再来店
ワーム戦が終わり都市に帰ってきたヒナタ。魔石を換金するために、ギルドの扉を開ける。いつもの席に座っているミナトを確認したヒナタは、ミナトに呼びかける。
「あなたの大事な新人が帰ってきたわよ。」
機械を操作していたミナトがこちらを向く。
「何だお前、随分早いな?」
「超絶強敵と当たって傷だらけだったから、今日はもう帰っていいって言われたのよ。魔石の換金をしてちょうだい。」
「そうか。まぁ無事依頼をこなしたならそれでいい。いつもの所で待ってろ。」
そう言われたヒナタはいつもの個室でミナトを待つ。
(はぁ〜、本当に何でこう強敵ばかりと出会うのかしら……両極端なのよね、本当に。間くらいの魔物が来てくれると一番ありがたいんだけど)
(魔道具が想像以上に活躍してくれたのが助かったね)
(本当よ、高いお金を払った価値はあったわ。全部使い尽くしちゃったけど)
(今回も高く買い取ってくれるといいね)
(本当よ。頼むから黒字になって欲しいわ)
ミナトが扉を開けて入ってくる。いつものようにステータス測定器を重そうに持ち上げながら扉を足で閉め、測定器をゆっくり机の上に置いて座る。
「ふぅ、重くて仕方ないな。」
「お疲れ様。」
労いの言葉をミナトに与えるヒナタ。ミナトはこれから始まる苦労を考えながらも、とりあえず処理を進めていく。
「それで、魔石の換金だったな。どれ、見せてみろ。」
「はい、これよ。」
そう言って拡張ポーチをミナトに渡すヒナタ。
「おう、ついにこんなもんも買えるようになったか。本当に成長したなぁ、お前。」
「凄いでしょ?」
「まぁそれだけ強敵と戦ってるっていう事だから、俺としては複雑だが。担当シーカーが成長するのは喜ばしいことには違いないな。」
「えっへん。」
そう言って胸を張るヒナタ。もう少し大きければ眼福だろうが、今のところそういう気配もない。そうして魔石を拡張ポーチから取り出していくミナト。出てくるのはほとんどボアやウェアウルフの魔石ばかり。今回は不作かなと思い始めたその時、一際大きく、重い魔石を見つける。
「重……これは……」
「そいつよ。細長くて超強かった魔物。何回も飲み込まれかけたんだから。魔道具が無かったら死ぬところだったわ。」
魔石をよく見るミナト。ヒナタの話も聞いて結論付ける。
「ワームの魔石……だよな?」
「ワーム?」
「おぉ、ワームだ。地中に潜って体をうねらせて動く魔物。そんでかなりでかい。ここら辺じゃあんまり見ない魔物だからな、久しぶりに見たぞ、ワームの魔石なんか。」
「あぁ、それで合ってるわ。めちゃくちゃ気持ち悪いミミズみたいな奴よ。高値で買い取ってよね。本当に苦労して倒したんだから。まぁ、いつもの事だけど。」
「お前なぁ。そう簡単に毎度の事倒したって魔石を持って帰ってくるが、ワームの推奨レベルを知ってるのか?」
「知らないわよ?」
「ソロならレベル99だ。つまりステータスブレイク直前期の人間が倒すような魔物なんだよ……流石にステータスブレイクは知ってるよな?」
すると、当たり前じゃないという顔で答えるヒナタ。
「知ってるわよ。流石にそれくらいの常識はあるわ。」
流石になんて言うが、今までのヒナタの知識レベルだと間違いなく知っているはずがない。キューネに教えてもらったから、たまたま知っているだけだ。
「そんな魔物をレベル50代が倒すなよ……はぁ。本当にいつも通り規格外だなお前は。」
もはやヒナタの規格外の行動は日常化してしまったようだ。ミナトは驚きつつも、この後の業務の手続きに頭が手一杯だ。
「うっふん。私の魔法と剣は一流なのよ。推奨レベルなんて覆してなんぼだわ。」
(魔法は僕のだけどね)
(うっさい!)
「まぁいい。換金してきてやるからちょっと待ってろ。」
そうしてギルドの裏に消えていくミナト。一つ思いついたことを、ヒナタはキューネに実現可能か確かめてみる。
(ねぇねぇ、あんたの魔法って詠唱終わってからいつでも撃てるのよね?)
(まぁ少しの間なら保てるよ。それがどうしたの?)
(だったらよ。あんたがずっと詠唱終わった状態でいたら、もうちょっと戦闘が楽になるんじゃない? 今って結局あんたが魔法を詠唱するまで私が耐えてなきゃいけないでしょ。それがなくなったら随分楽なんだけど)
(なるほどね。いい案だけどそれは無理だね)
(どうしてよ?)
(詠唱終わって最大まで魔力が溜まった状態だと魔力の消費がめちゃくちゃ激しいし、殺されると思った魔物が一気にヒナタを襲っちゃうからね。現実的に考えるとちょっと実用化は難しいね)
(へ〜、そうなの。まぁそんな簡単な方法があったら誰かやってるか)
(そういうこと。だからヒナタ自身がもうちょっと強くなって、強い魔物相手でも時間を稼げるようになるしかないね)
(結局レベル上げに辿り着くのね。はぁ、世の中って残酷だわ)
世の中の残酷さを身に染みて感じたヒナタ。ミナトが魔石の換金を終えて戻ってきたらしい。扉を開けて、椅子に座る。
「ほら、100万ヴァルだ。大事に使えよ。」
机に置かれた札束は、今までの中で一番の厚みを帯びていた。ヒナタも目を輝かせて紙幣を見ている。
「ふふふふふ、この時間だけはシーカーをやってて良かったと思えるわ。」
そう言って紙幣に顔をすりすりするヒナタ。すると部屋の中の測定器を見て何か思い出した様子のミナト。
「ステータス測るの忘れてたな。ほら、見せてくれ。」
「寝不足か何かじゃないの?」
「そうだが? 主にお前の依頼と活動報告書の処理のせいでな。」
適当なことを言ったヒナタだったが、どうやら地雷を踏んだらしい。ミナトが凄くヒナタを睨んでいる。
「悪かったわね。だからそんなに睨まないでもちょうだい。これが終わったらさっさと帰るから。」
そうしてヒナタはステータスを開く。出てきた数字は67。またもや一日で10個以上レベルを上げている。本当にレベルアップの速度は埒外の化け物だ。
「はぁ……こりゃ今日も徹夜だなぁ。ワームを倒したって時点で覚悟してたが……はぁ。」
そう何度も溜息を吐くミナト。
「ちょっと、担当シーカーのレベルアップよ? もうちょっと喜んでもいいんじゃないかしら?」
「喜んではいるけど、それ以上に疲労が溜まってんだよ。おめでとさん。」
「そう? ならいいけど。じゃ、私もう帰るわよ。この後武具屋に寄って魔道具を整えるつもりだから。」
「あぁ、行ってこい。またな。」
「またね。」
武具屋に向かうヒナタ。フリッジマーケットの扉を開ける。つい3時間ほど前に訪れたばかりだが、消耗品の魔道具は全て失ってしまったので、もう一度訪れることにしたのだ。ヒナタが扉を開けると、3時間前と同様、カルラが深々とお辞儀をして迎えてくれる。
「フリッジマーケットへようこそ。今日は何のご用事でしょうか……」
ヒナタたちを見たカルラは動揺を少し顔に浮かばせる。
(3時間前に来たばかりよね……返品かしら? 少し買わせすぎちゃったし)
なんてことを考えながら笑顔を保とうとするカルラ。本来、客が男であれば、こうした場面でも胸を見せつければ何とかなるのだ。カルラにはそれほどの魅力がある。「やっぱりあの商品気に入らなかった」と男が返品を求めてきても、「すいません。返品も可能なのですが、やはり品質保証がございますので、どうしてもお値段は少し引かせていただかないと……」と深々とお辞儀すれば、胸に夢中の男は大概調子に乗ってオーケーしてしまう。なんなら口車に乗せられて新しい魔道具を買ってしまうことすらあるほどだ。しかし、今回の相手は女の、しかも子供。どうしたものか……そう考えていたカルラであったが、ヒナタの口から衝撃の言葉が発せられる。
「魔道具、拡張ポーチ以外は使い切っちゃったから、また新しいのを買いたいわ。」
「……はい?」
少し笑顔を崩してしまうカルラ。
(この3時間で? 全ての魔道具を? ……ん?)
全く脳内処理が追いついていないカルラ。消耗品の魔道具とは、本来どうしようもないくらい危険な時に使うものだ。そんなにバンバン減るものではない。それをものの3時間で? しかも全て? 意味が分からない。落としてまた買いに来た、これならまだ分かる。それでもカルラの商売人生においては稀な経験である。しかし、流石に3時間で使い切って帰ってくる客は、いくらカルラでも初めてなのだ。動揺を抑えられない。
「だから、全部使い切っちゃったの。新しいのをちょうだい。」
どうやら聞き間違いでもないらしい。全くもって意味は分からないが、とりあえずお客が商品を欲しているのだからと商売モードになるカルラ。
「さ、左様でございますか。でしたら、まだ在庫はございます。それぞれ一品ずつでよろしいですか?」
「そうねぇ……2個ずつ買うわ。結構役に立ってくれたのよ。予備も欲しいし。あと他に別の商品も紹介してくれない? まだ予算はあるから。」
「お買い上げいただき、ありがとうございます。」
そう言って深々お辞儀をするカルラ。キューネは頑張って見ないように顔を横に向けているが、目線が全く頑張っていない。もっと言えばガン見だ。そしてすぐさま軽くヒナタに頭をぺちんと叩かれる。カルラのお辞儀の長さに感謝するキューネであったが、カルラもお辞儀をすることで色々と思考を整理していた。
(結構役に立った? ということは、やっぱりもうあれを全部使い切ったの? よっぽどのバトル狂かしら。でも、うちからすればありがたいわね。これは売り込むチャンス、腕の見せ所よ)
そう覚悟を決めて、綺麗な顔を上げてお辞儀をやめるカルラ。キューネは少し残念そうな顔を見せる。
「別の商品をお買い求めでしたら、ポーションなどはいかがですか? 特に長丁場で戦うシーカーにとっては、簡単にエネルギーを補給して体を回復できるポーションは大人気の商品となっております。」
ヒナタのようなバトル狂なら、継戦能力を上げるポーションに食いつくはず。カルラはそういう見立てのもと勧めたが、ヒナタの反応は予想より渋いものであった。
「うーん……ポーションねぇ……」
ポーションに良くない印象を持っていると感じたカルラは、その原因を探ろうと深く切り込む。
「ポーションで上手くいかなかった経験などがおありで?」
「あ、いや。そういうわけじゃないんだけど。私、魔法を使えるから、回復とかはそっちでいいかなーって思ってるのよね。だからポーションをわざわざ買う必要性をいまいち感じてないというか。」
「ま、魔法でございますか?」
「ええ、そうそう。回復魔法。」
そう簡単に言うが、初見からしてみれば意味が分からない。魔法を使える人間が、わざわざ剣を練習する必要などないのだ。魔術師は貴重なため、パーティーを組むのにも困らないし、優秀な前衛などいくらでも加えられる。そのため、わざわざ自分が剣を練習して前衛もこなせるようになろうなどという発想には普通ならないのだ。それくらいなら魔法だけ鍛えた方が早い。剣を鍛えたところで器用貧乏になるだけだ。普通の魔術師ならそう考えるが、どうやら目の前の少女は違うらしい。ますます意味が分からない。
「でしたら、マナポーションもございます。マナポーションとは魔力を回復してくれるポーションのことで、魔術師にとって必需品に近いとも言える商品です。」
以前キューネに聞いた時には出なかった話だ。ヒナタは驚きを顔に浮かばせながら言う。
「え? 普通のポーションだけじゃなくて、マナポーションなんてものがあるの?」
「はい、ございます。お値段によって魔力の回復量は異なりますが、需要が高く、日々進化しております。フリッジマーケットでも新しいマナポーションを販売しておりますよ。」
(ちょっと、どういう事よ。何で教えてくれないのよ、そんな重要なもの)
(だって……まず……だもの)
小声でゴニョゴニョ言うキューネ。
(え? なんて?)
(だってまずいんだもの。)
今回ははっきり聞こえた。少し申し訳なさそうにしているキューネだが、知ったことではない。ヒナタは即決する。
「買います。案内してください。」
「左様ですか、こちらです。」
そう言って案内を始めるカルラ。
(ちょっと酷いよヒナタ! 僕にあんなものを飲ませるつもり!)
(今まで私に隠してた罰よ。買えるだけ買うわ)
「こちらになります、自由にお選びください。」
「は〜い。」
そうして値札を見るヒナタ。後ろから「頼むから買わないでくれ」という視線を感じるが、知ったこっちゃない。
「ねぇ、この20万と50万のマナポーションは何が違うの?」
「あ、そちらはですね。50万のポーションの方は、魔法ですごく美味しいラムネ味になっているんです。特殊技術のため値は張りますが、ポーションの味を苦手とする方も多いので、一部の消費者様がお買い求めになることがございます。」
(ヒナタ、50万!)
(20万なら2個買えるわ。悩むまでもないわね)
(ちょっとお願いヒナタ! 何でもするから! あの劇不味ポーションだけは……!)
そう言って悲しそうな目を向けてくるキューネ。本来なら20万のポーションをなるべく多く買いたいところだが、今までやってこれたのもキューネのおかげだ。そう思い、50万のマナポーションの購入を決断する。
「じゃあこの50万のを一個もちょうだい。今日はそれでいいわ。予算ももう大してないし。」
「かしこまりました。ご購入ありがとうございます。」
(ヒナタさん、あざっす!)
(本当に感謝しなさいよね)
今回ばかりはカルラの胸を見ず、カルラ同様にヒナタにお辞儀をするキューネ。
「合計90万ヴァルになります。」
現金とギルドカードを提出するヒナタ。
「あ、包装しないでいいわよ。どうせすぐ使うだけだし。」
「さ、左様でございますか。」
本当に目の前の戦闘狂モンスターには驚かされるばかりだ。そうして会計を終えて、買った商品を拡張ポーチに入れたヒナタは店を出る。
「ご利用ありがとうございました。またのご利用をお待ちしています。」
そうお辞儀するカルラ。キューネもチラリとだけ見てすぐヒナタについて行った。しかし、ヒナタにはしっかりバレており、またもやキューネの叫び声が都市に響き渡るのだった。




