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Esiw Kcolcre Tnuoc(旧題:感謝される男)  作者: 劇鼠らてこ
エラフの街のレグレス・ツァイト
10/33

暦2050年12月22日19:00~23:30

男なら 一度は創る 詠唱文 数年後には 呪いの文字列

「うっひぇ……。話にゃ聞いていたが、こりゃ酷いな……。」


 闇の祭殿の洞窟を見ての感想だった。

 入り口付近で留まってはいるものの、ぐるぐると蠢く黒い靄、瘴気だ。あれは生物から生み出された悪意の塊だ。見ているだけで気分が悪くなる。今からアレに突っ込むと思うと、怖気が走る。


「いやいや、びびんな俺。弱気が一番瘴気に侵されやすいって知ってるだろ。できるできる。為せば成る。絶対大丈夫だ。うっし!」


 自己暗示、にもならないが、とりあえずポジティブ精神で行こう。盛大で、頼りになる援護もあるのだ。いけないことはないはずだ。


「心の準備はできたかい? 本当ならこれは、私たちがやるべきことだ。だから、せかすような真似はしたくない。できればやってほしいけれど、本当に恐ろしいというのなら、やめてくれても恨みはしないよ。瘴気ってのは全生物が恐れるものだからね。巻き込んでしまったこと自体、悪いと思ってるんだ。」


 野菜カレーを出してきたときとは比べ物にならない程落ち込んだ声色で、ビュルガーさんはそう言って来た。


「ははは、それこそ冗談って奴ですよ。俺は依頼を受けたんです。あの時握手を交わした時点で、契約は成立しています。それを反故にすることは、誰が許しても俺が許しませんよ。それに――瘴気如きに負けるようなタマで終わる気はありませんからね。」


 ニヤリと笑う。獰猛な笑みを表現したつもりだ。自己奮起の意味もあるが、後ろのビュルガーさんを安心させるためでもある。


「あんた……、口調、鳥肌が立つ方に戻ってるよ……。その顔も直視できないくらいにひど……。」


 すぐに表情を戻す。なんでいなんでい! ちぇっ、人が折角不安を取り除いてやろうと思ったらこれだよ!


「ええい! さぁ、そろそろ作戦開始時間だ! エルフの方々!! 俺の命はアンタらにかかってんだ! よろしくたのむぞ!」


 強引に話題を変える。作戦開始時間が迫っているのは本当だ。口調を戻したのは少しでも本調子に戻るためだ。他意はない。

 作戦開始時間は19:00。別に、瘴気は夜の方が強くなる、みたいな性質は無いので、しっかり全員が準備できる時間として設定された。


「ふふ、ありがとうね……。さぁて! エラフの街で生まれた我らが同胞よ! 闇の大精霊様の祭殿が、あろうことか瘴気に侵されただけでなく、光の大精霊までもが瘴気により閉じ込められてしまった! 我らが同胞も死力を尽くし、救出を試みたが犠牲が増えるだけだった。愛する者を失った同胞も少なくはないだろう。私達が不甲斐ないばかりに、本当にすまなかった! だが、今宵だけは、私達に力を貸しておくれ! ギルドが、他種族が多大なる信頼を置くこの青年を護っておくれ! そして、また全属性の大精霊様がこの地に降りられることを祈っておくれ!」


 ビュルガーさんは、いや、エラフの街の長は後ろを振り向き、とても響き渡る声で願った。そんな願いを、エルフ達は、その全員が誠意を持って答える。


「「「応!」」」


 ……随分と勇ましい掛け声ですね。美女美形が美しい声で応! と叫ぶのは中々に壮観だった。


「そいじゃ、レグレス。全速力で、頼むよ? 闇の祭殿はそこまで距離が無いとはいえ、相手は瘴気だ。こちらも一気に全力でかけるから、あんまり時間に余裕があるとは思わないでくれ。」


「あぁ、勿論だ。今の俺が出せる全力、いや、限界を超えて走りきって見せようじゃないか。」


「ははは、そいつぁ頼もしいが、光精霊様の封印を解く前にスタミナ切れでばてるなよ?」


 今から死地へ行くとは思えない軽い会話だが、まぁこんなもんだろう。


「んんっ、それじゃあ、いくよ。


 我が同胞よ! 嘔え!


 『其、世界を包む者。終焉と破壊の化身。其の炎で、彼の者を守りたまえ。

  其、世界を流る者。永遠と癒しの化身。其の氷で、彼の者を守りたまえ。

  其、世界を泳ぐ者。刹那と崩壊の化身。其の風で、彼の者を守りたまえ。

  其、世界を繋ぐ者。生誕と再生の化身。其の土で、彼の者を守りたまえ。』


 紡げ!


 『其、世界を閉じる者。不動にして自在。其の氷で、彼の者を護りたまえ。

  其、世界を切裂く者。最速にして自在。其の雷で、彼の者を護りたまえ。

  其、世界を照らす者。原点にして自在。其の光で、彼の者を護りたまえ。

  其、世界を整える者。深淵にして自在。其の闇で、彼の者を護りたまえ。』

 

 いざ、ここに! 八大精霊護身魔法、形成!」


 


 俺の体に、炎が、水が、風が、土が、凍りが、雷が、光が、闇が纏わりつく。


「行きなァ! レグレス! よぉい、ドンだ!」


 よぉい、ドン! クラウチングスタートの姿勢で待機していた俺は走り出す。前傾姿勢を止めない。しっかりと保護魔法もついてきている。何も問題はない。あとはあの闇の祭殿に突っ込むだけだ。


 俺は八色の光を靡かせながら洞窟へと駆け抜けていった。


★★★★


「……。」


 声は出さない。無駄な体力を使わず、走ることにのみ注ぐ。一番体力使うのは脳だってどこかで聞いた気がするけど思考停止はイコールで死だ。そこは勘弁してほしい。

 洞窟というわりには、地面がしっかり整備されているので、走りやすい。まぁ遠い昔から闇の祭殿自体はあったわけだしな。信仰に通うエルフが整えたんだろう。走りやすいとは言っても、瘴気のせいで1m先の地面すら見えないので、あまり関係ないのだが。


バチィ!


 何かがはじけるような音がして、保護魔法が少し薄くなった。多分だが、光と闇の保護魔法が消えてしまったのだろう。その二つは大精霊が居ないようなものだからな。不安になることはない。今現在も魔力を注ぎ続け、保護魔法を維持しているエルフ達がいるのだ。俺は何も考えずにただ突っ走ればいい。それが俺の役目なのだから。


バチィ!


 また弾けるような音。保護魔法が薄くなる。走れば走るほど、奥へ行けば奥へ行くほど瘴気が濃くなっている気がする。保護魔法は残り五枚。気にするな。なくなるより先に辿り着けばいいだけの話。走れ。


バチィ!


 弾ける音。保護魔法が薄くなる。残り四枚。走れ。


バチィ!


 残り三枚。走れ。


 前方から清々しい気配を感じる。瘴気の中だというのに、だ。光の大精霊は封印されていても周囲に影響を与えるものなのか。すごいな。


ババチィ!


 一気に二枚剥がされた。残り一枚だが気配はすぐそこ。大丈夫。いけるハズだ。


バチィ!


 最後の1枚が剥がされた瞬間、俺は瘴気の渦から抜け出していた。そして抜け出しながら考えていた。


 

 

 

 あれ? おれ封印の解き方とか聞いてねーけど。





 精霊信仰の篤いエルフ故に。散々と議会で話し合われた方法だったが故に。エルフ達は、レグレスも封印の解き方なんて知っているものだと思い込んで、送り出したのだった。


★★★★


「あでっ!」


 勢いよく瘴気から抜け出した俺は、祭壇? らしきものに体をぶつけて止まる。この祭壇の周囲には、瘴気が寄ってこないどころか、凄まじく清浄な空気で満ち溢れていた。全力で走ってきた俺は、そのまま四肢を投げ出して上を見上げた。


 そこには、白い乙女がいた。


 白。全てが白。この世の物質ではないだろう、空気中に溶け出すような素材の布地を身に纏い、目を瞑った白い乙女が俺を見下ろしていた。


 俺は素早く跳び退がり、正座する。


「あの、もしや、あなた様は、光の大精霊様であられますか?」


 ええい、口調がめちゃくちゃだ! だが、おれの問いかけに、白い乙女は目をゆっくりと開いてくれた。


「えぇ。お久しぶりです。【時に愛された子供】/『時を遡る旅人』。そして、こうして約束通りここへ来てくれた。時に愛されし子よ、礼を言います。」


 ん? なんて?


「ふふ、そうでしたね。【時の愛し子】/『時を遡る旅人』、いえ、これでは聞き取れないのでしたね。レグレス・ツァイト。あなたにとっては、私ははじめましてですね。はじめまして、私は光の大精霊と呼ばれているものです。リヒト、という名があります。」


 ん、よくわからんが、この精霊さんは俺を知っていて、俺はこの精霊さんを知らないという状況のようだ。

 なんというか、なんだろうな。いつもと逆パターンだ。

 いつもは、俺が相手を覚えていて、相手は俺を覚えていない。それはもうパターン化されるほど繰り返したことだから受け入れてはいるが、偶に悲しくなる時はある。だからこうして、俺を覚えていてくれる存在というのはとてもありがたいのだが、今度は俺に覚えがないときた。しかも大精霊様をだ。


「ふふふ、そう心配なさることはありませんよ。あなたが覚えていないのは当然なのですから。あなたは、これから私に合うのです。ふふ、今はわからなくても問題ありません。レグレス・ツァイト。愛が深すぎて理から外された子供。大丈夫。あなたは、あなたの起源に立ち戻ることで、本来の流れを見つけることができます。さぁ、今は眠りなさい。この瘴気もすぐに消えるわ。ほかならぬあなたの働きによって。ですけどね。ふふふ、大丈夫ですよ。何も心配しなくていいのよ。大丈夫。明日は来るわ。大丈夫、大丈夫。おやすみなさい。」


 聴きたいこと言いたいことが沢山あったが、凄まじい眠気に襲われて目が開かない。眠い。いやここ洞窟なんだけど。眠い。眠い。何か、何か言わねば。眠い。眠い。眠い。


「リヒトちゃん、今度お茶しようぜ!」


 何言ってんだよ俺……、アホかよ。だめだ。眠い。寝る。


 俺の意識は閉じた。





「あらあら、今度って、何年後かしら? 何年前かしら?」





★★★★


この世のものではない不思議物質なので、下から覗いても下着は見えません。

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