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ガルド

 フリッジマーケットで二度目の買い物を済ませたヒナタは宿に帰り、シャワーだけさっと浴びていつものように布団にくるまっている。

「ふぅ、この時が最高の瞬間だわ。」

「もう寝るだけだもんね。」

「そういう事よ。まだ寝るには早いけど、もう寝ちゃおうかしら。疲れたし。」

 なんて言いながら、もう既に目をうとうとさせるヒナタ。部屋の明かりを消してカーテンを閉めて寝る準備を済ませたようだ。もうすぐ眠りに落ちる。その瞬間、情報端末が鳴りヒナタの目が覚める。手を伸ばして情報端末を取ったヒナタは端末画面を確認する。どうやら相手はミナトのようだ。無視してやろうかとも一瞬思ったヒナタであるが、結局また電話がかかってくるだろうと思ったので、どうやら電話に出る事に決めたらしい。ボタンを押して電話に応答する。

「はい、何の用事。」

「今時間あるか?」

「今ちょうど寝ようと思ってたところよ。」

 通話越しでもミナトが溜息を吐いているのが聞こえる。

「はぁ、今何時だと思ってるんだよ。」

「別にいいじゃない。ジャイアントキリングには体力を使うのよ。だからさっさと用件を教えなさい。」

「次の依頼についてだよ。他都市の間引き依頼、受けるか?」

「他都市の間引き依頼?」

 聞き慣れない言葉に語尾を上げて聞き返すヒナタ。

「あぁ、他都市の間引き依頼だ。お前がワームを倒したのが上で評価されてな。もうちょっと生息する魔物が強い地域で間引き依頼をさせる方がいいだろうって結論になったんだ。良かったな。実力が認められたぞ。」

 経験値大好きのヒナタであればより強い魔物がいる地域での間引き依頼は好意的に受け取られると思ったミナトであったが、実情は違ったらしい。ヒナタは少し嫌そうな声で答える。

「えぇ、私、ようやくここら辺の魔物に慣れてきたところなのよ? それにあのワームとかいうのを倒したのもだいぶギリギリだったし。あいつくらい強い魔物がゾロゾロいるとなると流石に私でも手に余るのだけれど。」

 ミナトはこの戦闘狂にも一応、自身の実力以上に強いモンスターを倒す事に消極的な部分があったのだと、少し安心しながらも言う。

「流石にあんなのがゾロゾロいるところに行ってこいなんていわねぇよ。ギルドはそこまで馬鹿じゃない。今まではゴブリンとかボア、最大でもオークで推奨レベル10〜35くらいのモンスターが多かったのが、推奨レベル50付近のがボリュームゾーンの魔物が多いところになるだけだ。流石に推奨レベル99が頻繁に出る地域をお前に任せたりしねぇよ。安心しな。」

 ミナトの説明を聞いたヒナタは納得した様子で言う。

「あ〜、そういうこと。だったらいいわよ。流石にゴブリンとかオークばっかり相手にしてちゃ、練習にならないとは思ってたのよ。その提案なら私にとっても大歓迎だわ。その依頼、受けてちょうだい。」

 どうやら依頼を受ける事に決定したらしい。ミナトはそれに安心して言う。

「そうか、分かった。じゃあそのまま通しとくぞ。早速明日に実施されるから、今日のうちに一通り魔物の知識は入れといてくれよ? 情報端末経由で送っとくから。」

「ん。分かったわ。それじゃあまたね。」

「あぁ、またな。気をつけて行けよ。」

 そうして電話を切るヒナタ。すると情報端末を机の端に置いてまた眠ろうとする。そんなヒナタの様子を見たキューネは電気をつけ言う。

「ちょっとヒナタ、今日のうちに魔物見といてって言われてるでしょ?」

「明日の朝見ればいいのよ。今は眠いし、頭に入らないわ。いいから寝かせなさい。」

「そう言ってヒナタ毎回朝になると起きないじゃん。んん、もうちょっと、とか言ってさ。毎回起こす僕の身にもなってよ。ほら、起きるんだヒナタ。」

 そう言ってヒナタの布団を引っ張るキューネ。ヒナタは寒そうにブルブル震えている。下着しか着けずに寝るのが楽らしく、いつも布団に入る前には服を脱いでしまっているのだ。

「うぅ、寒いじゃない。目が覚めちゃうでしょ。」

「それが目的なんだよ。ほら、早く魔物について勉強するよ。僕も教えるから。」

「もう、分かったわよ。」

 そうしてキューネと魔物の勉強会を始めたヒナタであった。

「ヒナタ、朝だよ。」

「もうちょっとだけ……」

「もうちょっとだけ、じゃないよ。もうこれで4回目だよ? いい加減起きてヒナタ。」

 そう言って布団を取り上げるキューネ。ヒナタもどうやら目が覚めたらしい。眠そうにしながら服を着始める。

「どうして朝っぱらから間引き依頼なんてものを始めるのかしら。もうちょっとシーカーの身に気を遣って欲しいものだわ。はぁ。」

 そう溜息を吐きながらゆるゆる服を着替えるヒナタ。今日は別都市の依頼という事で、護送車を乗り換えなければならないので、いつも以上に早起きをする必要があるのだ。

「よし、それじゃあ行くわよ。」

「他の人に当たらないようにもう少し目を開けようよヒナタ。」

「その時はアンタが頑張って私を動かすのよ。」

「うぅ。ひどいパワハラだ。」

 なんて茶番をかましながら朝食へ向かう二人であった。

 都市オルカ行きの護送車に乗り込んだヒナタはまたもや睡眠を始めたようだ。隣のシーカーに何度か頭をぶつけている。隣のシーカーはそれを不愉快に思ったようだ。大声でギルド職員に言う。

「おい、こんな女の餓鬼連れて何するつもりだよ? こっちは遊びでやってんじゃねえんだぞ。ここはオルカタウンの間引き依頼を受ける人間の護送車だろ。こんな舐めた奴下ろしちまえよ。」

「はい……申し訳ありません。ですが依頼の確認は済ませております。勝手に車両を下ろすことは……」

 車内の雰囲気が悪化する。ヒナタはそれも気にせずまだぷーすか寝ているようだ。それをさらに不愉快に感じた隣のシーカーがヒナタに直接何かを言おうとした瞬間、とあるシーカーが言う。

「そいつ、ワームを一人で倒してたぞ、昨日。」

「ワームを……一人で?」

「あぁ、俺は間引き依頼を受けてたんだが、準護衛の依頼を受けてたそいつに助けられた。ワームの口内に魔法瓶ぶち込んでヘイトを買ってな。聞いたところによると、最後は魔法でぶっ飛ばしたらしい。悪い事は言わないから手を出さない方がいいぞ。丸焦げにされても知らないからな。」

 そう、とある男とは、昨日ヒナタがワームに襲われていたのを助けた男だ。後に一部始終を聞かされたその男は、それをそのままヒナタの隣のシーカーに伝える。そのシーカーは唾を飲み込んで汗をたらたら流し始めた。自分の過ちに気付いたのだろう。何事もないかのように席に戻る。

「ま、まぁ、大の大人が大人気なかったな。」

 (相手にしたら負けるから引き下がっただけだろ、この威張り男)

 ヒナタに助けられた男はそう思うのだった。実際問題、ワームを魔術師一人が倒したと言う話自体、意味が分からないのだ。しかも腰には剣を携えている。あの威張りシーカーを黙らせるには十分すぎる内容である。そうして車内には平穏が訪れ、そのまま都市オルカに向かうのだった。

 (ヒナタ、着いたよ。)

 (うぅ、もうちょっと)

 (もうちょっとじゃないよ。車から放り投げられても知らないからね。)

 (分かってるわよ。起きたらいいんでしょ。もう。)

 そう言って護送車を降りるヒナタ。情報端末を見ながら運転手との合流を図る。目的地に着いた。するとどうやら見覚えのある顔だ。

「おう、また会ったな。」

「あんた昨日の……双子?」

「違えよ。昨日と同じ。ガルドだよ。毎度の事運転手が変わると落ち着かないから、ギルド側も気を遣って俺を派遣したって訳だ。いいからさっさと乗れ。出発する準備を始めるぞ。」

「分かったわよ。」

 そう言って車に乗り込むヒナタ。そして車に乗り込んで数分後、昨日と同じようにまた急発進するガルド。またもやヒナタが車後方に押し付けられる。

「ちょっと、急発進するなら先に教えなさいよ!」

「うるせぇ。人命優先だ。」

 そうしてヒナタとガルドの冒険は再度幕を開けた。

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