優待者
38
目を開けると、そこは見覚えのない場所だった。薄暗い空間。天井は高く、どこまで続いているのか分からない。岩肌の壁には淡い光を放つ鉱石が点在し、かろうじて周囲を照らしている。ヒナタはゆっくりと体を起こした。
「……ここ、どこ?」
足元は固い石の地面。冷たい空気が肌を撫でる。
「ヒナター!」
声が近づいてくる。キューネだ。
「ヒナタぁ!」
そう言ってヒナタの顔にダイブするキューネ。ヒナタはそんなキューネを引き剥がして言う。
「ちょっと、息苦しいじゃない。」
「だって、心配だったんだもん。」
小声でそう言って手をちょんちょんするキューネ。ヒナタは記憶を遡る。死んだ。そう、死んだんだ。お腹に穴が開き、残光が体から発していた。自身の胴体を恐る恐る見る。しかし、服に穴は開いているものの体に穴が開いているような様子はなく、古傷すら見当たらない。
(天国?)
当然の疑問。死後の世界に自身は迷い込んだのだと考えるヒナタ。そうしてキューネを見て言う。
「なんであんたもここに居るのよ?もしかして私が死んだせい?」
キューネは腕を組んで唸る。しかし、答えが出た様子はない。
「さぁ?なんでだろうね。分かんない。僕も気が付いたらここに居た。もしかしたらヒナタと一緒の天国に来たのかもね。」
状況が飲み込めていない様子の2人。再び辺りを見渡す。視界に映るのは一本道。先が見えない暗闇。後ろを振り向く。壁。右を向く。壁。左を向く。壁。どうやら進むべき道は決まっているらしい。
「多分、前に進むのよね?」
「そうじゃない?それ以外する事も無さそうだし。前に進むしかなさそう。」
互いに顔を見合わせる2人。キューネを見たヒナタは言う。
「あんた何で拡張ポーチなんて天国に持ってきてるのよ?」
「そんな事言ったらヒナタだって剣を持ってるじゃん。」
右手を見る。確かに剣がそこにある。2人はまた顔を見合わせる。
「ステータスは?」
「ちょっと待ちなさい。」
まさかだ。現世同様天国にもステータスがあるわけがない。本来ならばそう思ったのだろうが、拡張ポーチに剣、何より破れたままの衣服。天国にしては、どこかきな臭い。そう思いステータスを確認するよう勧めるキューネ。ヒナタはそれに従い唱える。
(ステータスオープン。)
【レベル】 100
【スキル】 【夢】 【変速(Ⅰ)】 【変速(Ⅱ)】 【優待者】 【精霊使い】
【魔法】 【光魔法】
目の前に現れたのはステータス。2人は目を見開く。
「ステータスも見れるね。」
頭に過ぎる疑念。ヒナタはそれを口に出す。
「もしかしてここ、天国以外の場所?」
「……そうかも?」
「探知の魔法を使ってここら辺を調べてみなさいよ。」
「やってみる。」
そう言って探知の魔法を使おうとするキューネ。結果は不発。使用不可。キューネは言う。
「使えない……何でだろう……」
「他の魔法は?」
「やってみようか。」
風。不可能。雷。不可能。火。不可能。…………………………………………不可能。悉く使えない魔法。今までであれば使えたはずの魔法。キューネは恐る恐る最後の魔法を唱える。そうして光る。咄嗟に目を覆うヒナタ。眉間に皺を寄せて言う。
「ちょっと!眩しいじゃない!」
「あ、ごめん。」
そう言って光魔法を抑えるキューネ。
「光魔法以外は全部使えなくなってる……」
「原因は、やっぱりこれかしら。」
そう言ってヒナタのスキル欄を眺める2人。ヒナタのスキルに追加されたうちの一つのスキル。
「精霊使い。このスキルのせいであんたの魔法が封印されたんじゃないの?」
「というより、本来の姿に戻ったって言う方が正しいんだろうね。」
バランス調整。端的に言えばそうなるだろう。崩れた均衡を取り戻すためのナーフ。そう考えれば自然だ。逆に言えば、今までがおかしかったのだ。キューネにはその自覚がある。過度に焦る事はない。元々がおかしかっただけ。キューネからすればただそれだけなのだ。キューネが着目したのは別のスキル。そして追加された魔法だ。
「優待者。どういう意味だろうねこれ。」
「さぁ。色々試してみないと分からないわね。それより、変速がなんか2つに増えてるわよ?」
「それは恐らくヒナタの体に合わせてスキルが進化したおかげだね。」
「スキルが進化?強くなったって事?」
「端的に言えばそういう事。多分使い分けもできる。それも後々試していかないとね。」
キューネにとって変速スキルが進化した事は不思議なことではない。よくあることだ。気になるのは同時に手に入った2つのスキル。そして魔法の方だ。
「でもどうしてスキルが一気に2個も手に入ったんだろう。それに、魔法欄に光魔法が追加されたのも気になる。」
「レベル100になったからでしょ?あんた言ってたじゃない。ステブレはステータスが上がると同時にスキルや魔法が手に入るって。それの一環じゃないの?」
「ステブレでスキルや魔法が手に入る事はあるけど、それでもマックスで1個。3つ手に入るのは見た事がない。そして僕の魔法が、ヒナタのステータスに追加された光魔法しか使えなくなった。」
勘の悪いヒナタはまだ気づかない。
「つまり?」
「多分だけど、僕のステータスもヒナタの方に組み込まれた。優待者以外のスキルや魔法は多分その影響で手に入ったスキルじゃないかな。ステブレ関係なく。」
「あ〜、なるほど。確かにそう考えれば自然ね。でも、そう考えたらますますここは天国じゃないわね。私が死んでるならステータスなんか更新されるわけないわ。それに、天国がこんな辛気臭い場所なわけないわよ。うーん……だとしたら、結局ここはどこなのかしら?」
「恐らくだけど、その優待者とかいうスキル由来でここに飛ばされたんじゃないかな。そう仮定すれば全て辻褄は通る。」
「確かにね。でもどうすればいいのかしら?一生この中で暮らすわけにもいかないわよ?」
「スキル由来の空間なら恐らく脱出する方法はあるはず。」
2人はまた通路の方を見る。
「とりあえず、進みましょうか。」
「そうだね。僕もそれでいいと思う。」
そう言って足を進めるヒナタ。それにキューネが続く形だ。キューネはいつもと逆の列順にどこか引け目を感じながら、薄暗い一本道を進むのだった。




