ドルムの罠
魔石を換金しようとギルドに入ったヒナタ。しかし、扉を開けた先ではミナトが仁王立ちして待っていた。
「よう。待ってたぞ。」
「何でそんな所で待ってるのよ。私はどこぞの人気アイドルじゃないんだけど?」
「いいから来い。」
いつもの個室にヒナタを連れていくミナト。そこではもうヒナタが来る事が分かっていたかのように測定器が置かれている。そうして座った二人。ミナトが話を切り出す。
「お前、ギャングから金を受け取ったな? それもギルドカード経由で。」
何を言いたいのかいまいち理解できないヒナタ。
「ええそうだけれど。よく知ってるわね? あんたまさかずっと私の記録か何かでも追ってるの? 気持ち悪いわよ?」
少しイラッとしたような様子を見せるミナト。大きな声でヒナタに言う。
「ちげえよ! 都市に喧嘩売ってんのかって聞いてんだよ?」
ヒナタは怪訝な顔を浮かべる。話が繋がってこないようだ。
「ちょっと、話を省略しないでちゃんと言いなさいよ。私が馬鹿なのはあんたもう知ってるでしょ?」
やっぱりこの目の前の非常識モンスターは何も理解していないのかと溜息を吐いて言う。
「あのな。ギルドカード経由のお金はすぐにギルドが誰から誰に、いくら金が移ったかを全部確認出来るんだよ。そういう金の流れを見る事で大規模犯罪を未然に防げたりするからな。そんでお前のギルドカードからお前がギャングからそこそこの金額を受け取った事がバレたんだよ。」
「それの何が問題なのよ? お詫びにって渡されただけよ? 犯罪なんて犯してないわよ。私は正当にそのお金を貰ったんだから。何でケチつけられなきゃいけないのよ。」
「あのなぁ、都市がどれだけギャング達に目を光らせてるのかを知らないのか? ギャング達の勢力が強くならないように武器の購入を制限したり、間引き依頼とかもそういう身元確認が行われたうえでやられてるんだよ。いつも武器を買う時にギルドカードを提出するよう指示されなかったか?」
「あ〜……されたような。」
そう、ヒナタは現金で支払う場合でも現金と一緒に毎度のことギルドカードを提出していた。どうしてであろうと疑問に思っていたが、どうやらギャングに武器が行くのを防ぐためであったらしい。誰がどれだけ武器を買っているかを正確に把握しておけば、都市から大規模に武器がギャング達に流れることは防げる。そのための方策の一つがギルドカード提出であった。そしてヒナタがギャングからお金を受け取ると言う行為はギャングに加担したと見なされるのには十分すぎる。それが武器を提供したのであれ何であれ、ギャングからお金を受け取っているのだ。それなりに何かしらの形でギャングに貢献したに違いない。そんな行いを平気で行うヒナタは都市からすれば危険人物も危険人物なのだ。
「そんでな。シーカーなら大体これくらいの事は知ってんだよ。だからギャングからギルドカード経由でお金を貰うなんて、私は都市の言うことは聞きません、って宣戦布告してるようにしか見えねえんだよ。だからお前がギャングからお金を貰ってから都市経由でずっと俺に注意勧告が来てんだよ。お前の担当シーカーにヤバい奴がいるから、もし事態が深刻そうなら都市の調査本部に連れてこいってな。そんで、お前はそんなつもりなかったってことでいいのか?」
調査本部に連れて行かれるかも知れないと思ったヒナタはカールが深夜まで取り調べを受けていたであろう事を思い出し、自分はあんなの絶対嫌だと自身の無実を強く主張する。実際にはもし調査本部に連行された場合カールとは比にならないほど長期の調査期間になるだろうが、ヒナタはそれを知らない。
「そうに決まってるじゃない! あんな死体とゴミだらけの場所ごめんよ! 調査本部になんて私、行きたくないからね!」
やはり自身の予想通りヒナタは都市に喧嘩を売るつもりなど毛頭なかったらしいと分かり、溜息を吐く。
「はぁ……まあ俺から都市にはそう言う風に説明しといてやるよ。しばらくはダンジョンに行くのも止めてお利口にしとくんだな。じゃないといずれ護送車に乗って移動するのもギルドから断られるようになるぞ。」
ダンジョンに行くなというミナトの提案に露骨に嫌な顔をするヒナタ。
「え……なんでダンジョンに行くのが駄目なのよ? ようやく慣れてきた所なんだけど? 今更狩り場を変えるなんて私嫌よ?」
するとまた溜息を吐くミナト。本当に目の前の怪獣は何も理解していないらしい。
「ダンジョンなんてものは基本ギャングとかそっち系の危ない奴らしか行かねぇんだよ。そんな所に毎日身体を運んでおいて、ギルドカードからはギャングからの送金履歴。ダンジョンで悪い取引をしてるようにしか都市からしたら見えない。適当に都市の心象を稼げそうな依頼を俺が用意しといてやるから、ダンジョンに潜るのは一旦諦めて俺が取ってきた依頼をしばらくは受けておけ。そうしたら、いずれお前への警戒も解けるだろうよ。」
そう、ダンジョンに行きまくってる時点で既に怪しい奴なのだ。ダンジョンはまともなシーカーにとって都合が悪く、逆にギャングにとっては都合の良い場所だ。そんな場所に毎日赴いているのだからヒナタはそれだけで少し警戒を持たれても無理はない。しかし、一部の人間はスキルや魔法の関係からダンジョンに潜る事を好むので、そういうシーカーなのであろうと今まで見逃されていた。しかし、一度ギャングと金のやり取りがあったと知れば、その意味合いは大きく変わってくる。そのため、ヒナタはしばらく都市の心象稼ぎに勤しまなければならない。都市から完全に危険人物として認定されれば、護送車に乗る事も依頼を受ける事も難しくなる。それは都市として治安を守るためだ。シーカーとして依頼を受けたら、ギャングの団体と一緒でした、なんて事になったら、都市は酷く信用を失う。そういった事態は許されないため、基本的にそういった事への対策に多くの金と時間と人員を費やしているのだ。
「分かったわよ。あ〜あもう。とんだ災難だわ全く。」
そう、とんだ災難だ。ドルムももちろんギルドカード経由で自身がお金を送ればヒナタが都市に睨まれるであろう事は分かっていた。貰える物は何でも貰う主義のヒナタだが、どうやら今回の貰い物には劇毒が入っていたらしい。ヒナタにとっても、何でも受け取ればいいというものではないという良い教訓になったであろう。
「最近北害が酷くなってるからな、いつもより高レベルシーカー募集の間引き依頼が多い。お前も気を付けろよ。」
ヒナタはよく分からないという表情を浮かべている。
「何よ北害って? 名前からして北から降ってくる災害か何か?」
「まぁ、端的に言えばそういう事だ。北の魔物の方が強いっていうのは流石にお前でも知ってるだろ?」
「それくらいは流石の私でも知ってるわよ。」
そう、流石のヒナタでもだ。
「そんで北の魔物が南下した時に南部の魔物の分布範囲が変わって被害がもたらされる。これが北害だよ。」
理論を一部省略しているせいでヒナタは理解が出来ていない様子だ。
「どうして魔物の分布範囲が変わったら被害が出るのよ?」
「間引き依頼は基本的にそこに出現する魔物の強さに応じて割り振りが決まってるだろ?」
「そうね。」
「だから基本的にオークが倒せない奴はオークの活動範囲から離れた間引き依頼を受けるし、基本的に自分が倒せる範囲の魔物しかでない地域で間引き依頼を受けるんだよ。そこに北害のせいで、ゴブリンの群生地帯にオークが出ました、なんて事が起きたら、ゴブリンを倒すつもりだった初心者シーカーなんて一網打尽にされるだろ?」
「あー、そういう事。ようやく理解できたわ。」
強い敵をいい経験値としか思っていないヒナタからすれば北害など恩恵の一種に近い。しかし、普通のシーカーはそうではないのだ。自身が戦うつもりであった敵以上に強い魔物が出る事は、死に直結する。そもそも魔物の活動範囲が変わらないのであれば間引き依頼でわざわざ護衛が付く必要もないのだ。護衛は万が一そういった事が起きた場合に、被害をより最小限にするために存在するのだから。
「ダンジョンに行かないなら依頼のほとんどは間引き依頼になる。だからお前も注意するんだな。それで、今日の戦果は?」
「今日も頑張ってきたわよ。」
そう言って満タンに詰まった魔石袋をミナトに渡すヒナタ。置いた時の音が重い。どうやら今回も豊作だったらしい。
「お前そんな満タンになるまで戦わずに帰ってこいよ……戦いにくいだろ。」
「戦いにくいだけで戦えるからいいのよ。ほら、ちゃちゃっと計算しちゃいなさい。」
そうして魔石を慎重にトレイに出して行くミナト。そしてゴブリンの変異体の魔石に気付く。
「お前、また変異体か。」
「またって何よ。別に良いじゃない。」
もうここまで来れば確定だ。こいつは確実に変異体を見つけて狙い撃ちでわざわざ殺しに行ってるに違いない。上層の魔石はこの変異体一個しかなく、他の魔石は全て中層由来のもののようだ。よくもまあそんな危険にのこのこ足を踏み入れるものだと逆に少し感心し始めたミナトだったが、また一つ重い魔石を見つける。そしてそれを見たミナトは気付く。
「これ、スカルナイトの変異体か?」
「そうよ。高値で買い取りなさい。」
いつもの様に何でもない様な顔をするヒナタ。ミナトももはや突っ込む体力もない。なんでこうも毎回意味の分からないくらい変異体を見つけて来ては討伐して帰ってくるのか。普通に逃げて帰ってこいよと思わずにはいられない。しかし、非常識に常識を説いても仕方が無いのでとりあえず、業務をさっさと終わらせようと手早く処理を進めて行くミナト。
「そんじゃステータス」
そうしてヒナタはステータス計測器に手を置きステータスを開く。
「レベル56…まぁスカルナイトを倒したからにはこれくらい行ってるだろうと思ったが、本当に規格外だな。」
「運と才能だけはあるからね。これくらいは当然よ。」
「へいへいそうかよ。」
実際にそうであるから憎たらしい。スカルナイトの変異体のソロ討伐推奨レベルは85。以前計測されたレベルは43。確かに本当に単独でスカルナイトを倒せたのならこれくらいレベルが上がっても不思議はない。しかし、そもそもレベル43が変異体スカルナイト相手にダメージが通る事などないのだ。有象無象のギャングたちの攻撃がヒナタに何の害も与えられなかった様に、レベルが2倍以上離れていてダメージが当たるなどということは起きない、起きるはずがないのだ。なのにそれを毎回倒したと言って魔石を持って帰ってくるのだから本当に意味が分からない。どういう精神なのだろうかと不思議に思うミナトだが、もはやヒナタの異常行動は恒例行事になりつつあったので、ミナトもわざわざ深くは突っ込まない。
「ちょっと待ってろ。魔石の換金をしに行ってやる。」
そう言ってギルドの裏に向かったミナト。
(カールの件は触れてこなかったわね。)
(慣れっこなんでしょ。それにカールとヒナタの問題だしね。ギルド職員が割って入る事じゃないと思ったんだよ。)
(そういうものかしら。)
昨日ギルドでパーティを解散した事はミナトに伝えていた。だがミナトに驚きはない。この破天荒モンスターに付いて行く事など誰も不可能であろうとそもそも分かっていたからだ。ヒナタはパーティを組んで戦うのに極度に向いていない。自身の身を危険に晒すやり方を他のメンバーが受け入れてくれる事などそうそう無いからだ。そんな命知らずの大概は強くなる前に死んでいる。生きているシーカーのほとんどは安全志向でこつこつとレベルアップに勤しんできた人間だ。だからこそ、レベルアップの速度は遅くても、それなりの数の人間がステータスブレイクを何度か起こしたりする事が可能なのだ。ギルドの裏から帰ってきたミナト。昨日以上の厚さの札束を持っている様だ。
「ほらよ。65万ヴァルだ。」
「おぉー」
ヒナタは完全にお金に魅入っている。今回は中層の魔物ばっかり倒したため、そもそもの単価が高く、変異体のスカルナイトは非常に貴重なためこの金額となった。
「お前、明日はどうするつもりだ? 間引き依頼受けるか?」
「えぇもちろん。暇だしね。行くわよ。」
「それなら早速今日のうちに処理終わらせとくから情報端末をよく見といてくれ。今日中に連絡が行くだろうから。」
「了解よ。それじゃあ私帰るわね。バイバイ。」
「おお、待たな。」
そうしてヒナタとキューネは大金を大切に抱えながら宿に帰ったのだった。




