レベル83
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オルカタウンから護送車でオガララタウンまで帰還したヒナタ。まだ腕の傷は治っていないが、魔石の換金のためにギルドの扉を開ける。ギルドに入ると、いつもの席で事務作業をしているミナトを見つける。
「傷を負ったシーカーが帰ってきたわよ。」
「おう、そりゃお疲れさん……って、本当にすごい傷だな。大丈夫か? 魔術師を呼ぶか?」
「要らないわよ。これくらい自分で治せる。それより魔石の換金をお願い。」
「おう、いつもの所で待っててくれ。怪我人なんだから落ち着いて待っとけよ?」
「私はいつも落ち着いてるわよ。」
そう言っていつもの個室に向かうヒナタ。座り慣れた椅子に座る。
(まだ治らないの?)
(ちょっと傷が深いからね。それに、僕自体そんなに回復魔法が得意じゃない。今日中には治ると思うから我慢してて)
(はぁ……本当に強敵ばっかり出てくるわね。どうしてこんなに運が悪いのかしら)
(こればっかりはどうしようもないから仕方ないね。そもそも準護衛の依頼自体が、別のシーカーが倒せなかった魔物を相手にするわけだから、大体の魔物はそこそこ強い。まぁその中でも今回は大外れを引いたんだと思うけど。そればっかりは運が悪いと諦めるしかないね)
(はぁ、私、普段の行いは良い方なのにね。どうして魔物となるとこう運が悪いのかしら。嫌になっちゃう)
そう言うヒナタだが、ある意味ではギリギリ倒せるような敵ばかり来ているのだから運が良いとも言えるだろう。レベル一桁の時にあんな怪獣が来ればお陀仏まっしぐらだ。
いつも通りステータス測定器を持って部屋に入ってくるミナト。ドン、と重い音を鳴らして測定器を机の上に置く。
「ふぅ、相変わらず腰にくるぜ、この機械。」
「お疲れ様。」
「それで、魔石の換金だったか? その腕からして、また相当な大物狩りをしてきたみたいだが……」
「ええ、今回もジャイアントキリングを決めてやったわ。見てみなさい。」
拡張ポーチを机の上に置くヒナタ。今までとんでもない魔物を何でもないような顔で倒して帰ってきた相手だ。これほどの重傷。どれだけの魔物が中に潜んでいるのか分からない。確定で特賞が入っているくじ引きを引くような気分だ。ミナトは唾を飲み込んで、一つずつ拡張ポーチから魔石を取り出していく。
「これはオーガ、これはハヤブサ、これもハヤブサ……」
そうやって種類ごとに魔石を分けていくミナト。ハヤブサの魔石がほとんどのようだ。まるで参加賞かのような量が紛れ込んでいる。そうして魔石を取っていく最中、一際重い一つの魔石を引き当てる。
「これは……オーガの変異体の魔石か?」
魔石を凝視した後にそう言うミナト。ヒナタは「本当に疲れたんだから」という顔で言う。
「そうよ。頑張って倒したわ。」
「いや、『頑張って倒したわ』とか言うレベルの魔物じゃねぇだろ。ギルドに登録されたこいつの討伐推奨レベルを知らないのか?」
「知ってるわよ。100でしょ? 今まで通り推奨レベルの差なんて覆してやったわ。」
「そういう問題じゃねぇだろ……」
「別に、今までだって2倍くらいレベルに差がある魔物も倒してきたんだから、今更よ。」
そういう問題ではないのだ。ステータスブレイクとは肉体の昇華。推奨レベル99と100では絶対的な差がある。今まで自身のレベルの2倍以上の推奨レベルの魔物を倒してきたとはいえ、推奨レベル100をステータスブレイク前に倒すことはまた別問題である。その「1」という数字に絶対の差があるからこそ、ステータスブレイクなどという大層な名前が与えられているのだ。そう簡単に覆されるようなものではない。しかし、目の前の埒外の化け物は今回もまた不可能を可能としたらしい。ミナトは溜息を吐いて言う。
「はぁ……こりゃまた推奨レベルについて、ギルド内で再検討が始まるぞ……」
「そんなこと私に言われても、倒せたんだから仕方ないじゃない。それに、倒せたって言っても大怪我も大怪我よ?」
「大怪我して推奨レベルを覆せたら誰も苦労しないんだよ。普通は死んでる。自分の才能に感謝しておくんだな。」
「もちろん。私、運の良さと才能だけはピカイチだもの。」
実際はキューネの存在が大きいが、ヒナタに戦闘センスがあることも事実。しかし、それでも九割はキューネのおかげだ。ヒナタはもっとキューネに感謝したほうが良いだろう。
「ステータスも頼む。」
「はい。」
そう言って測定器に手を乗せるヒナタ。ステータスを開く。出てきた数字は83。もうすぐレベル99に辿り着きそうだ。本当に異次元である。今までのステータスブレイクの最速記録は1年10ヶ月。しかし、このままヒナタがレベルアップを続けるなら、ほとんど一週間である。最速記録を余裕で更新しそうな勢いだ。
「合計で15以上レベルアップ……相変わらずやばいな。」
「ふふん。私がステブレしちゃう日は近いかしら。」
そう言って胸を躍らせているヒナタ。ミナトは溜息を吐きながらも業務を進める。ちょっとずつヒナタの異常性に慣れてきたものの、それでもオーガの変異体を討伐したことは流石に驚いたようだ。
「とりあえず換金してきてやるから、ちょっと待っとけ。」
「は〜い。」
(腕の方はどう、ヒナタ?)
(うーん。ちょっと痛むけど、だいぶマシね)
(そう、なら良かった。このまま回復魔法をかけるから、あんまり無理しないでね)
(了解よ)
換金を終えて帰ってきたミナト。机の上には分厚い紙幣が三つ並んでいる。
「合計300万ヴァルだ。無駄遣いするなよ。」
「も、もちろんよ。」
(本当に大丈夫かよ……)
目を光らせるヒナタ。見慣れない大金に目を見開いている。
「その傷、今日中に治りそうか? 治りそうにないなら明日の依頼はパスしとくぞ。」
(いけるわよね?)
(うん)
「別に、今日中に治るから大丈夫よ。」
「そうか。ならお大事にな。あんまり無理して動くなよ。」
「分かってるわよ。それじゃあまたね。」
「あぁ、またな。」
そうしてギルドを出たヒナタであった。




