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第16話 聖なる謝罪、愛という名の檻

「三日後の陽光の行進(午前9時)、謁見の予定が入っております。王城へお越しください。……女王陛下が、直々にあなた方とお会いになります」

 ヴァルディス大司教は、威厳と深い慈しみを湛えた声でそう告げました。

 その言葉の重みに、一行は逃げるように大聖堂を後にしました。

『白亜の揺り籠亭』に戻ると、バハルは受付に掠れた声で告げました。

「食事と、それから大量の酒を……。至純の予祝(11時)に、俺たちの部屋へ持ってきてくれ」

 部屋に戻り、思い思いに湯を浴び、汚れを落としても魂にこびりついた「黒い影」の気配は消えません。

 やがて、メイドたちが料理と酒を運び終え、重い扉が閉まって完全な密室となった瞬間、共有スペースにディオンの慟哭が響き渡りました。

「……う、ああ……母さん、父さん……っ! ごめんなさいなんて、そんなのあんまりだ……!」


 エリカもまた、自分を「原初の厄災」だと責め、涙を流しました。

 しかし、そんな二人を支えたのはバハルの激しい叱咤であり、アルベローゼの迷いのない言葉でした。

「馬鹿野郎ども。生きて欲しいから助けたに決まってんじゃねぇか。」

「自分を責めるなんて、命を削ってまであんたを救い出したセレスティナへの侮辱よ。あんたが大事だからに決まってるでしょ」


 アルベローゼは、震えるディオンの手を力強く握りしめました。

 ライナスもまた、静かながら揺るぎない覚悟を口にし、バラバラになりかけた五人の心を一つの「希望」へと繋ぎ止めました。


「……分かった。もう、迷わない」

 ディオンが涙を拭い、酒を煽りました。

 父たちが命がけで守ったこの体を、二度と絶望には渡さない。

 そう誓い合い、彼らは夜が明けるまで語り、飲み明かしました。


 静まり返った夜の帳の中で

 やがて酒が尽き、一人、また一人と重い足取りで自分のベッドルームへと引き上げていきました。

 共有スペースの灯りが消され、静寂が宿を包み込みます。

 しかし、その静寂を切り裂くような微かな音が、隣り合う部屋の壁越しに漏れ聞こえてきました。

 ライナスの部屋からです。

いつも冷静沈着で、一行の「知」と「静」を体現していたあのライナスが。

「……っ……母さん……。……母、さん……」

 押し殺したような啜り泣き。そして、祈るように繰り返される母の名。

  10歳の時に母を失い、その後、幼い弟のディオンに「呪い」を渡し、罪悪感で苛まれ続ける地獄を味わっていた彼。

 仲間たちの前では決して見せなかった、「セレスティナの息子」としての、幼かった時に刻まれた痛切な悲しみがそこにありました。

 母が命を削って自分に封印を施した時、どんなに恐ろしかったか。

  自分を「救う」ために、母がどれほどの絶望の中で死んでいったか。

 大好きだった、優しくて、どこか抜けていた底抜けに明るい母。

 その母の香りがする気がする聖典を抱きしめ、ライナスは暗闇の中でただ独り、壊れた子供のように泣き続けていました。


 壁越しにその声を聞いたディオンも、エリカも、そしてバハルもアルベローゼも。

 誰もその部屋の扉を叩くことはできませんでした。

 ただ、それぞれが闇の中で、一族が紡いできた血の重みと、親たちが残した凄絶な愛を噛み締め、眠れぬ夜を過ごすしかありませんでした。


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