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第18話 飛空艇団、黄金の航路へ

 女王エレオノーラとの謁見を終えた一行は、その足で王族御用達の武器屋『聖獅子の牙亭』へと向かいました。

「金属が魔力の流れを損なう」という魔導の理に従い、店内には伝説の魔獣の革や、聖なる樹木から紡がれた布を用いた、一国に数点とない至宝が並んでいました。


 五人は賜った金貨6,000枚を使い、これからの旅を共にする「刃」と「衣」を整えました。


 エリカは、汚れを寄せ付けない純白の法衣。

 精神を安定させる月光石の髪飾りに、魔導による妨害を無効化さる月明かりの魔導ブーツ。

 そして女王より授かった聖遺杖アステリア。


 ディオンは、王家の加護が宿る、重厚な獅子紋様の魔導マント。


 バハルは踏み込みの衝撃を殺し、加速を助ける怪鳥の革靴と、確実なグリップを約束する戦士の手袋。

 

 アルベローゼは動きを邪魔しない竜皮の軽鎧と、炎を退ける耐火マント。

 雪白銀糸の手袋と靴。

 そして背には、女王より託された世界長老樹の弓。


 ライナスは膨大な回復魔力を蓄える聖宵闇の法衣。

 足元は邪気を遮断する大いなる聖歩の革靴。

 手には聖属性魔導杖福音の灯火。


 飛空艇の出発まであと三週間。

 街中にはディオンとライナスの肖像画が溢れ、二人は王都全女性の憧れの的となっていました。

 一部の貴族令嬢から広まった「美しすぎる英雄の貴公子兄弟」の噂により宿『白亜の揺り籠亭』の前は、連日、着飾った貴族の令嬢たちや町娘たちで埋め尽くされます。

「ディオン様! 私のこの刺繍入りのハンカチを受け取ってください!」

「ライナス様、どうか……せめてこの手紙だけでも!」

 ディオンは、持ち前の誠実さで律儀に応対しようとして、かえって令嬢たちのハートに火をつけてしまいます。

 一方のライナスは「邪魔だ。道を開けてくれ」と氷のように冷たい態度。

 しかし、それが逆に「クールで素敵!」と令嬢たちの独占欲を煽り、宿のロビーにはライナス宛の貢物と手紙が山のように積み上がりました。


「……たく、見てらんないわね!」

  窓からその様子を見ていたアルベローゼが、いつものいたずらっ子らしい態度で叫びます。

「あんたたち! 英雄の修行を邪魔するんじゃないわよ! 」

 アルベローゼの叱咤に令嬢たちは「あのエルフ女、なんて不遜な……!」とライバル心を燃やしますが、もちろん手出しはできません。

 エリカは、ライナスに届いた膨大な手紙を整理しながら、苦笑いを浮かべていました。

「アルちゃん、そんなに怒ったら喉が枯れちゃいますよ。……でも、皆さんが夢中になるのも分かるかもしれません。」と苦笑。


 出発の前日、一行は再び聖図書館へ向かいました。

 二十名の選ばれし司教たちが魔王の情報を追う中、大司教ヴァルディスは厳かに告げました。

「大変なことが分かってきました。しかし、まだ時間が足りません。ディオン殿、あなた方は陛下のご命令により三大大国を全て回るはずですな。でしたら、あなた方が戻る頃には、我々も調べ終えているはずです」

 

 そして迎えた出発の日。

 王都の浮遊港には黄金の獅子を戴く旗艦『グラン・レガリア』を中心とした四隻の飛空艇団が停泊していました。

 

 王都の北に位置するルーン・ドックは、夜明け前から異常な熱気に包まれていました。

 ドックに鎮座するのは、黄金の獅子を戴く旗艦『グラン・レガリア』。

 魔導推進ルビーが脈動するように深紅の光を放ち、周囲の護衛艦三隻も抜錨の準備を終えています。

「……すげえな、本当に空を飛ぶんだな」

 バハルが靴を鳴らし、タラップを駆け上がります。

 背後では、ディオンから強奪した世界長老樹の弓を軽やかに背負ったアルベローゼが「バハル、あんた落ちないようにしなさいよ!背中に紐つけといてあげようか。」といたずらっぽく笑っていました。


 五人が甲板に足を踏み入れると、整列した乗組員たちが一斉に敬礼で迎えます。

 中央のブリッジから現れたのは、顔に深い傷跡を持つ歴戦の艦長でした。

 彼はディオンの前で立ち止まり、敬礼をします。

「英雄の皆様、ようこそ『グラン・レガリア』へ。……これより先、皆様の命、我ら第一飛空艇団が預かります。……艦橋ブリッジへ! 出航準備!」

 艦長の鋭い号令が飛ぶと、甲板員たちが一斉に動き出しました。

「魔導炉、圧力上昇!」

「魔導ルビー同調率、安定!」

「全艦、係留解除!」

「魔導ルビーから、艦尾魔導エネルギー放出口へ魔力解放」

抜錨ばつびょう! 全艦、微速前進!」

 艦長の力強い宣言とともに、巨大な船体が振動し、重力から解き放たれました。

 エリカは仲間たちと共に、ゆっくりと遠ざかる王都の街並みを見つめました。

 眼下では、最後まで手を振る令嬢たちの群れと、大聖堂の塔から見送る大司教の姿が小さくなっていきます。


 雲海の上へ出ると、船内は驚くほど静かになりました。

 貸し切られた特等客室のサロンでは、エリカとライナスが積み上げられた「ある山」を前に途方に暮れていました。

「……ライナスさん、この最高級の羽ペン、二十ダースはありますよ。それにこの茶葉……黄金砂国の一級品ばかりです」

 エリカが困ったように笑いながら、令嬢たちから贈られた大量のプレゼントを整理しています。


「適当に処分してくれ」

 ライナスは宵闇の法衣を整え、窓の外を流れる雲を見つめたまま素っ気なく答えます。

 しかし、エリカはその隣に置かれた一通の手紙に目を留めました。

「でも、この手紙には『ライナス様の魔法で、いつか私の病を……』

 なんて切実な願いも書いてありますよ。

 さすがに全部捨てるのは、ライナスさんでも気が引けるんじゃありません?」

「ふふん、ライナスってば本当、罪な男ねぇ」

 そこへアルベローゼが、世界長老樹の弓を壁に立てかけながら、ニヤニヤと近づいてきました。 「あんたが冷たくすればするほど、あの子たちは燃え上がるんだから。ねえディオン、あんたに届いたこの大量の『愛の贈り物』、どうするつもり? 」

「アル、茶化さないでくれよ……。僕だってどうしていいか分からないんだ」


 ディオンは獅子紋様のマントを脱ぎ、苦笑いしながらソファに沈み込みました。

「ま、いいじゃない。せっかくの空の旅よ」

  アルベローゼはライナスのプレゼントの山から勝手に一級品の茶葉を手に取りました。

「これ、さっそく淹れましょうよ。私たちの門出を祝して、令嬢たちの貢ぎ物でティータイムってわけ。バハル! あんたも床に転がってないで、プレゼントの山からお菓子探しなさい。」

「いや、気持ち悪いんだよ。吐きそう。うぷ」


 皆が気になっている事がありました。

 ライナスが両親の真実を知ったあの日以来、偽善とも感じるような虚無感のある優しい物腰や丁寧な言葉使いがなくなって、少し冷たくなってしまったと。


 エリカは一人だけ少し違う事を考えています。

「最近のライナス、もともと、ガラス細工みたいで影がある美形なのに、こんな性格や物言い。これはクールでかっこいいかもしれない」

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