暦2051年1月4日11:00~19:00
だいぶみじかい
「おう、兄ちゃん! 昨日はありがとな! 時期が時期だ、運河越え出来る奴なんか限られてるから、助かったぜ! じゃ、息災でな!」
本日の一感謝目は、金髪ピアスのいかにも軽薄そうなあんちゃんだった。チャラ男だった。だけど良い人っぽいな。
「運河越え、ねぇ……。こんなクソ寒い中やる奴がいたとは……、あ、俺なのか。」
運河。正式名称、グロッセツァイガの大運河。ツボルフ山脈とアインスの街を隔てる大運河だ。遥か昔、王家の名の元にえっさこらえっさこらこさえたらしいその運河は、王都ウーアから一直線に伸びている。
運河越えというのは、文字通りグロッセツァイガの大運河を横切る行為のことだ。もっと暖かい時期なら、交易船が行き来しているのだが、真冬のこの時期に渡ろうとする船はまずない。何故かと言えば、暖かい時期より水量が増し、流れが急になっているからだ。王都ウーアの北北東にある源泉から流れるこの運河は、どこに水脈があるのか、はっきりわかっていない。わかっていることは、春先から夏にかけては見た目普通の湖で、秋から冬になると湖面の中心が噴水のような勢いで吹き出すことくらいだ。
地質学者や自然学者は、人為的な仕掛けが施されているんじゃないか、いや完全なる自然の采配だ、という議論で毎夜盛り上がっているらしい。大分どうでもいい。
話がそれたが、つまり運河越えというのは、己が身一つで運河を横切ろうという大馬鹿野郎のすることなのだ。さっきのチャラいあんちゃんは出来る奴が限られているとか言っていたが、限られている所ではない。長距離飛行ができる、エルフの中でも上位者や、ツボルフの街にいる竜騎士くらいしかいないだろう。
「あー、もしかしたら今年はそこまで急流じゃない、のか? 今日は依頼もない事だし、見に行ってみるか。」
もし、もしも、流れが穏やかになっているのならば、それはとてもありがたい。何故なら交易船が沢山くるから。
ツボルフの街は酒造りで有名だ。竜が酒を好むことからはじまった産業らしいのだが、人間が飲んでも絶品で、高値で取引されることが多い。
俺では、1本2本買えたらいい方だが、夜中にひとりでちびちび飲むにはもってこいだろう。酒は大好きなのだ。
「ふっふっふ、ふへへへ、ぐへへへ。」
気色の悪い笑みを浮かべた青年が、歩いているとは思えないスピードで運河の方へ向かって行った。
★★★★
――ギュゴオオオオオオオオドドドドドドドドドド!
「oh...,」
穏やか? ははは、どこが。
それは、水平方向へ流れる滝だった。ここまでの勢いは、もはや水の上級上位魔法だ。半日くらい詠唱し続けないと、この規模は起こせないだろう。
「へ、へぇ……。これを俺が昨日渡ったのか……。冗談じゃねぇ……。勘違いであってくれよ、まじで。」
本当に勘違いであってほしい。このままいけば、どうにかして渡る方法を考えなければいけなくなる。あのあんちゃんを探して詳細を聞いてみなければ。
「ん? 一軒だけ灯りが灯ってるな……。」
この時期は、交易船が動かないので、運河周辺に住んでいる船乗りは、思い思いの休暇を他の街で過ごしていることが多い。アインスの街は良くも悪くも交易街だからな。それ以外に取柄がない。
俺の目に入ってきたその家は、『ゴールデン フリヴォル マン』という看板をこれでもかと押し出した、結構大きめの船小屋だった。ん? バルコニーのトコに誰かいるな。
船小屋のバルコニーで、仲間? と酒を飲みかわしながら騒いでいたチャラッチャラしたあんちゃんと目が合う。
「あ、おい! そこの兄ちゃん! レグレスっつったっけか? こっち来いよ! 兄ちゃんのおかげで今日は昼から宴会だぜ! 兄ちゃんも飲んでけよ!」
是非。
「是非!」
大声で返す。チャラいあんちゃんは、ニカッと笑って手招きしてきた。
★★★★
「ウハハハハハ! 飲めェ! 飲めェ!」
うん。まぁ、宴会っていうからもう少し人数がいると思ったんだが。
「レグレスの兄ちゃん! 遠慮しなくていいんだぜ! あんたのおかげで手に入ったモンばかりだしな!」
酒は確かに美味い。肉も美味い。だが……。
「あ、ははは、ありがとうございます。頂いてますよ、」
「頭ァ! 料理、できやしたぜ! お、誰かと思えば昨日の兄ちゃんじゃねぇか! もっと盛り上がって行こうぜ!」
頭と呼ばれていた金髪のチャラいあんちゃん、料理を作っては食べている男。チャラいあんちゃんに肩を組まれていた赤ら顔のおっさん。
なんと俺を除いて3人しかいなかったのである。
こんな広い船小屋で……。騒がしさも負ける程、広すぎて淋しい。
「あー、こんな量、俺たちだけで食べきれますかね……。」
他に御仲間さんとかいないんですかね……。暗に尋ねる。
「ん? ははは、流石にこの量を一日で食べきるほど大食いじゃねーよ。だが、アンタ程じゃないにしても、キュッヒェ……、あぁ、今料理作ってる奴な。あいつは氷魔法が得意だからよ、保存に関しては心配いらねーんだ。だからペースとか気にせず騒いでくれよ!」
いや俺氷魔法そんなに得意じゃないんだけど。呪文詠唱もあんまり知らないし……。
だが、こういわれるってことは、運河越えの時、俺は氷魔法を使ったんだろうな。それも大規模の。覚えておこう。
宴会は、日が落ちるまで続いた――。
★★★★
もうすこしがんばる




