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ワーム

 フリッジマーケットで65万ヴァルの買い物をした後、準護衛として間引き依頼を受ける為に護送車に乗り込むヒナタ。

「何か、小さいわね。」

 ヒナタは運転手にそう言う。いつもの間引き依頼であれば何十人も乗れる車であるのに対して、今日は数人乗れる程度の大きさしかない。ヒナタの言葉を聞いた運転手が言う。

「お前と俺だけだからな。小さいので十分だ。ちょっとやそっとじゃ壊れないくらいには頑丈だから安心しろ。それにこっちの方が小回りが利く。緊急援護要請があるたびに色んな場所に行くんだ。こっちの方が色々と都合がいいんだよ。乗るぞ。」

 そう言って車に乗る運転手。準護衛としての役割を果たすには、どんな場所に困ったシーカーがいても助けに行く必要がある。そのため、狭い通路や道を通るにはこっちの方が何かと都合が良い。ダンジョンから都市、都市から都市へ向かう正規ルートを通るのであれば別だが、何せ「緊急」援護要請だ。どんな場所にシーカーが居るか分からない。そのため、何十人も乗り込めるような大きい車というのは不便な事が多いのだ。

「はぁ、分かったわよ。」

 そう言ってヒナタも車に乗り込む。シートベルトを着けるのに随分手間取っているようだ。それを見た運転手がヒナタのシートベルトを取り、着けるのを手伝ってあげる。

「貸せ……ったく。」

「あんがと。」

 (まったく、こんな女の餓鬼が本当に準護衛として働けるのか? ギルドの人手不足もここまで来たか、はぁ。)

 なんて心の中で溜息を吐く運転手と同様、ヒナタも好きに動けないこの依頼に対して不満を持っていた。

 (ここら辺の魔物を倒すだけじゃ経験値をまともに稼ぐのは無理そうね。随分退屈する事になりそう……はぁ。)

 (まぁまぁヒナタ。たまにはこういう人助けも良いじゃない。)

 (別に人助けが嫌いな訳じゃないわよ。ただレベルを上げる方が優先順位が高いだけよ。)

 (ヒナタの経験値好きは異常だね〜。まぁ別に僕は良いけどさ。)

 たわいのない会話をするヒナタとキューネ。すると運転手が車を急に動かしだす。ヒナタは咄嗟にスピードを出し始めた車に体を思いっきり後ろに持っていかれる。

「依頼が来た。飛ばすぞ。」

「そういう事は先に言いなさいよ! 心臓に悪いじゃない!」

「うるせぇ。とろとろしてる間にも人が死にかけてるんだよ。人命優先だ。」

 そう言って車を飛ばし続ける運転手。そうして車を進めて数分後、依頼主を見つける。

「見つけた。あいつだ。」

 そう言って指を差す運転手。見た所初心者シーカーらしい。オークに対して逃げ回っている。

「おいお前、車のスピード落とすからさっさと出ろ……」

 と運転手が言いながら左を見るとヒナタは居らず、開けられたドアだけが残っていた。どうやら依頼主を見つけて車がスピードを落とす前にさっさと車を抜け出したらしい。それを見た運転手は扉だけすぐに閉めてまた車のスピードを上げる。とろとろ車を動かすと周囲の魔物が群がってくる。そのため、常に車を動かし続けなければならない。

「誰か助けて〜!!!!!!」

 そう言っているのが聞こえたヒナタ。

 (あいつね。行くわよ。)

 (バリア準備完了〜、多分いらないけど。)

 ヒナタが車から出て間も無く、オークとオークに追いかけられている少年に追いつく。そこからは蹂躙だ。ただヒナタが剣をオークに一度刺すだけ。それだけでオークは魔石となり戦闘は一瞬で終わった。しかし、その少年はオークが倒された事に気付かずまだ走り続けている様子だ。オークの魔石を拾ったヒナタはすぐさまその少年の進行経路に立ち塞がり言う。

「オーク。倒しといたわよ。」

 そうして魔石を少年に見せるヒナタ。少年は初め動揺している様子だったが、目の前の少女が命の恩人である事に気付き、お礼を言う。

「あ……ありがとうございます。」

「どういたしまして。」

 少年とそんな会話をしていると運転手が大声でこっちに向かって叫ぶ。

「次が来たぞ! 乗れ!」

 そう言ってこっちに向かって車を飛ばしている運転手。それに乗り込んだヒナタは運転手に言う。

「ちょっとくらい休憩時間はないの?」

「ねぇよ。人命優先だ。あと降りるなら扉は閉めろ。吹っ飛ぶぞ。」

「はいはい、分かったわよ。全く。」

 (最低限の実力はあるみたいだな。)

 ヒナタがオークと戦う姿を見ていた運転手はそう思う。ヒナタはようやくもう一度シートベルトを着け直す事に成功したらしい。それを見たキューネは言う。

 (ヒナタ不器用だね。)

 (すぐに慣れるわよ。そもそもこのシートベルトとか言うやつ、圧迫感あって好きじゃないの。してるだけまだ良いじゃない。)

 (ヒナタはまだマシだよ。カルラちゃんがシートベルトなんてした時にはもう大変。溢れんばかりのその胸が圧迫されちゃってもう……ふふふ。)

 どうやらキューネはカルラが気に入ったらしい。カルラ「ちゃん」呼ばわりしている。しかし、そのきしょさ加減はヒナタの拳骨を喰らうには十分すぎた。キューネが拳骨を喰らった頭を押さえて痛そうにしている。

 (ちょっともう、何するのさ!)

 (気持ち悪い。女の敵。反省しろ。)

「おい、何してる。車を壊す気か?」

 ヒナタが本気で拳を振るっているのを見て言う運転手。ヒナタは何の気ない顔で返答する。

「ちょっと嫌な気配がしたから払っただけよ。何もないわ。」

 それを聞いた運転手は思う。

 (やっぱりまだ餓鬼だな……)

 また車を走らせて数分後。新しい依頼主の元に辿り着く。今度はウェアウルフやボアの群体に追われた10代後半だと思われるシーカーが逃げ回っていた。さっきと違い何も言わずにただただがむしゃらに走り続けている。そしてヒナタはまた一体ずつそれぞれ急所を突き一撃で倒していく。全ての魔物を倒すのに要した時間はおよそ数秒。もはや戦いにはなっていない。今度は後ろの静けさと断末魔から助けが来た事に自ら気付いたようだ。依頼主の方から近づいてくる。

「いやー、助かったぜ。」

「何であんなに魔物が集まってたのよ? ちゃっちゃと倒しちゃえば良いじゃない?」

「いや〜、弱いウェアウルフを痛めつけて遊んでたら想像以上に魔物が集まっちまってな。気がついたらあの状況だ。いや〜それにしてもマジ助かったぜ。サンキューな。」

 そう言って笑う依頼主だが、ヒナタの内心は穏やかではなかった。

 (クズね。)

 (クズだね。)

 (助けない方が良かったかしら。)

 (10体くらい残しとけば良かったね。)

 (本当よ。)

 そんな物騒な会話をキューネとしていたヒナタだが、また運転手が車を近づけて言う。

「また次が来た! 今度は遠い、急いで乗れ!」

「分かったわよ。」

 そう言って車に乗り込むヒナタ。

「あ〜あ、なんか飽きてきたわねぇ。早く強い魔物と戦いたい。」

「……」

 運転手は悟る。どうやら隣にいる女は戦闘狂のようだ。あまり関わりを持たない方が良いだろう。戦闘狂に巻き込まれて死ぬ事などごめんだからだ。そうして車を走らせて10分経つが、まだ依頼主の元まで着く事はない。どんどん都市から離れて魔物の密度と強さが増している。

「おい、ここら辺で手を外に出すな。」

「何でよ? 気持ちいいわよ?」

「外の魔物にかぶりつかれて手を無くした奴を俺は何人か見てる。分かったらお利口にしとけ。」

 すぐさま手を引っ込めるヒナタ。若干顔が青ざめているようだ。ヒナタのレベルであれば噛みつかれても腕ごと持っていかれる事は稀であろうが、傷を負う可能性は十分にある。手は車の中に置いておいた方が無難であろう。そうしてさらに都市から離れていく。するとヒナタが気付く。

「ねぇ、なんか地面揺れてない?」

「ん? 言われてみれば……」

 そう言って地面を注視していた二人だったが、進行方向左からとてつもない爆音がした事から左を見る。すると何か細長い魔物が地面から出てきたようだ。地響きを鳴らして今も地面を揺らしている。そしてまた地面に潜っていった様子だ。

「何よあれ……」

 何かとてつもなく大きな細長い魔物を見て戦慄するヒナタ。しかし、隣の運転手から衝撃の事実を告げられる。

「あそこだ……」

「へ?」

「依頼主、あそこだ……」

 そう言ってあの細長い魔物を指差す運転手。どうやらあの魔物と戦っている相手が依頼主らしい。

「どうする? お前が無理そうならもっと強い奴に頼むが……」

 そう言ってヒナタを見つめる運転手。ヒナタはキューネに聞く。

 (あいつ、倒せる?)

 (うーん……魔法が当たれば? でもすごく危険。)

「行けるわ。」

 即答するヒナタ。運転手は若干引いているようだ。だが、一度決めたヒナタが止まる事はない。すぐさま車を出て細長い魔物の方へ向かう。

 (僕は詠唱を進めとくから、僕が詠唱終わるまでヒナタは頑張って耐えてね。)

 (了解よ。)

 そうして細長い魔物の方へ向かって走るヒナタ。あの魔物に近付くにつれて地響きが大きくなっている。そして遠目で見た時点で大きかった魔物もここまで近付くにつれてさらに大きさが増している。ワームだ。ギルドに登録されたソロ推奨討伐レベルは99。もっと北側の魔物である。北害とはより北部の魔物が南下する事により南部の魔物の生息範囲が変わり被害がもたらされる災害らしいが、どうやら今回はその元凶に出会ったらしい。ヒナタもつくづく運がない。そうしてワームに十分近付いたヒナタは依頼主を見つける。見たところ、30歳くらいのシーカーだ。ずっと走り続けてワームの攻撃を何とか回避しているようだが、いつまで持つかは分からない。それを見たヒナタはワームのヘイトを買うために、とりあえず地上に出ている肉体部分を切りつける。暗緑色の血が流れるが、行進が止まる気配はない。ワームの強い生命力からすれば、ヒナタの攻撃など取るに足らないのだろう。それを見たヒナタは唱える。

 (【変速】!!)

 そうしてスローモーションの時の中でワームの口がある方向へと全力で走るヒナタ。その先には今も逃げ続けている依頼主がいるようだ。ワームが口を開いてその男を地面ごと飲み込もうとする。その時、ヒナタは左手をポーチに突っ込み、何かの瓶をワームの口の中の向かって放つ。そう――雷の魔法瓶だ。そして雷魔法を喰らったワームは初めて悲鳴を上げる。

「ギギギギギィィィ――ッ!!」

 体を地上に出してもがき苦しむワーム。しかし、倒すには至らない。使い捨ての雷魔法とはいえ、そこまで高級な魔法瓶ではないからだ。値段相応の威力しか出ない。数秒苦しんだ様子を見せたワームだったが、すぐにまたこちらに向かって進行し始めた。しかし、今度はどうやらヒナタの方へ向かっているらしい。依頼主の男は運転手から車に乗せられて全速力でこの場から離れている。周囲には他の魔物も寄り付き始めているが、ワームがほとんど踏み殺しているので大した障害にはならない。強くてもオークくらいだ。そのため、ヒナタの進行方向に魔物が寄ってきても、ヒナタは瞬殺する事が出来る。しかし、もちろん魔石を拾う余裕は無いので、後ろで追いかけているワームに踏み潰されている。

 (あぁ、私の魔石が……)

 そんな事を思うヒナタであった。逆にいえば、それくらい考える余裕はあったわけだ。ワームは体全体をうねらせて動くせいか、急な方向転換を苦手としている様子で、意外とヒナタでも攻撃を避けるだけであれば難しくないように見える。もちろん、攻撃しようと思えば、圧死の危険がまとわりつくが、今回はキューネが詠唱を終えるのを待つだけ。今回も案外楽に終わりそうだ。そう考えていたヒナタであったが、一向に攻撃が当たらないワームは攻撃パターンを変える。体全体を地上に出し、鞭のように体全体をうねらせる。そうして擬似鞭の先っぽにいるのはそう、ヒナタだ。ヒナタは音速に近い鞭の動きをスローモーションの中で捉えるが――避けられない。ヒナタが危険を認識する頃にはあまりにもワームの尻尾がヒナタの近くまで来すぎていた。推奨レベル99の本気の一撃がヒナタを襲う。ヒナタは遥か後方に吹っ飛ばされ、体の至る所から血を流しているがどうやら命は助かったらしい。地面には役割を終えた衝撃吸収の腕輪があった。どうやら腕輪がワームの攻撃をある程度減衰させてくれていたらしい。しかし、減衰されたワームの攻撃でさえヒナタに重傷を負わせるには十分だった。もはや立っていることも奇跡的な程までの傷だ。ワームが近付いてきている。ヒナタに向かってまた全速力で体をうねらせながら近づいてくる。もう走るほどの元気もない。どうしようもない。このままワームに飲み込まれて死ぬ。そのはずだった。しかし、救世主が現れる――そう、キューネだ。

 (詠唱完了〜。)

 (ちょっと、もう私死にかけで動けないんですけど。)

 (いいよ、そのまま動かないで勝てる。というより動かないで欲しい。色々ブレるから。)

 (分かったわ。動かないわよ?)

 (うんうん。そうそう、いい感じ。)

 そうして動く事を辞めたヒナタ。ワームが大きな口を開ける。そうしてヒナタは飲み込まれる。地面と一緒にワームの胃の中へ滑り込む。そしてキューネが魔法を発動させる。生命力の強いワームだが、内側の内臓から体の中を光魔法で壊されれば、どうしようもない。そのまま何度も体を真っ逆様にしたり、体を地面に押し付けたりするワームだが、体の中は光の濁流に飲まれて壊され続けている。そうして暴れ続けて数十秒。ついに動きを止めたワーム。間も無く体が崩壊して大きな魔石となる。キューネは動けないヒナタに変わってせっせか魔石をヒナタの方まで運ぶ。

 (はい、ポーチを買っておいて良かったね。)

 (本当ね。)

 そうして以前までの魔石袋では入りきらなかったであろう程大きな魔石を拡張ポーチに入れるヒナタ。キューネが回復魔法をヒナタにかけ始めて数分後、依頼主の男を別の護衛のところまで運んだ運転手が帰ってきた。とりあえず近くに魔物はいない事を確認した運転手は車を出てヒナタに聞く。

「あのでっけぇ魔物は?」

「倒したわよ。魔石は拡張ポーチに入れた。」

「は? あのサイズのをか?」

「だからそう言ってるでしょ。あと、もう私この依頼続けられないからね。見ての通りボロボロなの。早く都市に帰って魔術師に治してもらわないと。」

 実際には今もキューネに治し続けて貰っているが、さっさと都市に帰りたいヒナタはもちろんそんな事は言わない。あくまで自分の体は危険だと言うだけだ。

「……まぁ倒せたならいい。依頼もまぁその傷じゃ無理だろう。俺からギルドには説明しといてやるから帰るぞ。ほら、車に乗れ。これ以上は魔物が集まる。」

「分かった。あんがとね。」

 そう言って車に乗り込んだヒナタは都市に帰ったのだった。

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