ダンジョンからの脱出
(よし、一度さっきまでの道に戻ろう)
そう言って道を引き返すのはキューネ。ヒナタは何度も同じ道を通り、飽きると同時に疲弊しているようだ。
(ちょっと、何回同じ道を通るのよ。敵を避けてるにしてもあまりにも多すぎない?)
(1階層に出るのが少し遅れたからね。僕の目指してた周期とずれたんだよ。気長にいくしかないね。)
かくしてまた先ほどまで来た道に戻るヒナタ。ずっと同じ場所にいるような疲弊感は良からぬ考えをヒナタに浮かばせる。
(ねぇ、いっそ地上まで魔物と一緒に逃げたらどう?地上で私達を待ってくれてる人が援護してくれるんじゃない?)
ため息をつくキューネ。
(そんなことしたら僕達が殺されても文句言えないよ?魔物を押し付けられた側から恨まれるのは間違いないだろうね。あともうちょっとの辛抱で着くから。そこまでの我慢。)
(はぁ……レーザーアイを利用しないだけでこんなに大変になるなんて……ねぇ、あれって一応安全性は確保されてるって言ったわよね?)
(やらないよ?)
(どうしてよ?今思えば結構楽じゃない?)
(1階層の魔物じゃ倒しても貰える経験値があんまり美味しくないって言うのと、後は……)
(後は何よ?)
言葉を濁すキューネ。自身の嫌な予感が当たっていない時の保険をかけて、ここでは言及を控える。それを言及することはヒナタのやる気を削ぎかねないからだ。ヒナタもヒナタであまりの疲労のため、実はあの追いかけっこには経験値を稼いでおきたいというキューネの思惑があったことへの言及はできず終いだ。
(まぁ、とにかく歩いてるだけで地上に出られるんだ。上々でしょ。ぜーぜー息を吐きながら地上に出るよりはさ)
(まぁ……そう言われて見ればそうかしら。はぁ、早く太陽が見たい……)
そう愚痴を零すヒナタ。この後、敵と出会わないことを最優先にしてルートを選択して行った結果、結局地上への階段の近くに来るまでには数十分が掛かった。
(ふぅ、やっと着いたわ)
(おめでとうヒナタ。これでとりあえずダンジョン脱出だね。ご苦労さま。)
(本当よ、もうクタクタだわ。早く宿を取ってベッドインしたいところだわ。)
そうしてヒナタ達がやって来たのは地上への階段の手前。もう既に上部から地上からの光が入ってきている。
(ところで、キューネはどうやってついて来るつもり?そのまま浮いてたらあっさり他の人にバレちゃうわよ?)
(存在感をうすーくしてやり過ごすよ。)
(そんなことまで出来るの?何でもありね。)
(魔法を使わなくても僕だけなら存在感を薄く出来るよ。ほら。すごいでしょ?)
(分かった分かった。さぁ、都市まで帰るわよ。)
そう言って階段を登って行くヒナタ。待ち望んでいた地上。地上を出た先には車があり、そのまま都市まで帰ってベッドイン、のはずであった。
(ちょっと、どういうことよ……)
ヒナタは地上を覗いた後、階段に戻り身を屈める。地上には車など存在せず、そこに存在したのはただ獲物を探し求める魔物の姿だけであるようだ。
(私達を置いて逃げたの?なんて最低な!私にダンジョンで犬死にしろって言うの!)
ヒナタは顔を歪ませる。ダンジョンからオガララタウンは走ってかなりの時間が掛かる。魔物があちらこちらにいるにも関わらず、そんな長時間走って逃げるなんてあまりにも無謀。ヒナタの絶望にも無理はない。ヒナタ一人でダンジョンから抜け出し、都市まで帰ることは絶対に不可能であろう。そう、”一人”では。
(まぁ、こんなことだろうと思ったよ。ほらヒナタ、こんな所で座ってても魔物が寄ってくるだけだからさっさと逃げるよ。)
突拍子も無いことを言っていると一瞬思ったヒナタだが、ダンジョンでの破壊力が持続的に行使できるのであれば、たしかにこの盤面を突き抜けることは可能であろう。そう辻褄を合わせてキューネに聞く。
(地上のモンスター、全部倒せるの?)
(いや、流石にそれは無理だけど。ここに来るまで魔力を残しておいたからね、僕達二人の存在感を消して都市に着くくらいなら多分大丈夫だよ。都市の位置も人が密集してるからすぐに分かった。)
ヒナタは今までキューネが魔力を残していた事について疑問に思っていたが、ここでようやく合点がいく。
(それで魔力をあんなに温存してたの?)
(ま〜ね。レベル1のヒナタをあんな所まで行かせてる時点でそもそもヒナタを運んだ奴らはまともにヒナタを守る気が無いのはすけすけだからね。それじゃあ魔法をかけるから、声を出したり大きな足音を立てたりしないように。無言で歩いていればよほど耳がいいの以外はバレないから、石ころを蹴ったりしないように注意してね。)
そう言ってヒナタに魔法を掛ける。ヒナタは自身の体を見回して言う。
(消えてないわよ。)
(存在感を消す魔法だからね。体が直接消えるわけではないよ。それじゃあ進んでいこう。)
そう言って地上に出るキューネ。ヒナタはダンジョンの中からキューネを見守る。どうやら本当に魔物に捕捉されていないようだ、魔物の隣をすらすら避けて進んで行く。
(ほら、ヒナタも早く来て。ヒナタのは僕の魔力が切れたら魔法が解けちゃうからね)
ヒナタは唾を飲み込む。緊張感で汗を滲ませながら進んだ第1歩。地上に出たヒナタは恐る恐る、前へ前へと進んで行く。すると笑顔のキューネが言う。
(魔力をいっぱい残しておいて正解だったね)
「ちょっと、なん……」
てこと言うのよ、そう言いかけたヒナタは咄嗟に口元を抑える。周囲の魔物の数匹もちらりとこちらを見たがすぐに視線を下に戻し、徘徊を続ける。
(もう、危なっかしいんだから。)
(あんたが変なこと言うからでしょ。)
(それじゃ、このまま進んでいくよ。)
その後キューネ達はダンジョンの近くを離れ、都市の方に向かっていく。その道中には多くの壊れた建物や時には死んだ人間すらも転がっている。
(ねぇ、地上ってこんなに物騒な場所だったっけ?)
(最近魔物の活動が活性化してるのよ。それで小さな町とかは放棄されて大きな都市に逃げ込んでるの。安全だからね。中には故郷を捨て切れなくて残る人もいるんだけど、大抵魔物の襲来にあって死んじゃうわね。)
(故郷思いな人も居るんだね〜。)
(そうね。本当に馬鹿らしい。)
故郷を思い、村に残った結果死骸となってしまった人達の中にはヒナタの家族も含まれている。ヒナタの言葉にはそうした行為に対する侮蔑を含んでいた。そんなたわいのないことを話しながら道を進んで行く2人。そうして都市に近付いて行く中、ヒナタはとあることに気付く。
(ねぇ、魔物の数、少なくなってない?)
(恐らく、都市に近付いてるからだろうね。都市が日頃から真面目に都市近くの魔物を間引いてるんだと思うよ。都市さまさまだね。)
そうしてヒナタ達はついに都市が見えるところにまでやって来た。
(わ〜、大っきいねぇ〜)
(でしょ?私も最初に来た時は驚いたんだから。)
都市の周りは魔物が彷徨いてはいるものの、その数はダンジョン近辺と比べればかなり少ない。都市の間引きやここを通るたびに襲いかかる魔物を撃退するシーカー達の活躍のおかげであろう。
(あともう少しだからね、絶対にばれちゃ駄目だよ。)
(分かってるわよ。そう言うこと言うの辞めなさいよね。フラグってやつになったらどうするつもりよ。)
(まぁ大丈夫でしょ。こんな平野で転びようもないし。ここまで来た僕たちなら絶対に余裕……)
都市に向かってヒナタを先導していたキューネ。キューネが言葉を遮って後ろを振り返ったのは後方からどでかい音がしたからであった。キューネが振り返った先にはヒナタが小さな段差で大きく転び、そこに砂埃が舞い上がる姿であった。そしてキューネは察する。周りからの殺気の正体を。
「えーと、そーの……ごめんなさーい!!!」
そう言って全走力で走るヒナタ。ヒナタの謝罪には耳も傾けず魔物達はヒナタに向かって走り抜ける。ヒナタは運がなかった。もし砂の立ちやすい場所で無ければ、もし近くにウェアウルフがいなければ、敵に気付かれることも無く都市まで歩き抜くことも可能であったであろう。しかし、実際には砂埃が立ち、それを見逃さなかったウェアウルフに捕捉されて周りの魔物達が一斉にヒナタに牙を向ける結果となった。後ろから4足歩行の音が聞こえる。レーザーが自身に照準を向けているのを感じる。オークの鳴らす重い足音も聞こえる。ヒナタがこれらの魔物との距離を図ろうと後ろを見ようとしたその瞬間、キューネがヒナタに話しかける。
(ヒナタ、後ろを見てる暇があったら走って。魔物は僕が何とかするから。)
キューネは種々の魔法を使って敵を撃破する。レーザーアイの光線をバリアで反射し、敵を倒す。光魔法を撃ち込んでウェアウルフとその後方にいたオークを殺す。ボアの突進は地面に少し穴を空け封じる。ヒナタは爆発音や断末魔を聞き続けながら前へ走り続ける。
ヒナタ達が逃げ込もうとするオガララタウンのその第2障壁では、2人の巡察官が立っていた。
「ミナト、暇だ。」
そう言って隣にいる友人に抱きつきかかるレイジ。
「仕事中だ、レイジ。大人しくしろ。」
レイジを肘で押し返し、呆れたような顔をして言う。
「魔物が都市に襲撃を仕掛けてきたらすぐに報告する準備をする。もし現場で対応できるなら対応する。それだけのことだろ。何も難しいことはない。」
「へいへい、ミナトは堅苦しいんだから。ってなんかうるさくねぇか?」
そう言ってレイジが見つめた先にいるのはヒナタ一行。魔物達を連れてこちらへ向かってくる対象に対して、2人の巡察官は対応を迫られる。
「おいミナト。緊急事態が早速やって来たぞ。撃つか?」
レイジが銃の照準をヒナタに合わせる。
「ちょっと待て。あれくらいなら、俺達でも対応できるんじゃないか?」
「なんだよ。魔物を連れて都市に入ってくる奴は即射殺。決まってるだろ?」
「それもそうだが……」
「なんだよ。俺だって撃ちたくて撃つ訳じゃねぇんだよ。出鼻挫いたんだからお前がやれよ。」
そう言って銃を見せるレイジ。
「分かったよ。」
ため息をつきながら照準を合わせるミナト。その先に見えるのはまだ小さな少女であった。
(可哀想に。十数歳くらいか?)
そう思いながらもヒナタに照準を合わせるミナト。しかし、ミナトはとあることに気付く。
「なぁ、レイジ。」
「なんだよ。俺はもう撃ちたくねぇぞ。俺に撃たせるなら夕飯は奢れよ。」
「いや違う。今こっちに向かって来てるやつ。魔法を何種類も連発してるぞ。」
「まじかよ?車を使わないからには難民だろ?難民がなんでそんなもん持ってんだよ?」
「分からん……」
「まぁ、とにかくやっちまえよ。もうそろそろ殺らねえと、あいつを殺した後何匹かこっちに来るぞ。」
ミナトは思考する。照準の先の少女を助けるか否かを。そして決断する。
「あいつを助けるぞ。」
すると今度はレイジがミナトに呆れ顔を見せて言う。
「おいおいマジかよ。そんなことしてモンスターが城壁の中に突っ込んできたら俺等即クビだぞ?さっさと殺しちまえよ。」
「だがそれと同時に、有能なシーカーと縁を繋ぐチャンスでもある。」
「職を失うリスクを追ってまですることかよ?」
「お前もこんな下っ端紛いのことを続けるつもりはないだろ?ギルド職員として上に上がるのにああいう有能なシーカーと関わりを持つのは重要なことだ。いいから手伝え。」
「分かったよ。ったくどうなっても知らねぇからな。」




