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第6話 断崖の猛禽

 翌日。

 深夜、突き刺さるような冷気が漂う中、一行はようやく『グリフト・ヘラー(猛禽の休息洞窟)』へと辿り着きました。

 ここに至るまでの山道は、まさに地獄のような難所だった。

 切り立った絶壁が続く中、上空からは半人半鳥の魔物、血翼の精『フレイア・フリューゲル』が絶え間なく襲いかかってきたのです。


「くっ、この鳥女ども……キリがないぞ!」

 バハルが盾を頭上に掲げ、降り注ぐ鋭い羽のつぶてを必死に防ぎます。

「アル! あいつら、どこまで追いかけてくるんだ!」

「にしし、あの子たちはしつこいよ! この岩場を抜けるまでが『フレイア・フリューゲル』の食堂なんだからっ!」

 アルベローゼは軽やかに岩を蹴り、空を舞う影を次々と射落としますが、多勢に無勢。

 一行は疲労困憊になりながら、ようやく洞窟の入り口へと滑り込んだのでした。


 しかし、洞窟の入り口付近には、未だ外で獲物を探すこの山の王者――『フリューゲル・ハスト』の不気味な影が差していました。

 青空を覆うような巨大なグリフォンだ。

「くっ、まだ諦めてないのか……! あのフリューゲル・ハスト、しつこすぎるぞ!」

 ディオンが剣を握り直しますが、疲労で膝が震えます。


 絶望的な状況の中、岩場を軽やかに跳ね回っていたアルベローゼが、弾けるような声を張り上げました。

「みんな、落ち着いて! 私の故郷に伝わる諺を教えてあげる。『フリューゲル・ハストは羽を焼け!』 そう、飛べない王様なんて、ただの図体がデカいだけの獣なんだからっ!」


 エルフの彼女が放つ、天真爛漫な叫び。

 それが、恐怖で身体を強張らせていたエリカの意識を叩き起こしました。


「……羽を、焼く……!」

 エリカは震える手で杖を握りしめ、魔力を一気に解放しました。

「《グレン・ヴォーグ》!(焼き払え!)」

 紅蓮の炎がフリューゲル・ハストの翼を舐め、重厚な体躯が地面へと激突する。

 しかしその瞬間、エリカの視界が真っ赤に染まった。


(……もっと。もっと焼かなければ。その嘴を砕き、爪を引き剥がして、絶望の叫びをもっと聞かせて……!)


 自分の中から溢れ出す、どす黒い「殺意」。

 エリカは激しい動悸に襲われ、杖を握る手が小刻みに震えます。

 魔法を使うたびに、この禍々しい衝動が自分を呑み込もうとする。

 その恐怖に、彼女は唇を噛んで必死に耐えました。

「エリカさん……?」

 ディオンが心配そうに駆け寄ります。

 エリカは青ざめた顔で、自分の震える手を隠すように杖を強く抱きしめた。


 一行は洞窟のさらに奥、風の届かない広場でようやく腰を落ち着けました。

 岩肌は長年の焚き火に燻されて黒光りし、奥からは微かに地熱を帯びた温かい空気が流れ出している。

「にしし! 見てよこれ、大収穫だよ!」

 アルベローゼが自慢げに差し出したのは、いつの間にか剥ぎ取っていたフリューゲル・ハストの『嘴』と『鋭い爪』でした。

「おい、いつの間に……! それ、ギルドに持っていけば銀貨100枚は下らねえぞ!」

 バハルが目を丸くして驚きますが、アルベローゼは「怖い思いしたんだから当然だよっ」と鼻を鳴らした。


 焚き火のそばで、エリカはまだ自分の内に残る「殺意」の残滓に怯え、膝を抱えていました。

 それに気づいたアルベローゼが、ひょいっとエリカの隣に座り、悪戯っぽく笑いかけます。

「エリカ、そんな暗い顔してると、せっかくの美人が台無しだよ? ほら見て、この嘴! 街に行ったら、これで最高に美味しいお肉をいっぱい食べようね。私がみんなを脅してでも、一番高いお店に連れて行ってあげるからっ!」


 アルベローゼの屈託のない励ましに、エリカは毒気を抜かれたように、ようやく小さな笑みを漏らしました。

「……そうね。アルベローゼ、ありがとう」

「にしし、どういたしまして! さーて、見張りはディオンとライナスにお任せして、私たちは寝ちゃおっか!」


 過酷な道中を越え、安息の地で束の間の休息を得た五人でした。

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