子猫とお月様
子猫は兄弟と一緒に三毛猫のお母さんから生まれました。
お母さんは"立派な"野良猫で、近所の人たちにご飯を貰ったりしながらも子猫たちを育ててくれました。
子猫たちが幾らか大きくなって、自分でご飯を食べられるようになると、お母さんは言いました。
『これからは皆自分で生きていくのよ』
突然の事に、子猫たちは戸惑いましたが、お母さんは子猫たちを威嚇して、一緒にいる事を許してくれませんでした。子猫は仕方なく、一人立ちする事になりました。
子猫が一人きりで歩いていると、雨が降ってきました。子猫は慌てて近くの屋根の下に逃げ込みました。
一人きりで、びしょぬれで、悲しくなった子猫は泣きだしました。
子猫が泣いていると、扉が開いて、女の人が顔を出しました。そして、びしょぬれの子猫を見つけ、可哀そうに、と言って抱き上げました。そうして家の中に入れてくれました。
女の人は子猫をタオルで拭いて乾かすと、ご飯をくれました。
子猫は少し、落ち着きませんでした。何故なら、その家には猫が既に住んでいる事が匂いでわかったからです。
それでも、女の人が優しくしてくれるので、子猫はそれに甘える事にしました。
小さな籠に布を敷いてもらって、子猫はその中で丸くなっていました。辺りは真っ黒で、微かに雨の音が聞こえています。
『気にいらないわ』
突然声がして、子猫は目を開きました。子猫より、ひとまわりもふたまわりも大きな猫が、子猫を見おろしています。
『ママはやさしいから、可哀そうなお前を放っておけなかっただけなんだから。私は、子猫だからって容赦はしないわよ。雨が止んだらちゃんとこの家から出て行きなさい』
子猫は怖くって、こくこくとうなづく事しかできませんでした。猫が今にも子猫に飛びかかってくるように思えたのです。
でも、暫く経って、猫が今にも引っ掻きたそうな顔をしているのに、そうしないという事に気付きました。よく見ると、猫は紐に繋がれています。
『なんであなたはひもにつながれているの?』
子猫がそう尋ねると、猫は酷く気分を害したような様子を魅せました。
『何で、ですって?』
猫は唸るように歯をむき出します。
『そんなの、ママが私があなたを引っ掻いたりして苛めるんじゃないか、って心配したからに決まっているじゃない。ああもう、本当邪魔くさいったらありゃしない』
朝になって、騒がしい空気の中で子猫は目を覚ましました。
「ねえ、お母さん、この猫も飼うの?」
「リボンが嫌がるんじゃないかなあ」
「可愛いなあ」
人の子供が子猫を見て騒いでいます。女の人は子供たちに早く着替えて学校へ行く準備をするように言いました。
『さあ、雨はやんだんだから出て行きなさいよ』
猫が言いました。
女の人に小さくお礼を言うと、子猫は学校へ行こうとする子供たちの足元をすり抜けて外へ出ました。
雨に濡れた地面はほんのり小さく、ところどころに水たまりができていました。
子猫が振り返ると、其処の家の窓の所に猫が座っていて、子猫をじっと見ていました。
『ママが悲しむから、この近くでのたれ死ぬんじゃないわよ。死ぬんなら何処か遠くで死になさい』
均整の取れた体つきをした、美しい猫でした。体は灰色で、綺麗な黒い模様が入っています。子猫は水たまりに映った自分を見ました。お母さんと同じ、薄茶と黒の模様の痩せっぽっちの三毛の子猫で、御世辞にも美猫とは言えません。
と、その時、目の前に人が立っている事に気が付きました。猫と子猫を順番に見た後、屈みこんで子猫に手を差し出しました。子猫はとりあえず、匂いを嗅ぎ、いい匂いがしたのでかじってみました。何度もかじってもその人は全く反応しません。
そうして子猫が噛むのをやめると、ちょいちょいと子猫の頭を撫で、抱き上げました。そうして、さっき子猫が通ってきた扉を開けます。
「お母さん、なんか家の前に子猫がいたんだけど」
絵本的なアレにしたいな、と思って書き始めたんだけど途中で飽きてしまった。
モデルはうちの猫だけど、周りの状況は全て架空。