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〜異世界進学〜勇者家業を継ぎたくないので竜でも育てます。  作者: 麒麟
第3章〜育成科2年 (孤島実習編)
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3-10 竜騎士への第一歩




 夜明け。


 まだ薄暗いこの時間にここへ来ると、どうしても数日前のあの出来事を思い出してしまう。



 まだ悲しい気持ちを完全に断ち切れた訳ではないが、それでも俺は、ここに立つ。

 親グールに初めて遭遇した・・・そしてイリスと別れたこの海岸に。




 心臓に手を当てると、脈打つ力強い鼓動・・・俺にはまだ、残った仲間達の命を守る義務があった。

 

 何の義務かと言われると、それは少し困ってしまう・・・

 今まで散々無碍にしてきたというのに、今さら勇者を気取るのは都合が良すぎるというものだ。



「ハル、何ぼーっとしてるの?」

「フィアナ・・・」


 作戦の確認をしているティオスとアレキサンダー、今にも泣きそうなルークを殴って勇気づけているユージン。そして、俺の隣に立つ、



「フィアナ・・・髪が伸びたね。」

「ええっ?」 


 こんな時に突然何を言い出すんだ、と取り乱すフィアナ。だが仕方がない・・・俺は突然そう思ったのだから。

 夜明けの涼風を受けゆっくりなびくその髪は、この島へ来る前と何も変わらない、過酷な孤島生活などまるで感じさせない美しさを保ったままだった。


「そりゃ髪くらい伸びるわよ、帰ったらちゃんと切りますからね。」


 フィアナはぷいっとそっぽを向いた後、ふいに何かを思い出したかのようにあっと声を洩らす。


「そうだ・・・ハルこれ。」

「なに?」


 フィアナが俺に渡した物は、見覚えがあるようであまりない、細い片手剣だった。


「私の剣、たぶん使わないと思うから、ハルが持ってて。」

「え・・・でも。」


 俺は反射的に剣を取ろうとして、すぐにその手を引っ込める。

 そしてもう一度よく考えたうえで、結局剣を受け取った。

 


「ありがとう。」


 俺の命を守ろうとしてくれているフィアナの気持ちは、その表情から痛いほど伝わってきた。

 だけど本当に危ないのは・・・


「フィアナ・・・あの、絶対、」


 ――――無茶だけはするな。

 俺はその台詞をそのまま返され、フィアナとアレキサンダーが空へ上がってゆくのを見送った。





 いよいよ作戦決行時刻。


 俺はカフに指示を送り、破壊砲を水面に一発撃たせる。

 その振動が海から地下へと伝わり、どこにいるかも分からない親グールの感覚器を刺激する。

 ―――はずだが、確実というわけではない。確率としてはかなり高いとは思うが。


 何より、一度はあんな最悪なタイミングで現れているのだ。ここで現れないなど、そんな事はこの俺が絶対に許さない・・・あいつは今日この場で、万全の体勢のなか確実に倒す。



 俺たち4人はここに親グールを誘き寄せ、さらに空へと誘導しなければならない。なるべく子グール達とは引き離してだ。


 なんて無茶な・・・と一瞬思った。

 しかし、俺はすぐにそれが無謀な計画などではないことを知る。

 そう・・・俺は王国竜騎士団幹部の実力を、まだまだ図り知れてはいなかった。




「ハルさんっ!」

「――!!」


 水面を見張っていたルークが叫ぶと同時に、俺の頭の中であの日の光景がフラッシュバックした。

 血のように赤い鱗、巨大な図体。そして・・・不気味に並んだその無数の鋭い眼。


・・・・来たか。



 俺は剣を抜き、崖に現れたそいつの元へ一直線に走る。作戦開始わずか数分で、俺は単独行動に走りその計画をはなから覆す。そう・・・こいつは今ここで斬る。そうすれば、誰も・・・



 だがその時、激しい地鳴りと共に俺は信じられない光景を目にする。


 岩が浮いている。いや、それだけじゃない、木や、地面、海水さえもが、まるで意思を持っているかのように浮遊していた。

 そしてそれがティオスの魔法だと知ったのは、親グールに向け手をかざす奴の立ち姿が、俺の前にゆらりと現れたからだ。


「・・・ダメだよハルくん。ちゃんと作戦通りにやるんだ。」



 いつも通りの優しい物腰にも関わらず、少しぞっとした・・・そういえば、こいつが本気で戦う姿は初めて見る。


「僕の魔法で奴を孤立させる。子グールの始末は頼んだよ。」

「え、ちょっと待っ、」


 ティオスが右手を振り下ろすと、鋭利に斬り取られた岩が親グールの足元へ突き刺さっていった。

 まるで空間そのものを支配しているかのようなその革命的な魔法は、この世界の住人であるユージンとルークですら舌を巻くほどのものだったらしい。


 「浮遊魔法」生物以外の物をすべて支配下に置いたその力こそ、奴が副団長たる所以だった。

 自分は飛竜の背に乗ったまま、次々と近くの物を自在に操り飛ばしてゆく。



「ユージン、ルーク!俺たちは子供の方をやるぞ!」


「おう!」「はい!」


 ティオスはあれほどの力を持っていながらも、それでも自分では親グールを倒せないと判断した。聡明な副団長としての判断だ。

 ・・・そう、すべては作戦の中で動いている。


 二人の破壊砲での援護を受けながら、俺は次々とグールを斬り倒していった。それこそが俺に与えられた役割だから。



 そしてとうとうティオスの猛攻に耐えかねた親グールが、逃げ場を求め空へと飛び上がる。


「ーーーギッ!!ギギ!」


 その巨大な物体が空飛ぶ姿を見たとき、俺は今更ながら心底思った。


 ・・・ああ、俺はなんて世界に来てしまったんだろう・・・と。



 しかしこれは喜ぶべき事。

 作戦は思いのほか順調だった。


 空で待機していた二人が、親グールに標的を定め一斉攻撃を始める。

 黒竜と親グールが空中で繰り広げる壮絶な空戦は、一昔前の怪獣映画顔負けの凄まじい光景だった。



 映画やアニメなんかだと、怪獣同士の戦いが数分に渡って長々と描写されたりする。

 ・・・しかし、現実で起こる戦いというのはもっと単純で、そして一瞬の力同士のぶつかり合いだ。


 俺はユージンとルークに気を配りながらも、その攻守の移り変わる様子をひたすら目で追っていた。


 こうして見ると、改めて「黒竜」というドラゴンの特異性を思い知らされる。

 竜は同族殺しをしない。だが、その咆哮とも呼べる破壊の弾丸は、明らかにドラゴンを殺すに至る力だった・・・訓練の時とはまるで違う。







 そして、その攻撃をくらいながらも未だ地に堕ちない親グールの姿を見て、俺はある事に気がつく。


「・・・・効いて、ない?」


 するとティオスが素早くその間違いを訂正する。


「いや、効いていないわけではないが、直前で子グール達が身代わりになって親を守っている。当たっていないのさ。」


 周りを見ると、俺たちが押さえそこねた子グールが次々と空へ上がっていた。

 まずい・・・アレキサンダーがいるとはいえ、あれではシルヴァーノの破壊砲が尽きる方が早い。



「おい!どうすんだティオス!あのままじゃフィアナもアレキサンダーもやられちまうじゃねーか!」


 そう、数では圧倒的不利に立つ我々は、時間が経つにつれどんどん追い込まれてゆく。もはや戦場はこれ以上ないほどに荒れていた。



「ユージンごめん・・・ルークを頼む。」


 そしてティオスに二人を頼むと合図を送ると、奴はこれ以上ないほど男前に頷いた。こいつがいれば大丈夫だ・・・


 俺は自分に言い聞かせ、すかさずカフに乗り込んだ。そしてその背中に手を当て語りかける。


「カフ・・・頼みがある、あれをやろう。」



 そして俺たちは空へと上がった。






 以前、ティオスとこんな話をした。



「――――なぁティオ、竜騎士と聖騎士はどう違うんだ?」

「簡単さ、ドラゴンを連れているのが竜騎士で、国のためにその身一つで戦うのが聖騎士さ。」


「その身一つ・・・じゃあ、竜騎士はドラゴンと共に戦う事のできる人間・・・ということになる。」

「ああ・・・そうだよ。」

「どうやって?」


「翼を持たない俺たちが、空の上でどうやってドラゴンと一緒に戦う?剣を持たないドラゴンが、どうやって地上で騎士と一緒に戦うんだ・・・」


「そうだねぇ・・・僕みたいに魔法を使って戦う竜騎士は多いよ。でも、基本的に僕たちの戦場は別々さ・・・ドラゴンは空で命をかけ騎士を守り、僕たち騎士も地上で同じことをする。この絆こそ、僕たちが竜騎士たる所以なのさ。」



「ふうん・・・でもそれじゃあ・・」

「――――?」

「竜騎士じゃなくて、ただの竜と騎士だな。」


「はは、確かにそうかもしれない。君は実に不思議な事を考える人だね・・・」




 この学校に来てから、ずっと疑問だった。

 竜騎士とは一体何なのか。


 戦う力を持って生まれてこなかったカフと、戦う為に生きてきた俺。

 俺達だけにできること、俺とカフにしかできない戦い方がきっとある。


 それを俺は、今この場で証明する。


 



「カフ・・俺を信じてまっすぐ飛べるか?」


 ・・・・返事がない。どうやら俺の無茶な頼みを聞き入れてくれたようだ。


 ちなみにまっすぐとは、複数の子グールが束になったあそこを突き抜け、フィアナ達のいる所までの直線ルートだ。



 俺はカフの背に立ち、腰の剣を抜いた。そしてフィアナに借りてあった、もう一本の剣。

 二刀流にはあまり自信は無いが、「空中」ではこっちの方がバランスを取りやすい。


「・・・・くるぞ。」


 俺たちに気がつき、正面から牙をむき出しにして突っ込んでくるグールの群れ。

 カフが俺を信じて怖がらずに飛べるか・・・大丈夫、この島に来てから何度か練習はしてある。

 俺は剣を構え、静かにその時を待った。



 そして最初のグールと鼻先が衝突するまさにその寸前、カフの体はまるで流れるようにグールの懐へと滑り込む。


 そして風にさらされ鋭さを増した俺の二本の刃は、その無防備になったグールの腹部を深く斬り込んだ。


 ・・・本当に一瞬の出来事だったが、そのとき、俺は確かに何かを掴んだ。

 俺のくだらない屁理屈と疑問が、俺達に空で戦う術を与えてくれたのだ。



 複数のグール達がその身を躍らす空の上で、俺たちは一本の矢になってそれらを一つ一つ打ち落としていった。

 少しバランスを崩せば、たちまち宙に投げ出されグール達の餌食となる。

 そんな中で、俺はひたすら剣を研ぎ澄ませる事にだけ集中する。



 途中、フィアナとアレキサンダーが唖然として俺たちを見ているのが分かった。

 そんなに驚く事じゃない・・・剣士が竜の背に乗っていれば、いつかはこういう進化を遂げてもおかしくはないさ。



 グールが次々と地上へ墜ちてゆく中、俺たちは疾風のごとくフィアナ達の元へ辿りついた。

 そして、ここへ来るまでの数秒間で考えた、最後の討伐作戦を二人に伝える。



「フィアナ、シルヴァーノはまだ破壊砲を撃てるか。」

「・・・あ、えと・・うん。あと一発だけ。」


「そうか、よかった。俺が道をつくるから、最後の一発は至近距離から当てるんだ。できる?」


 そう言うと、フィアナは一瞬戸惑っていたが、すぐにいつもの自信と強気を取り戻し、シルヴァーノに指示を出した。


 ラスト一発・・・チャンスはあと一回だ。


「アレキサンダー、援護を頼む。お前のありったけで!」

「・・・ああ。」


 まるで、あの時みたいだ・・・

 第二回進級試験のとき。今更だが、あの時のコンビネーションは中々悪くなかったぜ。



 そして、ついに親グールが狂気じみた声を上げ俺たちを標的に捉えた。

 


「ハル!」

「ああ。」


 残りの子グールはあと4体。

 俺はフィアナの一歩前を飛び、まず一体。二本の剣先を揃えるように首を回し斬った。

 そのまま二体、三体・・・最後は親グールのすぐそばにいたそいつを、カフが飛び込む入射角に任せ斬り落とす。


 すべての子グールを倒した。あとは・・・


「――――撃て!!」



 俺の叫びと同時に、シルヴァーノの最後の破壊砲がほぼゼロ距離から放たれた。

 その威力は凄まじく、大口を開けていた親グールの体を体内から崩壊させるに至った。




 親グールの呻くような悲鳴。しかし、まだだ・・・奴の首を斬り落とさない限り、すべては終わらない。

 そして目を凝らすと、破壊砲により剥がれ落ちた鱗の隙間から、奴の白い皮膚が姿を現していた。


 ――――――いける。


 俺は剣を構え、カフが親グールの頭上でバレルロールすると同時にその背を蹴った。

 そしてその落下スピードを利用しながら、二本の剣の闘気を最大まで高める。


 一閃。



 空中で反転しながら放った俺の一撃は、大樹のように大きく太い親グールの首を完全に断ち斬った。


 ・・・・長い戦いだった。



 俺は剣をしっかりと握ったまま、親グールの重い首に遅れて落下した。そして、ここでひとつの重大なミスに気がつく。


 しまった・・勢いだけで飛び出してしまったが、後の事を全く考えていなかった―――――と焦り始める俺の体を、ナイスキャッチ・・・カフ。やっぱりお前は最高だ。




 すべての気力を使い果たし、俺はその白い背中の上に力無く転がった。

 そしてずいぶんと血を吸わせてしまったその剣を空に透かし、何かに向かって言い放つ。






「・・・・・・勝った。」



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