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〜異世界進学〜勇者家業を継ぎたくないので竜でも育てます。  作者: 麒麟
第3章〜育成科2年 (孤島実習編)
20/28

3-3 それは水っぽく決して美味くはない




 昔の夢を見た・・・

 あれはまだ、俺が7つになったばかりの頃だ。



 剣術の稽古がつらく不貞腐れていた俺は、ある日母さんとの約束を破り、稽古をサボった。


 そして母さんに怒られ、何もかも嫌になっていた俺のところに現れた・・・・・あの人。

 アルヴィスを肩に乗せ、いつも俺に笑いかけてくれていた、あの人。


 俺はその人に向かって言った。



「・・僕も必ず勇者になるから、見てて。」





 ・・・・・そうだ。


 あの時の俺は、勇者に憧れていた。





 あの頃はまだ・・・・






 ****








 冷たいさざ波に頬をうたれ、俺は目を覚ました。



「・・・・・・・・朝日。」



 どうやら夜が明けてしまったようだ。


 体が怠い。

 首の付け根あたりがズキズキと腫れているように痛んだ。


 そしてここは、昨日の出来事が嘘のように穏やかな砂浜。この島にもこんな場所があったとは・・・

 必死に泳いだ記憶はあるが、途中からのことは全く覚えていない。死に物狂いだった。



 俺が起き上がり周りを見渡すと、少し離れた所に横たわる、白い何か。


 ・・・アザラシ?・・・いや、カフだ!


 俺は痛みを忘れ飛び上がり、その横たわった体に駆け寄った。



「カフ!しっかりしろ!!」


 体を揺すると、緑色の瞳が少しだけ開き、俺を見た。

 よかった・・・離れなかったのは偶然か、それともカフが俺を連れて泳いでくれたのか。



「・・・お前、怪我してるのか?」 


 カフは翼と足に軽い傷を負っていた。おそらく荒波に飲まれ、沿岸の岩にでも体をぶつけたのだろう。

 

 俺はカフを連れすぐにその場を離れた。飛ぶのは無理そうだが、俺が支えてやればなんとか歩くことはできた。

 この島に安全な場所があるのかは分からないが、じっとしているのが一番怖かった。




 そして森に入ってすぐ、俺は低い崖の下に小さな洞穴を見つけた。まるで何かの「巣」のようで恐ろしくもあったが、ひとまずカフを休ませる場所が欲しかった。


「・・・・・・どうだ、カフ。」


「・・・・・・・。」


 カフの耳は鋭いレーダーだ。もしも危険なものが潜んでいれば、すぐに分かる。そしてどうやらこの中は安全のようだ。

 洞穴の中は真っ暗。もしもここで昨日の化け物に遭遇しようものなら、俺たちは確実に詰む。




「・・・・・・・ん?」


 そう思った矢先だった。俺達の前に何かの気配、噓だろ・・・勘弁してくれ。

 しかし不思議な事に、アルヴィスがあまり警戒していない様子。いつもなら首をすくめびくびくしているのに。


 そしてその理由は、俺の目の前に突然灯されたランプの光によって明かされた。




「・・・リトスくん?」



「イリス!!・・・と、モフモフドラゴン。」



 それは奇跡の再会だった。



「ほ、他に誰かいるのか?」

「ううん・・・私達だけだよ。」


 話によると、イリスは俺に言われ逃げ出した後、結局夜までひとり森を彷徨い続けたらしい。

 同期の誰とも合流できなかったのは不運だが、あの化け物に襲われなかったことは幸運だったと言うべきか。


 まあそれを言うなら、一晩海岸に放り出されていた俺達が助かったのも、これまたとんでもない奇跡だったと言えるがな。




 俺はイリスに洞穴の奥へと案内してもらい、カフを休ませた。


 ありがたいことに、傷薬や包帯などを持参していたイリスは傷の手当てもしてくれた。本当に助かった・・・俺は剣以外はすべて流されてしまったからな。



 そしてイリスが手当てをしてくれている間、俺は何か使える物を探しに洞穴の中を探索した。

 どこかに水源があればと思ったが、なんせこの暗さだ。イリスのドラゴンが先導してくれなければ、まともに歩くことすらもできない。


 結局その日は、火をおこせそうな薪とわずかな食糧しか見つからなかった。

 やはりずっとこの穴の中に隠れているのは無理そうだ。明日には水を探しに行かなければ・・・



 そして、再び夜がやってくる。





「リトスくん、薪積んだよ。」

「ああ・・・じゃ一本貸して。」


 俺はイリスから太い一本の枝を受け取り、その先端部分をぎゅっと握った。

 すると少しずつ掌に熱を感じ、指の隙間から煙が漏れ始める。


「・・・・・あちち。」


 そしてゆっくり手を離すと、枝の先に微かながらも赤い火が灯った。

 俺が使える唯一の「魔法」、いや・・・魔法と呼ぶにはあまりにもお粗末で、些細なものだ。



 異世界入門第6章「五大元素」の基本魔法は習得必須。

 ちなみに俺が使えるのは、レベル1から5まである「火炎魔法」のレベル1、その基本の基本だけ。いい感じに落ちこぼれである。


 しかし、今はそれだけでも使えて本当に良かったと思う。無人島の夜がこんなに冷えるなんて、俺は今日まで知らなかった。



「カフちゃんよく眠ってる・・・きっとすぐ良くなると思う。」


「ああ、本当にありがとう。助かったよ。」


 俺が薪の中に枝を突っ込むと、火が灯り洞穴の中にぼんやりと薄暗い空間が生まれる。そしてその暖光によって、反対側にいたイリスの短く癖のある髪がオレンジ色に浮かび上がった。



「みんな・・・今頃どうしてるかな。」


 イリスが不安げにぽつりと洩らした。



「分からない。でも、どこかに隠れてくれてるといいな。」


 そもそもあの時、ちゃんと全員あの場から逃げ出すことが出来たのか。フィアナは無事だろうか・・・・今はそれを確かめる術は無いが、頼む、無事でいてくれ。




「リトス君・・あの、ごめんね。私のせいでこんな事になっちゃって。」


 火の向こう側で、小柄なイリスがさらに小さくなって俺を見ていた。まるで子狐のようだ。



「なんだ、さっきから謝ってばかりだね。謝るのは俺の方だって何度も言ってるだろ。」


「でも、私のせいで逃げ遅れちゃって・・・クラウスさんとも・・」



 ああ・・・再会してからこの問答ももう何度目だ。優しいのか底抜けて気が小さいのか。

 こっちへ来てなぜか気の強い女の子(主にフィアナとかアリサとかフィアナとか)とばかり絡んでいた俺は、ここへきてこの子の扱いに少し困っていた。



「フィアナは俺なんかよりずっとしっかりしてるし、それにあいつにはシルヴァーノがいるから大丈夫。それよりも・・・俺の方こそ悪かったよ。」


「・・・・・・?」


「もしあのまま気づかず、君をあそこに置き去りにしていたらと思うと・・・俺はちょっと恐ろしくて考えられない。」



 教官が言っていた肉食獣グールとは、おそらくあの化け物たちの事だろう。

 俺達を喰う為にあそこに現れたんだとしたら・・・


 考えたくないが、どうしてもよくない想像をしてしまう。



「ねえリトスくん。」


「・・・え、あ・・・なに?」


 俺の頬を冷たい汗が伝った。


「あの・・これからどうする、とか・・・」

「ああ、それならちゃんと考えてるよ。」


 そう言うと、イリスの眼が少しだけ息を吹き返した。



「とりあえず、カフの怪我が治るまではここに隠れてようと思う。みんなを探すのはそれからだ。」


 本当はすぐにでも探しに行きたかったが、翼が無いことにはただの自殺行為だ。


「イリスのモフ竜は大丈夫?」

「あ、うん・・・シェスカは大丈夫。少し怖がっちゃってるけど。」


 イリスがその赤茶色の毛玉を優しく撫でた。ドラゴンと言うより、俺には翼の生えた大きな鼠のように見える。



「なあ、イリスはこの島のことについて、何か知ってるか?」


「・・・ううん。ごめんね、私も漂流島って名前くらいしか聞いた事ないの。」


 こっちの世界でもかなり穴場スポットのようだ。そりゃそうか、あんな化け物がいるんだからな・・・



「リトスくんは、何か知ってる?」

「いや、俺も分からないけど・・・心当たりならある。」


「・・・心当たり?」



 ティオスだ。あいつは絶対何か知っている。


 奴の現れた時期、発言、そして島にやって来た時のあの余裕・・・今さらだが、不可解な点はたくさんあった。奴は怪しい。

 そしてそれが黒幕側じゃなく、56期生の希望の光となることを俺はただただ祈った。



「・・・まあでも、少なくとも俺たちはこうして合流できた、今はそれを喜ぼう。きっとみんなも無事だから大丈夫。」


 この流れからのポジティブ発言は多少無理があったが、本当にやばい状況下でのマイナス思考は危険だ。

 そして俺は、ここで昼間手に入れたとっておきの物をイリスに見せる。



「じゃーん。昨日から何も食べてないし、お腹空いてるだろ?」


「-!!」


 満面の笑みで「それ」を取り出した俺。イリスはそんな俺と「それ」を交互に見て、信じられないと言うように両眼を大きく見開いていた。


 うん。まずまずの反応だ。本当は悲鳴くらいあげてほしかったが、今はよそう。



「結構おいしいと思うんだよね。テレビとかで見て、一度食べてみたかったんだよ。」


「・・・・て、てれび?それ、食べるの?」

「うん。食べる。」


 俺は腰の剣を抜き、それの頭を切り落とした。

 まさかこの剣で最初に斬る物が、こんなゲテモノだったとはな・・・


「そ、それ蛇だよね・・・食べられるの?」


 無論。食べられるに決まっている。毒があるのは頭の部分だけ、それさえ切り落とせば、あとは肉の詰まったソーセージのようなものだ。



 俺が昼間捕まえた蛇は3匹。小さく悲鳴をあげるイリスを横目に、俺はその蛇達を輪切りにしてゆく。そしてそれをひとつずつ枝に突き刺し、火で軽くあぶった。


「よーし、いい感じだ。」

「・・・・・・・うん。」


 どうしても食べなきゃダメ?と嫌がるイリスを説得し、俺たちは「蛇のあぶり焼き」を食す。

 女の子に蛇を強要するなんて、母さんに知られたら死ぬほど怒られるだろうな。だが今は緊急事態。許せイリス・・・



「・・・・な、なんか水っぽいね。淡白っていうか・・・」


「ん・・・ううん。美味しいよ。」


 と言いつつも、イリスは目にうっすらと涙を浮かべていた。

 初めて食した蛇の味は、肉でも魚でもない未知の感触だった。まるで弾力のないゴム。

 これが実習40日目ぐらいだったならば、きっと美味しくいただけただろう。




 俺達は二人でなんとか一本を食し、あとはすべてシェスカとカフにあげた。



「リトスくん、そんな所で寝るの?・・・寒くない?」


「ん、大丈夫だよここで。安心してゆっくり休みなよ。」


 何かあった時すぐ動けるように、俺は洞穴の入口付近に座って眠った。

 だが、しばらくしてイリスのすすり泣くような声が聞こえたので、俺はしぶしぶ彼女の隣に腰を下ろす。

 考えてみれば、イリスは昨日もここで一人夜を明かしたのだ。どんなに不安だったか・・・




「・・シェスカの体は温かいな。よく眠れそうだよ。」



「うん・・・・リトスくんの手も、あったかいよ。」






 孤島実習2日目の夜。


 穴の外で何かがうごめく不気味な音を聞きながら、俺達はそっと息を詰めるように眠った。




**********



【妖竜】


 飛行能力:Cランク

 戦闘能力:Aランク

 知的能力:Aランク


 破壊砲:3発

 希少度:★★★★





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