2-3 水上飛行訓練
「旗取りゲーム」は、わたしが2年の時に考案した実戦型飛行訓練だ。
飛竜の背に乗った生徒の足に長いロープをくくりつけ、その先にハンカチ一枚分ほどの小さな旗を付ける。
生徒たちはそのロープを垂らしたまま飛行し、互いの旗を取り合うというサバイバル形式のゲーム。
本来は湖面で行われるため危険はないが、それ故にふざける生徒も多い。
旗を取るだけではなく、ロープを引っ張り相手を湖に叩き落とすという行為(主に男子生徒間)が自然と目立ち始める。
そしてこの訓練は、飛竜を人と飛ぶことに慣れさせるとともに、細かい飛行技術を磨くことが主な目的になる・・・
「ハルさん!ユージンさんを止めてください。あれじゃオーバー飛行ですよ、女の子に当たったら危ないです。」
「分かった、任せろ。」
6番、ルーク・ティスター「青竜」
視野の広い飛行が得意で、安定したチームプレイができる。若干の高度の低さと、騎手の積極性に欠ける場面が時々見られる・・・と。
「よっと・・・ついでに貰っとくよ。」
12番、ゲイル・ウィーン脱落
48番、サンタ・クロード脱落
22番、ヘレン・ロータス脱落
「へへ・・・カフ、次はあの上のでかい奴だ。」
24番、ハル・リトス「白閃風竜」
小柄な飛竜だがその成長は順調。騎手の優れた動体視力と、スピード感のある風竜との相性が非常に良い。しかし時々の鼻につく発言と、状況により変化する取り組み姿勢が気になる、と・・・・ふむ。
「へっ、そんな細っこい竜で俺とやるつもりかよ。」
「このゲームは速さだよ。そんなノロマ相手なら俺に分があ・・・・ユージン、後ろ!」
「え?・・・・うおっ!ああああぁ!!」
ードボンッ!
「はは、ユージン大丈夫?」
「てめえ!アレキサンダー!!後ろから卑怯だぞ!!」
「・・・・・・・ふん。雑魚め。」
26番、ユージン・フラッカー「溶岩竜」
竜の成長は非常に速く、体の大きさはすでに成竜レベルに到達。パワーとスピードは申し分ないが、騎手とのコミュニケーション面ではまだまだ課題あり。そして脱落・・・と。
5番、アレキサンダー・ローグ「雷雲竜」
こちらも体格のいい竜種。突進力はあるが旋回力には課題あり。騎手の過信した指示とのミスマッチが懸念される・・・
「だいぶ減ってきたな。ユージン待ってろ、今引き上げてやるよ。お前の竜どこかに飛んで行ったし。」
「おいハル・・・うえ・・・」
「?」
アレキサンダー・ローグ脱落
ヘストス・ケイン脱落
ハル・リトス脱落
「ほら油断しない、馬鹿ね。」
「やられた・・・もー、ユージンのせいだ。」
1番、フィアナ・クラウス「黒神竜」
噂と違わぬ最高種の飛竜。力強く且つ正確な飛行が可能。加えて騎手の育成能力が非常に高く、言語理解と従順性にも問題無しと。
「・・・・・ふう。とりあえずはこんなものね。第56期、噂通りの粒ぞろいで先行きの楽しみな生徒がちらほら。加えて3年ぶりの黒竜の出現。これは成長が楽しみだわ。」
「何言ってんだ。どいつもこいつも俺には馬鹿にしか見えん。」
「ギル、なんて事言うのよ。ここで私たちがどれだけ彼らを鍛えられるか・・・この学校の存続に関わる大事な任務よ。」
「・・・ちっ、分かってるよ。」
水上飛行訓練「旗取りゲーム」
第4回戦終了
総獲得旗数上位3名
ハル・リトスー42枚
フィアナ・クラウスー31枚
アレキサンダー・ローグー30枚
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ー水上訓練<午後の部>ー
「ではこれから飛竜達の羽休めを兼ねて、少し特別な実習授業を行います。」
アリサは指笛で飛竜を呼び寄せ、自分の横に行儀良く座らせた。
相変わらず立派な火竜だ。
まるで燃え盛る松明のように赤々とした鱗に、漆黒の鋭く尖った爪。体もでかい。
流石は炎竜系の頂点に立つ「炎帝竜」だ。惚れ惚れするな・・・
「えっと、では私が始めに見本を見せますので、少しだけ後ろに下がってもらえますか?」
(・・・・・見本?)
「アリサ、まさかお前の竜でやるのか。やめろ、湖に大穴をあけるつもりか。」
ギルバートが名簿の角でアリサの頭を叩いた。
「大丈夫よ。ちゃんと手加減するもの。それに、あなたの銀竜は破壊砲撃てないでしょ。」
「・・・ちっ、どうなっても知らねえからな。」
破壊砲・・・
ドラゴン図鑑のステータス欄には、各竜種ごとの「破壊砲弾数」が表示されてあった。
それは一日にそのドラゴンが撃てる砲弾の数を意味し、竜種によってその数字は全然違っている。
よくおとぎ話なんかでは、ドラゴンが炎の咆哮を無限に吐いていたりするが、あんなのはただの空想だ。実際ドラゴンに与えられている力には、ちゃんとした仕組みと限度がある。
・・・まあそうでもないと、この世界はドラゴン達によって支配されかねないだろうからな。
「じゃあ少し見ててね。後でみんなにもやってもらいますから。」
アリサは炎竜の鼻先を丁寧に撫でたあと、ぐるりと湖面を見渡した。
「んー・・・あの辺が深くていい感じかな。よし、手加減してねフレア。」
・・・百聞は一見に如かず。という言葉があるが、あれは恐らくこういう事を言うんだろうな。
俺たちはこの半年間、100種以上の飛竜の性質、得意分野、弱点、破壊砲弾数、そんな事をひたすら頭に詰め込んでいた。
だが・・・あんなペラペラの紙の知識なんかに、一体何の意味があったんだろう・・・
アリサの炎帝竜は翼を大きく広げ、深く息を吸い込んだ。そして次の瞬間・・・遠くの湖面に向かって閃光のようなエネルギー波が飛んだ。
「ー!?」
少し遅れて、大きな衝撃と共に俺たちの全身を生暖かい熱風が襲う。
そして気がつくと、湖面に赤茶色の穴がぽっかり空いていた。すぐに周りの水がそこを塞いだが、俺たちは確かに見た・・・燃える水を。
「あー、やりすぎたかも・・・」
アリサは呆れかえるギルバートをチラリと見て、「ごめん」と目で謝っていた。どうやら予想外の威力だったらしい。
「えっと・・・とりあえずこんな感じです。これは破壊砲といって、ドラゴンの持つ最大の武器にして切り札。強いエネルギーを放出し、その熱量と衝撃で対象を破壊する事が出来ます。」
・・・教官殿よ、やはり説明してから撃つべきだっただろう・・・みんなさっきの余波で耳も目もイカれてるよ。誰も聞いちゃいない。
「え、えっと・・・見ての通りこれはとても危険な訓練なので、二人一組で、これから飛行訓練終了日まで毎日コツコツ練習していってもらいます。」
「・・・・・毎日?」
「はい。毎日・・・あ、でも何発も撃つのは禁止。目安は可能砲撃数の3分の1です・・・・ちなみにわたしの火竜は限界4発なので、一日一発。5発なら1日2発、8発なら3発ですね。」
俺たちはアリサの指示に従い、早速破壊砲の訓練を始めた。
だが・・・当然そんなに上手くいくはずはない。考えてもみろ、俺たちが今日いきなり親に「あなたは岩をも破壊する砲弾を撃つことができるのよ、やってごらん。」と言われても、出来るわけがない。
カフはまるっきりやる気のない様子で眠たげな瞳を揺らしていた。
アリサの話によると、野生の飛竜は親や兄弟の破壊砲を見て自然とそれを覚えるらしい。
なるほど、じゃあ先に俺が破壊砲を覚えるのが得策か・・・・と言ってもそれは無理なので、誰かが早めに習得してくれるのを待つとしよう。
ドラゴンにも、人間と同じように一匹一匹違う性格がある。
俺のカフは、とにかく大人しく素直な奴だった。ひねくれたところもなければ、アルヴィスのようにやんちゃもしない。
小さい頃アルヴィスにイジメられては俺が甘やかしていたせいか、今でも甘えん坊で少しばかり臆病だ。
それ故に、こういう事には消極的でとても鈍い。きっとどう頑張ってもアリサの炎帝竜のようにはなれないんだろうな・・・・
せっかくアリサが手本を見せてくれたというのに、結局その日はフィアナやアレキサンダーを含むごく少数のドラゴンしか「破壊砲」を成功させなかった。
竜種や性格によってどうしても差は出るとアリサは言っていたが、主人の育成能力が全く関係ないという事はないだろう。
飛行訓練が始まってそこそこの成績を維持していた俺は、少しだけヘコんでいた。
ー共同ホール1F<食堂>ー
「そこ、座ってもいい?」
「ああ・・・ん?フィアナ。」
食堂の隅でポツンと夕食をとっていた俺の所に、これは珍しい来客だ。
しかも、部屋着にローブを羽織っただけという、なんとも贅沢な光景・・・
「珍しいね、こんな遅くに一人でご飯?」
「あー、うん。竜舎の掃除当番だったんだよ。時間かかっちゃって。」
本当はアルヴィスが竜舎の柵を燃やしてしまったからこんな時間になったんだけどな・・・
「ていうか、お前こそその格好はまずくないか。アレキサンダーに出くわしたら襲われるぞ。」
「もう、あいつの話はしないで。いいのよ別に、もう消灯時間過ぎてるし、ちょっと喉が渇いただけだから。」
フィアナはルピシアの葉の煮出し湯をコップに入れていた。とてもいい香りだ。
「飛行訓練はどう?ハル、すごく活き活きしてるみたいに見えるけど。」
「楽しいよ。すごく・・・アリサはちょっと抜けてるけどいい教官だよ。何より親しみやすいし。」
そう言うと、フィアナは少し難しい顔をした。なにか引っ掛かったか。
「うん・・でもちょっとわたし気になるのよね。」
「何が?」
「3年生は王国の竜騎士団で実習中のはずよ。それなのになぜ訓練教官なんてやってるのかしら。」
「優秀だからだろ。それにアリサは卒業後は教員志望だって言ってた。」
「へえ・・・なんか仲いいね。名前呼び捨てにしてるし。」
「え、いや・・・だってなんか俺目つけられてるし、最初の裏試験がやっぱよくなかったかな。」
思い当たる節はたくさんあった。生意気な事を言っていたのは本当だし、つい出来心で彼女の火竜にスパイスソーセージを与えたりもした。あれは大惨事だったなあ・・・
「さてと・・ご馳走さまでした。フィアナもそろそろ戻った方がいいよ。」
「・・・ええ、もう寝ちゃうの?」
フィアナがイジけたような顔で上目遣いをキメてきた。それは反則だろう・・・・
仕方ないので、俺はここでとっておきの怪談を話すべくお盆を横に寄せた。
「・・・本部から連絡が来た。緊急の任務だ。」
「ええ、ほんとに?明日も訓練があるのよ。」
誰だ・・・こんな夜中に。俺がせっかくいい感じで話そうとしてたのに。
「バカか、こっちが優先に決まってるだろう。今から支度をして出れば夜明けまでには帰れる。」
「・・・分かった、行く。」
俺とフィアナが食堂の窓からこっそり外を覗くと、アリサとギルバートがいた。
任務?何の事だ・・・
「じゃあ1時間後に竜舎裏で。場所は分かってるの?」
「ああ、イスタリア北郊外の渓谷だ。」
最後の言葉ははっきりと聞き取れた。そう、まるで俺たちに聞かせているようじゃないか・・・
「ねえ・・・・今何か考えてる?」
「うん。すごくいいこと。」




