の感覚からヤバいのが来ているのはわかるんだが、詳しい情報を頼むよ。」
さっきの騒がしい中から、竜という単語が聞こえていた。多分、いや確実にあの瘴気を纏った竜が来ているのだろうが、詳しい情報は大切だ。
「あぁ。昨日、お前が注意してくれた通り、南の櫓の見張りを強化していたんだがな。遠くの山脈でいきなり瘴気が立ち上ったかと思えば、次の瞬間には山みてぇな竜が出現していたそうだ。その竜、最初はキョロキョロしているだけだったんだが、フュンフを視界に収めると一目散に突進してきたらしい。あと数刻しない内に激突コースだ。」
……よく平然としていられるな。
「こっちの戦力は? 迎撃戦だ。壁役と縫いとめる役が欲しい。」
ちなみに俺は高火力遊撃だ。この街で一番身体能力が高いと自負している。
「あぁ、安心しろ。俺も含め、壁役と重剣士ばかりだ。もう人員は見繕ってある。レグレス、勿論お前も入っているぞ。」
入れていてくれなきゃ困る。昨日の意識の始まりは打ち上げられた所だったしな。
「いつも通り、作戦はとにかく殴れ、だ。まぁ、今回ばかりはついでに街へいかせるな、が含まれるが。」
ついでかよ。
そこに、バタン、と勢いよく扉を開けて、羽帽子を被った男が転がり込んでくる。
こいつが見張りか?
「みんな! 準備してくれ! 来るぞ!」
その言葉に、ギルドが一瞬静まり返る。
静まり返ったことにより、ドドドドドドドという地響きが聞こえてきた。
「ふん、あいつらの喧しさで竜の接敵音がかき消されていたようだな。逆に言えば、その程度の竜ということだ。野郎ども! 名目上は防衛戦だが、気持ちは迎撃戦だ! 俺たちが竜を仕留めるんだという心持ちで行け! 出陣だ!」
リーダーが言うが早いか、一斉にギルドを飛び出す冒険者達。
「一番やりは頂くぜえええ!」
「槍って……君の武器は斧だろう。それに、忘れていないだろうな? 瘴気に直接触れたら――。」
「あー、もう細けぇよお前! いいじゃねえか祭りだぞ! ここで一旗あげなくて何が冒険者だよ!」
「ぎゃはははははは、終わったら酒な、とびきりいいやつとっとけよ!」
「はーい、お待ちしておりまーす。無事帰ってきてくださいねー。」
「軽い、軽いぜ! 流石フュンフの街のギルド! 最強の名は伊達じゃねぇってか!」
「あぁん? 最強はツボルフだろう? ツボルフ出身の俺が相手になるぜ?」
「ふん、フィアのギルドに適うものか。竜の前にまとめて相手してやろうか?」
「ぶははははは、フィアとか永久中位で話題にもあがらねーよ! だが、喧嘩は買うぜ? 来いよ!」
「貴様ら真面目にやらんか! 相手は未知の竜じゃぞ! わかっとんのか!」
「爺さん怒りすぎてっと血管切れちまうぞ? 気楽にいこうや、俺たちゃフュンフの冒険者だぜ? 蜥蜴一匹に負けるかよ!」
このノリでいくのか。まぁ、意気消沈して挑むより万倍マシかな。
かなりの速度を以て街の南門へ到着する。
「ん? お、アレじゃねーか? って、オイオイオイオイオイ、でけーな! 本気ででかいぞこいつ!」
「なんだぁ? ビビってんの……か……。でかいな。」
「おーおー、殴り甲斐のありそうな竜だが、体ァ渦巻いてんのは瘴気だよな。頭狙うしかねーってか。」
「だから最初に忠告しようとしたじゃないか……。君たちは揃いもそろって話を聴かないな、全く。」
「とりあえず街から意識を外させるぞ! レグレス! いけるか!?」
「お、いきなり切り札きっちゃいますか? レグレスー! 俺らの分も残しておけよ!」
「レグレス・ツァイトか。生で戦闘を見るのは初めてだな。」
「あれ? お前結構古参だろ? なんで見たことないんだ?」
「あぁ、こいつはな、ずっと洞窟潜ってたからだよ……。って、レグレスの奴はどこだ?」
「こ、こ、だ、よっ! っとぉ!」
「痛ったァ!?」
俺を探してキョロキョロしている斧使いの肩を踏み台に跳躍。踏み台にした奴が痛みに叫んでいたようだが知らん。そんなに軟じゃないだろお前ら。
猛進してくる竜の頭よりも高く、高く跳びあがる。
「んー! こっちぃ、向けぇ!!」
放物線の頂点から、落下速度を保ったまま竜の頭にダイレクトキック!
ズシン! と大きな音を立てて竜の頭が地面に着いた。
固てぇ。全然ダメージ通ってねぇなこりゃ。
「だけど、意識は逸らせた、かな?」
土煙が上がる中、そのギョロリとした目がこちらを向くのがわかる。
よし離脱だ! 勿論街とは別方向に逃げる。脱兎脱兎。
「人の肩を踏み台にして跳躍……。しかし、あそこまでの跳躍力を得たなら肩が外れるなりなんなりしてもおかしくはないはずなのだが。何かヒミツがありそうだな。」
「おー、流石レグレス。フュンフの街の最終兵器なだけはあるな。あ、お前肩大丈夫か? 大丈夫じゃなかったらその辺で寝てろ? あ、大丈夫なのか。つまらん。」
「少しは心配しろよお前ら!? 竜を強制おすわりさせる威力で蹴られたようなもんなんだぞ!? そんなに痛くなかったけど! そこまで痛くなかったけども!!」
「おーいてめぇら、じゃれあってないで移動しろー! 折角レグレスが意識逸らしてくれたんだ、無駄にするんじゃねえぞ!」
「わかっている! 考えるのは後だな。とりあえずあの竜を倒すことにしよう。」
「あいよー! レグレスにばっかいいかっこさせないぜ。蜥蜴一匹がなんぼのもんじゃい!」
「リーダーも少しは心配してくれよ! あ、すんません、移動しますからその大剣振りかぶらないで!!」
あいつら賑やかだなぁ。
「グルルルルァァァァァアアアァアァアアア!!」
目の前の竜が咆哮を上げる。うっせぇ。耳キーンってなったわ。
咆哮によって土煙が完全に晴れた。
体表を渦巻くどす黒い瘴気。元の体色はほとんど見えない。瘴気に覆われていない頭部は見事な金色だから、体もそうなのだろう。瞳は真紅。動脈血色だ。特大の咆哮のあと閉じたその顎の歯は鋭く噛みあい、ギチギチと音を鳴らしている。アレに噛まれたらぶっつんだな。
「少し失敗したな……。このショートソードじゃ瘴気に触れかねん。アタマ集中狙いでいくしかないか。」
「グルルルァァァァァアアアオオォォォオ!」
奴さんがお怒りのようだ。
右手に風圧。
「尻尾か! げ、避けるとあいつらに……? まぁいいか!」
跳躍。足のすぐ下をぶっとい尻尾が通過する。これ、避けなくてもあいつらのトコにいってたな。俺は悪くない。
「どわああああ!? な、なんだ尻尾!? おいレグレス! 注意勧告くらいしろよ!!」
「あぁ、すまん。そっちいったぞー。」
「おせぇよ! ぐっ、この、どぉぉぉぉりゃああああ!!」
おぉ~。リーダーが大剣を思いっきり振りぬき、尻尾を弾いた。尻尾の薙ぎ払いもアレで止めていたし、あの大剣余程頑丈なんだろうな。それを持つリーダーも。
「流石はフュンフ最硬と呼ばれるリーダーだ。憧れるな。」
「リーダーさっすがー! 長剣にはできない所業だぜ! かっくいい!」
「リーダーもレグレスもおっかねぇよ……。どっせい!」
「そんなアホみたいな斧軽々しく扱っているお前に言われてもな……。」
尻尾が弾かれて体勢を崩した竜に、斧使いが一撃を入れる。身の丈の三倍あるなアレ。瘴気に触れずに攻撃できるし、いい武器だ。
間髪入れずに眼鏡をかけた槍使いが突きを入れる。アレもいいな。リーチのある武器は良い。
「おぉっと! そういう細かいのは俺の出番だぜ!」
尻尾ではダメだと思ったのか、竜の口から瘴気のブレスが放たれる。タメのない、威力の低い物だろうが、瘴気は瘴気だ。触れたら気が狂うだろう。
だが、小弾となって飛んでくる瘴気の塊を、長剣使いがすべて払った。器用だな。身体に瘴気が触れず、且つ仲間にあたらないように弾き飛ばしている。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、老体に全力疾走は堪えるわい……。すぅ……はぁ……。よっし、若いの! 退いておけェ!!」
後ろから走ってきていた爺さんが、何かを振りかぶる。
「アレは……。噂の投擲ジジイか。一応離脱するか。」
「投擲ジジイ! 無理すんなつったろうが! って、ソレこっちむけんな! あっち! あの竜だ! 老眼すぎて味方も判別できなくなったのか!?」
「いやお前が煽るからだろ。あのご老体もリーダー達と同じくらいおっかねぇからな……。」
投擲ジジイ……? 昨日の宴会にいなかったからわからんが、名前からして何か投げるんだろう。射線上にいるのは危険だな。
「ふんぬゥァ!」
投擲ジジイから猛スピードで何かが放たれる。あれは……剣? 量産品の大剣だ。だが、凄まじい速度で放たれたソレは、竜の身に深々と突き刺さった。
「グルァァァァアアアアア!?」
痛みに身を捩る竜。目が、投擲ジジイの方を――ってマズい!
「馬鹿ジジイ! 耄碌したか!? 街の方へ意識向けないように戦ってんだろうが! チッ、盾部隊! 絶対止めろよ!」
「ひょ!? あ、あぁすまなんだ! ちょ、ブレスはやめてくれんかのー。こっちに防ぐ手段は……聞いちゃくれんか!」
当たり前だ。
竜は投擲ジジイに向けてブレスを放つ。そこへ、ガシャンガシャンと音を立てておいついてきた盾部隊が割り込んだ。
「踏ん張れよォ! うおおおおおお!」
盾部隊5人がブレスを取り囲むようにして踏ん張る。
「盾ェ斜めにしろ! 弾け! 街へいかなきゃそれでいい!」
リーダーの掛け声で斜めにされた盾により、黒い瘴気のブレスは天へと飛んで行った。
「爺さん、大丈夫か? 立て……なそうだな。おい、お前! 爺さん運んどけ! 怪我人扱いでいいだろ!」
「ういっす、はいはいご老体、担ぎますぜ。はいはい喚かない喚かない。んじゃあとは頑張ってくださいっすー。」
「運び終わったら帰ってこいよ?」
「うっ、へいへい。んじゃいってくるっすー。」
目の前まで迫ったブレスに腰が砕けたのか、座り込んでしまった投擲ジジイを戦力外と見做し、盾部隊の隊長が一番若い隊員に投擲ジジイの運搬を命じた。良い判断だ。
「すまんのう……。ってもっと優しく運ばんか、痛い、痛いって、もっと老人を労え若坊主!」
あれだけ元気なら大丈夫だろう。
「グルルルルガガガアアアアア!!」
追撃とばかりに竜がブレスを放とうとする。だが残念。
「何度もブレスなんて使わせるわけないだろ! 口閉じろ!」
投擲ジジイの腰が砕けたあたりで再度跳躍していた俺は、竜の上顎目掛けて蹴りを入れる。
口の中で暴発する瘴気のブレス。
ボフン、と口の端から漏れ出る瘴気に気を付けながら離脱する。
「ナイスだレグレス! お前ら、奴の意識を街から外すことを念頭に入れて攻撃しろよ!」
あとは、確実に削るだけだ。
★★★★
斧使いは大げさ。力はレグレス、リーダーに次いで3位。名前はアクシズ・アヴェトリヴェン。
眼鏡槍使いは理知的。細かい。名前はブリー・エスピア。
長剣使いは無自覚煽りマン。おおらか。名前はランガ・シュヴェイド。
リーダーは頼れる大剣使い。シルト・グロヴァソー。
なお本篇で名前が出ることはありません。




