始まり
「先生なんですか?」
先生のところについた僕たちは、何か考え事をしてるような顔をしていた。
自称、五歳という事らしい。けど、みんなからは四〇歳超えてるのでは、と噂されている。
「いやいや。折り入って聞きたいことがある。今回学校がこうなってしまった。クラスの皆は残り3人見つからないという事なのだが――」
その後の話はこうだ。
クラスの人はほとんど見つかっている。残り三人を残して。そこで考えたのは、何もできないけど、気持ちを休ませる場所を作ろうという事だ。他の人には聞いているが、このままでのいいんじゃね、的なことしか言ってもらえなかったらしい。そこで、学級委員長の原さんと以外にまともな僕にいい案が無いか聞きたいという事らしい。
「はあ」
「そうなんですか」
僕たちはこんな時に何をすればいいか、と迷ってはいたけどこんな事は考えもしなかった。
「そうなのだよ。何かいい案はないか?」
「そうですね。案はそう簡単には出てきませんよ」
「私もです……」
僕たちはこんな事を考えていた。
もしこの世界に、家族と言う形無い物の大切さを知った人がいるなら、何かできないかと。
するとある一つの物を思いついた。
僕は原さんの方を横目で見て先生に言った。
「あの~、先生。いい事と言うよりいい案を思いついたんですが」
先生は顔を輝かせて、
「本当かね」
と言った。
なんか、年寄りくさい感じはしたけど言わないで、心の奥にしまっとく。
「はい。僕が思いついたのは『家族』です」
「家族?」
疑問視を向けてきた原さんに、僕は先生に答えると同時に言った。
「家族って英語で言うと『ファミリー』ですよね。それで考えたんですが、ファミリーレストラン風の休憩所なんてどうでしょう」
「どうしてそれを?」
「私も聞きたいかな。なんとなくわかるけど。形の無いものでしょ」
頷いた後、述べた。
「今回、大きな出来事がありました。けど、この事でいろいろな事を知ったと思います。その一つが『目に見えないもの』です。いつもはそっけなく、バカにしていたけれども、もう会えないんじゃないか、あるのは当たり前ではない、と思ったはずです」
「で?」
先生は一度くぎったら先を促してきた。
「そんな光景は、こんな言いかた酷いと思われるかもしれませんけど、うちの子は、いつになったら、という言葉を聞きます。自分たちの方を先に、と言ってる様な気がしたんです」
実際、校庭についた僕たちが見たものは、こっちを早くやってくれ、助けを求めている人たちの声と場所だった。
「けど、もっと大変な人がいるはずなんです。それが見えなくなるほど、家族や友達の大切さに気が付いたと思うんです」
「そうだな……」
先生は所々反応をしてくれるが、原さんは黙ったままだ。
「それで、みんなが見ている先は、その場の家族と友達なんです」
これは自分が思ったことだ。
「けど、家族や友達は他の人にもいる。その事を知ってもらいたいんです」
改めて思ったこと。
「先生。昨日の夜、僕は原さんと話しました。その時僕だけの事を話したんです」
昨日は、原さんの気持ちを考えないで話してしまった。その後悔。
「その時感じたんです。僕だけじゃない。辛いのは」
その感情表現の違い。
「なので、一度は傷つけてしまった」
そう、僕は原さんの事を傷つけた。
「その後です。ああ僕以外にもたくさんの人がいるんだな、と思ったのは」
周りを見ると原さんや伸二、先生にクラスメイト、近所の人などなど。
「だから知ってほしいんです。自分たちより大変な人、他にもたくさんの家族がいるという事を」
言い終えた僕は黙った。
その後の沈黙は辛い。すごく恥ずかしい。
何分立ったのだろうか。耐えかねた僕は、
「あの、ええっと、やっぱり気にしないでください」
先生は下げていた顔を上げて、原さんは視線をこちらに向けただけだった。
「かなり辛いんですが」
何も返ってこない。
周りは今もいろんな声が湧き出ている。
何か言おうとしたら、
「いい案だ。それにしよう。原さんはどうかね」
「はい。私もいいと思います」
答えを返してくれなかった二人は普通に話す。
「じゃあちょっくら話しつけてくる。お前たちはクラスの人を集めて、その事を話せ。そうだな、リーダーは山寺だ。副は原さん頼んだよ。その補佐はあっちで今もにやけてる、ふざけた柊でいいだろう」
そういう言の葉を置いて行った。
「じゃあ、やりますか」
「そうだね」
「それはそうと、話し方変わってない?」
「そんな事ないよ」
そう言い合いながら、それぞれの役目を果たしに行った。