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〜異世界進学〜勇者家業を継ぎたくないので竜でも育てます。  作者: 麒麟
第3章〜育成科2年 (孤島実習編)
23/28

3-6 四十日





 この島にやってきて、みんなと再会して・・・


 もうどのくらいの時間が経っただろう。



 ティオスに真実を聞いてから、俺たちは深夜、ずっと二人でグールの親探しをしている。

 昼間はそれぞれの仕事があるから、捜索は夜に限る。


 ちなみにA班の今の仕事は「水の確保」と「洗濯」だ。みんなのローブを洗う。




 「漁」「島外の見張り」「怪我人の手当て」「狩り」「薪集め」


 色んな仕事がある中で、水場での俺たちの仕事が一番危険とされている。グールに遭遇する可能性が昼間でもかなり高いからだ。



 そんな川と隠れ家との間を、俺達は一日に何往復もする。

 仮にも剣一本でグールを倒したという実績がある俺と、いつの間にか同期の間で信用を得ていたティオスが、交代で川辺の見張りをしていた。



 そして驚いた事に、みんなの指揮をとり、役割分担などをしてくれていたのは、なんとあのアレキサンダーだった。奴は変わった。


 なんと言うか・・・まあ、俺からすれば前よりはマシになったかな。といった感じだが、それでも貴族の連中からすれば、いいリーダー?なのかもしれないな・・・ほんのちょっとだけな。





 そして何だかんだと揉めたりした事もあったが、俺たちはちゃんと生きていた。

 

 「親グール」を見つけるという目的があった俺と違って、他の奴らは生きるために生きている。

 この理不尽な仕打ちを本当に「実習」なんだと信じ込み、本気で90日間生き延びるつもりでいた。



 そう・・・そう思い始めた奴らがいたからこそ、団結していたはずの俺たちは、少しずつ崩れていったのかもしれない。

 実習などもうどうでもいい命を惜しむ連中と、意地でもこの課題をクリアしようとする連中・・・



 事の発端は、海上で起きた些細な事件だった。そしてそれは、確実にきっかけとなる何かを運んできた。



 





 <孤島実習40日目>




「確かに見たんだって!」


「嘘つけ、何にも見えねーぜ。」


「本当だって、一瞬だったけど陸が見えた。今は霧が濃くて見えないけど、確かに見たんだ僕は!」


「はいはい、じゃあ帰ったらみんなに話してみな。」



 魚獲りの仕事を担当していたG班。

 その帰りがあまりにも遅かったため、俺はひとり海岸まで迎えに行った。


 すると、崖の上で何やら言い争いをしている3人。ユージンとフィアナと・・・あとひとりは・・・



「でも、サンタ君の言うとおり陸地が見えたって言うのなら、これはちゃんと報告すべき事よ。」


「いや、こいつの言うことはあてにならん。フィアナも知ってるだろ、こいつはただここを逃げ出したくてデタラメ言ってるのさ。」


「ち、違う・・・・僕は本当に・・」



 サンタ・クロード。またの名を「落第第一候補くん」と言う。

 フィアナとユージンと同じG班で、その陽気な名前とは裏腹にかなりの臆病者だ。成績も常に最下位あたりを水平飛行中・・・




 俺は崖に降り、未だ言い争いを続ける3人の元へ向かった。

 クラスの首席と落ちこぼれ、そしてここへ来てさらに気の短くなったユージン。誰だこんなメンバーに魚捕りを任せたのは・・・



「おい、何やってるんだ。もう日が暮れるぞ。」


「あ・・・ハル、聞いてくれよ、サンタの奴がよ、魚捕ってたら急にあっちの方角に陸が見えたとか言い出してよ。」


 ユージンがサンタの額をパシっと叩いた。



「・・・サンタ、本当なの?」


「うん・・・本当だよ。こんな所早く逃げようよ、助けを呼びに行こう。」



 それが本当ならば、一度ティオスに相談してみる必要があるな。ここは国境付近だから陸地なんてあるはずがない・・・


 思ったより島が東に流されているのかもしれないが、もしも敵国側の大陸だったら、俺たちは竜騎士と間違えられて確実に捕えられてしまう。




「あ、こらサンタ!!お前どこ行くんだよ!」


「確かめてくるんだ!そうすればみんな助かるでしょ!!」


 ユージンが止めるのを聞かず、サンタは竜に乗って海に飛び出した。

 らしくないな・・・いつものサンタならば、人の言うことに反発したりはしない。ましてや単独行動などもっての他だ。



「まずいな、早く連れ戻さないと。」

「あーあ、いいってもう放っとけよ、帰ろうぜ。」


 フィアナがユージンを小突きギロリと睨んだ。

 どうやらいつもこの調子らしい。よく仕事をこなせているものだ。




「あら、・・・ねえあれ何かしら?」


「ー?」


 フィアナが俺の腕を引っ張り、サンタの飛んで行った方角を指差した。

 水面ギリギリのところを不安定に飛行するサンタの火竜・・・の下に、何やら黒い影のようなものが見えた。


 最初はサンタ達の影かと思ったが、少し大きすぎるように見える。しかも、その影はだんだんと数を増やし、まるでサンタ達を追いかけるように水面を泳いでいた。



「・・・・まずい、最悪だ。」



 水面からしぶきを上げ次々と顔を出すグールの群れ。水中型・・・いや、翼のあるグールが海中を泳いで移動していた。



「サンタ!上昇しろ!!」


「うわ、うわぁぁぁあ!!」



 まさに間一髪だった。俺とカフが飛び出すのがあと少し遅れていたら・・・そしてフィアナの援護射撃が間に合わなかったら・・・サンタは落第ではなく犠牲者第一号となっていただろう。危なかった。


 それから無人となった海の上で、グール達の共食いが始まった。それはもう見るに堪えないおぞましい光景だ。もちろん見なかったさ。

 すぐに隠れ家まで戻り、サンタの治療にあたった。

 重症とまではいかないが、心をへし折るには十分な怪我だった・・・




 そして俺たちが海上でグールに襲撃されたという事実は、たちまち皆の耳に届き、海で魚を獲る仕事が無くなった。


 それもそのはず。今まで安全圏だと思われていた仕事が突然闇入りだ。こうなると、よもや地中にまでグールが潜んでいるのではないかと疑ってしまう。




 そしてもうひとつ・・・・


 「漂流島東海岸側に大陸が見えた。」


 本当なのかデタラメなのかも怪しいサンタの証言も、皆にとってはかなりのビッグニュースだ。


 それまで島を出るなんて考えが俺達の中で生まれなかったのは、みんな自分の飛行に自信がなかったから・・・そして教官の「島を出るな」という言葉。


 だが、同期の中でも一番の落ちこぼれであったサンタが、先頭切って島を出た。

 当の本人は今日の精神的ダメージで戦闘不能だが、燻っていた「リタイア派」に火を付けるには十分すぎる行動だった・・・





「いてて・・もっと優しくやってよイリス。」

「あ、ごめん、ごめんね。」


 その夜、夕方の襲撃で怪我をしてしまった俺は、礼拝堂でイリスに傷の手当てをしてもらっていた。

 手当と言っても、治癒魔法の順番が回ってくるまでの応急措置だ。



「聞いたよ・・・大変だったんだよね。無事で良かった、本当に。」

「うん、サンタがね・・・・馬鹿な奴さ、島を出ようなんて。」



 と言いつつも、俺自身も実は少しだけ揺られていた。

 このままティオスを信じ島に残るべきか・・・それとも他の奴らだけでも思い切って逃がすべきなのか。

 だが、逃げ出した所で安全な保証なんてどこにもない。本当にただの見間違いだったという事もある。



「みんなきっと怖いんだよ・・・私には分かる、サンタ君の気持ち。こんなはずじゃなかったって・・・」


「・・・まあ、そうだけどさ。」


「はい、終わり。あとはクラウスさんに任せても大丈夫だよね。」

「ああ、フィアナの治癒魔法ならすぐに治してもらえるよ。ありがとう。」


 イリスは頷き、ずいぶんと痩せてしまった頬を持ち上げ静かに微笑んだ。

 そして俺が礼拝堂を去ろうとすると、イリスは両手を合わせ祈るように目を閉じていた。



「・・・・どうしたんだ?」

「うん。今日も誰も死ななくてよかったと思って。」


「なんだよ急に・・・・」



 いや、俺は知っている。イリスはこういう奴だ。二人で洞穴生活を送っていたときも、お祈りだけは絶対にかかさなかった。


 最初は実家の宗教的な習慣だと思っていたが、違う。彼女の心からの祈りだった。そしてそれが、決して自分の為だけの祈りでないことも。

 



「・・・そういえば、リトスくんはどうしてこの学校に?」


 そして唐突に始まる他愛も無い会話。



「・・・・ああ、俺は、家業を継がないためさ。」

「家業って?」


「つまんない仕事だよ。とびきり危険なね。」


(・・・まあ今の状況ほど危険な仕事では無かったと思うけど。)



 イリスはその家業が何なのかは聞かなかった。雰囲気で俺が隠したがっているのを察してくれたらしい。



「そっか・・でも、リトスくんならきっと色々と期待されることがあったんだろうね。」


「んー・・・そうだな。でもそれって、意外に自分の思い込みだったりするのかもしれないな。」


「・・・思い込み?」



 ・・・そう。現に俺は、あれだけ母さんの期待を背負っておきながら、今はこんなにも無力だ。

 世界を救うどころか、こんなちっぽけな島に閉じ込められた仲間すら救う事ができない・・・・とんだ思い上がりだ。




「・・・そ、それにしても久しぶりだな。こうやってゆっくり話すの。洞穴に居た時はよくこんな話してたよな。」


 あれからそんなに時間は経っていないはずなのに、もう随分前の事のように感じる。




「・・うん・・でも、私はあの時の方が怖くなかった。今よりずっと安心できた気がする。」


 そう言って、イリスは膝を抱え視線を落とした。まるで迫り来る恐怖にひれ伏し、すべてを受け入れたような目をして。



 こんな時、きっと本物の勇者なら、黒を白に変えられる革命的な名言を出せたに違いない。


 だが・・・残念ながら俺は勇者ではない。



「・・・そんな事言うなよ。ここにはみんながいる。俺なんかよりずっと頼りになる奴らがさ・・・だから、頑張ろう。」



 少しだけ冷たさを帯びた俺の言葉は、きっとイリスの心を晴らしてやる事はできなかった。




 親グールを見つけて倒すことさえできれば、みんなは助かる・・・

 そんな俺の独りよがりな頑張りは、きっと大事な何かを見落としていた。




 この時すでに動き始めていた、「脱走計画」を。




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