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〜異世界進学〜勇者家業を継ぎたくないので竜でも育てます。  作者: 麒麟
第2章〜育成科1年(飛行訓練編)
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2-6 最後の飛行訓練





「・・・理事長、それは本当のお話なのでしょうか。」


「ああ、もう決まった事だ。」


「何故です?・・2年からの校内実習には私たちの時と同様、飛行訓練専門の教官が就くはずでは!?」


「仕方ないだろう。騎士団本部直々の要請だ。私も色々考えたが承諾するしかあるまい。」



「・・・・考え直してください。私には56期生を軍事利用しようとしている影しか見えません。」


「はは、何を言うアリサ・ブラン。それはいくらなんでも考えすぎだ。君には本当に感謝しているんだぞ、ギルバート君も。自分の卒業試験もあるというのにすまなかったね。」


「あ、いえ・・・それは本当に構わないのですが・・・やはり教官の件は・・・」



「心配するな。我々と騎士団とのパイプは太い。君が残りの任期でしっかりと彼らを鍛えてあげてくれ。」




「・・・・・・・・・はい。分かりました。」




 俺がこの二人の会話を聞いたのは、たまたま来客室の前を通りかかったときだ。

 竜舎掃除の箒が壊れたので、用務員の所に持って行く途中だった。そしたら・・・



 なんだかよく分からないが、とりあえずアリサの言っていた言葉が気になる。56期生とは俺たちの事だ。軍事利用?特攻でもやらされるのか俺たちは・・・まあそんな訳ないか。



 俺はその事について、あえてアリサには尋ねなかった。もちろんギルバートにも。誰にも言わず、自分の胸の中にしまいこんでいた。そんな大ごとだとは思っていなかったからだ。


 ・・・だが、この日から訓練もいよいよ大詰めに差し掛かるまでの1ヶ月間・・・アリサの指導の雰囲気はまるで変わった。

 なんというか、より実戦的な訓練が増えたと言うか、危険度が増した気がする。


 何人かは竜から落下し怪我をしたし、接触時に爪に引っかかり大怪我を負った奴もいた・・・





 そして今日、いよいよアリサから「第二回進級試験」のお告げが下された。


 試験内容は、今まで何度も何度も行われてきた「旗取りゲーム」の、より過激版・・・しかも相手はあのアリサとギルバートだ。



「第一回進級試験は完全な個人戦でしたが、この試験は協力プレーという事でいきたいと思います。」


 また(裏)進級試験とか言うんじゃないだろうなぁ・・・

 俺は密かにそっちの心配をしていた。



「あなた達の中で3人組を作り、私達と空戦を行ってもらいます。わたしかギルのどちらかを湖に落とす事が出来れば試験はクリアです。」


「3人組?誰と組んでもいいんですか?」


「はい。そして誰か一組でもクリアする事ができれば・・・全員試験は合格にします。」


「ー!?」



 それはいくらなんでもサービスしすぎではないか。それだと何もしないで試験をパスする連中がでてくるじゃないか。


 しかも、制限時間は今日から3日。3日以内にどちらかの足にぶら下がってる紐を掴めば俺たちの勝ちだ。



「・・・・・・・燃えてきたぜアルヴィス。」


 俺はユージンとルークの腕を強引に引っ張り前に出た。



「俺たちがやります。」


「・・・ふふ、早いのね。じゃあすぐに始めるよ。他の子達もグループを作って順番待ちをしといてね。」


 順番待ちなんていらないさ。俺がここで決めてやる・・・自慢だが、俺が第25回旗取りゲームまでで獲得した旗は200本越え。ぶっちぎりの一位だ。



「ハルさん、作戦は?」

「ない。いつもの遊覧飛行のときみたいにやろう。絶対いけるさ、こっちは一人多いんだ。」



 こうして俺たちの一年最後の飛行訓練が始まった。そして同時に・・・これはアリサとギルバートという教官から学べる、最後の授業だった。









********










 <2日後>






「フィアナは右から、ユージンは左から頼む!」


「よし、行けるぞ!完全に後ろを取った、ギルバートは俺が抑えるから行け!!」


「わかった、あと少し・・・カフ、もっと速くだ!!」


 加速。さらに加速・・・アリサの足紐まであと数センチというところで、俺の手は空を掴む。寸前で避けられた。


 

「ハル!!したよ!」


「!?やば・・カフ、逃げろ!」



 俺はびしょびしょになったローブを着たまま、本日13回目の落下をきめた。もう手も顔もふやけてきた・・・



「はい終了。残念だったわね、他の子はもうギブアップなの?」



「・・・・・・。」


 3日間続く精神的疲労と絶望で、もはや誰も返事すらしなかった。

 初日と2日目はもう少し活気があった。みんな「惜しい」だの「あと少し」だのと声援を送ったりもしていたが・・・・もはや半分以上の生徒がチャレンジすらしなくなっていた。



 俺は服を絞り、39回目の進級試験に臨む。もう誰の為とかそんな場合じゃない・・・このままだと本当に落第してしまう。

 「家業」の二文字が頭の中でチラついたのは久しぶりだ。



「カフ・・・まだ飛べるか?ごめんな、さっきはばっちりだったよ、あれは俺のせいだ。」


「・・・クゥゥ。」


 カフは翼をたたんでぐったりと項垂れていた。当然だ・・・この3日間過激な飛行がひたすら続いているんだからな。


「ハル・・・もうダメだ。俺のはもう飛べない。」

「は!?ふざけるなよ!もう諦めるのかよ!」


 俺はユージンの肩を軽く殴った。二人ともびしょびしょのふにゃふにゃだ。




「もう終わりなの?そんなんじゃ合格はさせられない。情けないわね、交代でやってるくせにヘロヘロになって。」


 アリサが炎竜の頬を撫でながら挑発してきた。


 おかしい・・・この3日間でもう何百戦もしているはずなのに、アリサの竜もギルバートの竜も疲労の色ひとつ見せていなかった。

 これが2年の差なのか・・・同じドラゴンなのに。



「おい、アリサ、もう終わりだ。こいつらはもう飛べない。試験は全員不合格だと俺が上に伝えておく。」


 ・・・・・冗談だろ。シャイボーイのくせに面白くない冗談言うな。俺は知ってるんだからな、アリサが俺にキスした時、お前が後ろでおかしな顔をしていたのを。





「もうすぐ試験時間は終了ですが・・・最後に君たちに教えておきたいことがあります。」



「・・・・・・?」



「君たちがこの学校を卒業するまでに、大切にしなければならないものが二つ・・・・それはもちろんドラゴンと、もうひとつは同期です。」


 アリサはギルバートを一瞥し、もう一度俺達の方に向きなおした。



「・・・私は退学になった同期の事を、今でもずっと悔んでいます・・・私達が仲間同士ちゃんと協力していれば、もっと多くの生徒が残ることができた。そう思っています。だから、それだけは覚えておいてください。」



 そして最後に、アリサは俺を見て意味深なウインクを送ってきた。




「というわけで、ギルもああ言ってるし、次で最後にしましょうか・・・・リトスくん、やるの?」


「・・・・・ああ、やる。」


「じゃあ誰とやる?」






 くそ・・・どいつもこいつも性格悪いな。

 俺だってちゃんと分かってるよ。



「フィアナ・・・あと一回だけ、頼む。」

「ええ、もちろん。言われなくてもやるわ、やらせて。」


 そう、フィアナと俺が組めばそこそこ惜しいところまではいける。だが、あと一歩・・・あと数センチが届かない。


「・・・・・・あーもう、くそ!!」


 俺は近くにあった石を蹴飛ばし、まるで子供のようにむくれてもう一人を指名した。

 こいつにだけは頼りたくなかったが、他にもう方法が無かった。



「・・・・・・アレキサンダー、来いよ。」


 フィアナがはっとして俺の方を見る。何を言いたいのかは分かる。俺だってもちろん半年前の事はまだ許していない。

 だが、旗取りゲームの成績で言えばこいつは俺とフィアナに次ぐ。もう奴に頼る他はない。


「みんなのためだ、頼む。」


「・・・・・・・。」


 キレられると思ったが、アレキサンダーは少し驚いている様子だった。まさか自分が呼ばれるとは思っていなかったんだろう。


「・・・・・・ああ。分かった。今回だけだ。」


 はいツンデレいただきました。と、呑気な事を言っている場合じゃない。最後のチャンスだ。




「ふん・・・叩き落としてやるよ。」

 ギルバートも竜に乗った。


「これで俺たちが勝ったら、みんなの前で告白でもしてもらいますからね、覚悟しといてくださいよ。」


「いい度胸だ、それは勝ってから言ってみろ。」




 俺もカフに乗った。


「フィアナ、アレキサンダー。頼むぞ。」


「うん。」

「ああ。」





 この日・・そして第56期生最後の飛行訓練は、壮絶な空戦をもって終わりを迎えた。

 体力も気力もすでに限界だったはずの俺たちに、もしも勝利の女神がほほ笑むなんてことがあったならば・・・・それはきっと誰かの打算や情けがあってこそ成り立つ事実だ。



 アリサはきっといい教師になれる・・・間違いない。

 できればもう少し教官でいてほしかった。 彼女にはまだまだ教わりたい事がたくさんある。早食いとか・・・さりげなくキスをする方法とかな。






 そして俺たちは、無愛想男がこっぴどくフラれる様を気持ちよく見届け、最後の飛行訓練を終えた。




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