一樹の気持ちと原の強さ
良いこと言ってくれると思ってたからだ。初めがそんな感じに聞こえた。だが内容はなんか悪いことばっかり。
「でも……、誰よりもみんなの事を信じてる。自分でできる事は自分でやろうとするし、今だって誰かの役に立てるか考えてるでしょ」
「は?」
「だってわかるもん。幼馴染だし。すごく強かったんだね一樹」
顔は上げないまま言い続けていた。
「一樹はすごいよ。私なんかよりもっと……」
「まてよ」
一言。
原さんは静かになった。何も答えない。
僕は、少し待ってから続けた。
「何を誤解してるかわからないけど、僕はそんなに強くない。今だって何していいかわからないし、誰も助けられてない」
今はだいぶ静かになっている気がした。ほとんどの人は寝てしまったのだろう。時々すすり泣きの声が聞こえるけど。
「今だから言うよ。本当は怖いんだ。だってさ、科学分野の理科ができたって、今では何にも役に立たない。友達の事も心配だ。家族も。クラスメイトも。けど、なぜかわからないけど、大丈夫だと思ってしまう。おかしいよな。多分ここがおかしかったんだろう?」
今になって、ここなんだと思った。
周りと比較しても、やっぱり自分はおかしいんじゃないか、と思ってしまう。
普通なら心配で心配でゆっくりなんてできないはずだ。けど、僕は原さんにゆっくりしようと似たことを言ってしまった。
「けど、僕にはそれしかできない。本当にバカだとさえ思う」
本当のバカなのか。そうだろうな。根拠もない安心と安全を信じているなんて。もしかしたら今この時でも遠くに行ってしまった人がいるかもしれないのに。
「だけど、原さんは違う。原さんは原さんで強い力を持ってるんだ」
原さんはどうだろう。さっきから心配して居ても立っても居られないはずなのに、ただ泣くだけでここに座っている。よっぽど強いと思った。
「八重花は八重花らしく居ることが力なんだ。周りを見たらわかるだろう。着いた時は自分の事、家族の事をそれぞれ訴えてた。それに、子供が心配だからって校舎の方に走り出す人もいた。逆に街に戻ろうとした人もいた。けれども、八重花は違う。ここにいた。今も。泣くだけでここにいる」
原さんは少し頭を上げた。
「だから、僕なんかより二倍、いや十倍強いと思うよ」
今この時だから言った。言いたい事を。
「八重花がいたから、ああ、あと伸二もな。僕は頑張れたんだ。誰も失いたくないから。怖くて怖くて。そうやって八重花見たく言える人はいないと思うよ。言ったらそれだけで我慢できる人なんてさ」
原さんは完全に顔を上げていた。
すごい驚いている顔だった。目を見開いて、涙の痕を残したまま、口を少し開けて、すっと立った。
……あれ? どうして立ったんだろう。
「そうだよね。いじいじしてちゃ駄目だよね。ありがとう。一樹。この事にはお礼を言うわ。……けど」
そんなこと言ったっけ? いやいや、いじいじしてちゃだめだなんて言ってないし。
「後の名前呼び捨ての代償を払ってもらおうかしら」
こめかみに拳のはさみこみ。
とっても痛い。
「ご、ごめんなしゃい。ゆ、ゆるしてくだひゃい」
「わかったんならよろしい。けど、あと4回はやらせてもらうわよ」
元気は戻ったみたいでよかったけど、痛い。
「お二人さん。いい感じなところ悪いけど、寝かせてくれないかい」
いつの間にか伸二が来ていて、背にしている木の裏側で座り込んでいた。
「いつからそこにいた?」
「そう。いつからい、いた、いたの?」
原さんは動揺を隠せてない。
「最初から聞いてたぜ。よくもまあんなに堂々と話せるもんだよな。それと、原ちゃ~ん、動揺隠せてないよ」
僕たちは顔を真っ赤にして、背中合わせに寝ることにした。