都市への帰還
都市に向かって全力で走るヒナタ。巡察官達がヒナタの存在に気付いた頃、ヒナタも巡察官達の存在に気付いていた。
(キューネ、なんか銃弾が飛んできてる!他の人が援護しに来てくれたのかも!)
キューネは後ろを見続けたまま応答する。
(十中八九ヒナタを狙ってだろうね。)
(どうしてよ!皆で倒したほうが楽じゃない!)
(ヒナタを殺せば、魔物は散る。だから狙われてる。でもここで戦うのは悪手。走るよ。あいつらの攻撃は気合で避ける。レーザーアイの時に練習したでしょ?)
(またあれをやるの?)
(仕方がないよ、ヒナタ。腹をくくるんだ。)
そうして走り続けるヒナタ。するとキューネから警告が来る。
(一発来る。そのまま走り続けて)
そしてその数コンマ後。ヒナタの右隣を弾丸が通る。レーザーアイのような破壊力は無いが、当たれば即死であろう。後ろの魔物が悲鳴を上げる。
(もう一発。そのまま走り続けて)
今度はヒナタの左隣に銃弾が通る。またもや後ろの魔物が悲鳴を上げる。
(ヒナタ、あいつらはヒナタに当てるつもりが無いか、もしくは相当下手くそが撃ってるから気にしないで走り続けて。当たりそうな弾は方向と歩数だけ指示するからその通りに動いて)
次に放たれた弾丸はまたもや魔物に命中する。キューネは今までの弾丸の軌道から第2障壁近くの2人が魔物を殺す為に銃撃している事を確信する。そして、この時点でキューネの中で魔物に対する勝ちは揺るがないものとなった。
都市がかなり大きく見え始めた頃、ついに魔物達の追跡が途絶えた。
(ヒナタ。もう大丈夫だよ。)
そして前進を止めるキューネ。ヒナタは息を切らしている。どうやらキューネと話す体力も絞り出すのは難しそうだ。
(ヒナタ、話さなくてもいいからもう少し都市の方に近付いて。また魔物を呼び寄せちゃう。)
ヒナタは軽く頷いて都市の方へ近付く。そして都市にかなり近付いた時、2人の男が銃をヒナタの方へ向けながら姿を現した。
「止まれ。」
そう言ってヒナタを制止するのはミナト。睨みを利かせてヒナタを威圧する。
「手を頭の上にゆっくり置け。」
「あ、もしかしてさっき助けてくれた人達?さっきはありがと……」
そう言って笑顔で近付こうとした瞬間、地面に弾丸が一発撃ち込まれる。
「手を上げろ、直ぐにしろ」
もう1人の男がさらに威圧を強める。笑顔が消え顔に恐怖を滲ませるヒナタ。ゆっくりと両手を頭の上に置く。魔物を都市の方へ運んでおきながら、即座に銃殺されないことは非常に寛容なことである。しかし、ヒナタにそんな常識は無く、自身が今生かされている事に恩義すら感じていない状態であるので、非常にフランクな対応となってしまった。それに痺れを切らしたレイジがつい感情的になってしまう。ミナトはレイジの方へ近付いて言う。
「おい、当たったらどうするつもりだ。」
小声でレイジに話しかけるミナト。顔と銃はヒナタの方へ向けたまま、ちょっとした説教を始める。
「当てるつもりは無かった……」
「万が一当たってたら戦闘になってたぞ。気を付けろ。」
「ガキが相手だとどうしても感情的になっちまってな……悪ぃ」
「はぁ……全く。お前の子供嫌いは知ってるが職務に支障をきたさないでくれ。俺が事情聴取をするからお前は黙ってろ。」
「へいよ。悪かったな。」
そう言ってまた少し距離を取る2人。
ミナトがレイジにお小言を言っている最中、ヒナタはキューネに自らの身に迫る危険を伝える。
(ちょっと、あいつら撃ってきたわよ!)
(見てたよ。当てるつもりは無かったよ……多分。)
(多分って何よ!銃を持った殺人鬼なんて魔物なんかよりよっぽど危険じゃない!)
(殺意は籠ってたけど、軌道的に当てるつもりは無かったはず。そもそも射殺されても文句ないことをしたのは僕達の方だ。今こうして生かしてくれてることにまず感謝しなくちゃ。)
(それはそうだけど……)
(とりあえず、ここまで生かしてくれたんだから、この場で殺されたりはしないはず。ヒナタも相手を刺激しないように落ち着いて話してね。)
(分かってるわよ……)
そう言ってまた初期位置に戻る3人。沈黙が数秒流れるが、ミナトがヒナタに話しかける。
「魔物を都市に運んで、どういうつもりだ?」
「何よ、魔物に囲まれながら犬死にしろって言うの?そんなのごめんだわ。」
ヒナタの態度に少しイラつきを覚えたミナト。少し脅しを含んだ言葉を使う。
「お前こそなんなんだその態度は。都市に魔物を運んでくる奴は銃殺されても文句は言えない。つまり、今ここで俺達がお前を殺しても誰も文句は言わないってわけだ。もう一度聞く、そんな態度でいいのか?」
もちろん、今ここで銃殺しようとすれば間違いなく抵抗されて戦闘になる。その場合、魔法を持っているヒナタの方が圧倒的に優位に立ちまわれる。もちろん、ヒナタは重罪人として生涯を過ごすことになるだろうが、死ぬよりはましだ。そのため、殺すのであればもう少し早い段階、ヒナタ達が魔物に追われている段階でするべきであった。ヒナタを殺すつもりならそもそもこんな所まで足を運んでいない。そんな裏背景が透けて見えていれば、ミナトのちょっとした脅し文句も聞き流せたかもしれないが、ヒナタにそれは不可能だったようだ。
(ちょっと、あいつら殺した方がいいんじゃない?)
(そうなったらヒナタは重罪人だね、二人殺せば都市に入れても一生牢獄の中。さらに言えば全面的にあっちの言い分が正しい。分かったら、もう少し口調に気を付けて。)
(……分かった。)
「はぁ……私が悪かったわ。」
「分かったらいい。それで、なんでこんな事をした。」
「ダンジョンの中に入ってたんだけど、帰りの車が私を置いてどっかに行っちゃって、それで一人で帰ってきたの。」
「ダンジョンから?お前一人で?」
「そうよ。」
(とんだバケモンじゃねぇか。銃を撃たなくて正解だったな。こんな戦闘力持ってんだ。さぞかし故郷ではちやほやされていたんだろう。それならあの態度も納得だな。)
「それでお前、どこに住んでたんだ?」
「どこって、ここよ?」
「は?」
自身の耳を疑うミナト。
「ここってお前。シーカーか?なんで車を使わねぇんだよ。ギルドが用意してくれた車があっただろう。」
「だから、その車が逃げたからこんな所まで歩いて来たのよ。」
色々辻褄の合わない話にミナトはレイジに話しかけに行く。
「おい、今日の便は通常通り業務を終えたんだよな?」
「ん?ああ、ちょっと待て。」
情報端末で確認するレイジ。そしてすぐにその答えはやって来る。
「おう。通常通りだ。遅れや運行取りやめはない。」
「あいつ、車が逃げたからここまで歩いて来たって言ってたぞ?」
「マジかよ?本当だとしたらそりゃ相当なバケモンだな。だがそれは嘘だな。そんな大事件俺等が知らねぇわけねぇだろ。嘘をつくとは怪しいやつだな。他都市のスパイか?」
いろんな可能性を考え込む2人。レイジは銃を覗き込んでヒナタに照準を合わせた時の事を思い出す。
「あ、そういえば。」
咄嗟に情報端末を開くレイジ。ミナトは不思議そうにレイジの情報端末を見る。
「おい、どうした。」
「いや、あいつ確かバッジを着けてた。」
「それがどうした?バッジなんて誰でも着けてるだろう。」
「あいつが着けてたバッジ。シーカーバッジに似てたんだよ。思い返してみてようやく気付いたぜ。」
そして通信端末で今日の裏輸送車両の行方を確認する。
「ダンジョンオルガへの裏便が今日出発してる。その生き残りじゃねぇか?」
「まさか。魔法を使える人材をダンジョン送りにする馬鹿がどこにいる。」
「知るか。人事部がへましたんだろうよ。とりあえず、本人に確認してみるしかねぇな。ミナト、頼んだ。」
そう言って手を合わせるレイジ。ミナトはヒナタに近付いて話し掛けにいく。
「そのバッジ。誰からもらった?」
ヒナタは不思議そうにしながら答える。
「バッジってこれのこと?」
「そうだ。」
「ギルドがくれたのよ。シーカーとしての証だから大事にしろって。」
「そうか……。ちょっと待ってろ。」
そうヒナタに言い残してレイジの元まで戻るミナト。
「確定だ。ギルド職員からバッチを貰ったってよ。形もまんまそれだ。」
ミナトが目の前の少女はダンジョン送りにされたものの一人だと断定すると、レイジは呆れ顔を浮かべて言う。
「おいおいマジかよ。それじゃあマジでダンジョンから一人で歩いて帰還できるような奴をダンジョンに送りこんだってのか?馬鹿にも程があるだろ。ステータスを確認すりゃ一発で分かる話だろ。」
するとミナトも呆れ顔を浮かべて言う。
「そんな馬鹿がいたからダンジョン送りにされたんだろうよ。全く、困ったもんだ。」
「それでどうすんだよ、あのガキ。ダンジョン送りなら戸籍も消されてるだろ?」
「とりあえず、正式にシーカーとして登録させる。戸籍はまぁ、後で本人が何とかするだろう。俺達に出来るのはそこまでだ。」
「まぁ、それもそうだな。だがどちらにしろそろそろ定時だぞ?次の奴が来る。さっさと済ませちまうことだな。俺はもうそろそろ帰宅の準備を始めるぞ。そこまでしてやる義理もねぇしな。なによりガキだ。ナイスバディの美女だったらまだしもよ。」
「全く。」
そう言って目元をおさえるミナト。そしてもう一度ヒナタの下にまで戻って話しかける。
「悪いが都市の中まで一緒に付いてきてもらう。」
「なんでよ。私は一人の方がいいのだけど?」
「身分証明の出来ないやつを迂闊に中に入れる訳にはいかないんだよ。この仕事が終わり次第、一緒にギルド登録の手続きをしてやるからちょっと待ってろ。」
「一応私、ギルド公認のシーカーなんだけど。ほら、このバッジ。」
そう言ってバッジを見せてくるヒナタ。ミナトは心苦しく思いつつも現実を伝える。
「そんなものはシーカーの証にならない。本当にギルドに公認されたシーカーならギルドカードを渡される。悪いがお前の付けているバッジは何の保証にもならない。」
「え、でも。私ギルドの依頼でダンジョンに送られたのだけれど。」
黙りこむミナト。少し呼吸を落ち着かせ、目の前の少女に事実を伝える。
「悪いがそれは都市側の嘘だ。お前、他所からやって来た難民だろ?最近多いからな。難民が多くやって来ているせいで、壁の中は絶賛食糧難になりかけてる。こんな狭い土地の中だ。まともに農作物を育てられるのにも限界がある。それで、使えないと判断された奴は口減らしとしてダンジョン送りにしてんだよ。お前はそれに巻き込まれたんだ。運が悪かったな。魔法が使えるなんて分かってりゃ、使い道なんて山程あったろうに。」
(ねぇ、口減らしってどういう意味よ?)
(そのままだよ。口の数を減らすんだ。つまり人殺しだね。)
キューネの言葉を聞いて数秒後、ミナトの言う意味をようやく理解し始めたヒナタは激昂する。
「は?食料が足りないからダンジョン送り?人としてなんでそんなことが出来るわけよ!?助け合うのが人として当然じゃないの!?」
子供じみた事を言うヒナタだが、実際の被害者として怒る気持ちも理解出来なくはないミナトは宥めるように言う。
「まぁ、お前の意見も尤もな話だ。だがそれでも人は多すぎると困る。食料難ってのはそんな協力とか安っぽいもので解決できるもんでもねぇんだよ。食料難になれば人同士で殺し合いが発生する。そうなれば治安は悪化し、さらに食糧供給は減少する。したら食料難にまたさらに拍車が掛かるってわけだ。そんな事が一度始まれば、都市としての呈をなさなくなる。こっちとしてもやりたくてやってるわけじゃない。」
「それにしてもよ。人殺しには変わりないわ。」
するとため息を吐いてミナトは言う。
「だったらお前も壁の外に群がる不法移民みたいになるか?あんな場所にいたら1週間で死ぬだろな。それにあいつらに一応の安全が担保されているのは壁の中の住民が高い金を払ってここら一帯の魔物を間引いてるからだ。壁の中が壊滅したら、外の連中も一緒に死ぬことになるぞ?分かったら大人しくついてこい。わざわざ俺がお前にギルドカードを作ってやろうとしていること自体職務外だからやる必要も無いんだ。気に食わないんだったら作ってやらないからな。」
(ヒナタ、ここは厚意に甘えてありがたく付いていこう。僕もあんな何が起こるか分からない場所で野宿なんてしたくないよ。身ぐるみ剥がされちゃう)
(あんたは剥がされるものなんて持ってないでしょ。)
(ほら、この毛皮とか)
(馬鹿らしい。)
「分かったわ。私を連れて行きなさい。」
そうして2人はミナトに連れられて壁外の簡易ギルド内まで案内された。




