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第五話 公園の小学生

それではご想像くださいませ。

時は現代。所は日本。


ここは、とある住宅街の小さな公園。


良く晴れた、うららかな冬の昼下がり、

このところ寒くなってまいりましたが、

今年はまだ、この街では一度も雪は降っておりません。


灰色の鳥打帽に灰色のスーツ。

ベンチに一人腰掛けているのは、みなさんご存知のあの男。

衝撃屋でございました。


薄っぺらい鞄を隣に置いて、

コンビニの白いビニール袋から衝撃屋が取り出したのは、

湯気のたった、美味しそうな肉まんでございました。


どうやら、この公園でお昼ご飯をいただこうとしているようです。


背中にあたる日差しがポカポカと心地よく、

手の中には暖かい肉まん。

カラシをたっぷりつけて食べようとしたその瞬間。

衝撃屋に悲劇がおとずれました。



「どーーーん!」


ぼとっ


「嗚呼っ!」



衝撃屋は「どーーーん」という声と同時に、背中を強く押され

手にしていた肉まんを地面に落としてしまいました。



「やったー!落としとーる。落としとーる。

おっさーん、3秒以内やったら食べれるで」


「なんてことでしょう」


「3、2、1、ぶーーーっ

もう食べれませーん」



衝撃屋を襲ったのは2人の小学生の子供でした。

4年生くらいでしょうか。

やんちゃそうな子と気の弱そうな子が衝撃屋の前に立っていました。


挿絵(By みてみん)



「まだ十分食べれますよ」



衝撃屋はそう言うと地面に落ちた肉まんを拾いあげました。

そして、肉まんに付いた土をはらっていると、

やんちゃそうな子がその肉まんを、衝撃屋の手からひったくりました。



「こんなん食べれるわけないやーん」



やんちゃそうな子はそう言うと、

横取りした肉まんを放り投げました。



ポーーーーン


ボトッ。



「嗚呼っ、おやめくださいませ!」



衝撃屋は思わず叫びましたが、

小学生たちは、さっさと自分たちが投げた肉まんのところへ走っていきました。

その様子を眺めるしかない衝撃屋。

地面に落ちた肉まんを囲んで見下ろしている二人の小学生。

なにやら話しております。


「おい、タカシ踏めよ」


「無理無理、もう止めよう」


「お前、言うこときかんかったら、

明日から学校で村八やからな」


「ほんでもおじさん、かわいそうやん」


「ほんならお前、これ食え」


「なんでーさー」


「食うか、踏むかどっちか」


「なんでよー」

 

「3、2、1、ぶーっ!

お前、村八決定。

明日から誰もお前と口きかんし」



なにやらもめ始めた小学生たちに、そっと近づく衝撃屋。



「あのーその肉まん、そろそろ返してもらっていいですかねぇ」


「うわあっ、来んなっ、

それ以上近づいたら警察呼ぶからなー」


「おじさん、ごめんなさい」


「タカシっ、勝手に謝んなやー」


「もう勘弁してくださいませ。

さ、その肉まん返してください」


「いやや、

おっさん、不審者やろ。

白状したら返したる」


「わたくしは不審者ではございません。

ただのセールスマンです」


「なに売っとん。悪質商法ちゃうんか」


「ちがいます、ちがいます。

決して無理にお勧めしたこともございませんし、

返品やクレームもいただいたことはございません」


「ほな、何屋なん?」


「衝撃屋でございます」


「衝撃屋?なにそれ?」


「ご予算に応じた衝撃的な気分を味わっていただくサービスです」


「なにそれ?ゲーム?」


「ゲームではございません。

わたくしのお売りする衝撃は、現実でございます」


「衝撃って、殴ったりすんの?

金おくれ。俺がおっさん殴ったるし」


「いえいえ、暴力的な衝撃ではございません。

気分的な衝撃でございます。

人生に退屈なさってる方、何か刺激を求めていらっしゃる方など・・・」


「タカシ買えや」


「いやん。お金無いもん」


「なーなーおっさん、

その衝撃なんぼするん?」


「50円からお売りしております」


「やっすー!」


「なあ、タカシ買えや!」


「いややって。お金無いもん」


「あるやろがー、晩飯の金がー。

知っとんやど、お前がいっつも帰りにコンビニとかで晩飯買うとんの」


「これはあかん。

母ちゃんのぶんも買わんとあかんもん」


「50円だけやん。ええやん。

言うこときかんと殴っど」



そういうと、やんちゃな小学生は、

友人のタカシ君の胸ぐらをつかんで殴り始めました。



「やめて、わかった。買うから、買うから」


「最初っからそう言うたら痛い思いせんでええんや」



タカシ君はやんちゃな小学生の暴力に屈して、

お母さんから預かってた晩御飯代の中から、

50円を衝撃屋に支払いました。



「ありがとうございます。

50円。頂戴いたします。

領収書はどうしましょう?」


「お母さんに、こんな事にお金使ったってバレたら困るので

いらないです」


「わかりました。

それでは50円ですので、衝撃レベル1になりますが

よろしいですか?」


「はい」



「それではまいります」
















「あなた。次のサッカーの試合でレギュラーに選ばれますよ」














「えーーーーーー!!!!!

ほ、本当ですかーーーーーー!!!」


「うっそー!おっさん嘘ばっかり言うなよなー。

タカシがレギュラーのわけないやん。

1点も入れたこと無いのに。

俺でも補欠なんやでぇ」


「おじさん、

ありがとうございます。

ありがとうございます。

お母さんにはよ知らせんと」


「よかったですね。

あなた、夜一人で練習していらっしゃるようですね。

監督さんがちゃんと見てたみたいですよ。

それに、あなたが活躍できないのは、

あなた自身に問題があるわけでは無いことも、

監督さんは見抜いておられるようです。

期待に応えられるように、これからもがんばってくださいね」


「ありがとう・・・がんばる・・・がんばるから」



泣き始めたタカシ君。



「アホちゃう。

こんなサッカーの事なんもしらんおっさんに嘘言われて泣いて喜んで。

お前がレギュラーの訳ないやん。

お前がレギュラーになるんわ、俺がプロになって100年後や。

おっさん、子供や思て適当な事言うたらあかんで」


「ははは、サッカーについては、

確かにわたくし明るくございませんが、

お買い求めいただいた衝撃は本物でございます。

よほどの事が無い限り実行されると思いますよ」


「ちょっとタカシ金貸せや。

おっさん俺、100円出すし、

俺にも衝撃売ってえな。

ほらタカシ、100円貸せって。

殴んぞ」



脅かされてしぶしぶ100円をわたすタカシ君。



「ほらおっさん。タカシの倍の100円や。

これで俺にも衝撃売ってくれ」


「よろしいのですか?

タカシさま、あなたのお金ですよ。

よろしいのですか?」


「うん。いい。いつか返してもらうし」


「わかりました。100円。確かに頂戴いたしました。

それではタカシさまの倍、

レベル2の衝撃でございます」


「はよして、はよ」




「まいります」

















「あなた。ご両親に期待されてませんよ」















「それでは、肉まん返していただきますね」







【あとがき】


文中に「村八」という言葉が出てまいりました。

これは「村八分」のことです。

村八分とは村の中で問題のある者と付き合いを絶ち、無視することで、

十分な付き合いのうち、葬儀と火事の2つの付き合い以外を絶つことです。

現代の社会では使われない言葉ですが、

何処で覚えたのかわたくしの小学校では脅し文句に使われておりました。

学校で教える言葉ではございませんから、

何処かの大人が子供に吹き込んだのでしょう。


読んでいただきましてありがとうございました。

次回をお楽しみに^^

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