新たな宝箱
「ヒナター、こっちこっちー、左足が無くなっちゃうよー。」
ヒナタはキューネの案内で角を曲がる。先ほどまでヒナタ達が通っていた道はまた黒く焦げ上がる。3階層から2階層に登ったヒナタとキューネはまたレーザーアイに追いかけられていた。
(なんで2階層でもあいつに追いかけられてるのよー!きゃ!?)
自身の顔の真横を通り抜ける光線。
(ちょっと、なんで光線が来るって言ってくれないのよ!)
(何もしなくても当たらなそうだったからね〜、省エネってやつだよ)
(もー、いやー!)
その後、ヒナタはレーザーアイの追跡から逃れ、また体を床に放り投げる。
「いやー、またもや危なかったね〜。」
「もう懲り懲りよ。」
疲労を顔に滲ませるヒナタ。キューネも近寄って声をかける。
「ご苦労様、これで2階層も無事抜けられそうだね〜」
「全く、1階層ではもうあんなマネしないわよね?」
「それはもちろん。」
そう言って笑みを浮かべるキューネ。
「本当でしょうね?」
キューネの顔をジロリと見るヒナタ。一度3階層で騙された経験から、また何かこの可愛らしくも鬼畜な獣が何かしでかすのではないかと疑わざるを得ない。
「本当だよ。1階層は比較的モンスターの密度が低いからね。接敵無しで通り抜けられるよ。僕について来れば万事大丈夫さ。」
「そう言いながらも何回も死にかけてるんですけど?」
皮肉を込めて言うヒナタ。しかしキューネは動じることなく、もっと言えばまた自慢するかのような顔を浮かべているようだ。可愛くなければ殴っている。
「いざとなれば僕が守るから大丈夫。魔力もまだ一杯残ってるからね〜、余裕だよ。」
「それなら、もうちょっとキューネの魔力を使って楽をすれば良いじゃない。」
すると一回転してから顔を横に振るキューネ。少しイラっときたヒナタだが黙ってキューネの話を聞く。
「ダンジョンっていうのは何が起きるか分からない場所だからね。魔力は出来る限り残しておくのが定石さ。僕だって魔力が無くなればただの超絶プリティーボーイになってしまうからね。」
ヒナタはキューネの言った一つの単語に耳を疑う。
「え、キューネって雄なの?」
その可愛らしい姿形から勝手にメスだと想定していたヒナタ。キューネがボーイであるという言葉を聞いて衝撃が走る。
「どちらかといえば、そうかな?」
「どちらかと言えばって、雄か雌しかないでしょ。」
「精霊に性別なんて存在しないんだよ。総合的に考えて雄か雌かの2択なら雄かなってこと。」
「へー、そういうこと。」
ヒナタにとって精霊の謎は深まるばかりであるが、とろとろしていると他の魔物が寄って来るので、キューネの事について考えるのは一旦先延ばしにしてさらなる一歩を進めるために立ち上がる。
「そろそろ行きましょうか。」
「そうしようか。いつまでもここで痴話喧嘩を続けるわけにも行かないしね〜。」
「何が痴話喧嘩よ。全くもう、本当に大丈夫かしら。」
そうして1階層への階段へ向かう2人。当初見せていた緊張は今やヒナタには見えない。キューネがヒナタの緊張をほぐそうと気を遣い、フランクに話しかけたことが効いているようだ。
「次の角を右に曲がれば階段、ん!?」
2階層を進んでかなりの時間が経った。次の角を右へ行けば1階層への階段があると言ったキューネだが、左を二度見して体を半回転させて左へ向かう。キューネの様子を不思議に思うヒナタだが、キューネを信じて左へ進む。キューネは何もない壁を見つめているようだ。ヒナタが言う。
「どうしたのよ。」
「宝箱だね。いやーヒナタは豪運の持ち主だね。連続で2つも見つけるなんて滅多にない事だよ。」
辺りを見渡すヒナタ。
「どこにもないじゃない?」
「いや、この壁の奥にある。」
「なんでそんな事が分かるのよ。」
「僕はダンジョン産の生き物だからね。ダンジョンのことならなんでも分かっちゃうんだよ。えっへん。ヒナタのマジパンチでこの壁破壊できない?」
キューネと一緒に壁を眺めるヒナタ。キューネの冗談に即答で答えを出す。
「できるわけないでしょ?乙女の柔肌じゃ傷もつけられないわ。」
そう言ってキューネを見るヒナタ。キューネは頭をかきかきして言う。
「まぁ、僕がやらないとだよねー。そんじゃ、少し離れてて。」
壁から距離を取るヒナタ。キューネはなにか溜めてるようなポーズで両手を上げる。ヒナタは巻き添えになってはいけないと考え、キューネから少し離れるが、しばらくしても何も起きない。ヒナタは言う。
「それ、詠唱でもしてるの?」
「いや?僕はそんな事しなくてもこのくらいの壁なら破壊できるよ?」
分からないという表情を浮かべるヒナタ。ヒナタが魔法使いであれば詠唱もなく魔法を発現させられることにまず多少は驚きもするだろう。しかし、ヒナタにそんな教養はあるはずもなく、ただ無為な時間を過ごしたことに対して疑問を抱いただけであった。
「じゃあなんでそんなことしてるのよ。」
「いや〜、ほら。なんか一仕事した感が出ていいかなと……」
そう言って申し訳なさそうに後ろを見るキューネ。予想通りヒナタからは怒号が飛ぶ。
「はよやれ!」
「分かったよ。まったく、ヒナタはセッカチなんだから。よいしょ!」
その直後、壁が爆発して、壁を構成していたと思われるものが粉々になって地面に転がり落ちる。
「魔力は温存しとくんじゃなかったのー?」
そう言って責め立てるようなほそーい目でキューネを見つめるヒナタ。キューネは両手をヒナタの方に見せて言う。
「今こそ使い時だったんだよ。それとも、僕のこの小さいプリティーな手でこの壁を破壊しろって言うのかい?乙女の柔肌以上に敏感なんだよ僕の手は。」
粉々にされた壁の先を見るヒナタ。
「すごい、本当に宝箱がある。」
「ね、言ったでしょ?もうちょっと後に出現させる予定だったやつだろうね。ここまでやっちゃったんだし、遠慮なく僕たちが頂こう。」
そう言って宝箱の前まで進む二人。
「ねぇねぇ、何が入ってると思う。」
「魔法書か秘伝書だよ。うん、そうに違いない。」
「またキューネが出てきたりして。」
そう言って揶揄うようにキューネを見るヒナタ。
「それはないね、僕は特別製さ。あんなラッキーは生涯一度きりだと思ったほうがいいよ。」
「なーんだ。そうなの。じゃああんまし期待できないわね。」
興味を失った様子を見せるヒナタだが、キューネがすぐさまその認識を覆す。
「いやいや、宝箱から出てきた魔法書を使えば、ヒナタだって僕みたいな魔法を使えるかもだよ?」
顔をすぐさまキューネの方へ持っていくヒナタ。
「え、それってガチ?」
「ガチのガチ」
2人は宝箱に視線をやった後、にやけ顔を見せ合う。まるで金目の物を見つけた強盗犯のような顔つきである。中を開けようと身を屈めたヒナタ。
「じゃあ、開けるわよ」
そう言って箱を開ける。その胸の内は期待で一杯だ。そうして出てきたのは何の題名も書いていない本であった。
「ねえねえ、これって!」
魔法書らしき本を見かけて声の調子が良くなるヒナタだが、それはキューネによって打ち切られる。
「うーーーーーーーーーん。秘伝書だね。魔法書じゃない。」
「なーんだ。私もキューネみたいにどっかんどっかんできるようになるかもって喜んだのに。しょぼん。」
目の輝きを失いがっかりした様子のヒナタ。キューネは励ますように言う。
「いやいや、ヒナタ。秘伝書は秘伝書でスキルをゲット出来るからね。場合によっちゃ魔法よりも有用だよ。」
「それって本当!?」
目の輝きを取り戻した少女。そんなヒナタを見て嬉しそうに笑ってキューネは言う。
「本当本当。魔力を使わなくていい分、魔法より便利だよ。その分性能も抑えめにされがちだけど。早速、使ってみれば?」
「分かった。やって見る。」
本を眺め続ける少女。静寂が流れて数秒後、ヒナタが口を開く。
「どうやって使うの?」
ヒナタの想定外の発言に宙でずっこけポーズをするキューネ。
「ずこっ、もう、ヒナタは世間知らずなんだから。」
「悪かったわね!?」
「本を開くだけさ、それでスキルを獲得出来る。」
「それだけでスキルを貰えるの?」
「うん。ただそれだけ。やってみなよ。」
「よーし、それじゃあ、開くわよ。」
そうしてヒナタの視界は光で満ちる。何かが自身の中に入って来ていることを身に染みて感じる。何かいろんなものを見ているような気もするし、感じている気もする。なにかぼんやりとした気分だ。
意識が戻ったヒナタ。目の前にはキューネが立っていた。
「しっかり使えたみたいだね〜」
自身の体を見渡すヒナタ。
「何も変わってないわよ?」
「そんな急に筋肉マッチョになったりはしないよ。ステータス画面があるでしょ?そこで名前を確認できる。後は試行錯誤してどんな効果があるか探っていくしかないね。」
「当たりは何なの?」
手を顎において悩むキューネ。
「うーん。ダンジョンの中だと気配が薄くなるタイプの奴だと助かるかな〜。後は純粋に身体能力を上げるタイプとか。敵の位置が分かるようになるスキルとか。まぁ戦闘系ならなんでも当たりだよ。」
「そう、意外となんでも使えるのね?」
「料理〜、とか。洗濯〜、とか。そういうの以外であれば基本はそうだね。」
「そう、じゃあちょっと見てみましょうか。」
キューネもヒナタの顔の横に自身の顔を置く。
(ステータスオープン)
戦闘系なら何でも当たりだと言われたヒナタ。スキルについて、色々な妄想を働かせて目を閉じる。
(うでが伸びたり、ロケットパンチが撃てるようになったり、ハサミを身体から出せるようになったり。うーん、どれも人間からはかけ離れそうね。)
そうして開いた目の先にある目の前のステータス画面のスキル欄には1つの項目が追加されていた。
【夢】
キューネと顔を見合わせるヒナタ。理解が追いつかずキューネに解説を求める。まさか、まさかだ。そんなわけがないだろう。夢なんて毎夜見ているではないか。そんなものをスキルにするわけが無いだろう。何馬鹿なことを考えているのだ。自分はどうかしている。そう思いたかったヒナタだが、キューネが無慈悲にもその思いを断ち切る。
「今日からいい夢見れるね、ヒナタ。」
そう言って右手でグッジョブサインと共に笑顔を浮かべるキューネ。もちろんキューネに”煽る”意識など毛頭微塵もなく、それは慰めの言葉であったが、夢物語かのような妄想をしていたヒナタを怒らせるのには十分すぎたようだ。怒号が飛ぶ。
「なによ!馬鹿にしてるの!?もういいわよ!どうせ私は夢を見ることしか脳が無いんですー、だ!元から私がそんな良いスキル手に入るわけ無いって思ってたんでしょ!?」
そう言って顔を横に向けるヒナタ。キューネもあまりに可哀想であると思い、冗談を言う余裕もなく必死に慰めモードだ。
「ごめんごめんヒナタ。でもヒナタ、これは逆にラッキーだよ。スキルとか魔法って今の本人の特性に合ったものが選ばれて、シーカーなんかやってると基本的には戦闘スキルが手にはいるんだよ。まぁヒナタはシーカー歴浅いし、今回は偶々それが手に入ったってこと。切り替え切り替え。」
「じゃあなに?私は最悪の最悪を引いたアンラッキーガールだって言いたいの?」
「いやー、そういうわけじゃ……」
「そういうわけじゃ、何よ?」
「いや、そういうわけでもあるんだけど…… 」
地雷を踏みまくるキューネ。生後間もない精霊は言葉選びをいろいろと間違えたようだ。拾える限りの地雷を全て拾って踏んづけたに違いない。その地雷を一つも残さずに回収していく手捌きはまるでプロの地雷回収員のようだ。ヒナタは怒って先に進む。
「もういいわよ。あっちにあるのが一階への階段でしょ。さっさと登るわよ!まったく、あんたが言うから寄り道したのに、嫌になっちゃうわ!」
「うー、ごめんよー、ヒナター。」
その後ヒナタの機嫌を取るために数分2階層で時間を使ってしまったキューネであった。




