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第14話 特別な仲間、特別な独占欲

 軟禁という名の贅沢な八日間。


 宿の食堂では、連日のようにエリカによる熱血指導が行われていました。

「バハルさん、いいですか? 私が王都にいた頃、この魔力結晶は金貨五枚でした。それが四つなら……?」

「……おう、ええと……とりあえず、一晩中飲めるくらいの額か?」

「違います! 金貨二十枚です! もう、飲み代に換算しないでください!」


 エリカが呆れ顔で教える隣で、ライナスは静かに古書をめくっています。

 ランプの光がその銀髪をなぞり、冷徹なまでに整った横顔が露わになるたび、遠巻きに眺めていた若い給仕や令嬢たちから「……っ、素敵」と溜息が漏れました。


 エリカはそれに気づき、なぜか胸の奥がチリリと痛みます。

(ライナスさんは、昔からこうだった。母上たちから学んだ知識を共有できる唯一の人。その知的な眼差しに、幼馴染の私でも息が詰まりそうになるのは……きっと、この人があまりに綺麗すぎるから。……そう、ただそれだけのはず)


 ある午後、噴水広場で休憩していた二人の前に、赤い帽子に赤い制服を鮮やかに纏った一団が現れました。

 それは、かつてエリカを必死に引き留めた魔導師団の魔導士であり、エリカの親友たちだった。


 彼女たちが身に纏うのは、魔導師団の中でも特にエリートで構成される「治安維持魔導大隊」、通称『赤』の制服です。

 街を巡回して魔導犯罪の摘発を行う彼女たちは、赤いトリコーン帽に赤いマント、腰には赤鞘のサーベルを帯び、手には赤いショートロッドを携えている。

 さらに赤い手袋に赤いブーツ、女性は赤いプリーツスカート(男性は乗馬ズボン)を履きこなし、その他を白と黒で基調としたその装束は、王都において羨望の的であった。

 その華やかさから女性人気も極めて高く、彼女たちはまさに街の華といえる存在だ。


「エリカ! 戻る気になった? ……それとも、その隣にいる貴公子が理由で村に帰ったのかしら?」


 冷やかし半分に声をかけた親友たちを前に、エリカは突然の再会に混乱し、言葉を失ってしまいました。

 すると、ライナスが本から顔を上げ、微笑みながら優雅に一礼する。

「彼女は僕たちにとって、代えのきかない大切な仲間なんだ。どうか、魔導師団に連れて行くのを許してほしい」


 ただの信頼を口にしただけのライナスの微笑みに、王都最高峰の才女たちは顔を真っ赤にして絶句した。

 彼女たちは完全に恋に落ち、言葉一つ発することができぬまま、夢見心地でふらふらと去るしかありませんでした。

 それを見送るエリカは、顔を赤らめて俯くばかりです。


(……あれじゃ、まるで私がこの人にとって、本当に特別な存在みたいじゃない。……心臓がうるさすぎるわ)

(でも、あの子たちは私の思い出の中の大切な親友達。あの子たちは「赤」になったのね。おめでとう。呪われている私が関わってはいけないわ…………)


 一方、竜の目抜き通りでは、アルベローゼに連れ回されるディオンが令嬢たちの熱い視線に晒されていました。

「あ、あの! もしよろしければ、我が公爵邸の茶会にいらしてはくださいませんか?」


 高級パイの店の前で呼び止められたディオンは、両手に抱えた大量のお菓子を見せて、困ったように眉を下げて笑った。

 その無自覚な笑顔に、令嬢たちは悲鳴にも似た溜息を漏らします。

 それを見たアルベローゼは、独占欲を隠そうともせず、ディオンの細くも鍛え抜かれた腕をがしっと掴みました。

「さっきさぁ、鼻の下伸びてなかった?」


 アルベローゼは、わざとディオンの腕を自分の柔らかな胸に押し当てるようにして、下から覗き込みました。

「っ!? ……ア、アル! 近いよ、離してくれ!」

 一瞬で顔を真っ赤にして狼狽えるディオン。

 アルベローゼは、彼の腕を通して伝わる激しい鼓動を感じながら、火照った顔を隠すように彼を引っ張っていくのでした。


 残光の境界(十八時)の鐘と共に宿に戻り、贅沢な夕食を終えた後。

 テラスで木剣を振るうディオンの背中は、旅の間の実戦経験を経て、さらに父ガリアスの剛健さを受け継いでいるようでした。

 アルベローゼは窓辺で、月光に透けるディオンの横顔をじっと見つめていた。

(あたしだけが知ってるのよ。あなたがどれほど綺麗で、どれほど真っ直ぐか)


 エリカもまた、隣の部屋で昼間のライナスの言葉を思い出しては悶々としていました。

(ライナスさんは、私に何を思っているんだろう。私はただ、この人の仲間のひとり。彼の視線……何かが、この胸の中に溜まっていくみたいで、怖いな)

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