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〜異世界進学〜勇者家業を継ぎたくないので竜でも育てます。  作者: 麒麟
第2章〜育成科1年(飛行訓練編)
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2-4 闇夜の幻獣①




ーイスタリア北郊外<ガルナ渓谷>ー




「・・・・・で?私たちの話を勝手に盗み聞きして、後をつけてきたってわけ?」


「まあ、そうとも言うけど、ついて来いって言ってるように聞こえた。」



 そう言うと、アリサは両手で頭を抱え深く溜息をついた。気のせいか、フィアナの溜息も同時に聞こえたような・・・


「ああもう・・・どうするギル!一度戻る?!」

「戻る時間なんてある訳ないだろう。お前がちゃんとしつけておかなかったせいだからな、俺は知らんぞ。」


 冷たく吐き捨てたギルバートは、腰の剣を抜き手入れをし始める。

 ここは暗い谷底・・・どんな理由があってここに来たのかは知らないが、物騒な雰囲気だけは何となく感じ取れた。



「はあ・・・全く。訓練成績トップの二人がこんな問題児だったとはね。まあそっちの坊やは知ってたけど、フィアナ・クラウス・・・あなたまで。」


「フィアナは俺を心配してついて来てくれたんだ。彼女はやめようと何度も言った。それを俺が無理矢理連れてきたんだ。」


 アリサの拳が俺の脳天に振り下ろされた。



「あの・・・処罰は覚悟しています。わたしも騎士団の任務というものに少なからず興味がありましたから。」


「あらら、それも聞いてたのね。んー・・・どうしようかな。このままそっと帰ってもらうのが一番いいんだけど・・・」


 

 本来ならそのつもりだったさ。飛竜に乗って郊外へ出るのは重大な規則違反。少し様子を見てすぐ学校に戻るつもりだった・・・

 だがうっかりアルヴィスがくしゃみをしたせいで、二人に見つかって捕獲されたというわけだ。



「とりあえず、その任務とやらについて教えてくださいよ。ここまで来たんだし、もし俺達で力になれることがあったら手伝います。」


「こら、何とんでもない事言ってるの。あんた達に何かあったらあたしは退学よ。」



 その時、ひそひそと話す俺達の頭上で何かが動いた。とても聞きなれた、風を切るような物音。


「おいアリサ!早くしろ。」

「しっ、隠れて・・・」


 アリサに頭を押さえつけられ、俺とフィアナはすかさず岩陰に隠れた。暗黒の中じっと眼を凝らすと、崖の上の方に大きな翼とその巨体が姿を見せる。


「・・・ドラゴン?」

「ええ、そうよ。この谷は黒双角竜の巣なの・・・・二人とも、この葉で首と腕を擦りなさい。」

「葉?」


 巨大なもみじのような形をした黄土色の葉。手に取ると少しじめっ気があり、鼻の奥をツンと刺すようなきつい匂いを放っていた。さっきからアリサの周りで匂っていたのはこれか。


「それはクラウンベリーの葉よ。この辺りには大量に生えてるから、それであたし達の匂いを誤魔化せる。」

「・・・なるほど。」


「いい、二人ともよく聞いて。」


 とうとう覚悟を決めたのか、アリサは俺達の肩に手を置き任務の内容を話し始めた。



 騎士団本部から二人に命じられていたのは、黒双角竜の卵の確保・・・ではなく、無許可無断でそれを行っている犯罪者達の捕獲だった。


 野生のドラゴンの卵は学校、竜騎士団によって完全に管理されており、それらを勝手に竜から奪い取り、高値で売り買いすることは固く禁じられている。


 ところがここ数日、普段は温厚でおとなしいはずの双角竜が、近くの村を何度も襲撃しているとの知らせが騎士団に届いた。そこで調べてみたところ、この事件が浮上してきたというわけだ・・・・


「でもどうしてあんた達が?こんな任務なら騎士団にいくらでもやれる人はいるでしょうに。」


「・・・・今は少し人員不足が続いているから仕方ないのよ。それに、あたし達がわざわざ呼ばれたのにはちゃんとした理由があるの。」


 俺は間髪入れずその理由とやらを尋ねた。


「・・・どうやら犯行グループは、あたし達と同じ学校の生徒である可能性が高い。」


「!?」

 

 ・・・確かに、ドラゴンから卵を奪おうなんて考える連中だ。相当ドラゴンの事についての知識がないと犯行には及べないだろう。それにしても命知らずな奴らがいたもんだな。


「・・あの、それってもしかして討伐科の仕業でしょうか。わたしは友人がそこにいるのですが、彼らはドラゴン退治のエキスパートです。」


「いや、それはない。」


 双角竜の動きを気にしながら、ギルバートがその重たい口を開いた。


「討伐科の上級生は今遠征中だ。お前らと同じ一年は学校にいるが、奴らの校舎はここからかなり離れた所にある。それに、入学してたった半年のひよっ子にこんな真似が出来るとは思えん。」


 なるほど・・・かなり分かりやすい説明だ。というか、お前がそんなに話せた事に俺は正直驚いているぞ。



 しかし、だとしたら一体誰の仕業なんだ・・・

 一瞬アレキサンダーの顔が浮かんだが、奴の雷竜はここへ来る途中確かに竜舎に居た。よかった・・・奴は白だ。




「・・・・ねえ、なんか匂わない?」

「・・・・匂い?」


 周りの異変にいち早く気づいたアリサが、岩陰から頭を出し辺りの様子を窺った。

 煙だ。それもかなり濃い。


「誰かが谷の風上で葉を燃やしているんだわ・・・・ギル!」

「ああ。」


 ギルバートは剣を鞘に収め、風上に向かって走り出した。そしてそれと同時に、頭上で二匹の竜が動き出す。



「え・・・なんで?」


「どうやら彼らも気が付いたようね。ドラゴンには熱を感知する器官が備わってるから・・・クラウスさん、あなたもギルについて行って、二手に分かれましょう。」


「は、はい。」



 フィアナはギルバートの後を追った。


「え、待って!だったら俺が行きますよ。危険だ。」

「いいの、行かせてあげて。ギルはあたしより強いわ、より安全な方に女の子を任せたの。」


 ・・・その言い方だと、まるで俺たちにもこれから危険が降りかかるみたいじゃないか。


「親竜が両方飛んでいった・・・きっとあっちは囮ね。無防備になった巣から卵を盗み出すための。」


「ー!!」


 まじか。なんて卑怯な奴らだ・・・



「リトスくん、もしも戦闘になったら自分の身は自分で守ってもらう事になると思う・・・あたしはあまり腕に自信はないから。わるい。」


「ええ、大丈夫ですよ。ご心配なく。」



 俺はアリサの隣にしゃがみ込み、いつ何が起きても大丈夫なように備えた。



「ねえ、先輩の炎竜はどこにいるんですか?」

「谷の上に置いて来た、ここの竜に警戒されたら困るから。あなた達の飛竜はどこ?」


「俺はフィアナの竜に乗せてもらったから、こいつしか連れてきてないです。フィアナの竜は森に隠してきた。」


「そう・・・賢明な判断ね・・・って何をしているの?」


「葉っぱを、集めてます。」


「・・・・・・・?」





 そして、ついに卵泥棒達が姿を現した。

 谷底が暗いためはっきりと姿は見えないが、数人の男の声が聞こえる。


「おい急げ、奴らが戻ってきたら面倒だ。」

「ちっ、こんな崖の上に巣なんて作りやがって・・・」



 うんうん。聞こえるぞ・・・誰がなんと言おうと、完璧にこいつらが犯人だ。


「先輩、」

「・・・ええ。」


 アリサは岩陰から飛び出し、そのコソコソと崖を登っていた連中に向かって控えめな声で叫んだ。


「竜騎士団長の命を受け、あなた達を飛竜保護条約違反で拘束します。大人しく投降しなさい。」



 死ぬほどカッコイイな・・・まるで刑事のような台詞だ。俺も一度でいいから言ってみたい・・・


 だが、金儲けの為にドラゴンの巣にまでやってくる連中が、果たしてこんな事ぐらいで引き下がるものだろうか・・・・

 答えは否。グループのリーダーらしき男が指示を出し、奴らはアリサを取り囲むように集まってきた。



「ああ?赤ローブ・・・貴様何科の学生だ。」


「ドラゴン育成科3年、あなた達は一体どこの生徒なの・・・こんな時間に、校則違反よ。」



 緑、緑、緑、青、青・・・5人か、どうやら予想通り同じ幻獣学校の生徒だ。

 しかし青の奴らの面に見覚えがないところを見ると、同じドラゴン育成科の人間ではないな・・・安心した。



 そのとき、俺は自分の背後に連中とは別の気配を感じた。アルヴィスも羽を広げ、威嚇するように鼻で唸っている。

 なんだ・・・・竜?・・・いや、もっと小さくてひっそりとした息遣いだ。それも、とびきり危険な匂いがする。


 俺がアリサに伝えようと立ち上がった次の瞬間、暗い茂みの中からその気配は突然飛び出してきた。

 無数の牙に青い毛で覆われた小柄な獣。狼?いや、野犬か・・・?


「っ、フェンリル!?リトス君逃げて!」



 地面に倒れこむ間際、俺は奴らのローブの胸元を見た。


 金色の刺繍で4本の牙のマーク。

 奴らは「フェンリル育成科」の生徒だ。




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