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第41話 背中を預ける誓い

 聖都ルーン・ヴィークの王城内に、女王エレオノーラが英雄たちのために用意した三棟のコテージ。

 ここで過ごした二週間は、世界中の騎士団が血を流して繋いだ、命よりも重い「最後の平和」でした。

 三組の仲間たちは、最後になるかもしれない「ただの人」としての時間を、愛する者と共に過ごしました。


 ディオンとアルベローゼのコテージでは、湯上がりの柔らかな時間が流れていました。

「ねえ、ディオン。出発したら、また私、お風呂にも入れない不潔なエルフに戻っちゃうわね」

 冗談めかして笑うアルベローゼに、ディオンが真剣な眼差しを向けました。

「そんなことはないさ。僕にとっては、どんな時も君が一番美しい。泥にまみれていても、戦いの中にいても、君が世界で一番綺麗だよ、アルベローゼ」

「…………っ!!?」

 次の瞬間、アルベローゼの顔が沸騰したかのように真っ赤に染まりました。

「な、ななな、何言ってんのよ! もう、そういう嘘はいいってばぁぁ!!」

 彼女はソファの上で転げ回り、身悶えしながら叫びました。

「恥ずかしすぎて死んじゃう! 次元を開く矢で自分を射抜きたい気分よ! ……でも、……っ、ありがとう……」

 最後は、被った毛布の中から蚊の鳴くような声で呟き、顔を両手で覆う彼女を、ディオンは穏やかな微笑みで見守っていました。


 バハルとリニのコテージ。

「……おい、リニ。お前、本当に後悔してねえんだろうな」

 バハルの不器用な問いに、リニは穏やかに首を振りました。

「あなたを一人で残して、どこかで守られるくらいなら、あなたと一緒に終わる方がずっと幸せです」

「……ちっ、お前って女は」

 バハルは情熱を込めて彼女を抱き寄せ、深くキスをしました。

 「いつまでも一緒だ」という誓い。

 たとえそれが、最後に二人で迎えるのが戦場での死であったとしても決して離れないという覚悟が、そこに込められていました。


 ライナスとエリカのコテージ。

「エリカ。僕が選んだこの道は、君をどこまでも暗い場所へ連れて行ってしまう」

「ライナス様そんな顔をしないで。深淵の闇がどれほど深くても、あなたの温もりがあれば、私は何も怖くありません」

 二人は静かに肩を寄せ合い、これから始まる一千二百ラインの旅路を、固い決意で見据えていました。


 出発二日前。

 六人はリニの腕によりをかけた料理と、最高級の酒を囲みました。

「覚えてる? あの時、バハルがヴィルヘルの返り血で滑って転んだ時の顔!」

「おいアル、それを言うな!」

「顔から着地した挙句、踏んづけたヴィルヘルの生首がスポーンって飛んで、バハルの頭の上に綺麗に乗っかったのよね!」

 一同の爆笑が響き渡ります。

「……ふふ、あれは面白かったな。バハルのあんな姿は……プププ。ダメだ、笑いが止まらないよ」

 ディオンまでもが涙を流して笑い、バハルは真っ赤な顔で酒を煽りました。

 しかし、笑い声はやがて静かな涙へと変わります。

「……おかしいな。なんで涙が出るんだろ」

 死ぬかもしれない。

 おそらく帰れない。

 それでも、この絆に辿り着いた自分たちが誇らしくて、彼らは涙が枯れるまで笑い続けました。


 出発の当日。

 城門の前には、女王エレオノーラと重鎮たちが並んでいました。

 アルベローゼの異空間収納には、薬品に加え、バハルたちのリクエストによる大量の生肉や鮮魚お菓子が詰め込まれています。

 ディオンの腰には修復され魔力が溢れんばかりの復活した愛刀。

 バハルの手には職人が技術の粋を凝らした最高の大楯。

 彼らの脳裏には、地獄と化した地下の情景が浮かんでいます。

「父さん、母さん、見守ってくれ」

 ライナスが呟きます。

 アルベローゼが静かに弓を構え、虚空を射抜きました。

 空間が剥がれ落ち、漆黒の孔が口を開けます。

「……行こう。みんなの明日を、誰にも奪わせないために」

 アルベローゼの言葉は、自分たちを縛る宿命ではなく、未来を願う響きでした。

「祈っています、英雄たち……。いいえ、愛しき友よ」

 女王の声を背に、六人は一度も振り返ることなく歩き出しました。

 アルベローゼが開けた次元の漆黒へと吸い込まれていく彼らの背中は、悲壮でありながら、どんな朝日よりも眩しく輝いていました。


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