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〜異世界進学〜勇者家業を継ぎたくないので竜でも育てます。  作者: 麒麟
第3章〜育成科2年 (孤島実習編)
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3-7 脱走計画

 





 俺がその計画を知ったのは、脱走グループに誘われたルークからの報告だった。

 首謀者は不明だが、おもにC班、E班が中心になっての計画らしい。



 陸地を見つけたと言い出したサンタももちろんそのメンバーの一人で、前向きに乗り越えようとしているアレキサンダーの指示にも従わない、主に臆病者たちの集まりだ。


 普段控えめなルークにも声をかけたんだろうが、とんだ見当違いだ。

 しかしおかげで、その穴だらけでスカスカの計画を知ることができた。



 群れないと何もできないような集団なら、計画を阻止することは容易い・・・そう思っていた。







 <漂流島 海底洞窟>





「ふっ!!」



 ーザシュッ!!



 俺はグールの太い首を斬り落とし、そのままぬかるんだ地面に着地した。

 今日はこれで三匹目。ようやく奴らの攻撃パターンを掴めてきたところだ。


 無論、一対一ならばの話だが。




「・・・ふう、これでなんとか落ち着いたかな。」



「お疲れ様。本当にすごいね、剣術は誰に習ったんだい?ハル君。あまり見慣れない型だけど。」


「・・ああ、これは「一閃」っていう技で、一撃の威力を強化する気技なんだ。対人ではとても使えないよ・・・じゃなくて、早く先に進もう。この先に親がいるかもって言ってたのはお前だろう。」



 そう言うと、ティオスは頷いて灯りの範囲を広げてくれた。

 光魔法レベル2。やはり俺も少し魔法を覚えようかな・・・なかなか便利だ。



「不気味な洞窟だねえ。一人じゃきっと心細かったよ。」

「おい、もうちょっと離れて歩いてよ。」



 当たり前だが、今日はカフ達は連れて来ていない。

 ただでさえ昼間もオーバー飛行気味なんだ。夜くらいは休ませてやらないと。



「なあティオ・・・陸地が見えたって話は、もう聞いてる、よな?」

「もちろん。」


「・・・どう思う?」


「見間違いだろうとは思うけどね。島の流速は一日たったの数メートル。まだ陸地なんか見えるわけがない。きっと幻覚キノコでも食べたんだろう。愉快な子だね。」



 ティオスは茶化すように言い放った。


 分かっている。陸が見つかってしまうのは、騎士団にとってもこいつにとっても都合のいい事ではない。ティオスもせっかく手に入れた副団長の地位を失いたくはないだろうからな。




「なら、もしその話が本当で、この島から誰かが逃げ出したりしたら、どうなる?」


 我ながらあざとい質問だとは思った。



「それは分からないけど・・・もしそんな人がいるのなら、僕が全力でとめるよ。」


「なんで?」


「ゲート無しじゃこの海域を抜けるのはたぶん不可能だからさ。それもグール達の襲撃をかいくぐりながらになる。きっと君とカフくんでも難しい話さ。」


「そ、そうだな・・・」



 みんなを逃がせれば・・・なんて最初の頃の俺の考えは、やはり甘かった。

 休む場所もなく海の上で力尽きたドラゴンとその騎手が、水中のグール達に喰い殺される悲劇・・・想像したくもない。


 やはり脱走計画は阻止しなければならない。

 それを、俺は今ここで決心した。





「ハルくん、これを見てごらん。」

「ん?」


 ティオスが急に立ち止り、しゃがみこんで湿った地面の上を探り始めた。


「これは・・・!」


「うん、明らかに他のよりも足跡が大きいよね。突然変種という可能性もあるが、僕はこれが親グールのものである可能性が高いと思う。」


「ああ・・・俺もそう思うよ。ちくしょー、でかいな。本当に倒せるのかよこんなの。」



 話によると、親グールは他の奴とは違う色の鱗を持っているそうだ。姿かたちも微妙に違っていて、見れば一目で分かるらしい。


 ちなみになぜそんな事をティオスが知っているのかと言うと、以前別の島でグールの巣を退治したという記録が、騎士団本部に残っていたらしい。




「ハルくんは、グール達がなぜドラゴンの姿に似ているか、知っているかい?」


「・・・・さあ、知るわけないだろう。」


 そう言うと、ティオスは「グールとは闇落ちしたドラゴンだから」と言った。

 よくは分からんが、このまま俺が竜使いとして真っ当に突き進んでいけば、必ずまた耳にする事があるだろう・・・それだけは分かった。




 *****





 翌の深夜、俺はさっそく脱走計画を阻止すべく夜中の海岸に張り込んでいた。

 実はルークにあのまま潜入してもらい、集合場所や時間はばっちりおさえてある。



 場所はサンタが陸を見たという東海岸。メンバーは6人弱。

 思ったよりも少ないな・・・どうやら直前で怖気づいた奴が何人かいるらしい。


 ここ2日、俺が水中グールの恐ろしさをたっぷり色を付けて演説した甲斐があった。

 


「ふう、寒っ・・・誰かに手伝ってもらえばよかったかな・・・カフ。」

「バカ野郎。普段はあんな化け物相手にしてるくせに、たかが同期の5人や6人ぐらい説得してみせろや!」 


 ・・・などとカフが話すはずはないので、今のは両方俺の台詞だ。


 しかし、やはりフィアナには手伝ってもらえば良かったかもしれない。

 俺は喋りが下手なうえ、準備してきたものといえばお得意のハッタリくらいだ・・・




 そして俺がそんな心配をしていると、崖のところでさっそく何人かの話し声。


 来た・・・こんな時間にノコノコと何を考えているのやら。

 必死でみんなの命を守ろうとしているティオスと俺を馬鹿にしているとしか思えん。


 そして俺はその馬鹿どもを隠れ家まで連行すべく、堂々と後ろから声を飛ばした。



「おいお前ら!!バカみたいな事してないでさっさと・・・・・え?」



 そこに居たのは、確かに脱走グループと思しき集団。

 暗くてよく見えないが、確かにC班とE班の・・・よかった、あまり俺が仲良くない奴ばかりだ。

 

 と安心しかけたのもつかの間、俺はその中に、信じられない人物の姿を見つけた。

 ・・・いや、それは俺の私情云々が絡んだ見解であって、彼女の性格的行動を考えれば、元よりここにいて当然の人間だったのかもしれない。



「・・・イリス。」


「リトス、くん?」



 だけど・・・俺が彼女にここにいてほしくないと思ったのは、そう・・・イリスは俺と一緒に居ることよりも、こんな無謀な計画についていく方を選んだ・・・その事実を認めたくなかったからだ。



「・・・・な、なにやってんだよ。」


 俺があからさまな顔でショックを受けていると、イリスはバツが悪そうに目を伏せた。



「か、帰ろうイリス。みんなも・・・ここは危険だ。」


 本当はもっと身の毛もよだつような話で脅してやるつもりだったが、あまりにショックがでかすぎた。

 みんなの指揮をとっていたアレキサンダーが実は首謀者・・・なんて展開は少し想像していたが、これはかなりきつい。



「イリス、帰ろう。」


 他の連中は俺など無視して、飛竜の背に乗りもう脱走を決めている。

 そして俺がイリスの腕を引っ張ると、その手は静かに振りほどかれた。



「ごめんなさい・・リトスくん。」


「・・・え、いやごめんて、何がだよ!いいから戻るぞ。」


「・・・・・・・。」


「どうせ、サンタや他の奴に無理やり誘われたんだろう。そんなんいいから、俺と一緒にいろよ。その方が、」


「違うの。」


「・・・は?」


 すると、イリスは俺の予想をさらに超えたとんでもない事を言い始める。


「この脱走計画を最初に言い出したのは、わたしなの。サンタ君が陸地を見たって言っていた、あの日から。」


「-!?」



 イリスが首謀者?・・・ああ、誰か嘘だと言ってくれ。


「そんな・・だって俺言ったよな、一緒に頑張ろうって。もう少しなんだ、もう少しでみんなを助けられるかもしれない!昨日だって・・・」


 その先を言おうとして、俺は口をつぐんだ。これは言わない約束だ。




「・・・ごめんね。でも、わたしたちはもうこの実習を諦めたの。最初から無理だった・・・それは分かっていた事だから。」



「学校を退学になってもいいのかよ。シェスカとも一緒にいられなくなるんだぞ。」


 そう言うと、イリスは少しだけ動揺した。しかし、残念ながらまるで聞いていなかったという風でもない。それも考えた上での行動だった。



「このままここにいたら、わたしもシェスカも死んじゃう・・・それが一番いけない事でしょう?」


「だから、ここにいれば俺が守るから!聞いてくれ、島を出るのは危険なんだ。それにシェスカの飛行時間で海なんか越えられるわけないだろう!!」



「リトスくんには分からないよ!」


 イリスが声をあげた。初めての事だ・・・

 しかも、涙で潤んだ瞳を俺に向け、まるで睨みつけるように見ていた。



「・・・強くて、ドラゴンにも乗りこなせて・・・いつでも勇敢でいられるあなたには分からない。わたしたちの恐怖は・・・」



「ち、違う。俺が言いたいのは・・・そういう事じゃない・・・何で分からないんだ。」


 全員で計画を練って実行したものならまだしも、よりによって臆病者ばかりが集まった集団。

 この脱走計画がどれだけ愚かで無謀なものか・・・冷静に考えればすぐに分かる事だった。




「イリスさん、行こう。」


 ここで、サンタが現れ俺とイリスの間に割って入ってきた。


「ごめんなさいハルくん。この間はせっかく助けてくれたのに、でも・・・もしも僕達が無事ここを逃げ出す事ができたなら、すぐに救助を、」


「うるせえよ・・・サンタ。大体お前がっ!!」





 その時・・・俺がサンタの情けない面に向かって拳を振り上げた、その瞬間。

 俺のちっぽけな拳よりはるかに大きな何かが、サンタの体を真横へ吹き飛ばした。



 まるで丸太が転がっていくような音だけが響き渡り、それがサンタの体が打ち付けられる音だと気づいたのは、数秒経ってからのことだ。



「さ、サンタ!!」



 そしてとっさにイリスの前に立った俺が見た物は・・・通常のグールの軽く4倍はある巨体。


 そして、まるで鮮やかな絵の具を塗りたくったような朱色の鱗。




 「・・・親グールだ。」





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