暦1000年3月8日0:00~21:00
―3つ繋げたくなるのはキノコ病
目が覚める。
仰向けの体勢。四肢は投げ出されている。硬く掴んでいる物は、ショートソード。
場所は……ベッドではない。どころか、宿屋ですらない?
体が上昇しているのを感じる。空の色を見る限り深夜だろうか。
空の色? ここは――空中?
「グッ……ガァァァアアアォォォォオオ!!」
遥か下の方で咆哮が聞こえる。竜の咆哮。
体は上昇し続けている。打ち上げられたのか?
どうにか身体を捩って体の正面を真下に向ける。
「うっわ、なんだアレ……。瘴気を纏った、竜?」
カタチは竜。だが、体表を黒い靄――瘴気――が渦巻いている。
頭部だけは瘴気が無いが、頭についた双眸は血走り、こちらを射殺さんとばかりに睨みつけている。
その咢に集束しているのは、瘴気のブレスか。
「てめぇ! やらせねぇぞ!! こっち向けオラァ!!」
地上にいた剣士の一人がその体に剣を叩きつけるが、竜は気にも留めない。
ダメージは通っている。叩きつけられた箇所から、血が噴き出している。
それでも、竜は一点にこちらを睨み付けている。
「オレを最優先に考えているってことか。モテモテだねぇ、全く嬉しかないが。」
竜の咢が開く。集束されている真っ黒い光は、解放される時を今か今かと待ちわびているように見える。
「グォォォォォオォォオオォォオオオオ!!」
咆哮と共にブレスが放たれる。
閃光と暗黒が一度に迫ってくる。
だが――。
「オォォォオラァアァ!」
右手で持っていたショートソードを両手に持ちかえ、振りかぶり、本気で振り下ろす。
瘴気のブレスが裂ける。霧散する。
体の上昇が止まる。頂点に来たのか。
竜は――。
「って、近けぇ!? ンナロ!!」
ブレスを撃った直後に飛び上がっていたのか……。
竜はその咢を大きく開き、こちらを食い殺さんと向かってきていた。
空中でショートソードを振り切ったことにより、また仰向けに近い体勢になっていた体を、その勢いのまま回転させる。
体を丸めて、回転の勢いを増していく。おぇぇ。
「ガァ……グルァァォオ!!」
こちらの意図に気付いたのか、竜はその身を捩って方向転換しようとする。
が、もう遅い!
「だぁあっしゃい! チッ、頭外したか! だがタダじゃ終わらねえぞ!」
回転と落下の勢いで威力を上げた一撃は、しかしその頭を外す。
俺は勢いを衰えさせることなく、首から翼までの鱗を削る。
そのまま翼を根元から断ち切る。
「グガガガアアアアア!!」
竜はバランスを崩して地面に落下した。
「どわああぁぁ!? ちょ、危ねぇだろレグレス! だが、良い判断だ! 野郎ども! 頭狙え! 全力で叩き込めえ!!」
地上にいた剣士十数名が、寄って集って竜の頭部を切りつける。
あの目……、まだ諦めてねーな……。
だが、まずは着地だ。大分高くまで打ち上げられていたようで、その速度は凄まじいものとなっている。翼を斬って減衰した分を考えても、これはミンチコースだろう。
「うぉっ、こいつ、まだ……!? てめぇら、絶対行かせんなよ!」
案の定、竜はその身を起こす。
「レグレス! すまねぇそっちいったぞ! 行けるか!?」
言葉通り、こちらへ猛スピードで向かってくる竜と目が合う。
山のような図体はボロボロ。鱗は剥げ、血にまみれている。瘴気も薄れている。
だが、微塵もあきらめた様子はない。強い意志をもってこちらを睨んでくる。
「あいよォ! すまんな竜さん、アンタが何にご執心なのかは知らんが、ここで沈んでくれ!」
言いながら、その頭蓋目がけてショートソードを振り下ろす。脳天の鱗を割り砕く感覚。頭蓋を包む肉を切裂く感覚。頭蓋を割る感覚。脳髄を潰す感覚。
それをしっかりと感じながら、さらに力を込めて剣を振り下ろした。
その反動で、着地のスピードも大分減衰する。
「おらぁあぁぁああ! っしゃい!」
どぱぁ、と血飛沫が噴き出る。血肉に頭から突っ込むことになってしまったが、油断せずに飛び退く。近くで見ればわかる。相手は500年以上生きているだろう、竜の成体。化け物だ。
「ガ……ルァ……オォォオオォオ……。」
ズシンと音を立てて崩れ落ちる竜。だが、まだこちら睨んでいる。脳髄を潰されてなおこちらに敵意を向けている。
その目から、水が流れ落ちた。
「お前……、何がお前を……。」
「レグレス! 油断すんなよ! 確実にトドメさせ!」
……何か事情があったのかもしれないが、それを聞いてやれるほど俺たちの余裕はなかったんだ。恨んでくれてもいいさ。
「じゃあな。 ふん!!」
別れを告げてもう一度剣を振り下ろす。
竜は、やっとその活動を停止した。
★★★★
「防衛戦成功を祝って……乾杯!!」
時刻は9:00。
一日を跨いで行われた防衛戦が幕を閉じた。
エールを呷る。
なんとなく後味が悪いせいか、そこまでのテンションをあげられずに壁際にいる。
「あの竜……、どっかで……?」
思い出せない。
そんなはずはない。記憶の断絶は有り得ない。
なら、やはり会ったことはないのだろう。
「レグレス! 今日の主役はお前だってのに、なにひっそりのんでんだ! こっちこいよ!」
今回の防衛戦のリーダーが呼んでいる。
「あいよー! ま、頭脳労働は俺の仕事じゃねぇな。飲んで眠っちまおう。明日はもっと激戦だろうし。」
そのためにも、今を楽しもう。
「レグレスー! ありがとうな、お前のおかげで街が守れた! フュンフの街を代表して礼を言うぜ!」
「今日の竜に関してはあんたらの功績もでかいだろ? ならお互い様って奴だよ。そんなこときにしてないで飲もうぜ。今日はめでたい日だ。だろ?」
「いいこと言うじゃねえかレグレス! だがな、死者0でこの戦を乗り切れたのは間違いなくお前のおかげなんだ。だからよ、ん、飲めェ!」
リーダーが無理矢理酒を飲ませてくる。ちょ、まって、マジ待って。
「ゲホッ、んなろ、お前も飲め!」
木製のコップをリーダーの顔に押し付ける。
「いででででで、お前、自分の力わかってんのか、割れる、割れるって! 竜の頭蓋割った力で締めたら死ぬって!」
酔っていて力加減が出来ないんだーすまないー。
★★★★
時刻は18:00。
昼間っからの宴会は、ほとんどのメンバーを酔い潰すことで幕を閉じた。
一人早く目覚めた俺は、風に当たるために散歩していた。
「ぬぅぉおお……クラクラするな……。」
覚束ない足取りで街を歩く。
ん……アレ?
「ここ、どこだ?」
白い、真っ白い塔。王都の尖塔には及ばないが、大分高い。
その塔の前に、白い集団が集まっている。
「なんだ? 怪しい実験かなんかか?」
茂みに身を隠し、様子をうかがう。
もう少し近づけるな。コソコソ。
白い集団は、白衣の男たちだった。
「あぁ、なんか魔法を誰でも使えるようにするとかいう眉唾研究施設がこの街にあるんだっけ。じゃあアイツラが研究員か。」
魔法ねぇ……寄って斬った方が早いと思うんだが。
まぁハイエルフの連中が使っている魔法を使ってみたいと思うのは、無理のない事だろう。派手だし。
お? 1人を残して輪が広っていくな……。何か始まるのか?
「其、光を司る精霊! 我が前に、その威を示したまえ!」
研究員の1人が声高らかにそう叫ぶと、目の前でパチンと白い光が弾けた。
「お、おおぉ、おおおおおおお!」
「やったな! やったじゃないかフォルシュング! 漸くだ……! 漸く我々にも魔法を使うことができる時代が来た!」
「おおおおおおおおおおおお!」
周りで見ていた研究員が、やんややんやとその研究員――フォルシュングというらしい若者――を胴上げしながら喜び泣いている。
「よーし、つまり詠唱だな! もっと色々な事を起こせるように開発していこう!」
「応! これは、歴史に残る一歩だな!」
そういって研究員はゾロゾロと真っ白い塔の中へ入って行った。
「えぇ……今のが魔法? ハイエルフのやつらに比べて、随分……なんというか、ショボいな……。」
ショボい。ハイエルフの魔法は、そもそも詠唱なんてない。そして起こす事象も、雷を落としたり地面を凍らせたり、欠損した腕を繋げたりと様々だ。そして、それは総じて人々の希望と言うべき物である。
あんなショボいの使って何になるんだろう。
「ん……? なんだ、アレ……。女?」
白い塔の斜め上の方に、ナニカが浮いている。人? 女性だろうか。
「!? 消えた……。なんだったんだアレ……。」
宙に浮いていた女性は、俺が瞬きをしたその一瞬で消えてしまっていた。
「酔いは醒めたけど……。まだ夢を見ているような気分だ。宿に帰るか……。」
帰り方がわからず宿に着いたのは3時間後だった。
素直に人に聴けばよかった。
★★★★
「あら? 今この辺の茂みに時の残滓を感じたのだけれど……気のせいかしら?」
★★★★
この竜は2足歩行タイプです。




