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第5話 境界の灯火

 夕闇が草原を完全に呑み込み、一行は最初の目的地である草原の休憩所『フェル・フヴィーラ』に腰を下ろしました。

 少し離れた場所には、大きな荷馬車を囲む商隊の一団が野営をしている。

 彼らもまた、こちらを警戒するように焚き火の周りに武器を置いていました。

 街道の夜において、見知らぬ他者は警戒すべき対象であり、交代で見張りを立てるのは旅人の絶対的な常識です。


 焚き火の傍らで、エリカは平らな石板にチョークで数字を書き込んでいました。

「いいですか、バハルさん。今日仕留めた『フリョル・ヴィンド』の素材は、ギルドで銀貨12枚になります。私たちの共通の路銀を引き、5人で公平に分けると……さあ、一人何枚になりますか?」

「ええい……12を5で……。エリカ、俺の指は全部で10本しかねえんだ! 足の指まで使わせる気か?」

 バハルが巨躯を丸めて唸る姿に、ディオンとライナスは思わず顔を見合わせ、微かな笑みを漏らしました。

「バハルさん、計算ができないと、蒼海連邦『マリノ・ガルド』の商人に足元を見られてしまいますよ。あそこの商人たちは、この程度の計算なら瞬時にこなしますわ」

 エリカの知的な、しかし容赦のない指導に、バハルは「ひえぇ……」と情けない声を上げた。


 重苦しい一族の話や算術の難問に包まれた空気を、アルベローゼが鮮やかに塗り替えました。

 彼女は音もなくディオンの背後に忍び寄ると、その首筋に冷たい「何か」を押し付けた。


「ひゃっ!? ……アルベローゼ、なんだよこれ」

「あはは! ディオン、いい声! ほら、草原にしか咲かない『氷露草アイス・リリィ』だよ。夜になると凍るくらい冷たくなるの」


 彼女はバハルの頭の上にもその花を放り投げ、騒がしく笑いました。


「あんたたちさ、呪いだの元凶だのって、夜の空気を重くしすぎ! 私、そんな暗い話を聞きに旅に出たんじゃないよ。せっかくの初めての野営なんだから、今は美味しい干し肉と、このバカなバハルの顔を楽しめばいいじゃない」

 

 アルベローゼは三人の宿命を知っていますが、だからこそ、彼らが「明日への恐怖」ではなく「今この時」を笑って過ごしてほしいと願っていました。


 笑い声が落ち着くと、ディオンは表情を引き締め、腰の剣を確かめた。

「……さて、遊びはここまでだ。アルベローゼの言う通り、今は休もう。だが、ここは野良のヴィルヘル(魔物)の出る可能性もある。少し離れたあの一団への警戒も解けない。……最初の見張りは僕が立つ」


「二番手は私が引き受けよう。ディオン、君は明日の山越えのために体力を温存してくれ」

 ライナスが静かに杖を手に取りました。

「三番手は私が行きます。……アルベローゼさん、四番手をお願いしても?」

 エリカの問いに、アルベローゼは木の上へ軽やかに飛び移りながら答えた。

「いいよ! 私、夜目が利くからね。変な魔物や、あっち(商隊)が怪しい動きをしたら、すぐに氷の木の実をぶつけてあげる!」


 静まり返った草原の夜。

 遠くで魔物の遠吠えが響き、焚き火が揺れる中、五人は交代で深い闇を見据えました。

 300ラインの旅、その最初の一夜が更けていきます。

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