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第54話 外伝 ガリアス編

 アイナル村の守護職、ガリアス・フェン・ゼーレドルフ。(フェンは貴族の称号の一つ。普段は隠していて名乗らない)

 その真の姿は、王族や、貴族、教会、騎士団であっても一部の上層部しか知り得ぬ、王国最古の公爵家「ゼーレドルフ家」の当主である。  

 彼らがこの辺境に隠棲するのは、贅沢を嫌ったからではない。


 2000年前、文明の黎明期に現れた魔王アニマ=ゼロを封じる『檻の番人』としての宿命を果たすためだ。

 ガリアスは、一族の掟に従い異母妹であるセレスティナと結ばれた。

 それは血の純度を守るための契約であったが、そこには確かな愛があった。

 司祭であり、優しさの塊のような彼女との間に授かった嫡男ライナス。

「この子の命、何に代えても守り抜く」  

 ガリアスは、我が子を抱き上げ、いつか彼に一族の秘術、そして王家の影として生きる重責を継承させる日を夢見ていた。

 村にはもう一つの血筋があった。

 ゼーレドルフを陽とするならば、陰として支えるヴァイン家。

 ヴァイン家は王家しか知らぬ絶対秘密の影の血筋。

 ゼーレドルフ家に滅亡が訪れた時のみ、表に出る事になる影の血筋であった。

 ゼーレドルフ家とヴァイン家の二つの血筋こそが、魔王を封印する秘術を継承していたのだ。

 これらの血筋は、稀に努力では到達できない天才児が生まれることが多い。

 エリカの両親に魔導の才は薄かったが、娘のエリカは違った。

 彼女は一族の歴史に名を刻むほどの、凄まじい潜在魔力を持つ天才児だった。

 ガリアスは、ライナスとエリカの婚姻こそが、一族の絆を強固にする最善の道だと確信していた。


 封印の維持には、古代魔導エルフ言語による複雑な儀式が必要だった。

 古代魔導エルフ言語とは、今の魔導言語とは一線を画す習得の困難さと魔導媒体としての優秀さを持つ、一般的には継承が途絶えて久しい伝説の魔導言語。

 

 半年に一度、アイナル村の石碑に刻む鎮めの術。

 だが、魔王の拍動は時に気まぐれで、不定期な補強を求めてくる。  

 ガリアスを支えたのは、エルフの親友ヴォルフだった。

 彼は外部の人間であったが、ガリアスがすべてを打ち明けられる唯一の男だった。

 古代魔導エルフ文字の研究者である彼は、快く封印の補助を引き受けてくれた。

 だが、惨劇は起きた。

「なぜ、あんな無理をしたんだ……ヴォルフ……」

 満月と四つ極星が十字に並ぶ、不吉な天の配置。

 封印が劇的に弱まったその夜、ヴォルフはガリアスの到着を待たず、単身で石碑へ向かった。

 そしてヴィルヘル(魔物)の奔流に襲われ、親友の指先から零れ落ちて闇へと消えた。  

 その瞬間、石碑の封印は決壊した。

 魔王の一部が溢れ出し、最も強く清冽な魔力を持つ器――幼いエリカへと取り憑いたのだ。

「すまなかった。ヴォルフ」

「あの時、君は急な異変を察して私に声すらかける余裕は無いと判断したのだな」


 アニマ=ゼロの侵食を食い止めるため、セレスティナが立ち上がった。

「ライナスに、あなたのすべてを継承しなければならないのでしょう?」  

 陽光のような微笑みを残し、彼女は自らの命を触媒にして魔王を分断した。

 半分はエリカの中へ、もう半分はライナスの中へと封じ込めて。

 ガリアスは絶望に沈む暇もなかった。

 掟に従い、セレスティナの実妹であるイゾルデを後妻に迎えた。

 元魔導士団の上級火炎魔導士であり、今は村の教師として慕われる、太陽のように明るい女性。  だが、魔王は止まらない。

 ライナスの中で目覚めた魔力の触手が、彼の身体を内側から食い荒らそうとした。

「ディオン、ごめんね……」  

 イゾルデは泣きながら、生まれたばかりの我が子、ディオンへと魔王を移し替えた。

 彼女もまた、愛する家族を守るためにその命を燃やし尽くした。


 月日は流れ、エリカが魔道師団に入団した年、月食の刻が訪れた。  

 大気中の魔力が狂い、ディオンとエリカの中のアニマ=ゼロが咆哮を上げる。

 寄生が始まり、息子が怪物へと成り果てようとしていた。

「……ここまでか」  

 ガリアスは、一族の秘宝を手に取った。  

 一族の剣術と魔導の融合――一族の剣技をディオンに授け終えるまで、あとわずかだった。

 すべてを教え込み、息子たちを王都へ送る手筈を整えたかった。

 ガリアスは、死を覚悟した。  

 自らの命そのものを石碑に埋め込み、封印の根幹を修復する。

 そして、残された生命力のすべてを絞り出し、ディオンとエリカの封印を、誰の手も届かないほどに強化する。  

 意識が遠のく中、ガリアスは女王陛下へ宛てた最後の手紙を想った。


 

聡明なる女王陛下へ


 陛下……不肖ガリアス、もはやお役に立てぬ時が参りました。

 一族の使命を全うできぬ我が不徳、万死に値すると承知しております。

 ですが、遺される我が子らだけは、どうか……。


 我が子らには一族の剣術のすべてを伝承いたしました。

 しかし、封印術の継承を終える時間は、私には残されておりませんでした。

 私の命そのものを触媒とした最後の封印術は、長くて10年は持つでしょう。

 それ以降の封印の継続については、ヴァイン家へ直ちに指示をお出しくださいますよう、伏してお願い申し上げます。


 以前よりご報告申し上げております通り、復活した魔王アニマ=ゼロは、分断され、我が子ディオンとヴァイン家の長女エリカの中に寄生しております。

 現在、一族の秘技を以て封印を施してありますが、この均衡がいつまで保たれるかは神のみぞ知るところです。


 陛下、我が子可愛さの言辞とお受け取りにならぬようお願い申し上げます。

 万が一にも、宿主であるディオンとエリカを処刑することで魔王の始末を目論むことは、絶対になさらないでください。

 宿主という「檻」を破壊すれば、封印から解き放たれた魔王が完全な形で顕現するだけにございます。


 たとえ魔王が我が子らの中に囚われている今であっても、この地の封印の儀は、未来永劫継続せねばなりません。

 一族の伝承によれば、魔王は一体とは限らぬのですから。


~~もし、いつか魔王を永久に封印できる日が来たならば、我が子らには、ゼーレドルフの宿命に縛られぬ自由な人生を歩ませてあげてください。~~ (※この一文は、インクが滲むほどの強い筆致で、何度も二重線が引かれ、消されている)


王国最古の公爵家 

ゼーレドルフ家

当主 ガリアス・フェン・ゼーレドルフ



「セレスティナ、イゾルデ。……すまなかった。……愛していた」


 立ったまま事切れたガリアスの骸は、朝日に照らされていた。  

 

 ディオンはとライナスは、一族の掟も宿命も知らぬまま旅に出た。

 父が遺した地図を握りしめ、バハル、アルベローゼ、エリカと共に村を出る。

 


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