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第46話 さよならも言わずに、闇は晴れて

 静寂が支配する研究所の最深部。

 魔王は消え、五十柱の醜悪な魂も次元の塵となりました。

 システムは完全に沈黙し、ドローンの光も消え果てました。

 生き残った仲間たちは、その場に崩れ落ちていました。

 右腕を失ったリニ、全身を貫かれたバハル。

 傷はいずれ魔法で癒えるでしょう。

 しかし、心に刻まれた「喪失」という傷は、あまりにも深く、残酷でした。


「ディオン……アル……そんな、嘘よ……!」

  エリカは半狂乱になり、二人が消えた虚空を掻き毟るようにして泣き崩れます。

 バハルもまた、血まみれの拳で床を叩き、親友の名を叫び続けました。


 その慟哭の中、ライナスだけが、震える手で自らの聖杖を掲げました。

「まだだ……まだ、終わらせはしない。彼女は、あのアルベローゼが、無策で死を選ぶはずがないんだ」

 ライナスの手に握られたのは、古代の叡智が宿る神杖リヒト・ウルアンサズ。

「これは、命を約束する神の杖。アルベローゼが次元消滅の禁忌を使ったのは、この杖にすべてを託していたからだ……!」


「リニィーーーすべてを貫く槍――スールン・ハガラズで、アルベローゼが消えた次元を貫けーー!」

 リニは未だ片腕のまま、すかさず全力で、その空間に槍を突き立てました。

 空間に亀裂が入り、緑色の光が漏れています。

 槍が緑の光に触れると、槍全体に亀裂が走りました。


 神杖リヒト・ウルアンサズこの杖には、ある「奇跡」が秘められていました。

 術者が自らの死因と消滅の時間をあらかじめ確定させ、その決められた時間内、杖を「自己崩壊」させることを条件に発動すれば、理を越えて強制的に蘇生を成し遂げる――伝説に謳われる最果ての救済。

「アルベローゼは蘇る。この杖が崩れ去った場所に、彼女は還ってくるんだ。……だが、ディオン、君は……」

 ライナスは唇を噛みながら槍がまだ刺さっている空間に杖を投げ入れました。

(蘇生魔法など、本来なら聞いたことも無い……子どものおとぎ話だ)

 刹那、杖が白い光に包まれ、杖と槍、緑色に光る崩壊した次元の全てが消え去ります。

 アルベローゼは伝承の通りなら万に一つだが、蘇生が叶うかもしれない。

 しかし、ディオンは神杖の契約者ではありません。

 アルベローゼの作り出した別次元へ飛び、その次元崩壊にアルベローゼと魔王と共に飲み込まれたのです。

 理論上、彼の蘇生はあり得ない。

 仲間たちが祈り、絶望と、一握りの希望に縋り、目の前の空間を見つめ続けていたその時、ライナスが、彼とは思えない大声で叫びます。


「来る……!」

 そこには、何もないはずの虚空から、もつれ合うようにして「二人」の影が転がり落ちました。

「……え?」

 エリカの涙が止まりました。

 床に横たわっていたのは、全裸のアルベローゼ。

 そして、彼女を守ろうしているように、折れんばかりの力で抱きしめたまま、同じく全裸で意識を失っているディオンでした。

 理由は分かりません。

 アルベローゼの愛の深さが次元の壁を歪めたのか、あるいは神杖の奇跡が、彼女を強く抱きしめていた「命」をも彼女の一部と見なしたのか。

 二人は同時に、この世界へと繋ぎ止められたのです。

「……よかった……本当に、よかった……!!」

 感極まったライナスがその場に膝をつこうとした瞬間、背後から「うおおおおお!」というバハルの怒号と、エリカ、リニの歓喜の叫びが襲いかかりました。


 重すぎる仲間たちがライナスの真上から雪崩のように降ってき、感動に浸る間もなく彼は下敷きになります。

「痛い! 重いっ! みんな、離れて……!」

 その騒ぎに当てられたのか。

 重なり合って眠っていた二人の瞼が、ゆっくりと持ち上がりました。

「……ん……ディオン……?」

「アル……ベローゼ……ここは……?」

 目覚めた二人は、互いが一糸まとわぬ姿で抱き合っていることに気づき、そして自分たちが生きているという奇跡に、頬を紅潮させて見つめ合いました。

 お互いに目を見開いて相手の全身を見つめて、口をぱくぱくさせています。

 そこに、ライナスを轢き潰した後のバハル、リニ、エリカが雪崩のように上から降り注ぎました。


 ライナスが呆れます。

「リニ、とりあえず腕を治そう。それにしても痛くないのか?良く腕がないままで仲間を抱きしめようとするものだ」

 リニは「えへへ」と照れ笑いをしています。

 

 バハルが泣きながら笑っています。

「ガッハッハ!仲間の前で裸で抱き合うとは。相変わらずお熱いぜ!」

 地下の暗闇の中、壊滅した研究所に、今度こそ本当の、そして最高に騒がしい勝利の笑い声が響き渡りました


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