闇取引
41
ギルドに到着したヒナタ。いつもミナトが座っているはずの席を見る。
(空席ね。トイレ休憩でもしてるのかしら?)
(どうなんだろうね。あそこにいる受付に聞いてみれば?)
(そうね、そうするわ。)
受付の元まで歩くヒナタ。受付嬢は笑顔でヒナタを迎え入れる。
「ご利用ありがとうございます。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「ミナト、今日は出勤してるかしら?席を見ても見当たらないのだけど。」
「ギルド職員のミナトですね。少々お待ちください……」
そう言ってミナトの情報について調べる受付嬢。その後申し訳なさそうな顔をして言う。
「すいません。今日は休んでおり出勤しておりません。どのようなご用事でお会いに?」
「魔石の換金をしに来たの。」
「魔石の換金ですか。でしたら違う者を向かわせる事も可能ですが、いかがなさいましょう?」
悩む様子を見せるヒナタだが、魔石の換金くらいなら別に誰でもいいと思ったようだ。声を高くして言う。
「じゃあそれで構わないわ。」
「かしこまりました。あそこの個室でお待ちください。すぐに向かわせます。」
そう言って手をヒナタ後方に向ける受付嬢。ヒナタはそれに従って移動し、個室の椅子に座ってギルド職員の到着を待つ。そうして待つ事数分。
コンコンコン
ノック音がドアからする。どうやら担当の職員が到着したらしい。
「お入りしてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ。」
そう言って扉を開けて入ってくる女のギルド職員。頭を下げて言う。
「ギルド職員のミズハです。今日はよろしくお願いします。」
たわわな胸をぶら下げてお辞儀をしているミズハをじっくり見つめるキューネ。
(うん。素晴らしい)
そうして立派な鶯谷を見つめていると。
ジロ
ヒナタの目線。キューネはすぐに賢者顔をして誤魔化す。もちろん全てヒナタにはバレているが、ヒナタは呆れて何かをする様子もない。
(男ってバカね。本当に。)
お辞儀を終えたミズハは席に座り、魔石を乗せるためのトレイを机の上に置く。それを見たヒナタもすぐに慣れた手つきで拡張ポーチを机の上に持っていく。
「有難うございます。それでは魔石を取り出しますね。」
そう言って魔石を取り出すミズハ。一つ一つ傷つけないように丁寧にトレイに魔石を移していく。そんな中。
「ひっ……」
悲鳴を上げかけるミズハ。拡張ポーチから取り出されたのは、粘膜に包まれた魔石。それを見たヒナタはどうやら色々と思い出したようだ。ちょっと声を高くし、早口になって言う。
「すいません、大丈夫ですか?私、ヒルの魔石のこと完全に忘れちゃってて。」
笑顔を崩しかけたミズハだが、すぐに笑顔を取り戻して言う。
「いえいえ、これくらいどうってことありませんよ。他の魔石にもついてはいけないので手袋を持ってきますね。少々お待ちください。」
「本当にすいません。」
「いえいえ、大丈夫ですから。」
そう言って個室から出ていくミズハ。ヒナタは申し訳なさそうに思う。
(完全にヒルの事を忘れてたわ。ミズハに悪いことしちゃったわね。)
(ヒナタはうっかり屋さんだね。僕はうっすら記憶の奥底で覚えてたよ。)
(つまり忘れてたって事じゃない。)
(えへへ。バレちゃった?てへぺろ。)
(そんな可愛こぶっても今更意味ないわよ。ちょっと胸がでかいからってデレデレしちゃって、ふん。)
(ヒナタ。巨乳は男のロマンなんだ。駄目だと分かっていても目を吸い寄せられる。そんな魔力が胸にはあるんだよ。うん。そういう事だ。)
(勝手に自己解決してんじゃないわよ。)
(えへへ、すいませんでした。)
(全く。)
(それにしてもヒナタってあんな丁寧に話せたんだね。乱暴な話し方しかしてるイメージ無かったけど。)
(まぁ初めの頃は弱かったし、舐められないようにってそうしてたけど、最近それがバカらしくなってきてね。まぁ、そう言うことよ。)
どうやらヒナタの態度の横暴さは元々あったがめつい性格と舐められまいとする心理が根底にあったらしい。が、ある程度強くなってしまった今となってはそうする必要も無くなったわけだ。肉体的な成長が精神的にも良い影響を及ぼしたらしい。
(それにしてもミズハってどこか聞き覚えあるのよね。)
(それなら、カールの担当のギルド職員もミズハじゃ無かったっけ?)
(あ、それよ。どこか聞き覚えがあると思ったのよね。)
(カールは羨ましいよ。あんな絶景を毎日眺められるなんて、シクシク。)
どこか自分への当てつけのように感じ、ぶん殴ってやろうかと思ったヒナタだが、怒りを抑えてミズハを待つ。再び聞こえるノック音。現れたのは手袋を付けたミズハ。新たなトレイを机の上に置いて座る。
「お待たせしました。」
「いいえこちらこそ。迷惑かけて申し訳ないわね。」
「いえいえ、仕事ですから。」
そう言って魔石を分別し終わったミズハ。想像以上に数が多いため新たに持ってきたトレイも満タンだ。しかし、魔石を分別していくうちにどんどん表情を暗くしているミズハに気付いたヒナタは言う。
「あの、どうかなさいました?」
「いえ、その……これは一日で集めたものでしょうか?ギルドに登録された情報と齟齬があると困るのですが……」
「一日です。」
「あ、そうですか。失礼しました。」
どうやらあまりの数の多さに何日かの分を今日持ってきたと勘違いしていたようだ。しかし、ミズハの追求はこれでは終わらない。
「それと、こちらの魔石は下層の変異体ですよね?」
そう言って下層の魔石群を乗せたトレイに手をやるミズハ。
「はい。そうですけど。」
「なるほど……すいません。少々また時間をお取りしてもよろしいでしょうか?」
「いいですよ。」
そう言って部屋を出ていくミズハ。
(なんだろうね?)
(何かしらね?)
ヒナタ達を待たせていたちょうどその頃、ミズハはヒナタに関する情報を再び集めていた。
(ギルドに登録されたレベルは85。どう考えても下層の変異体は倒せない。さらにあの数。一日中かけてもあんな数の変異体が現れるわけがない。)
ミズハはさらに情報を集める。
(今日の行き先はダンジョン。人目も少ない……闇取引をするにはピッタリの場所ね。)
闇取引。ギャングやテロ組織によって行われる、公的機関を通さない不法取引の事だ。ヒナタはギャングやテロ組織の魔石を売る仲介人として雇われたのではないか。その疑念が拭いきれない。
(だとしたらあまりにもお粗末かしら……それに、そもそも怪しいならミナトが摘発してるはずよね。……でも、もし闇取引だったら取り締まらないと。そのためには決定的な証拠が必要よ。だから……。)
ヒナタ達を待たせて数十分。ミズハが扉を開ける。
「すいません。お待たせしました。」
手にはいつも以上に大きなステータス測定器がある。
「ステータスですか?」
「ええ、確認のために。お願いします。」
(少し怪しまれたかしら。)
手に汗を滲ませるミズハ。そもそも短期間でレベルを測ることなど本来は必要ないのだから、普通であれば初めて会ったギルド職員にステータスを見せろと言われても抵抗感を覚えるシーカーも多いだろう。しかし、今目の前にいるのはヒナタだ。毎日ミナトにステータスを計測されていたヒナタにとってステータスを測定されるなど慣れきったことだ。なんの迷いもなく手をステータス測定器に置く。そしてステータスが表示される。
【レベル】 151
【スキル】 【夢】 【変速(Ⅰ)】 【変速(Ⅱ)】 【優待者】 【精霊使い】
【魔法】 【光魔法】 【魔法障壁】
「「へ?」」
2人の声がハモる。ヒナタはレベルに。ミズハはステータス全てに。ミズハは声を震わせて言う。
「えっと……これはどう言うことでしょうか?」
「え、いや。私にもちょっと、まさかこんなにレベルが上がってるなんて……」
キューネが魔法障壁の魔法を獲得した時にステータスを確認したが、その時にはレベルは100から上がっていなかった。あの空間で獲得した経験値が今になって獲得されたのだろうか。それにしても、レベルの上がり幅が少し大きすぎるようにも感じる。困惑したヒナタ同様、ミズハも動揺していた。このステータス測定器は許可をもらって貸し出してもらったステータス隠蔽系統のスキルを無効化する高級品なのだ。つまり目の前の数字は本物。そのため、普通に考えればステータス詐称が第一候補として上がるだろう。しかし、詐称にしてはあまりにも大胆すぎる。そもそも自分より低いレベルで詐称しても大した意味はないのだ。パーティを組んだ時の報酬の分け前は減るし、自分のレベルに適した魔物を倒せばすぐにギルドに怪しまれる事など明白だからだ。それに、ステータス詐称をしているのだとすれば、ヒナタの態度があまりに飄々とし過ぎている。頭がパンクしそうなミズハは決断する。
「え〜と……とりあえず換金してきますね。測定にご協力いただき有難うございます。」
「いいえ。こちらこそありがとう。助かったわ。」
ミズハの決断は保留。とりあえず早く換金を済ませる為に事務室に戻る。
(ステータスオープン)
2人でステータスを見る。が、結果は変わらない。レベルは151のままだ。どうやら機械の故障ではないらしい。それが分かったヒナタは言う。
(これ、どう思う?)
(やばい。)
語彙力が終わってるキューネであるが、実際にそれくらいやばいのだ。理屈を捏ねくり回したところで説明できるような代物ではない。
(何が原因なのかしら。)
(実験してみないと分からないけど、あの空間、もしくはヒナタが新たに獲得した優待者とか言うスキル。もしくはその両方のせいだね。)
キューネのバグが消え本来であればレベルは上がりにくくなるはずであった。しかし、結果はどうやら真逆であったらしい。
(貰えるもんはもらっとく主義の私でも、流石にここまで来れば怖いわよ。)
(だけどどうしようもないね。貰った経験値は返しようもないし……)
2人は考え込むが結論が出ることは無い。スキルもあの空間についても詳しくは分からないのだから、所詮は机上の空論にしかならないのだ。そうして考え込んでいると、ミズハがドアを開けてやってくる。
「すいません。換金処理が終わったのでお金をお渡ししたいのですが、大金ですので、ギルドカードの方にお金をお送りした方がよろしいですか?」
「あ〜、そういえばそんな事もできるんだっけ。それならギルドカードの方にお願いします。」
「かしこまりました。それではこちらにギルドカードを差し込んで下さい。」
ギルドカードを差し込むヒナタ。機械に映し出された数字に度肝を抜かす。
「5000万ヴァル……?」
「はい。数も多く、質も良かったのでこれくらいの値段にはなります。」
「そう……」
そう言ってそっとギルドカードをポケットに入れるヒナタ。いつも以上に丁寧な扱いだ。
「それじゃあ私宿に戻るわ……ありがと。」
「こちらこそ、ありがとうございました。」
そうしてギルドから出た2人。ヒナタはポッケに左手を突っ込んだままだ。
(ヒナタ、転んだら危ないよ。)
(盗まれたら大変よ。私がしっかり守らないと。)
キューネの声よりギルドカードの触感に集中が向いてるらしい。まともに話を聞こうともしない。お金が入っていなくても無くしたら手続きが面倒くさいのだから、初めから丁寧に扱って欲しいものだ。そう思うキューネであった。




