暦2050年12月22日15:00~17:00
説明回?
そこは、別世界だった。
奥行の感じられない漆黒の中心を、薄桃色をした半透明の階段が貫いている。
靴の裏から感じられる硬質な感覚が無ければ、自分が立っているということまで忘れてしまいそうだった。
背後に遠く見えるエラフの街が、辛うじて同じ世界だということを認識させてくれる。
階段の中段あたりでふわふわ浮いてこちらを待っているリヒトは元より、俺の後ろから風精霊を散らしながら舞い降りたビュルガーさんも慣れているのだろう、立ち止まっている俺に訝しげな視線を送って階段を昇って行く。
「ふふ、レグレス。驚くのはまだ早いわ。ふふふ、レグレス。私の祭殿へ早くおいでなさいな。レグレス。愛おしい友達。そう、そうよね。友達を家に招待した大精霊も、私が初めてだわ。ふふふ、レグレス。こっちよ。」
リヒトは、頬を上気させながらふよふよと階段を昇って行く。
止まっていた時間が動き出したかのように、俺も慌てて階段を昇り始める。
コツ、コツ、コツ、と音を鳴らし昇って行く。これ、何の素材なんだろう。裏側が透けて見える薄桃色。見ていて飽きることのないの物質は、どことなくリヒトの纏う布地に似ている気がする。
「ふふふ、正解よ、レグレス。私のこの服も、この祭殿の物質も、同じ材質だわ。ふふふ、レグレス。これはね? 人間が光精霊たちに食べさせた魔力なの。ふふふ。美しいでしょう?」
「あぁ、さっきから何かキョロキョロてると思っていたら、この階段の材質が気になってんのかい。残念だが、あたしは答えになるモンはもっちゃいないよ。あたしたちの先祖であるハイエルフ様たちが作り上げたのか、光の大精霊様の意思が作り上げたのか。光精霊たちの集合体だとかいう研究者もいるがね。あんた、光の大精霊様の友達だってんなら、この材質が何なのか知ってるかと思ったんだが、そんなことはないみたいだねぇ。」
いえ、今聞きました。答え。
しかし、食べさせた魔力か。人間が魔法を使う時、確かに精霊に魔力をあげて魔法を起こしてもらっている。いや、『お願い』を聞いてもらっているだったか。その魔力の行先が、祭殿の足場やリヒトの服だったとは思いもしなかった。
「ふふふ、本来、精霊というのは人間の魔力なんて必要としないのよ。精霊は、そこにあるだけの存在。その存在に、指向性を持たせたのがハイエルフ達。ふふふ、あの子達は、遥か過去から精霊と共にあったわ。空気中を漂う精霊とすら会話できた彼らは、私達に『お願い』などしなくとも意思を伝えられたの。ふふふ、しかし、ハイエルフ達はその事に、ひどく罪悪感を抱いていたらしいわ。
或る時、ハイエルフ達のリーダーを務めていた者が、大精霊に提案しました。自分たちが、魔力を提供し、心の中で『お願い』をするから、その時だけ『お願い』を叶えてくれないか? と。私達大精霊としましては、魔力なんて貰っても仕方が無かったのだけれど、ハイエルフ達は、それしか挙げられるものが無い、といって聞かなかったわ。ふふふ、そんな折、ハイエルフ達の中の一人の若者が、言ってきたのよ。それならば自分たちが、集まった魔力を使って大精霊様を祀る祭殿を造ろうと。祭殿。家。それは確かに、憧れだったわ。大精霊同士、そして空気中を漂うような意思の小さい精霊でも、『精霊』というだけで強い絆があるけれど。ふふふ、けれど、当時の私たちは世界を漂う存在で、どこかに定住するということがなかったの。ハイエルフ達の持つ家、そして家族という繋がり。ふふふ、私たちは、その若者の提案を歓迎したわ。そうして出来上がったのが、この祭殿なの。さぁ、レグレス。もうすぐ最上段よ。」
★★★★
リヒトの昔話を聞きながら階段を昇っていたら、いつのまにか頂上まで来ていたようだ。
「さぁ、着きましたよ。ここが光の祭殿の中心。光の祭壇。」
「さぁ、着いたよ。ここが光の祭殿の中心。大精霊様の坐す場所。」
右にリヒト、左にビュルガーさん。2人がこちらを向いて、俺を促す。あれ? 一応ビュルガーさんを俺が案内するみたいな流れだったような……?
「……。」
言葉が出ない。足場と同じく、薄桃色で半透明の祭壇。その上に、白く、白く輝くクリスタルが浮かんでいる。恐ろしい程に清浄な光を放つそれは、ゆっくりと回転していた。
周囲の漆黒が、より一層クリスタルの輝きを際立たせる。何分魅入っていただろう。いや、何時間か? 体感する時間があやふやになるほど、そのクリスタルは美しかった。
「ふふふ、レグレス。そんな、美しいだなんて。ふふふ、嬉しいわ、レグレス。この水晶は、私の本体でもあり、光精霊の集合体でもあるのよ。うふふ、この光が見えるのも、レグレス。あなたが特別だからよ。レグレス、愛おしい友。【時の愛し子】。」
「さて、ここまで辿り着いたことで、あんたを光の大精霊様の友達と証明する、なんてあたしがいったわけだが……。その様子だと、光の大精霊様のクリスタル以外に、何か見えているみたいだね。はぁ、全く。あたしは大精霊様の友人を試すみたいな真似しちまったのかい……。ちなみに、何が見えているんだい?」
「光、です、白く、白く、白い。清廉で、潔白で、純潔で、冷たくて、暖かい光が見えています。リヒトのクリスタル……。本当に、綺麗だ。」
「はぁ……。一言一句伝承と同じとはね。……、しかし、客人が本当に大精霊様の友達となると、あたしの事や、あたしの野菜カレーは本当に……?」
あ、そこは嘘です。
「伝承、ですか? すみません。歴史にはそんなに強くなくて。」
あまり追及されないように、話題を変えなければ。
「ん? あぁ、伝承ってのはね、ハイエルフ様方が残した言い伝えみたいなもんだよ。その一節に、光の祭殿に降りてきた水晶は、白く、白く、白い。清廉で、潔白で、純潔で、冷たくて、暖かい光を放っていたとあるんだ。客人、あんたがいったことと全く同じだろう?」
おぉう……、そこまで同じだと恐ろしいものがあるんだが。
ん? リヒト? クリスタルのトコで、何してるんだ?
「ふふ、ふふふ、レグレス。言ったでしょう? あなたに加護をあげるって。大精霊も、人間も、魔物も、一目であなたが私の友であるとわかるように。ふふふ、この水晶は、私の半身。ふふふふ、これの半分を、あなたにあげましょう。」
そういって、リヒトはクリスタルに手を当てる。え、ちょ、待って待って! それは不味いんじゃ!
「え? な、なんだい? そんなに慌ててどうしたんだい、客人。ん? これは……、と、とてつもない量の光精霊が集まってきている!? ま、まさか、あたしがアンタを試したからお怒りをかったのかい!? ど、どうしよう客人! あ、いや、あたしが悪いのさね。客人。あんたは大精霊様の友達だから大丈夫だとは思うけれど、念のためあたしの後ろに――。」
クリスタルが膨大な光を放つ。目を焼くような光ではないが、直視できるようなものでもない。それが、リヒトの手の平へ集束する。
「ふふふ、さぁ、レグレス。これが加護よ。【光の大精霊の加護】。ふふふ、受け取りなさい?」
リヒトの手のひらがこちらへ向けられ、集束した光の玉が俺の方へすぅーっと進んでくる。身体は動かない。ビュルガーさんが何か言っているが聞こえない。
光の玉は、俺の鳩尾あたりに当たった。いや、吸い込まれていった。
「うん? なんとも、ない?」
変わったことは特にない。強いて言えば、目の前に浮いているクリスタルの光量が減った気がする程度だ。俺自身に変化は見られない。
「あ、あんた……。なんだい……、それは……。」
後ろでビュルガーさんが、茫然とした声色で呟く。それって言われても……。なんか変わったか?
「ま、まさか、アンタは、あなた様は、光の大精霊様の友ではなく、光の大精霊様だったのですか……?」
いや、ちげーけど!?
★★★★
ルビ機能使った方が良いのかなぁ




