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第21話 海王の調理、重力と雷鳴の晩餐

 咆哮とともに海王『フルム・ハヴギュヴァ』が海面を割った瞬間、その体表から漏れ出す微弱な回復魔法の余波を受け、周囲に漂っていた小魚の死骸が「生ける屍」となって数千匹も浮上し始めました。


「……死してなお安らげぬとは。浄化の光を」

 ライナスが静かに『福音の灯火』を掲げると、神聖魔法の波動が海面を走り、小魚ゾンビたちは光の塵となって消去されていきます。


 その傍らで、アルベローゼはまたも鼻歌混じりに指を動かしていました。

「ヌルヌルが嫌なら、全部剥いじゃえばいいのよね。……えいっ!」

 彼女が放ったのは、高度な古代魔導エルフ文字が刻まれた七発の重力制御矢。

 この矢が海龍の巨体に突き刺さるやいなや、驚天動地の光景が広がりました。350ガルイ(350メートル)の巨躯が目に見えない力で海上に固定され、そのまま宙吊りになったのです。

 さらに、強力な重力場は体表を流れる油分をも引き剥がし、空中で巨大な油の球体をいくつか作り上げました。


「エリカ、やっちゃって!」

「了解です! …… 『ラグナ・ヴォルテクス・スヴェイズ』!!」

 エリカが聖遺杖アステリアから発動させた、蒼白い雷柱が海ごとフルム・ハヴギュヴァを貫いた。

 油を剥がされ無防備になった海龍の身を雷光が貫き続ける凄まじい熱量によって、海王は中までこんがりと焼き尽くされました。

 バチバチと空気が爆ぜ、海が沸騰し、船に乗っている者たち全員の視界が白銀に染まります。


(殺意は湧くけど、コントロールが出来る!なんてすごい杖なの)


「…………」

  またしても、ディオンとバハルは抜いた武器を握りしめたまま、ポカーンと立ち尽くすことしかできませんでした。


 マリノ・ガルドへ帰還すると、即座に謁見の間へと招かれました。

「まさか、あの海王を一兵も失わずに討つとは……」

 王は震える声で称賛し、英雄たちに金貨10,000枚を下賜しました。

 さらに、回収された海王の鱗を用い、特殊な回復効果を持つフルム・ハヴギュヴァの革が特殊な技術で回復魔法を維持したまま加工されます。

「これを砂の国のミスリルと合わせて防具をあつらえると良い。」


 サハラ・シュタール行きの便が出るまでの間、五人はこの水の都で束の間の休息を取ることになりました。


 ところが、数日。

 夕飯時になってもバハルが帰ってこない日が続きました。

 夜中まで連日飲んでいるようです。

「あの筋肉馬鹿、どっかで酔い潰れて倒れてるんじゃないでしょうね?」

 アルベローゼが呆れ顔で言い、仲間たちが心配し始めたその時。

 バハルが、一人の女戦士を連れて宿に現れました。


  彼女は十九歳、海軍所属の槍使いで、名はリニ・フェル・フィア。

 北方の小国の血を引く白い肌に、海の青を映したような瞳が印象的な女の子です。

 身長は2.07ガルイ(2m7cm)

 彼女はバハルの大きな背中に隠れるようにして、もじもじと指を弄んでいました。

「みなさん、よろしくお願いします。妻のリニです。槍と料理が得意です」

 仲間たちが呆気に取られていると、バハルは戦士の手袋を外して頭をかき、事も無げにこう言い放ちました。


「……おれ、結婚してきた」

 宿の食堂に、アルベローゼとエリカの絶叫と、ライナスの手から杖と茶杯が落ちる音が響き渡りました。

 ガン!

 ディオンはどこかに頭をぶつけたようです。


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