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ミツバ

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宿に帰ったヒナタ。ベッドの上で転がりながらキューネと話す。

「どっと疲れたわ」

「お疲れ様」

「あいつ、よく私の前に顔を出せたものね。気にしてた私が馬鹿みたいじゃない」

「まぁまぁ。店員のミスだからね。仕方ないよ」

 どうやらカールの態度が気に食わなかったらしい。というより、自分の価値を蔑ろにした人物に対して過剰に嫌悪感を抱いていると言う方が近いかもしれない。どこか自分が舐められたように感じてしまうのだ。それが発展途上のヒナタにとっては自分の将来を否定されているのかのように映る。

「まぁいいわ。もっと強くなれば解決する問題よ。装備も買ったわけだし。今日のうちに明日の準備を済ませてしまいましょう」

 そういって情報端末を取り出す。そうして画面を開くと、どうやら見知らぬ相手から一件の着信があるようだ。キューネはそれを横からヒュッと顔を出して覗いてみる。

「どれどれ……ミズハからだね。内容は……」

 ギルドの応接室。机の上にはヒナタが売却した魔石が並べられている。

「ほんまおおきに。ちょうど高品質の魔石が足りん言うて困ってたところやねん」

 ミズハと向かい合うのはミツバ。大手物流会社の代表だ。ギルドからの仲介で見つかった魔石の卸先である。ミズハはその魔石を買い取った張本人のためミツバの接客を任されたのだ。

「いえいえ、こちらこそ。いつもお買い求めいただき有難うございます」

 魔石を物色するミツバ。感心した様子で言う。

「それにしてもほんまにすごいなぁ。これ、オルガの下層の変異体の魔石やろ? よくこんなに集められたね。今はダンジョン人気無いから集めるのにさぞ苦労したやろ?」

「えぇ、まぁそれなりには……」

 どこか歯切れの悪いミズハ。それに、魔石の出自について触れてからどうも表情が硬い。何かあると感じたミツバは更なる追求を始める。

「へー、そうなんや。いくらくらいでシーカーから買ったん?」

「全て合わせて5000万ヴァルで買わせて頂きました」

 どうやらそこに後ろめたいことはないようだ。滑らかな口の滑りと表情からそう判断し、さらに方向性を変えて問い詰める。

「まぁそんくらいはするわな。こんだけの魔石があれば結構な量の魔晶石が作れそうやし。特別に依頼を出したんか? それとも野良依頼で勝手に集まったん?」

 汎用討伐依頼を野良依頼と言うミツバ。すぐに脳内変換してミズハは笑顔を崩さぬまま正直に答える。

「特別な依頼を出した訳ではありません。ダンジョンに行ったシーカーにより集められたものです」

 どうやら嘘はついていないように見える。しかし、一つの単語が少し引っかかる。

「ダンジョンに行ったシーカー? シーカー達じゃなくてか? 1人でこんな量の魔石を集めてきた奴がおるんか?」

 この魔石の量であれば複数人で集めた筈であるのに対し、ミズハはシーカー達と言う事は無かった。その違和感をついたところ、どうやら当たっていたらしい。笑顔が一瞬崩れて、言葉も出てこないようだ。ニヤッと笑って言う。

「どうやら当たりみたいやな。闇取引の品か? そうやろ?」

「いや……その……」

 歯切れが悪い。どうやら図星らしい。真顔になって言う。

「うちのこと舐めてるん? 闇取引の品をうちに持ってくるなんて、うちのこと嵌めようとしているようにしか見えへんねんけど?」

 闇取引に加担したとなればその罪は重い。少なくとも、商会を畳むことにはなるだろう。闇取引をしている商会の商品など誰も買わないし、ほとんどの確率で都市に潰されてしまう。怒りを抑えて真顔で接しているだけまだ偉いのだ。焦ったままのミズハは頭をフル回転して言葉を捻り出す。

「いえ、その。疑いがあると言うだけで、まだ本当にそうなのかは分かりませんし」

 ミツバは少しイラッとした表情を見せて言う。

「疑いの時点でうちには持ってきたらあかんやろ。いざという時にどうやって責任取ってくれるつもりなん?」

 あまりの正論。ミズハは口答えも許されない。

「それにや、一度でこんな量の魔石を持ってくる奴なんてほぼ黒やないか。そいつの経歴調べたらすぐ黒やって分かるやろ」

「いえ、そのシーカーの経歴に特に怪しいところが見受けられませんでしたので。急成長を遂げているシーカーであるのは間違いないですが……」

「……はぁ。ちょっとそいつの経歴見せてみぃ」

 溜息を吐くミツバ。右手を出してよこせポーズを取る。

「えーと、いくらミツバ様でもうちのシーカーの情報を開示する訳には……少なくとも本人の了承がないと……」

「そいつが黒やったら何の問題もない。都市にその情報売って一件落着や。ええから見せてみ。うちも時間ないねん」

「……少々お待ちください」

 (全く、ギルドとの取引も考え直さんとやな。犯罪品を売ってくるような組織となんかよう取引できへんわ。はぁ。新しい仕入れ先探さんと……)

「これです」

 ヒナタのページが開かれた業務用情報端末。それを受け取ったミツバはヒナタの経歴を物色する。

 (うっわ、なんやこいつ。嘘にしてもやり過ぎやろこれ。どうなっとるんや)

 さらに情報を遡るミツバ。

 (闇取引にしてはちょっとやり過ぎやな。こんなんしたら目立つに決まってる。それが分からんほどのアホがバックにおるか、それとも……)

 どうやら1番後ろの情報にまでたどり着いたらしい。スワイプしても今の画面から動かない。

「こいつの戸籍とかはどこにあるん?」

「いえ、その方に戸籍はないようで……」

「戸籍がない? 不法移民か?」

「いえ、そういう訳では無いのですが……」

 どうやらまともに答える気はないらしい。それを悟り立ち上がって言う。

「ええわ。自分でやる。とりあえずこの取引も保留や。どこから流れてきたかも分からへん魔石なんか怖くて受け取れへんわ。悪いけどギルドの方で持っといて」

「承知しました。わざわざご足労いただき有り難うございます」

 そういってお辞儀するミズハ。それを背にコツコツと足音を鳴らせながらギルドを出た後、一本の電話を掛ける。

「ちょっと今時間あるか?」

「空いてなくてもやらせるでしょう? 今回は何の用事ですか」

 ジン。ミツバの商会の情報屋だ。

「調べて欲しい人間がおる。レベルは151。ヒナタっていう名前のシーカーや。オガララ都市在住のシーカー。そいつについての情報を調べてくれ」

「分かりました。調べておきます」

「どんくらいかかりそうや?」

「何も無ければ1時間あればいけると思います」

「了解。ほな頼んだで」

 そう言って電話を切る。

 ミツバ商会の自室。

「は〜、疲れたわ〜」

「お疲れ様です」

 リアン。ミツバの秘書だ。スケジュール管理や体調管理など、ミツバのパフォーマンスを上げるために様々な事をこなしている。

「やっぱクーラーガンガンの部屋はええなぁ。落ち着くわぁ」

「ミツバスペシャルです」

「ほい、サンキューな。ズズズ。うん、今日も最高の味や」

 ミツバスペシャル。ミツバが考案したジュースだ。甘いものが大好きなミツバのために作られた激甘ジュース。意外と市場にも需要があり、一部界隈では人気があると言う。

「それでは失礼します」

「おおきに〜、明日もよろしく〜」

 今日の業務を終えたリアンが帰る。自身も今日の業務を終えたためボーッとしていると、情報端末が揺れる。どうやら連絡が来たようだ。すぐさま情報端末を開き言う。

「ちょっと遅過ぎやて〜、もう私今日はオフやで」

「すいません。調べていくうちに面白い情報を見つけてしまって長引いてしまいました」

「へぇ。それはええこっちゃ。そんじゃあ今日の成果を教えてくれるか?」

「分かりました。まずギルドの件ですが……」

「うわぁ。やっぱりか。ギルド長が変わってからどうもきな臭い思っとったら。これは本格的に仕入れ先を考え直さんとやな。ほんでもう一個の方は?」

「はい、そちらですが、ヒナタというシーカーはドルムというギャングから10万ヴァルを受け取った事が判明しています。後はダンジョンに潜るたびに20以上レベルを上げて帰ってきています」

「なるほどなぁ」

「端的にいえば怪しさ満開ですね。近づかない方がよいかと」

「うーん……怪しい、って言うのは簡単やけど、闇取引の仲介人にしてはちょっと稚拙すぎると思わへんか?」

「自分もそう思います」

「それで、面白い事が分かったっていうのは何のことなんや?」

「はい。その事ですが、どうやらそのヒナタというシーカーはダンジョン送りにされた人間の1人だそうです」

「ダンジョン送り? 何やそれ、聞いた事ないな」

「はい。都市とギルドの裏取引ですから。増えすぎた移民、特に役に立ちそうにない人材をダンジョンに送って見殺しにする。そういう計画だそうです」

「うわぁ、酷い事するなぁ」

「仕方がない側面もあると思います。魔物の活性化で安全な都市に流れる人間は今も増え続けています。都市のキャパシティをオーバーする日も近いかと思われますし」

「まぁそれはそうやけど……ほんで、そのヒナタっていうシーカーもダンジョン送りにされたうちの1人やって?」

「はい。そうです。戸籍が無いのもダンジョン送りにされた際に消されたからだと思われます。その時にギャングに拾われたのかと。経歴に傷がないため仲介人にはピッタリですし」

「ふーん。なるほどなぁ……超有望なシーカーっていう可能性は?」

「無いとはいえません。闇取引の仲介人として使うならレベルをある程度一定のままにして使う方が怪しまれずに済みますし、そういう点では一応まともなシーカーである可能性も残っています」

「……一回会ってみるか」

「それ本当に言ってます? 分かってると思いますけど辞めておいた方がいいですよ。後々後ろから何が出てくるか分かりませんから」

「バックがあるんやとしても、こんな誰が見ても怪しい事やってる時点で馬鹿に違いない。小規模のアホがリーダーとかそんな感じやろ。そうやとしたらうちが潰せばいい、違うか?」

「確かに、それはそうですけど……」

「仮に有望なシーカーやとしたら、うちで抱え込みたい。ローリスクハイリターンや。ちょうど魔石の仕入れ先にも困ってたしな。意外といいビジネスチャンスになるかもしれん。なんか適当にそのシーカーと会える状況をセッティングしてちょうだい。私はもう寝るから。バイバイ」

 プチ。電話が切れる。ジンは溜息を吐いてパソコンと向かい合うのであった。

「今日はハズレの日だな。はぁ」

 ヒナタの情報に一通り目を通す。が、フックを見つけるのに難航しているようだ。椅子を左右に揺らしながら天井を見る。

「うーん。シーカーだとすればやっぱり依頼に頼るのが1番。でも普通の依頼だと断られる可能性もある。どうしたものか」

 もう一度ヒナタの情報を洗い直す。そうして目に止まる。

「ラカコ村。このシーカーの故郷だな。ここら辺に生息している魔物は……まぁいけるレベルだな。よし、この方向性で進めるか……」

「ミツバ商会からの指名依頼。内容はラカコ村の遺品整理。道中での道案内をお願いしたいらしいわ」

「どうする? 受ける?」

「……どうせだし、受けときましょうか。こういう機会じゃないと、行けないだろうし。いい機会だわ」

 なんて言葉ではいうが、心境は複雑なはずだ。自身の滅んだ故郷に訪れる事は決して喜ばれるようなものではない。忌避されて然るべきものだ。しかし、いつか処理しないといけない問題である。それをよく理解していたのだった。

 

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