子供
周りは騒がしいほどうるさい。その子供を止める声は聞こえない。ただ、悲鳴が上がるだけだった。
僕は必死にその子のところまで来て、抑え込んだ。その子は、小学生くらいの男の子で普通の服を着ていた。
しばらくすると揺れは収まりその子の顔を見た。
「なにすんだよ!」
いきなりキレた。
「お母さんを探しに行こうとしたのに! 何で止めるんだよ!」
自分勝手。
「やっと出れると思ったのに!」
小さい握りこぶしで叩かれる。痛くはないが同じところは勘弁してほしい。できればたまにある蹴りは腹に当たって鈍い痛みが。
「今まで大人に見張られていて、やっと少し大きな揺れが来て、動けると思ったのに!」
それは疲れる。けどさ、もっと大切なことがある気がする。
男の子は息を荒くしている。言葉は来ない。
「……」
抑えたまま黙っとく。
「なんか言えよ!」
相手からの要望なんで。
「それだけかい?」
さっきまで続いていた攻撃はやんだ。
なので、倒れていた体制から立ち上がり、膝立ちで男の子と向き合う。
「なんだよ」
見据えた後、
「危ないだろ。あんなときに」
「お説教かよ」
うわ、あからさまに嫌だ空気を出された。
「お説教じゃないさ。ただ、話をしたいと思ってね。手伝うよ」
男の子は渋々といった感じで付き合ってくれそうだ。
「話すことなんてないね」
「まあ、仕方がないよな。知らない人だしな」
「じゃあほっといてくれよ!」
声を荒げた。
「けどさ、もし君に何かあったらどうするんだ?」
ストレートの質問。
「そんなの見つかればどうってことないさ!」
そう言った時の顔は誇らしげで、胸を張り、自信に満ち溢れていた。
「見つかったとして、ボロボロになった子供を見て喜ぶと思うか?」
「え?」
「大丈夫だ。無事だと思っておけよ」
また根拠のないことを言った。
「そんなのわからないだろ!」
ああ、やっぱり。変な方に向いたんだ。心配と言う力が。
「そうだよなー。わからん」
前回の失敗を今回に。
「だったらいいだろ! 話は終わりだ。探しに行く!」
僕は抑えたままだ。
「はなせよ」
暴れだすが話さない。言わなきゃいけないことがある。
「君自身、自分が元気なところを見せないでどうするんだ? 見つかってもただ悲しませることしかないぞ。そりゃ無事かどうかもわからない。君のお母さんにも君が無事かわからない。ただ、はっきり言えることは、無事でいてほしいという事だけだ」
説教じみた気がする。ちょっと腹が立っただけだ。
「それがどうしたんだよ! だったら早く探した方がいいんじゃないか!」
こいつは本当にわかっていない。
「君は小学生だよね。何年生?」
「小5だよ」
「じゃあ少しきつくてもいいよな」
覚悟を決めていった。
「お前は何もわかってねーんだよ。よく考えろ。もしこの時に出て行って、怪我して自分の身に何かあったらどうする。逆にだ、お前のお母さんに何かあったら、もし会えた時ボロボロだったらお前はどうするんだよ。まだ完全じゃない。危険が去ったわけじゃねーんだ」
相手の顔をまっすぐに見て言った。
小5の子供はびっくりしたみたいに目を見開いている。
「生きる事を第一に考えろ。無事で会えることを考えろ。必ず傍にいるから。絆だけは消えてねーんだ。だから信じろ。僕だって家族が心配なんだ」
「だけど、お兄ちゃん……達、話の場作ったよね。心配なのに?」
「まあそうだ」
一様静かになった。
「もし、ここに家族が来たとき元気で無事の姿見せる方がいいに決まってるからな」
やさしく言った。
「それに皆がいるし」
そうか、これが聞かれた事だったんだ。
「だから、大丈夫だと言えるんだ。君も僕も一人じゃない。必ず誰かと絆で繋がってる」
顔には涙が浮かんでた。
「ご……めん……なさい」
謝られた。別にいいのに。しかも相手が違う。
「よし。わかればいいさ」
笑いかけた。そしてもう一つ。言う事があった。
「君に一つ秘密を教えよう」
下げてた顔を上げて聞かれた。
「何?」
「実はな、こんな事が起こったとき皆が心配で探しに行こうとしたんだ」
「それで?」
「見つかった。大丈夫。無事だった」
泣き止んでたみたいだ。
「それで自信が付いた。だから君もここで元気に過ごしとけば何とかなるさ」
「ほんと?」
「ああ」
そう言ったとたん、子供は笑って元の場所に帰って行った。