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初陣

 ヒナタに迫り来るのはレーザーアイ。今にも光線を発しようと、目を光らせているようだ。後ろを振り向いたヒナタは悟る。

 (死んだ……)

「はっ………!?」

 夢から目覚めたヒナタ。どうやら昨日レーザーアイに散々追いかけ回されたせいで、悪夢を見たらしい。その服は汗でべっとり濡れていた。

「うわぁ……もう一度シャワー浴びないと。」

 そんなヒナタの様子を見たキューネは突然ヒナタの前に姿を現す。

「あなたそんなところにいたの?」

 突然姿を現したキューネに驚くヒナタ。

「おはよう、ヒナタ。随分顔色が悪いよ?」

 自身がその原因であることに気付かず能天気に理由を聞いてくる目の前の精霊に、若干の殺意を抱きかけたヒナタだが、一応目の前にいるのは命の恩人だと、殺意をグッと抑える。

「あんたが昨日レーザーアイと追いかけっこなんてさせるからでしょ。嫌な夢見ちゃったわ、全く。」

「でもそのおかげでヒナタは魔石をゲットできて、シャワー付きの宿に泊まれたんだ。僕に感謝しなくちゃ。」

 そう言って胸を張るキューネ。そんなキューネにヒナタは拳骨を喰らわせる。

「いてっ!もう、こんないたいけな精霊をいじめちゃだめでしょ、全く。いてててて。」

 そう言って頭をすりすりするキューネ。

「何がいたいけな精霊よ。」

 ヒナタの顔を見たキューネが言う。

「夕べはよく寝れたみたいだね?」

「疲れてたからね。それはもうぐっすり寝れたわよ。あんたも寝たりしないの?」

 少し悩む様子を見せるキューネ。

「睡眠みたいなことはしてるね。」

「みたいってどういうことよ?」

「人間とは体の作りが根本的に違うからね。僕にとっての睡眠は省エネモードみたいな感じだよ。」

「ふーん。」

 部屋に沈黙が漂う。辺りを見渡したヒナタは昨日の出来事について回想する。

「ねえ、キューネ。」

「うん?」

 顔を横にひょこっと傾けるキューネ。

「私、強くなりたい。」

「それは随分と急だね。」

「他のみんなが私をぞんざいに扱えないようになるまで、私、強くなりたい。だから、キューネ、私を手伝って。」

 キューネを見つめるヒナタ。その目には固い意志が宿っていた。するとキューネは頷いて言う。

「うんうん。元々そのために僕がいるんだ。これから農業を始めますなんて言われても、僕にできるのは肩こりをちょびっと解消したり、筋肉痛をほんのちっと和らげたりするだけ。でも魔物が相手なら僕の専売特許。一緒に頑張ろう。」

 目を見つめ合わせて数秒後、キューネが言う。

「とりあえず、まずは装備を買わなくちゃだね。」

「装備って、あのギルドの中で見た金色の盾とか?」

「あんな高いものは買えないけど、そんな感じ。とりあえず買うなら剣か弓だね。火力が出ないとレベル上げがしにくいから。どっちが使いたいとかある?」

 剣と弓を使う自分を想像してみるヒナタ。しかし、どちらも自身のイメージに合致せず、板挟みにあう。

「うーん……どっちも使ったことないから分からないわね。」

「なら剣がおすすめだね。経験がない初心者に弓矢はちょっとハードだからね。ご飯を食べたら武具屋で剣を買いに行こう。」

「一応短剣なら詐欺師から貰ったわよ?」

 自身を騙してダンジョン送りにした連中を詐欺師呼ばわりするヒナタ。その仕打ちを考えたら、その蔑称を貰うくらい安いものであろう。

「あんな錆びたの剣とは呼べないよ。武具屋で新しいのを買うんだ。ヒナタだっていつまでも僕におんぶにだっこなのは嫌でしょ?」

「まぁ、それはそうだけれど。」

「だったら、早いこと武器を買うのが一番だよ。ご飯を食べる前に依頼の受理だけ済ましておこう。人気スポットはすぐ取られちゃうだろうから。ちょっと情報端末を開いて。」

 ヒナタは机の上に置いた情報端末を取り出して、操作を始める。

「ちょっと、案外難しいわねこれ。」

 慣れない機械に困惑するヒナタ。キューネは暖かい目を向ける。

「あ、開けたわ。どれがおすすめ?」

 そう言って画面をゆっくりスクロールする。ヒナタのレベルで条件を絞り込んだ依頼掲示板に載せられた依頼を一瞥するキューネ。

「うーん……どれも微妙。」

「えー?ちょっと出遅れたかしら。昨日のうちにやっておけば良かった……しょぼん。」

 ヒナタは少し出遅れたと感じ、悲しそうな様子を見せる。キューネは言う。

「それもあるけど、ヒナタのレベルで受けられるのはどっちにしろ安全な地域ばっかりだね。経験値集めには美味しくない。」

「この中からマシなのを選ぶのならどれになるのよ?」

「うーん。まあ……これかなぁ……。」

 そう言って一つの依頼を指で指し示すキューネ。

「分かったわ。これね。」

 そう言って依頼受理の処理を進めていくヒナタ。

「必須レベルなんてものが無かったらもっと自由に選べるのにね。」

「一律で1時間ごとにお金を渡す以上、レベルで判断するしかないんだろうね。まあ、仕方がないよ。」

「はあ、朝からどっと疲れた。とりあえず、朝ごはん食べに行きましょうか。」

「そうだね。僕はよだれを垂らしながらヒナタのご飯を眺めておくよ。」

「あんた昨日ご飯は必要ないって言ってたでしょ。」

「あれ?バレてた?」

「何がバレてた、よ。白々しいわね。」

「えへへ。」

 こうして朝食に向かったヒナタとキューネであった。

 (ふう、満腹ね)

 そう言って自身のお腹をさするヒナタ。朝食を食べ終えたヒナタはキューネの案内で武具屋に向かっている最中であった。

 (本当にこっちであってる?)

 (さっき情報端末で確認したでしょ?もう忘れたの?)

 少しむっとした表情を浮かべるヒナタ。

 (あんなの一回じゃ覚えられるわけないじゃない。)

 (はいはい、そうだね。初心者用の武具屋はこっちで合ってるよ。)

 そうして歩き進める中、ヒナタはとあることを思い出す。

 (そういえば、今の手持ちいくらだったかしら?だいぶ使ったわよね?)

 キューネはヒナタの腰にかけられた袋を確認して言う。

 (宿代と朝食代を抜いて2340ヴァルだね。朝食に目玉焼きを付けなければ……)

 (仕方ないじゃない。美味しそうだったのだもの。)

 (ヒナタは食いしん坊なんだから。)

 (育ち盛りなのよ。仕方ないでしょ?それより、まだ武具屋には着かないの?随分歩いたわよ?)

 (もうすぐそこだよ。ここの角を曲がれば……ほらあった。ここだよヒナタ。)

 キューネが立ち止まる。建物を見たヒナタは率直な感想を述べる。

 (なんと言うか、汚らしいわね、本当に大丈夫?何かの拍子に潰れそうだけど。)

 (まあギルドのマップに載ってたってことは一応安全なはずだよ。一応ね。)

 (一応を強調するんじゃないわよ。余計ヤバく感じるじゃない。)

 (百聞は一見にしかず、だ。とりあえず入ってみよう。)

 そうしてヒナタは目線を建物に戻して扉を開ける。

「いらっしゃい。」

 そう言って応対したのは髭面の男性であった。3、40代であろうか。一応身なりはそれなりに整えているようだ。

「予算は?」

「え、いきなりそんなこと聞くの?あなた無作法なタイプ?」

「そんなこと言うお前も大概だろうが。予算を聞かねえと勧められるもんも勧められねえよ。」

「2300ヴァル以内。剣が欲しいわ。」

「それぽっちの予算であんな態度をとってたのか。全く、迷惑なやっちゃな。ちょっと待ってろ、今候補を探しに行ってやる。」

 (ちょっと、この人、言葉遣いがなってないわよ。)

 (方言だよ。前も思ったけどヒナタは本当に初対面の人に気を使わないね。)

 (そう?)

 (いかにもトラブルメーカーな喋り……いやなんでもありません。)

 ヒナタの手元で温められている拳を見て言葉を引っ込めるキューネ。

 (分かったらいいのよ。)

 そうすると裏から剣を何本か取り出して来た店主。机の上に持ち運んできた剣を並べる。

「左から順に1000、1300、1700、2000ヴァルだ。好きなのを買え。」

「ちょっと、何かおすすめとかはないの?一応店主でしょ?」

「もうちょっとマシなサービスを期待するならもう少しお金を持ってくることだな。これでも優しくしてやってる方だ。そっから剣を選んだらさっさと帰れ。次の客の用意をしなくちゃなんねぇ。」

 不服そうな様子を浮かべるヒナタだが、実際に貧乏人であることに違いはないので怒りを抑え込み、剣を品定めする。

 (ねえ、どれがいいと思う?)

 (うーん。1000ヴァルのと1300ヴァルの剣かな。予備は欲しいからね。)

「この1000ヴァルと1300ヴァルの剣を貰っていくわ。」

「ギルドカードも出せ…まいど。」

 そう言って近づいて来た店主にお金とギルドカードを渡すヒナタ。鞘にしまわれた剣を腰に纏わせる。

 (初心者シーカーらしくなってきたね。)

 (元々はどうだったのよ?)

 (職なしニート……プリティー少女です。)

 (そう。)

 目の圧力に屈したキューネ。

「ほら、商売の邪魔だ。買うもん買ったらさっさと帰れ。」

「分かったわよ。せっかちなんだから。」

 そう言って店を出るヒナタ。

 (あいつ、私が強くなったら絶対ペコペコさせてやるわ。)

 (そのためには早く強くならないとね。)

 (依頼はどこに集まればいいんだったのかしら?)

 (集会所だね。間引き依頼のD班。とりあえず、集会所まで向かおうか。)

 (バンバン経験値を稼いでやるんだから。)

 (その調子その調子。)

 そうして2人は集会所に向かう。

 (はぁ、はぁ)

 集会所に着いたヒナタ。時間がギリギリだったため全力疾走し、息が荒くなる。

 (もうちょっと、余裕、持たせて、おきなさい、よね)

 肩を揺らすヒナタ。キューネも少し申し訳なさそうな顔をしている。

 (いやーごめんごめん。いけるかなーって思ったんだけど、思ってたよりギリギリだったね。)

 (ふぅ。さっさと合流するわよ。ここまで来て置いていかれたら溜まったもんじゃないわ。)

 (そうだね〜。えーと、間引き依頼のD班だから……あれかな?)

 そうしてキューネが指を指した先には、間引き依頼の集会で、D班というフラッグを高々と掲げた集団がいた。

 (あそこね、よし、いくわよ。)

 (くれぐれも問題を起こさないようにね。)

 (分かってるわよ。)

 そう言って班の方に向かうヒナタ。するとリーダー格の男が自身の元に向かう一人の女を発見し声をかける。

「よお。お前、D班か。」

「そうよ。」

「名前は?」

「ヒナタよ。」

「ヒナタね。ちょっと待て。」

 情報端末に何か色々と打ち込んでいる様子のリーダー格の男。

「おっけー、出席登録しといた。こういう依頼は初めてか?」

「ええ、初めてよ。」

「次からは班に着いたらフラッグを持っている奴に出席登録してもらえ。そいつがその班の護衛兼指揮者の役割を持ってるからな。詳しい話はまた車内でしてやるから、とりあえずここら辺で待っといてくれ。」

「分かったわ。ありがとう。」

 リーダー格の男の指示通り、車の用意ができるまで待つヒナタ。

 (暇ねぇ。)

 (暇だねぇ〜。)

 周りを見渡すヒナタ。以前ギルド内で見かけたよりも貧相な武器を持っている者が多い。低レベル用の依頼であるため、周囲の人間のレベルも低く、必然と装備類も安価なものとなる。

 (何人かで依頼を受ける人もいるのね。)

 (そうだね。パーティーを組む人は少なくないよ。前衛は火力不足、後衛は守備力不足になりやすいからね。魔法師と剣士とか、弓士と剣士とか。)

 (盾を専用で使っている人とかいないの?)

 (あんまり見ないね。攻撃手段がないとレベルが上がりにくいから。盾を持ってる人も、基本的には攻撃手段を別で持ってて、いざという時に使うくらいの人のほうが多いよ。)

 (私もパーティー作ったほうがいいと思う?)

 (うーん。安全性は増すけど、経験値があんまりだね。まあ、命あってのシーカー活動だし、なしではないけど。)

 (そんなに経験値が美味しくないの?)

 (そうだね。本来貰える経験値よりはかなり少なくなっちゃう。)

 (へー、それは確かに微妙ね。)

「よし、車の準備ができた、出発するぞD班!」

 周囲の人間がリーダー格についていき、ぞろぞろと車に乗る。

 (いよいよ初陣だね、ヒナタ。)

 (前回のもカウントしなさいよ。)

 (あんな危険なものをシーカー活動として認識しちゃだめだめ。今回からが本当のシーカー活動だよ。)

 (それもそうかしら。よし、それじゃあいくわよ。)

 そうして車に乗り込む2人であった。

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