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再会

43


「フリッジマーケットへようこそ。今日はどのようなご用件でしょうか」

 そう言ってお辞儀するカルラ。キューネはわざと少し高度を上げ絶景を眺める。

 (おっと、失礼)

 (失礼だと思ってるならさっさと頭を下げなさい)

 無理やりキューネの足を掴んで下に引っ張るヒナタ。

「前みたいに剣と魔法瓶が買いたいのだけど。予算はそうね……3000万ヴァルくらいかしら」

「さ、3000万ヴァルですか……少々お待ちください。倉庫を探して参りますので」

 そう言ってカルラは店の裏に抜けていく。

 (3000万ヴァルか……困ったわね。一から探さないと……)

 ヒナタに勧めるつもりであった剣と魔法瓶をしまうカルラ。3000万ヴァルという大金に対してカルラが用意した商品は安すぎた。いきなり予算が10倍になる事などそうそうないので、それも仕方のない事なのだが。カルラは情報端末をポチポチと操作して、予算3000万ヴァルに合う商品達に目星をつけてそれぞれクリックしていく。

 (よし。これで3000万ヴァル)

 そう言ってクリックした商品を倉庫から取り出して再度表に顔を出す。その間、ヒナタは宙を見ながらボソボソと喋っているようだ。

 (これって贅沢なの?)

 (装備とか必要なものを買ってから贅沢しないと、いざという時の予算が無くなると困るじゃない。一旦はこれでいいのよ)

 案外そういう所はしっかりしているらしい。

 (それにしても、店の裏にも商品があるのね)

 (防犯対策とかも含めてじゃないかな? 後は店の大きさ的に載せきれない位在庫があるんじゃない?)

 (えぇ、こんなに商品をいっぱい並べてまだ在庫があるなんて、売れ残ったらどうするつもりなのかしらね)

 (まぁ大丈夫だよ。カルラちゃんには素晴らしい魅力があるんだから、うん)

 そう言って自己解決するキューネ。ヒナタの軽蔑した目線を気にも留めない。それほどまでにキューネは巨乳という魔法にやられていた。そんなこんなしているうちに、カルラが裏から戻って来た。

 ヒナタと目が合ったカルラは商品をカウンターの上に置き、笑顔になって言う。

「こちら2000万ヴァルの剣と350万ヴァルの魔法瓶3つです。魔法瓶に内蔵された空間魔法にはそれぞれ雷魔法、氷魔法、炎魔法が格納されています。推奨討伐レベル180以下の魔物に対しては十分なダメージを与えられます。剣の方も以前同様、いや、それ以上に切れ味、耐久性に優れた一品となっております。端数を切り捨てて合計3000万ヴァルでいかがでしょうか?」

 カウンターに並べられた商品をヒナタは一瞥する。

「ふ〜ん。それじゃあとりあえず全部買わせて貰うわ。支払いはギルドカードでお願い。あ、あと袋とかは要らない。さっき服を買った時のがあるし、拡張ポーチに直接入れればいいから」

 いくら商品の良さを説明されたところで詳しい事は全くわからないので、さっさと済ませてしまおうとするヒナタ。企業からすればいい太客だ。

「かしこまりました。それでは失礼します」

 そう言って差し出されたギルドカードを機械に通すカルラ。ヒナタは会計を終えたギルドカードを受け取って言う。

「ん、ありがと」

「いつもご利用いただき誠に有難うございます。またのご利用をお待ちしています」

 お辞儀するカルラを前にヒナタは剣と魔法瓶を拡張ポーチに入れ込み、店を出た。

「いらっしゃいませー。あちらの席へどうぞー」

 以前訪れたカフェの中。案内された席に座る。辺りを見渡し、以前と変わらない光景にどこか安堵しそのまま呼び鈴を鳴らす。

「メガ盛りドリームパフェ一つ。以上で」

「はい、かしこまりました」

 そう言ってそそくさ別の接客に向かう。

 (贅沢ってここ?)

 (いいじゃない。一回の食事にこんな所にまで足を運んでる時点で十分よ)

 (もっと高い所に食べに行ってもいいんじゃないの? せっかく稼げるようになったんだから)

 (嫌よ。高い所の味に慣れたら困るわ。それに、新しい店を見つけるのも面倒だし。ここでいいわよ)

 意外と保守的な側面もあるらしい。商品が届くまでの間、窓際の席で外を眺めていたちょうどその時。咄嗟にメニュー表で顔を隠すヒナタ。

 (どうしたの?)

 (なんでもないわよ)

 チリン。扉を開けた音。

「こちらへどうぞー」

「どうも有難うございま……」

 店員が案内した先にはヒナタが座っていた。どうやら店員は以前2人で来店したことを覚えていて、気を利かせて相席にしたらしい。

「ご注文が決まればお呼びしてください。失礼します」

 残された2人。漂う沈黙。ヒナタはメニュー表を下に置いて顔を合わせる。

「ひ、久しぶり」

 勇気を出して声を出すカール。

「……」

「……」

 しかし沈黙。気まずい。

「席、変えようか?」

「別にいいわよ。ほら、座りなさい」

「お、おう。すまんな」

「……」

「……」

 目を泳がせヒナタの様子を伺うキューネ。若干の怒りと気まずさをビンビンに感じざるを得ない。

「最近の調子はどうなのよ?」

「あー、そうだな。ぼちぼちかな」

「ふーん。レベルは幾つになったの?」

「あれからは上がってない。45のままだ。そっちはまた上がったのか?」

「前回で151になったわ」

「ひゃ、151?」

 どん引くカール。普通であれば嘘だとあしらうが、目の前にいるのはヒナタだ。性格的にもおそらく本当の事を言っているのであろう。

「どうやったらそんなにレベルが一気に上がるんだよ? 大体、レベル100に上がるのですら一苦労だろ」

「そこは私にも分からないわ。なんか気がついたら上がってたのよ」

「気がついたらって……」

 (相変わらずの怪物だな……)

「メガ盛りドリームパフェです。どうぞ」

「ありがとう」

「あ、俺もそれで」

「かしこまりました」

 パフェを食べ始めるヒナタ。手を動かしながらカールとの会話を続ける。

「そんだけのレベルがあればシーカーを辞めても将来安泰だな。羨ましいぜ」

「まだまだ足りないわ。もっともっとレベルを上げないとダメね。何回も死にかけてるし」

 どうやらヒナタの目指してる所は自分とかけ離れた所にあるらしい。興味深く思ったカールはさらに深掘りを始める。

「都市で働けばもっと安全に働けるぞ? レベル150あれば労働環境の良い職場を見つけるのはそんなに難しくないからな。一度応募をかけてみたらどうだ? 幾つかの企業からオファーが来るかもしれないぞ」

 一見魅力的に思えるような提案。しかし、ヒナタは即答する。

「嫌ね、もっと強くなったらそう言う事も考えるわ」

 ヒナタの言っている事が理解できないカール。眉間に皺を寄せて聞く。

「もっと強くなったらって、もう十分に強いだろ。お前くらいのレベルになったシーカーは大体企業に勤めて安定した生活を送ってるぞ? それでも十分な成り上がりだからな」

 レベルが100を超えた辺りで安定した職業に就く人間も多い。やはり安全性が保たれていると言うのが大きいのだろう。しかし、ヒナタの目線はそこにはないようだ。そう言った職業に全く関心が無いかのように言う。

「でもグラウスとかがいるじゃない?」

 突然飛んできたビッグネーム。カールは手を横に振って言う。

「あぁ言うのは超人だからな。一緒に考えないようにしてる。それにしても知ったような口だな。会った事でもあるのか?」

「とある依頼で死にかけてたのを助けて貰ったわ」

 まさかと思って聞いたが、どうやら実際に会った事があるらしい。目を開いて驚いた様子で聞く。

「まじかよ。すげぇな。どんな依頼だよそれ」

「普通の依頼だったわよ。きっとたまたま居合わせただけね」

「へ〜。なるほどなぁ。じゃあ結局シーカーを続ける感じか?」

「そのつもりよ。少なくともグラウスよりは強くならないと」

「はは、どこを目指してるんだよ……」

「世界一」

「……へ?」

「世界一よ」

 大言壮語。それを揶揄したカールであるが、ヒナタは真剣な様子だ。そのまま続けて言う。

「だからもっとレベルを上げないと駄目よ。全然足りて無いもの」

 グラウスのレベルは721。確かにそれと比べればヒナタのレベルはまだまだひよっこ同然だ。しかし、普通の人間であれば、もう満足しているレベル帯であることも事実だ。冒険をしなくてもそこそこ裕福な生活は送れてしまう。それがステブレを遂げた者の特権なのだ。しかし、ヒナタはそれを自ら捨てるが如く自ら冒険に足を運ぶ。その片鱗を見せられたようだ。凡人には理解できない世界。どこか眩しいと感じてしまうカール。辿々しい返答をする。

「そ、そうか。まぁそう言うのは人それぞれだしな。頑張れよ」

「えぇ、もちろん」

 またもや訪れる沈黙。

「メガ盛りドリームパフェです」

「あ、有難うございます」

「じゃあ、私帰るわね。お会計もしといてあげるわ」

「おう、あんがとな」

 あっさりした返答に少し苛立ちを覚えながらも席を立つヒナタ。お会計をして店を出る。シーカー同士ではレベルが高い者が奢るのが基本。その知識がないヒナタにとってはカールの感謝は少し軽く見えたようだ。そのままどこかの店に寄ることもなく宿に帰っていくのだった。

 

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