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夜《ヨル》の場合1

真っ白い壁に囲まれた空間の中でピアノの音色が軽やかに流れている。ピアノの音は穏やかで聞いているものの心を落ち着ける。そんな音色がこの空間を覆っていた。

おれは同じ空間にあるソファーの上で身体をラクにさせながら、ピアノの音に耳を傾けていた。


流れている曲のタイトルなんておれには分からない。分からなくても、気にならない。この人の奏でる音はとても綺麗で切なくて、それでいて穏やかで優しい。おれにはそれだけがわかっていればいい。だからこの曲のタイトルなんてなんだっていいし、どうでもいい。知らなくても困りはしないのだ。


心地よい音が止まってふと顔を上げると、首元かチリンと固い鈴の音が鳴る。冷たい音が静かな部屋に小さく響いて、ついさっきまでピアノを引いていたあの人がゆっくりとこっちを向いた。


「また聞いてたのか、ヨル? お前はホントにピアノが好きなんだな…」


彼は少し潤んだ瞳を和らげて感心したふうにそう言うと、ピアノから離れておれのいる白いソファーまでやって来る。そしておれを持ち上げると自分の膝の上に降した。


ムッ、とした。


ピアノが好きなのはアンタだろ!おれが好きなのはアンタのひくピアノの音色だ!!どんなにおれがピアノをひいてるアンタの背中を見つめてもこっちを見ることなんてないくせに!今だって、首輪に着いてる鈴の音で気付いたくせに…!


おれなんか、アンタの中じゃ、ピアノ以下だってこと、知ってるんだぞ?!アンタは知らないだろうけど、おれはアンタより、アンタのこと知ってるんだからなッ……!


(そうだ、おれは、アンタがおれにそんなに、ピアノ程感心がないことを、知ってるんだ………。アンタは気づいてないけれど……)


声を大にして不満を訴えたいが、どんなにおれが声を荒げたって、叫んだって、アンタには伝わらない。それにさえもおれは腹が立って、最終手段である実力行使に出ることにした。


『バアーーーーーカ!!』


心の底からやり場のない気持ちを込めて、おれはあの人の手の甲に爪を立てた後すぐに逃げ出した。


おれは別にわるくない!!!!!わるいなんて思って無いんだからなッ!!!!おれが悪いんじゃなくて、おれの気持ちに気づかないアンタが悪いんだ!!これは別に八つ当たりでもヤキモチでもない!!!!!断じて違う!!違うんだからな!!!?

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