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1-4 56期のお貴族様たち①





 3限目「ドラゴン育成学I」




「では、飛竜の成長過程を簡単に説明していただきましょう・・・フィアナ・クラウス、言えますか?」


 フィアナの腕がスッとしなやかに伸びる。


「はい。・・・飛竜の卵は産み落とされてから約45日ほどで孵化します。そしてそこからの成長は非常に早く、個体差はありますが、平均すると約半年ほどで成竜と同じ大きさになります。そこから角が最後の生えかわりをむかえ、完全な成竜となるまでにはさらに一年かかると言われています。以上です。」



 まるで教科書の文章をそのまま読んだかのような口ぶり。

 フィアナはそのまま何事も無かったかのように席につき、板書を続けた。育成学の先生も一瞬ポカンとするほどの秀才ぶりだ。



 あれから二週間が経ったが、結局あの日以来一度も彼女と話していない。

 気が強くてかなり難しいと噂の彼女。連日の猛勉強で疲れた俺の眼の保養にはちょうどよかった。



「ちっ・・スカしてるよな。可愛げねぇ。」


 ユージンの憎まれ口を聞きながら、俺は机の上にある卵をコツンと叩いた。

 あれから卵に変化はない。強いて言うなら、葉色の模様が少し濃くなっているぐらいだろうか。


 一体この中からどんなドラゴンが生まれるのか。アルヴィスとは仲良くやっていけるだろうか・・・

 そんな期待と不安を湧き出たせ、俺はらしくもなく孵化の日を心待ちにしていた。





 どうやらこの世界でも一年、一月、一週間、という単位は同じらしく、学校の授業もきっちり一週間周期で行われていた。


 週の始めの2日はすべて座学。

 さらに3日目から6日目までは、半日が座学で残りは武術と育成実習だ。

 そして7日目は自習。


 だいたいこんな感じになる。



 ちなみに今日は週の3日目。午後からは武術の授業だ。

 主に剣術の稽古をするのがメインになるのだが・・・これが些か問題なのだ。



 今やクラスの「貴族」と「平民」の溝はさらに深まり、圧倒的に数と権力で勝る貴族達が中心となりクラスを動かしていた。

 ユージンに聞くと、こういう隔壁はどこの街でも至極当たり前の事で、平民が貴族に見下される現状も、もはや仕方のない事らしい。


 ならば、そんな身分格差が体に染み付いていない「異質な存在」である俺が、無用な貴族同士の争い事にまで巻き込まれるのも、もはや仕方のない事だったのかもしれないな。




*******






 木剣と木剣が交じり合う重く鈍い音に紛れて、誰かの小さな悲鳴が聞こえた。


 声の方に視線をやると、「隙あり!」という掛け声と共にユージンが剣を振り下ろしてくる。

 それを軽く受け流した俺は、そのまま貴族たちが群がる方へと足を運んだ。



「(・・・またあいつか。)」


 すっかり貴族たちのリーダーとなったアレキサンダーが、今日も剣術の稽古と称して平民男子を痛めつけ楽しんでいた。

 よくもまあ飽きずにそんな事を続けられるものだ。そう思いながらも、俺は犠牲となった可哀想なクラスメイトの顔を確認する。


 ー?


 おや珍しい。やられているのは貴族だった。

 それも、あの柔弱そうな身体に女のような顔つきはルーク・ティスターだ。


 クラスで唯一あのフィアナと行動を共にしている存在。

 いつもはフィアナと真面目に稽古をしているはずなのに、何故か彼女の姿がさっぱり見当たらなかった。



「フィアナなら、さっき先生に呼ばれて抜けてったぜ。」


 ユージンが俺の頭を木剣で軽く叩きながら言った。なるほど、だからその隙を見てあの乱暴者がルークを捕まえたというわけか。

 噂によると、アレキサンダーは入学前過去4回もフィアナに交際を迫ってフラれているらしいからな。嫉妬する気持ちも分からないでもない。


 しかし、ほぼサンドバッグ状態なのは流石に同情するな。あれじゃほとんどイジメだ。フィアナが戻ってきたらきっと一悶着どころでは済まないだろう。



 だが案ずることはない。俺の中の勇者一族の血は、決してイジメを見過ごしたりはしないぜ・・・という訳でもないが、俺もあの美しい顔が怒りに歪むところはできれば見たくはない。

 更に言えば、それによってたじろぐ哀れな失恋男などもっと見たくはなかった。



「おいハル!どこ行くんだよ!!」


 俺は倒れ込んだルークの前に立ち、さらに追い打ちをかけようとしたアレキサンダーの木剣を素早く止めた。

 結構な力だ。こんなものをくらえば、小柄なルークは木剣ごと吹っ飛んでしまうだろう。



「ああ?また貴様か・・チビ竜使い。」


 アレキサンダーの視線がルークから一瞬俺の肩にいたアルヴィスに移り、最後に俺をとらえた。


「・・・あのさ、もう先生も戻ってくるからそのへんにしときなよ。こいつはあんたの相手をするには体格差がありすぎると思うけど。」


 皆のひんやりとした視線。かばってやった当のルークですら、信じられないという様に肩をすくめ俺を見ていた。



 アレキサンダーは木剣を肩に置くと、お得意のニヤニヤ顔を俺に向けてくる。


「ほう・・・じゃあ貴様が俺の稽古に付き合ってくれるのか。」



 ・・・うーん、この返答は予想外だ。

 「うっせーどけ平民」か、大穴狙いで「フィアナには黙っていてくれ」あたりだろうと踏んでいた。


 やはりこいつは、入学初日からずっと俺のことを気に入らないと思っているようだ。

 気に入らないからシメてやりたいと思っていた矢先、堂々とそのチャンスが巡ってきてラッキーだったという顔だ。

 まったく、俺の気技も本当に大したことはないな・・・・・・だが断る。



「先生に許可されていないからできない。俺はこんな事で成績を落としたくないから。」


 正確には、落とすわけにはいかない。

 こんな奴のせいで退学にでもなったら、それこそ勇者なんかやめて悪の帝王としてこの世界にのさばってやる。



「ああ、それなら平気さ。剣の心得がある者同士なら、模擬戦も許可すると先生が言っていたからな。」


 アレキサンダーが俺の杞憂を斬り捨てるように言った。




「そうか、じゃあやろう。」

 俺は間髪入れず頷く。





 異世界入門第3章・・・必要のない戦闘は避けるべし・・・・まあそう堅いこと言うなよ。最近頭の運動ばかりでひどく体がなまっていたところだ。



 平民と貴族の間にある溝を、少々荒っぽい形で埋めさせてもらうとしよう。





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