《The・Faust》Cord.1
どうも、Scarecrowです。
初投稿ですので拙い文章ですが、読んでいただければ幸いです。
荒れ果てた大地。
夜空の下、互いに牙を剥く2つの意志があった。
片方は、黒い機動鎧の背に星条旗を背負った、アメリカ合衆国の特殊作戦部隊《G7》。
もう片方は、血の涙を流すかのような柄の入った白いマスクに、黒いポンチョの人影。
《G7》は一斉に小銃を引き抜き、目の前の対象を容赦無く蜂の巣にする。
硝煙の漂う中で、簡単な任務だったと皆が思った。
だから、黒い影が上空から部隊に迫ったことに誰も気づくことができなかった。
音も無くナイフが閃き、あっという間に、十数人の首がぱかりと地に落ちた。
死んだ仲間達の返り血にまみれて、生き残った隊員達は震えながら銃口を殺戮者に向ける。
けれど、彼らの腕は真っ赤に切断されていた。
ばしゃばしゃと、有り得ない勢いで血液が吹き出して行く。
彼らは、絶叫することさえ許されなかった。
喉の中にサクリと刃先が滑り込み、意識がプツリと消える。
そして全てが終わった後で、白い仮面の彼は、そっと呟いた。
「…お休み。いつか、この世界が終わるまで」
彼は《ファウスト》。
本名不明、正体不明のテロリスト。
誰よりも、正しく幸せな世界を望む者。
これは、語られるはずが無かった<殺戮者>の物語。
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29世紀。
全ての自由は死んだ。
枯渇してゆく資源を前に、あらゆる国々は血みどろの奪い合いに突入し、互いを憎みあい、数えきれないほどの命が空に消えた。
かつて青かった空は、煙に染まった黒雲とミサイルの赤い炎に覆い尽くされた。
ありとあらゆる文明が栄えた地上は、鉄の化け物が走り回る戦場になった。
そんな時代に生まれたからかは分からないが、親の顔は知らない。
銃声と沢山の悲鳴が、この世に生まれ落ちた俺の最初の記憶だ。
この真っ黒な世界に、俺はたった1人だった。
こんな世界で、生き続ける意味が分からなかった。
来る日も来る日も、死に場所を探した。
いつの日か、心は凍りついた。
死にたかった。
消えたかった。
ある日、俺は転がっていた小銃で腹を撃ち抜いた。
弾は体を貫通し、血と一緒に、俺の命が流れ出していった。
意識が途絶え、俺は死んだ、はずだった。
次に意識が戻った時、俺は白い部屋に寝かされていた。
そして、俺は『彼女』と出会うことになる。
誰より正しく、誰より強く、そして誰より優しかった。
『彼女』は俺にとって生きる理由そのものだった。
俺の隣に『彼女』がいる、それだけで世界すら輝いて見えた。
他に、何も要らなかった。
俺には、『彼女』さえいれば良かった。
けれど、カミサマは残酷だった。
俺が14歳、『彼女』が19歳の時、仮初めの幸せは打ち砕かれた。
闇市に買い出しに出掛けた『彼女』の帰りを、俺は家で待っていた。
日が暮れても、『彼女』は帰ってこなかった。
夜が更けてきても、帰ってこなかった。
朝になって、俺は探しに出ようとドアを開けた。
やたらと、ドアが重かった。
嫌な予感がした。
ドアの隙間から、固まってひび割れた血が見えた。
『彼女』が、死んでいた。
冷たかった。
血にまみれた身体中に銃で撃たれた跡があった。
彼女のコートのポケットに、小銃が入っていた。
『彼女』のいない世界に、意味など無かった。
頭に押し当てて、引き金を引いた。
カチリと、撃鉄がはね上がる。
弾は、出なかった。
こぼれ落ちたマガジンには、銃弾は込められていなかった。
代わりに、丸められた小さな紙が入っていた。
それは、『彼女』の遺言だった。
『彼女』がファウストと呼ばれていたということ。
ファウストとは、腐敗した時の権力者たちに制裁を下してきた存在だということ。
幸せな世界で、幸せに暮らしたかったということ。
先に逝ってしまってごめんね、ということ。
それでも、守りたかった、と。
戦いとは無縁な世界で、幸せになってほしい、と。
その紙には、いくつもの涙の跡があった。
もう、耐えられなかった。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!!!!」
『彼女』を埋葬した後、涙を流しながら夜空の星を見た。
日が昇って、日が沈んで、また日が昇って沈む頃、涙は枯れ果てた。
体を引きずって家に戻り、『彼女』のクローゼットを開ける。
そこに、『彼女』の脱け殻があった。
真っ黒なポンチョに、血の涙を流す真っ白なマスク。
静かに、顔にマスクを着け、ポンチョを羽織ってフードを目深に被る。
『彼女』が、俺を抱き締めてくれているような気がした。
今、俺は生まれて初めて『彼女』の思いに背く。
俺は、戻ってきた。
幼い頃、自ら命を絶ってまで逃げ出したかった、血と硝煙の匂いが渦巻く、死と隣り合わせの、真っ黒な世界に。
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最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
感謝、感謝です!
また次も読んでいただければ幸いです。