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九死に一生

27

ガルドが車を動かし始めて数分後、依頼主と思われる男を見つけたヒナタ。

「あれ?」

「あぁ、あれだ。行ってこい。」

「了解。」

 どうやらハヤブサの群れに襲われて動けないらしい。ハヤブサとは群体で動く燕のような魔物で、主に嘴で攻撃をしてくる。その推奨レベルは50。しかし、ヒナタからしてみれば倒す事は容易だ。レベル60代の力を発揮して近づいて来るハヤブサを一撃で倒し続ける。ハヤブサは速く動き、体も小さいため、低レベルだと攻撃を当てるのもやっとだが、ヒナタはその動体視力と持ち前のスピードで全ての攻撃をハヤブサに命中させている。そうしてヒナタが戦い始めてものの数分。全てのハヤブサが魔石となって地面に転がり落ちる。敵の殲滅を確認したヒナタは依頼主に近付き言う。

「大丈夫? 自力で帰れる?」

「あぁ、すまん。あんがとな。」

 そうしてポーションを飲み込む依頼主。よほどの緊急事態でなければ、後の保護は護衛に任せる仕組みだ。これ以上ヒナタが手を貸す義理はない。ガルドは車を近付けて言う。

「次だ。乗れ。」

「分かったわよ。せっかちね。」

 そう言って車に乗り込むヒナタ。また急発進して新たな依頼主の元へ向かう。

「あれだ。」

 ガルドが指を差す方向を見るヒナタ。遠目から見てもトロールと戦ってるのが分かる。今回は3人パーティだが、火力が足りていないらしい。一人は血を流して倒れており、残り二人がトロールを引きつけているようだ。トロールはヒナタの地域にも生息するオークの亜種で、その分厚い脂肪と力の強さが特徴だ。討伐推奨レベルは45。その為、今のヒナタにとっては何の障害にもならない。すぐさま車を飛び降りたヒナタはトロールの元へ向かう。その顔を見てキューネに呟く。

(うちのオークとそっくりね)

(あはは、まあトロールはオークの亜種みたいなもんだからね。オークより若干強いけど。今のヒナタなら余裕だね)

 軽口を叩く余裕すら見せるヒナタ。そのまま全速力でトロールの元に向かい、その心臓ごと体を真っ二つに斬る。致命傷を受けたトロールは他の魔物同様、魔石となって地面に落ちる。3人組の一人がヒナタに近付いて言う。

「ありがとうございます。助かりました。」

「そっちのやつ、傷が深そうだけど、大丈夫?」

「はい、ポーションも持ってますし、今日はここで引き上げます。親切にありがとうございました。」

「そう、分かったわ。」

 ガルドがまた近付いて来る。

「また次が来たの? 本当に多いわね。」

「今回は待機だ。」

「そう。ようやく休めるわね。」

 そう言って車に乗り込んだヒナタ。しかし、数十秒してまた車は走り出す。

「次が来た。」

 咄嗟の急発進に頭をぶつけたヒナタ。ガルドに文句を言う。

「ちょっと、今頭をぶつけたわよ! すごく痛かったんだから!」

「人命優先だ。」

 いつもの常套文句を使うガルド。そのまま猛スピードで依頼主の所まで向かう。ガルドが車を進めて数分後、オーガと戦う男女のパーティが見えた。オーガとは斧を持った魔物で、オークやトロールが痩せたような見た目の魔物だ。しかし、その討伐推奨レベルは70。脂肪が萎んだからと言って決して倒しやすくなったという訳ではない。ヒナタも事前にキューネとここら一帯の魔物について勉強していたので、オーガを見つけたヒナタはすぐさま言う。

(魔法、弱めのでいいから準備しといて)

(任された〜)

 そう言って詠唱を始めるキューネ。オーガも魔力の集まりを感じ、二人組からは目を逸らしてヒナタの方へ向かって来る。斧を振り下ろすオーガ。ヒナタはその斧を何とか避け剣を振るうが、すぐさまオーガが次の攻撃の準備を終えていたのを確認したため、すぐさま次の斧の攻撃への回避行動に移る。まともなダメージにはなっていなそうだ。緑色の血を流しながらもオーガが攻撃の手を緩める事はない。また一つ。また一つ、斧が振り下ろされる。そうした攻防を続けて数十秒後、キューネが詠唱を終える。光に飲まれたオーガは魔石となる。

(ふぅ、ちょっと冷や汗かいたわね)

(スキルを温存しなかったらもうちょっと楽だったんじゃない?)

(仕方ないでしょ。まだ見ぬ強い敵がきっと私を待ってるんだから)

(あはは、怖いこと言うね)

 そうしてオーガを倒した余韻に浸る二人。ヒナタはオーガの魔石を拡張ポーチに入れて、助けた二人組に近付いて言う。

「大丈夫かし……問題なさそうね。」

 どうやらもうイチャイチャし始めている様子だ。それを見たヒナタは溜息を吐きながらまた車に乗り込む。そうして次の依頼主の所まで走り続けて数十分。しかし、まだ到着の知らせがガルドから伝えられない。どんどん都市から離れていく車。何だか嫌な予感がしてきたヒナタ。デジャヴを感じざるを得ない。

「ねぇ、随分都市から離れてるけど、本当にここで合ってるの?」

「あぁ、合ってる。もうすぐだ。」

「何か嫌な予感がするんですけど。」

「昨日みたいな事はそう何度も起きねぇよ。安心しな。」

 そう自分にも言い聞かせながら車を進めるガルド。そうしてさらに数分経った頃、ついにヒナタが依頼主を見つける。

「見つけた。行ってくるわ。」

 そうガルドに言って車を飛び出すヒナタ。ワームのような巨大な魔物ではなく、とりあえず一安心するヒナタ。

(オーガかしら? その割にはさっきのよりはでかいし色も違うけれど……)

 どうやら一人の男のシーカーがオーガらしきものと戦っているようだ。しかし、探知の魔法を発動させたキューネが言う。

(変異体だ……)

(へ?)

 耳を疑うヒナタ。しかし、聞き間違いではない。

(変異体のオーガだ。今から詠唱を始める。ヒナタも初めからスキルを使って)

(……分かったわ)

 変異体のオーガの討伐推奨レベルは100。すなわち、ステータスブレイク後に討伐することを推奨されている。レベル60代のヒナタではまともにやれば歯が立たない。そのためキューネは初めからヒナタがスキルを使うように勧める。ある程度オーガに近付いたヒナタは唱える。

(【変速】!!)

 世界がスローモーションに変わる。オーガの外形もはっきり見えてきた。黒肌に筋肉質の体。先ほどまでのオーガとは随分様相が違う。斧も先ほどのものよりでかいが、だからといってスピードが落ちている訳でも無さそうだ。スローモーションの世界でさえ先ほどのオーガ以上の素早さを見せている。ヒナタは拡張ポーチに手を入れて魔法瓶を取り出してオーガに投げる。繰り出される魔法は雷魔法。もちろん、全くもってオーガの体を傷つける事はない。しかし、オーガの注意を引きつけるのには十分であった。雷魔法を撃った張本人の方から魔力の高まりを感じたオーガは、すぐさま目標をその男のシーカーから変え、ヒナタに襲いかかってくる。オーガの斧が振り下ろされ、地面に亀裂ができる。変速を使ったヒナタですらギリギリ避ける事ができたほどのスピードに加え、この破壊力。その男のシーカーは状況を見たガルドが車で連れ去る。しかし、一人いなくなったからといってオーガが攻撃を止める事はない。すぐさま次の攻撃準備に移るオーガ。振り下げた斧を振り上げてヒナタの首を刈り取ろうとする。体を後ろに逸らして避けるヒナタ。目の前にまで迫って空を切る斧を見つめながら死を実感する。振り上げられた斧をまた振り下げようとするオーガに対し、剣で斧を受け止めようとする。しかし、止められない。剣ごと破壊され、そのままオーガの斧がヒナタに直撃する。ヒナタは腕で頭を保護したが、腕輪ごと両腕が重傷を負い血を流している。もはや剣を持てるような状態ではない。何より頼みの剣を失ってしまった。攻撃手段を失ったヒナタに待ち受ける運命は、蹂躙だ。オーガが近付いて来る。ドーパミンで痛む手を無理矢理動かして最後の魔法瓶を投げるヒナタ。しかし、オーガの歩みは止まらない。今もヒナタに一歩一歩近付いて来る。絶体絶命。その文字がチラつき始めたその時、オーガの後ろから何かが近付いて来る音が聞こえる。そう、エンジン音だ。あのシーカーをある程度遠くまで送り届けたガルドが戻って来たのだ。そしてそのままオーガに向かって突進する。ドン、という音が鳴り、車の前方部分が破壊される。しかし、オーガの方はどうやら無傷だ。車程度で推奨レベル100の肉体に傷を入れる事はやはり難しかったようだ。しかし、時間を稼ぐのには十分であった。車に飛ばされたオーガが今にも立ち上がろうとしたその瞬間、キューネが戻って来る。

(お待たせ〜。完成したよ)

 ヒナタの顔が安堵に染まる。

(お待たせ、じゃないわよ。ボロボロのボロ雑巾になっちゃう所じゃない)

(もう既にボロ雑巾になってそうだけどね。あはは)

 オーガがもうそこまで迫っている。キューネは雑談を終えてオーガに魔法が当たるよう集中している様子だ。オーガがヒナタに斧を振り下ろそうと立ち止まったその瞬間、オーガが光の濁流に飲まれる。最大まで詠唱したキューネの光魔法。それは一瞬でも推奨レベル100のオーガの心臓にも届きうる一撃だ。そんな火力の光魔法が数秒に渡ってオーガに当たり続ける。オーガが消滅するのに十分すぎる時間だ。光が消えた後の大地に残っているのはオーガの魔石だけ。どうやら今回も九死に一生を得たようだ。車から出たガルドがヒナタを心配して声をかける。

「お前……その腕大丈夫か?」

(キューネ、治せる?)

(もちろん)

「治せるわ。私、回復魔法も使えるの。」

 するとヒナタはあっしまった、という顔をする。昨日ガルドには怪我を理由に都市に帰らせてもらったのだった。お叱りが来るかと思ったヒナタだったが、ガルドは心配でそれどころではないらしい。特にその事を言及する様子もない。

「治せるならいい。とりあえず車に乗れ。帰るぞ。」

「え、いいの?」

「その傷で仕事をさせるほどギルドも鬼じゃねえよ。車も俺が弁償しといてやる。いいからお前は早くその傷を直しとけ。」

「流石おっちゃん。気が利くわね。」

「歳は関係ねぇよ。」

 そう言って笑うガルド。ヒナタは車に乗ってキューネに回復魔法を受けている。そうして走り続けて数十分。ヒナタ達はオルカタウンに帰還したのだった。

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