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第65話 追憶の断章 里帰り

 王都からの馬車が村の入り口に着くと、そこには懐かしい顔ぶれが揃っていた。

 里帰りしていたライナス、そしてエリカの姿を見つけるなり駆け寄ってきたディオン。

 その背後には、ご飯の匂いを察知したバハルと、ディオンが行くところにはどこへでも影のように付いてくるアルベローゼが、当然のように一行に加わっている。

 村の人々は「おかえり」と温かく迎えてくれるが、不思議なほど王都での「エリカの大活躍」といった騒ぎには触れてこない。

 ディオンの父とエリカの両親は、ただただ娘の元気な姿を抱きしめ、再会を心から喜んでいた。

 

 夕食の席、エリカは身振り手振りを交えて、学園の仕組みを家族に説明し始めた。

「あのね、学園には九つの学年があって、それぞれ魔導公用語で名前がついているの。

 まずは初等科。

 私がいた一年生は Syllasサイラス

 魔力の『種子』っていう意味。

 二年生は Vernaヴェルナ で『新緑』。

 そして三年生が Aethelエーテル

 世界に満ちる『大気』と共鳴する段階なの。

 次に中等科。

 一年生は Fonsフォンス、魔力の『泉』。

 二年生は Ramosラモス、専門に分かれる『枝』。

 三年生は Flumenフルーメン、知恵の『奔流』。

 最後が高等科。

 一年生は Ignisイグニス、魂の『熾火』。

 二年生は Luxorルクソール、完成された『輝き』。

 そして卒業の三年生が Zenitゼニット

 空の『頂』っていう意味なのよ」

 

 エリカは少し誇らしげに胸を張った。

「私は今度、二つ飛ばして Aethel に行くの。セレナやファミールとは学年が離れちゃうけど、寮の部屋は一緒でいいって特例が出たのよ! 二人とも、本当にかっこよくて大好きな親友なの」  

 エリカの楽しそうな話に、ディオンやバハルも感心したように聞き入っていた。


 夜も更け、ディオンたちが帰宅した後。

 エリカは自室の布団の中で、階下から漏れ聞こえる大人たちの低い話し声を聞いていた。

「……改めて聞くが、なんて天才なんだ、お前たちの娘は。魔導技術開発局がひっくり返ったという報告は真実だったわけだ」  

 ディオンの父の、畏怖すら混じった声だ。

「本当に、驚いています……。あの子がそこまでとは」  

 エリカの父が応じる。

 そこでディオンの父が声を潜めた。

「だが安心しろ。私の権力を使って、エリカが王都で成し遂げた具体的な『業績』は、この村には一切入らないよう厳重に封じてある。村の連中には、単に成績が良くて進級が早まった、としか伝わっていないはずだ」


 酒杯を置く音が静かに響く。

「ヴァイン家はゼーレドルフの分家。あの子自身、一族でも稀に見る天才だ。……だが、魔王の影響も辛かろう。内側に『それ』を宿しているからこそ、これほどまでに魔法に秀でてしまう……皮肉なものだな」

 ディオンの父の言葉に、エリカの両親は沈痛な面持ちで頷いた。

「しかし、魔王を内包する以上は、魔法に秀でるに越したことはない。いつか来る対峙のためにもな。……だが、名声はいかん。あの子を表舞台に出しすぎれば、その特異性に目をつけた勢力が必ずあの子を危険に晒すことになる」

「あの子を守るためには、今はまだ『無名の少し優秀な少女』でいさせてやるべきだ。それが、我々にできる唯一の盾なのだから」

 大人たちの深い策略と、重苦しいほどの愛情を子守唄に、エリカは静かに眠りについた。


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