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待ち伏せ

35

37階層の魔法陣に乗りヒル部屋に送り込まれたヒナタ。ダンジョンに戻るためにヒル部屋に現れたもう一つの魔法陣に乗る。

「今何階層?」

 どうやら無事にダンジョンに戻れたらしいと悟るヒナタだが、どこか嫌な感じがする。

「うーん。うわ。」

 探知の魔法を使ったキューネは表情を引き攣らせてそう言う。それを見たヒナタは何となく事情を察しながらも一応聞いてみる。

「もしかして下層?」

「うん。それも47階層。運がないね、トホホ。」

 どうやら嫌な予感は当たっていたらしいが、ここでへこんでいてもどうにもならないと、ヒナタは気を落とした様子も見せずに言う。

「まぁ仕方ないわね。元々分かってたことだし。そもそも今日は下層のモンスターを狩りに来てたわけでしょ?手間が省けてよかったじゃない。」

 気落ちしていないヒナタを見たキューネも、自分がくよくよしていても仕方ないと元気を出して言う。

「それもそうか。じゃあそうだな……まずはセーフティポイントにまで向かう方針でいい?」

 キューネの提案に少し嫌そうな表情を向けるヒナタ。どうやらまだ運動し足りないらしい。

「少しここで狩りをしてからでもいいんじゃない?まだ私そんなに疲れてないわよ?」

 悩んだ様子を見せるキューネ。確かに通常個体を倒すだけであれば、今のヒナタであれば下層でも十分通用する。しかし、自分含めて下層に来るのは初めてだ。初めて来た場所で、初めて出会う魔物と戦うということは少し怖い。そう考えヒナタに提案する。

「うーーーん。流石に怖いかな。一度セーフティポイントに戻って41階層で戦うのをお勧めしたいね。初めての場所に初めての魔物、何より僕の魔力もそれなりに使っちゃったから47階層に止まるのは避けたい。最悪41階層ならセーフティポイントに逃げ込めばどうにかなるし。どう?」

 ヒル戦でヒナタはスキルを、キューネは魔法を消耗したのだ。スキルが体に馴染んできたとはいえ、ヒナタの疲労もそれなりには溜まっていることには違いない。少し悩んだ様子を見せた後、ヒナタは言う。

「それもそうね。まずはセーフティポイントに戻りましょうか。」

「おっけー。それじゃあいくよ。こっちだ。」

 そう言ってキューネは上の階層へと向かう階段へと案内を始める。魔物との交戦を避ける形でのルート選びは退屈そのものだが、自らの安全のためだとヒナタは素直に文句も言わずキューネに着いていく時間が続いた。

 47階層から歩き始めて随分の時間が経ち、今は43階層。キューネが前進を止める。不思議に思ったヒナタは尋ねる。

「どうしたのよ?何かまた変なものでも見つけたの?」

「いや、42階層へと向かう階段に変異体が止まっててね。あいつがどっかに行くまで少し待とうか。」

「ふーん。分かったわ。」

 階段付近で立ち止まる変異体と聞き少し興味を持ったヒナタだが、ここは安全優先だと我慢する。ようやくヒナタに安全意識が芽生え始めたかと安堵するキューネ。2人で適当な雑談をしながら変異体が過ぎ去るまでの時を過ごす。

 そうして雑談を始めて数十分。話の種も尽きて退屈そうな様子を見せるヒナタ。

「ね〜。まだ変異体はどっか行かないの〜?もう大分の時間ここで立ち往生してるわよ〜?」

 再び探知の魔法を使うキューネ。今度こそはどうだと毎回期待を募らせて魔法を使うが、その期待も虚しく、その変異体はうんともすんとも動く気配を見せない。

「ダメだね。全く動かない。」

 沈黙が流れる。やがて、一度決まった方針だからと待機を我慢していたヒナタが痺れを切らして言う。

「はー。もうそいつを倒しちゃえばよくない?あんたの魔力も無限じゃないんでしょ?その変異体がどっか行く前に、あんたの魔力が切れるほうが危ないと思わない?」

 ヒナタの意見も一理ある。確かにこのまま硬直を決め込んでも消耗するのはこちら側だ。あちらがどこかへ行くという保証が無いのだから、討伐した方が手っ取り早いというのは、当然行き着く帰結だ。しかし、一つの懸念を持つキューネはその変異体を倒すという選択肢を即決できない。

「うーん。その変異体を倒せる自信があんまりなくてね。」

 これまでヒナタの横暴について来たキューネは初めて弱音を見せる。それを疑問に思ったヒナタは不思議そうに言う。

「どうしてよ?下層の魔物って変異体でも推奨討伐レベル100くらいでしょ?それくらいならあんたが魔法を使えばワンパンじゃない。私が時間を稼いであんたが魔法を1発撃ち込めばそれで終わる話よ。いつもやってる事と大差ないでしょ?違う?」

「うーん。普通ならそうなんだけどね。今回の変異体はハスクだからね。僕の魔法が通用するか凄く怪しい。」

 どこか聞き覚えのある単語に自身の記憶を探るヒナタ。

「ハスク…ハスク……。あぁ、あの手袋付けた奴ね。確か魔法を撃ってくるのよね?思い出したわよ。」

「そうそう。そのハスク。」

「別に魔法を撃ってくるくらい避ければどうって事ないじゃない?1分くらいなら余裕でスキルも持つわよ。」

「魔法を撃つだけならいいんだけどね。あいつ魔法吸収も持ってるから、僕の撃った魔法がそのまま僕達に返ってくるなんて事もあり得る。まぁ、吸収量以上の魔法をぶつければ多分倒せるから、それでもいいんだけど。」

 キューネの方はどうやら自身の魔法が通用しない、もっといえば敵の攻撃手段として利用される事を恐れていたために交戦を渋らせていたようだ。キューネの魔法が自らに返ってくる様子を想像するヒナタ。鬼のような形相でキューネに言う。

「絶対ダメよ?絶対。何があっても。私を真っ黒焦げのステーキにするつもり?」

「わ、分かってるよ。流石にそれは良くないよね、うんうん。分かってるよ。でもヒナタ1人で戦わせるにもちょっと不安で、それくらいなら僕は魔法を使った方がいいんじゃないかな……なんてね。うん。そうだね。辞めとこうか。」

「全く。当たり前よ。キューネの攻撃で死ぬなんて最悪も最悪じゃない。天国で一生の笑い物よ。」

 ヒナタは本当に天国に行けるのかなんて冗談を言う余裕はキューネにはない。ヒナタの圧により、キューネが魔法を使う案は却下され、実質的にヒナタが1人で変異体と戦うことが決まったのだから。キューネは置物状態となるわけだ。変異体ハスクの討伐推奨レベルは100。ステブレ前提の敵なのだ。いくらヒナタがスキルを使うとは言え、そこまでの勝率は見込めない。どうしたものかと考えていたキューネ。一つの妙案を思いつく。

「ヒナタ。今のレベルいくつ?」

「ん?レベル?」

「うん。」

「ちょっと待ちなさい。」

 (ステータスオープン。)

 キューネはヒナタの肩にちょこんと乗り、ヒナタと一緒にステータスを眺める。

「87ね。ちょっと上がったわ。」

 全然ちょっとではないが、もはや今更だ。キューネは考え込む。自身の案を採用するに足るかどうか。そして決断する。

「ねえヒナタ。もうちょっと下の階層に潜ってみない?」

 怪訝な表情を浮かべるヒナタ。当然であろう、この状況で下の階層に潜る事を提案するなど、自殺しようと誘っているとしか一見では見えないからだ。

「下の階層?なんでよ?宝箱狙いの一発屋になるつもり?そんなことをして無駄に体力を消耗するくらいならハスクを倒しに行った方が良さそうに私には思えるけど。」

 キューネの提案を聞き、宝箱からスキル、または魔法を得て状況の打開を図ろうとしているのではないかと考えたヒナタだが、それなら確かに宝箱を結局見つけられず体力を消耗して終わるだけの可能性の方が高い。それに、仮に宝箱を見つけることに成功したとしてもだ、宝箱から必ずしも良いアイテムが出るとは限らないのだ。最悪の場合上層の魔石が出て来ました。なんて事もあり得る。そうなれば笑えない所の騒ぎではない。無駄な魔力と体力を浪費した絶望。その後のハスク戦にも影響を与える事は避けられないだろう。そんな不確定な事をするくらいならば、今の状態でハスクと戦う方が十分な勝率が見込める。下の階層に潜る事はハイリスクハイリターン。リターンを選ぶにはリスクが大きすぎる。しかし、キューネは言う。

「違う違う。そんな馬鹿らしい事するわけないでしょ?狙うのは宝箱じゃなくて下の階層にいる変異体だよ。」

「下の階層にいる変異体?どう言う意味よ?」

 良く分からないという表情を浮かべるヒナタ。変異体から逃げて向かう先が変異体?そっちの方が馬鹿らしいではないか。しかし、キューネは続けて言う。

「うん。変異体。さっきヒナタも言ってたでしょ?下層の変異体くらいなら普通僕の魔法でイチコロって。」

「ええ、言ったわね。」

 まだ分からないらしい。キューネは続ける。

「だから下の階層で僕が見つけたハスク以外の変異体を狙って倒す。そんでヒナタのレベルを極限まで高める。」

 沈黙が流れる。その数秒後、顔を明るくして言うヒナタ。

「あ〜、そういう事!あんたの魔法で倒せる変異体を倒して私のレベルを上げる。そして十分にレベルが上がったらこの階層に戻って来て今度こそハスクを倒しに行くってことね?」

「そういうこと。戻って来てハスクが居なくなってればそれで良し。ハスクが居たとしても今より万全な状態で戦える。」

「完璧じゃない。さすが私のキューネだわ。」

 そう言ってキューネの頭をわしゃわしゃしてよしよしするヒナタ。キューネもどこか嬉しそうな表情を浮かべている。

「それじゃあ下の階層に戻ってレベル上げよ。そのつもりできたんだし。ちょうど良いわ。蹴散らしてやりましょう。」

「うんうん。それじゃあ下の階層にレッツゴーだ。」

「よっしゃー、ばんばん稼ぎにいくわよ。」

 自分が荒らした寝癖のような毛並みを見ながらキューネに着いていくヒナタであった

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