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カルラ

日光が窓から差し込む。昨日ミナトから情報端末経由で、ヒナタがお昼から準護衛として間引き依頼に参加することが決定されたという事が伝えられたため、ヒナタは朝日が昇ってもまだぐっすり寝ているようだ。準護衛とはどうやら北害の深刻化を受けて、新しく作られたポストらしい。その役割は、情報端末から来た緊急依頼をひたすらに受けて回るというものだ。今までであれば、何か緊急事態が起きた場合でも、班に護衛は一人しか用意されておらず、持ち場を離れるにはもう一人の護衛を呼びにいかなければいけないので、対応に遅れが出た。そこで用意されたのが準護衛だ。いざという時には情報端末に追加された緊急援護要請を受け準護衛がすぐさま対応に向かうのだ。しかし、護衛でさえ人気が無くたらい回しにされているのだ。準護衛なんて大変かつ危険な役割を担おうと思う高レベルシーカーなど雀の涙ほどの数しかいない。そこでミナトが都市の機嫌を取ろうとヒナタにこの依頼を受けさせたのだ。ヒナタは当初嫌がってはいたが、都市に睨まれたのは自分の蒔いた種だと最終的には受け入れたらしい。そして日光がヒナタの目元を照らすまでに太陽が昇った頃、ヒナタは目を覚ます。

「んん……。」

「おはようヒナタ。すっきりした?」

「ええ。毎日これくらい寝れたらいいのにね。」

「あはは、いつか昼夜逆転しちゃいそうだけどね。」

「ふふ、そうね。とりあえず今日はお金を手に入れた訳だし武具屋に行かないとね。」

「また武器にほとんどお金を使うつもり? ヒナタはもうちょっと贅沢してもいいと僕は思うんだけどなぁ〜。」

「いいのよ。早く強くなるためよ。それに、いざという時に剣が折れたりしたらそれこそ危ないわ。武器にはふんだんにお金を使わなくちゃ。一昨日食べたパフェでとりあえずの贅沢はしたのだからそれで十分よ。お金を浪費するのはまた今度でいいわ。」

「まぁ、ヒナタがそう言うなら僕は別にいいけど。」

 確かに、剣士にとって剣は命に等しい。剣が無くなれば一気に状況は不利になる。それはヒナタが変異体レッドスパイダー戦で再認識させられた事だ。強くなる事に全てをかけるヒナタにとって、剣は一番お金をかけるべき分野なのだ。

「それじゃあ、服着て朝食を食べに行くわよ。」

「レッツゴーだ。」

 そうして朝食を食べた後にいつもの武具屋に向かう。相変わらずボロボロの建築だが、それもすっかり目が慣れて来た。いつものように扉を開ける。するとまたいつものように扉に付いた鈴の音で店主が立ち上がって言う。

「いらっしゃい、今日は何を買いに来た。」

「剣よ。予算は60万ヴァル。」

 ヒナタの出す数字に耳を疑う店主。

「何だって?」

「だから60万ヴァル以内で剣を買いたいの。」

 また桁が一つ上がったようだ。自身の聞いた数字が聞き間違いではなかった事を再確認した店主は言う。

「うちにその価格帯の武器は置いてねえよ。」

「え? そうなの?」

「一応ここは初心者用の武具屋だからな。そこまで高単価な物は置いてねえ。まぁ別に取り寄せようと思えばできるが……」

 そう言って黙り込む店主。するとヒナタは言う。

「別にちょっとなら待ってあげるわよ?」

「うーん……俺としてはお勧めしない。俺はお前がどんな武器を使いたいのかいまいち分からねぇし。商売やってる以上仲介料の一部を俺が貰う事になる。だから定価より高くしないといけねえ。素直にもっと高単価な武器を多く集めてる所をお勧めする……そうだな。ここら辺ならカルラの店か。フリッジマーケットって店がある。そこに行きな。」

「フリッジマーケット?」

「ああ。デカパイ姉ちゃんのカルラって奴が店主をしてる。そこなら60万ヴァルの武器も売ってるだろうよ。」

「ふーん。そうなの。でもあんたはいいわけ? 重要な顧客が別の所に行っちゃうのよ?」

 そうだ。初心者用の低単価な武器ばかりを売ってる店主にとって、ヒナタはようやくそれなりに利益を出してくれる客になったのだ。ここで手放すのは惜しいはずであろう。そう考えたヒナタであったが、店主の返答は違ったようだ。

「俺のせいでお前が死んだほうが夢見が悪いだろ。俺に気なんか使わずまともな武器を選んで買ってこい。」

 ヒナタ思いの事を言う店主。自分のビジネスよりヒナタの命を優先したようだ。ヒナタの中で店主の好感度がぐっと上がる。

「ふーん。そう。分かったわ。フリッジマーケットね。今までお世話になったわね。」

「一週間も経たずにうちから去る事になるとはな。この仕事続けて20年、お前が最速だよ。もっと強くなったらうちの店を宣伝しろよ?」

「髭面のツンデレおっさんが居るって宣伝しといてあげるわよ。」

 すると笑う店主。

「馬鹿言え。ほら、商売してるんだ。うちの商品買わないならさっさと出てけ。」

 そう言って顔を少し赤く染める店主。

 (照れてるわね。)

 (照れてるね。)

 そう言って笑い合うヒナタとキューネは店主にお勧めされたフリッジマーケットに向かうのだった。そうして店の前まで来たヒナタは思う。

 (でかいわね。)

 (でかいねぇ。)

 そう建物を見るヒナタとキューネ。ツンデレ店主の店は低単価の武器しか売っていないので利益率が低い。そのため、家賃にお金を掛けられないのだ。だから建物を限りなく小さくして、レジと倉庫でほとんどその面積を占めることでどうにかやりくりしていた。しかし、どうやらここは違うようだ。ツンデレ店主の店の10倍近くの面積はあるのではないだろうか? そんなことを考えながらヒナタはフリッジマーケットの扉を開ける。すると扉の前で立っていた通称デカパイ姉ちゃんがお辞儀をする。

「フリッジマーケットにようこそ。今日は何のご用事でしょうか。」

 そう言って完全に胸が見える所まで姿勢を低くするカルラ。カルラはフリッジマーケットの店主として今まで数多くの男性シーカー達に高単価商品を買わせる事に成功していた。胸がデカい若い女。それだけで集客にはあまりにも十分すぎる。さらに言えば、容姿端麗。女に飢えたシーカーからして見れば天使、いや神にも近いだろう。一部ファンクラブなんかもあるらしい。胸を強調したその服装もさらに男達の妄想を掻き立てる。そしてそんなカルラを見たヒナタは思う。

 (でかいわね。)

 (でかいねぇ。)

 (目線がエロいわよ、このエロ精霊。)

 (いやぁ〜、見慣れない光景なのでつい……)

 カルラがお辞儀をしている隙に一発の拳骨を入れ込むヒナタ。男に胸を見せつける為にカルラは長いお辞儀を心がけている為、どうやらヒナタが不審な行動を見せたことはバレていないらしい。お辞儀をやめたカルラの目を見てヒナタは言う。

「剣が欲しいわ。」

「左様でございますか。剣のコーナーはあちらになります。」

 そう言ってヒナタを案内するカルラ。

「そう、ありがとう。」

 剣のコーナーに案内されたヒナタ。しかし、自分ではどの剣がいいのかいまいち分からないのでカルラに聞くことにしてみる。

「何かお勧めとかある?」

 すると商業用の笑顔を崩さずにカルラが答える。

「はい、それですと。こちらの剣などが人気ですね。七大商社の一つクロノス商会の一品となっております。クロノス商会独自の精錬技術によって加工された魔石が使われているため、切れ味、耐久力ともに優れた物となっております。」

 値札を見るヒナタ。そしてそこには30万ヴァルと書かれている。

 (値段もちょうどいいし、これにしようかしらね。にしても便利ね。あいつの店も武器をこうやって並べてくれればもうちょっと選びやすいのだけれど。)

 (まぁ経費削減だろうね、仕方がないよ。)

 (そうね。)

 ヒナタとキューネが武器を見ながらそんな会話をしている頃、カルラは目の前の女のシーカーの金銭状況が分からず、さらに言えばいつもの女の色目も通用しないであろう相手にどう対応するべきか悩んでいた。

 (とりあえず手頃な武器を紹介してみたけれど……この子本当にシーカーなのかしら? まだ子供に見えるし……やりにくいわね。)

 そうして顔を顰めるカルラを見てヒナタは言う。

「じゃあ、とりあえずこれ買うわ。」

「ありがとうございます。」

 また深々とお辞儀をして胸を強調するカルラ。キューネはエロ親父かのような視線でその胸を見つめている。ヒナタはそれに対して非常に冷ややかな視線を送る。その視線に気づいたキューネは咄嗟に口笛を吹き誤魔化し始める。

 (まったく。)

 そうしてヒナタが現金を出そうとしていた所、カルラが商売魂を見せてそれを制止させる。

「お客様、他にも魔道具などに興味はございませんか?」

「魔道具? 何それ?」

 しめたと思うカルラ。カルラはヒナタの装備品を見て、30万ヴァルをすんなり支払う客にしては余りにも装着品が少ないと感じていた。どうやら目の前の少女は魔道具について知らない様子。これは売り込みのチャンスだと腕を鳴らす。

「はい。魔道具というのは、何らかの魔法技術を用いてシーカー活動をより便利にする道具です。例えば人気なのは拡張ポーチ。こちらは内部に空間魔法が施されている為、その見た目以上に多くのものを収納できます。いざという時に魔石が邪魔で……そう思うシーカーは少なくありません。そんな時にこの拡張ポーチさえあれば、魔石を落とす心配もない、その上いつも以上に多くの魔石を収納できる、ということでシーカーにとって半必需品となっております。シーカーとして活動を続けるのであればいずれ必要になるでしょう。試しに一つ買ってみることを推奨します。」

 値札を見るヒナタ。一番安いので10万ヴァルであるようだが、カルラの説明が本当であるのならばコスト以上のリターンが期待できる。それに、いざという時に魔石を落とす心配が無いのはやはり大きい。そのため、20万ヴァルのポーチを選んでカルラに言う。

「じゃあとりあえずこれも買うわ。」

 (乗せやすい客ね。もう少しいけるかしら。)

「ありがとうございます。」

 そう言ってまた深々お辞儀するカルラ。キューネはヒナタに睨まれないようにチラチラ谷間を見ているが逆にそれがいやらしい。ヒナタも冷ややかな目線を向けている。

「他にも魔法瓶や衝撃吸収の腕輪などに興味はありませんか?」

「魔法瓶? 腕輪?」

「はい。魔法瓶とは、瓶の中に魔法と魔力をあらかじめ封じ込めておく魔道具で、破壊すると即座に魔法が放たれます。そしてその最大の特徴はいつでもどこでもだれでもすぐに魔法を放つ事ができると言うことです。剣士の方であれば、魔法は後衛の魔法師が魔法を放つまでその時間を稼がなければいけません。しかしですね、魔法瓶さえあれば魔法をすぐに放つ事ができます。一度きりの消耗品ですので高いと感じる方も多いですが、その有用性は高く、特に前衛職にとって貴重な攻撃、牽制手段となっております。」

「へ〜。」

 そうして値札を見るヒナタ。雷魔法が最安値で5万ヴァルで売られている。

「腕輪の方は?」

「はい。衝撃吸収の腕輪はですね、スキルのように使いたいと思った時に自身が受ける衝撃を緩和する事ができる腕輪です。レベル50程度の魔物相手なれば、何度かは完全にその攻撃を無効化できます。剣士は一撃致命打を喰らう事が命に関わる職業です。そんな方にとって欠かせない商品となっております。」

「ふーん。」

 そうして値札を見るヒナタ。こちらは10万ヴァルらしい。

 (ちょうど予算圏内ね。買うわよ。)

 (うん。それがいい。)

 早口でそう言うキューネ。カルラの胸を見たいだけだろう。鼻息が抑えられていない。この可愛らしい見た目の精霊にこんなことを言うのが不粋だが、端的に言えばキモい。

「じゃあこの雷の魔法瓶とこの腕輪を買っていくわ。もう予算がないからこれ以上は結構よ。」

「左様でございますか。お買い求めいただきありがとうございます。」

 そう言ってまた深くお辞儀をする。キューネは見えないことをいい事にすごく凝視している。そうしてカルラがお会計に後ろを向いた瞬間、ヒナタから全速力の拳骨を受ける。しかし、これくらいでは反省しないだろう。おっぱいの破壊力とは恐ろしいものだ。

「合計65万ヴァルとなります。」

「はい、これでちょうどね。」

 そう言って65万ヴァルとギルドカードを差し出すヒナタ。さっそく受け取ったポーチに魔法瓶と使い古した剣を入れておく。腕輪はもう今のうちから装着しておくことにしたらしい。新しい剣も腰に差している。そうして店を出ようとすると、カルラはもう一度深くお辞儀をする。

「ご利用ありがとうございました。またのご利用をお待ちしてます。」

 (じぇんじぇんいいでしゅよ〜。)

 ゆるゆるの口でそう言うキューネ。ヒナタはそんなキューネの背中の毛を引っ張り無理やり外に連れ出す。そしてその数秒後、キューネの叫び声が都市中に響くのであった。

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