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タイラント

48

階層を下って80階層。ついにボス部屋の前までやってきた。重厚な扉が聳え立つ前で、作戦会議を始める。

「このまま攻略する? 疲れてない?」

「大丈夫よ。所々で休んでるから案外疲れてないわ。私はまだまだいける。レベルも……179まで上がったし、スキルを使えばどうにかなるわ」

「分かった。それじゃあヒナタのタイミングで開けていいよ」

 そうして最後の休憩を挟む。ボス部屋に入ると探知などの魔法系統は全て解除されてしまうため、先んじての準備は難しく、完全な実力勝負となる。そうして休むこと数分。居ても立っても居られなくなったヒナタは、遂に扉を開ける決断を下した。立ち上がり、扉の前に立つ。

「ズズズズ……」

 重い扉を開けて部屋の中に入る。

「グォォォォォォォオオオオオ!!!」

 大きな叫び声を上げる正体はタイラント。圧倒的な巨体を誇る、二足歩行の超大型魔物であり、推奨討伐レベルは200だ。背中から無数の触手を生やし、死角を完全に封じる構造を持つ。その一撃は地面を砕き、咆哮ひとつで空気を震わせる。低く唸るような声を響かせながら、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。ヒナタは唱える。

 (変速、セカンド)

 世界が遅くなる。ヒナタの目標は一つ。キューネが詠唱を終えるまでの時間とヘイトを稼ぐ事だ。タイラントに向かって走っていた、ちょうどその時。周囲が急に暗くなる。咄嗟に体ごと右に避けるヒナタ。

「ゴォォンッ!!」

 間一髪。どうやら上から拳が振り下ろされたらしい。タイラントの腕がヒナタの真横にまで迫った。そして、タイラントはそのまま腕を横に滑らせ、地面ごとヒナタをすり潰そうとする。が、変速(Ⅱ)を使ったヒナタの動体視力でギリギリ攻撃を避け、逆にその腕を切り刻む。

「グァァァアアアアアッ!!」

 悲鳴を上げるタイラント。どうやら完全に怒り狂ったらしい。キューネの魔力の高まりを無視して、ヒナタに夢中になる。腕を切り刻んだヒナタはすぐさま足元にまで潜り込み、足の腱を切り裂こうとするが、浅い。そのまま踏み潰されそうになる所を、タイラントの後方へ下がって逃げた。

 しかし、ちょうどその先。視界に映ったのは……非常に太い触手。視界全てが触手に染まる。近付かれすぎた。避けられない。

 衝撃が叩き込まれた瞬間――ゴキッ。体の奥で、何かが折れた。

 フロアの遥か端まで飛ばされたヒナタ。目を開ける。近づいて来るタイラント。寝てはいられない。すぐさま体を起こして動き始める。口に溜まった血を吐き出し、更なる拳を避ける。足場が悪い。地面が砕けており、辺り一帯がクレーターだらけなのだ。逃げ場もない。

 近付いて来る拳。ヒナタは全力で跳躍し、タイラントの腕の上に乗り立つ。そうして切り裂く。腕という腕を。タイラントは大声を上げて暴れ始める。が、知った事ではない。なんとか剣を突き立てて食らいつき、そのまま肩へとよじ登る。

 左手を拡張ポーチに入れ、飛び出す3つの魔法瓶。8桁ヴァルの魔法瓶がタイラントの右目を襲う。顔を抑え倒れ込むタイラント。ヒナタはその隙に、残った左目も剣で切り裂く。盲目。

 その瞬間、脳内に響くキューネの念話。

 (離れて!)

 咄嗟の動きでタイラントから飛び退き、距離を取るヒナタ。そうして放たれる特大の光魔法。閃光がタイラントを包み込む。光の中にタイラントの影が浮かび上がる。消える足。腕。顔。胴体。原型は消え去り、全てが光の粒子へと還元されていく。

 キューネが近づいて来る。

「やったね。ダンジョン攻略だ」

「本当ね」

「「イェーイ」」

 そうして2人でハイタッチをする。安堵して寝転がった、ちょうどその時。感じる。未体験の高揚感。自身の体の内側で、何かが劇的に組み替えられていく感覚。そうして数秒後。目を覚ます。

「ヒナタ、大丈夫?」

 キューネと目が合う。どうやら気絶していたらしい。

「もしかして……」

 ステータスを開く。

【レベル】  200

 

【スキル】 【夢】【変速(Ⅰ)】【変速(Ⅱ)】【優待者】【精霊使い】

      【誓約使徒〈エインヘリヤル〉】

 

【魔法】  【光魔法】【魔法障壁】

 顔を見合わせる2人。喜びを抑えきれないヒナタ。

「えー! レベル200。レベル200よ! すごくない!?」

「やったねヒナタ!」

 そうして興奮を露わにする2人。

「新しいスキルもあるわよ!」

「多分ネームドスキルだね。ヒナタは本当に幸運の持ち主だ。うん」

「ネームドスキル?」

「名前が付けられている特別なスキルの事。大抵、規格外に強力なスキルである事が多いよ」

「え、何それ最高じゃない。ちょっと、使ってみてもいい?」

「もう使い方が分かるの?」

「なんかさっき、頭の中に直接入ってきたわ。多分いける」

 そう言って立ち上がり、目を瞑る。そうして唱える。

 (顕現せよ――エインヘリヤル)

 空間が裂ける。次の瞬間、四つの影が地に降り立った。同じ姿。同じ気配。一切のズレもない。白き翼が同時に広がり、鋭い槍が揃って構えられた。絶対の忠誠を誓う軍勢。

「うわぁ、すごいわね」

 近付いて、エインヘリヤル達をまじまじと眺めるヒナタ。

 (眠れ――エインヘリヤル)

 影が溶けるように消える。

「なんか色々と使えそうね」

「きっとそうだよ。魔石だけ回収して、地上で試しちゃおうか」

「そうしましょう」

 そうしてタイラントの魔石を回収しようとした、その時。魔石のすぐ近くに一つの箱を見つける。

「これってもしかして」

「宝箱だね。今日は本当にラッキーだ」

「よし、開けるわよ」

 そう言ってすぐさま宝箱に駆け寄るヒナタ。その中から出てきたのは、一冊の本だった。

「魔法書だね」

「じゃああんたのね。はい」

「ん、ありがとう」

 そう言って本を開くキューネ。そしてその数秒後。

「終わった。回復魔法だね」

「あら、やったじゃない。ちょうど無くなって困ってた所だわ」

「今日は大豊作だね。魔石を回収して地上に帰ろうか」

「もちろんよ。ちゃっちゃと地上に帰りましょう」

 そうして莫大な戦利品を回収した2人は、地上へと帰還するのだった。

 (いたたたた)

 都市へ戻る護送車の中で、横腹を抑えるヒナタ。どうやらタイラントの触手で骨が折れていたのを、完全に忘れてしまっていたらしい。アドレナリンとは怖いものだ。キューネが全力で回復魔法をかけ続けている。

 (ちょっと、下手に動かないで。治りが遅くなる)

 (うう、ごめんなさイタタタタ)

 そうして都市に帰り着いた2人。まだ痛むが、歩ける程度には回復したので、ミツバに案内されていた指定の場所へと向かう。

 到着した先にあったのは、驚くほど豪勢なビルだった。かなり大きい。いったいいくらかかっているのだろうか。

 チリン。扉についたドアベルが鳴り、辺りを見渡すが、一階には受付の女性が1人いるだけだった。

「あのーすいません。ミツバさんっていますか?」

「どのようなご用件でしょうか?」

「魔石の換金に来て」

「失礼ですが、お名前は?」

「ヒナタです」

 受付の女性はピクッと眉を上げ、興味深そうにヒナタを見つめた。

「そうでしたか。代表のミツバならこちらに居ます。どうぞ」

 そう言って、中へ入るよう案内される。通路を歩き続けた、その一番奥の部屋。

「この部屋です」

 受付がノブに手をかけ、扉を開ける。ヒナタはそれに続いて中に入るが――

「ウヒヒ、ウヒヒ。この子胸おっきくてかわええな〜。おっと、こっちの子も捨て難いか。今日はどっちをおかずにしたろか。……ちょっとリアンちゃん、勝手に扉開けるんは辞めてっていつも言うてるや……」

 目と目が合う、ヒナタとミツバ。

 複数のモニターに映し出された美少女の画像。だらしない顔。

 全てを見られた。全てを見られてしまった。

 あぁ、どうしようどうしよう。

 あぁ、もういいか。

「……ヒナタちゃんも、一緒に見る……?」

 流れる沈黙。漂う気まずさ。成される決断。

「すいません、今日は帰ります」

 そう言ってきびすを返し、早歩きで部屋を出ようとした所、ミツバが後ろから半泣きで縋り付いてきた。

「ちょっと待ってーなヒナタちゃん! お願い、お願いやから! この誤解を解かれへんままヒナタちゃんに帰られてもうたら、うち恥ずかしくて死んでまう! お願いやから、な、な!」

「分かったからちょっと離れなさいよ! 骨が痛むの!」

 こうして、ミツバとの最悪の再会を果たしたヒナタであった。

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