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慎ましいレベル上げ

セーフティーポイントに倒れ込む二人。ヒナタの方は、カールがあの後無理やりスキルを解除させてから気絶している様子だ。鼻血を出して目を覚まさない。その一方、ポーションを飲んだカールは少し体調がマシになったようで、少し思考する余裕すら生まれていた。

(あれ……ヒナタが撃った魔法なのか? あの状態で? でもこいつしかいないし……)

 魔物を殲滅した一撃。あの一撃が、意識が朦朧としたヒナタに打てるとは思わないが、ヒナタしかあの場には居なかったので、違和感を覚えつつもヒナタがやったのであろうと結論付ける。確認をしてみたいところだがヒナタは完全に気絶している様子。この状態でポーションを飲ませるわけにもいかない。かと言って、この状態のヒナタを運んで都市まで帰還するのは現実的ではない。ヒナタがいなければ、魔物の接近を事前に避けることはできない。変異体に遭えばその瞬間ゲームオーバーだ。ダンジョンは治安が悪く、逃げにくい。ダンジョンの二つの悪い性質が、今回は特に裏目で出ている。そのため、カールは今、ヒナタが目を覚ますまで硬直状態に陥っている。どうしたものか……そうカールが考えていた矢先、ヒナタが目を覚ます。

「うぅ……。カール?」

「おい。大丈夫か。ポーション飲めるか? ゆっくり飲め。そうだ」

 そう言ってポーションを飲ませるカール。ヒナタの顔色がどんどんマシになっていく。

「ゲプッ。不味いわねこれ」

「軽口を叩けるなら大丈夫そうだな」

 そう言って笑うカール。ポーションが効いたと思って安堵の表情を浮かべる。実際には、主にキューネがずっとヒナタに回復魔法をかけていたおかげであるが、いずれにせよ回復しているのには間違いない。

「動けるようになったら言ってくれ。さっさと都市に帰還するぞ」

「それなら今すぐ行きましょう。もう動けるわ」

「さっきまで意識失ってた奴が本当に大丈夫かよ?」

「魔物となるべく出会わないようなルート取りをすればほとんど歩くだけよ。それに、歩きながら回復魔法をかけるから、大丈夫よ」

「まあ……お前がそう言うなら俺は別に構わんが」

 そう言って立ち上がる二人。そうして二人はダンジョンから脱出し、都市へと向かう護送車に乗り込んだ。ヒナタはキューネから回復魔法をずっと受け続けたおかげかだいぶ元気が回復しているが、カールはかなり疲れた様子だ。薄ら白目を剥いて寝かかっている。

(凄い顔して寝てるわね)

(きっと疲れてるんだよ。僕も魔力を使いすぎてクタクタ。干からびちゃいそう)

(本当に死ぬかと思ったわよ。あのクソギャングどものせいでね)

(多分、変異体を倒そうとしたけど、倒せなくて他の魔物も寄ってきてで、逃げてる最中だったんだろうね)

(だからって、なんでそんなに都合よく私達を見つけるのよ。全く。どれだけ運が悪いのよ私達は……はぁ)

(それは多分、ヒナタがとんでもないくらいのボリュームで叫んだせいだね。それで僕達がいる方角がバレてた)

 そう、スキルを獲得した時のあの大声だ。あれがギャング達にヒナタのいる方角を伝えてしまった。もちろん、その声を聞いた時は魔物を押し付けようなどとは考えていなかっただろうが、自らの命が危険に晒されれば別だ。命の危険が迫り来る中、倫理観のないギャング達にとって、ヒナタ達を囮に使うことなど良心を痛めるようなことでは決してないからだ。もう少し魔物が少なければ、再度戻ってきてヒナタ達の死体から持ち物を強奪していた可能性すらある。流石に数が多すぎたことでギャング達がスラム街に戻っていったことは、不幸中の幸いであった。

(まあ、結果的に助かったからいいのよ。スキルもゲットしたしね)

(スキルが無かったら本当に死んでたかもね。いや〜、ヒナタのラッキーパワーには感謝しなくちゃ)

(本当にそうね。まともに使えるスキルで良かったわ)

 そんな会話を繰り返していると、やがて都市に着いた。そしてその間にヒナタは眠ってしまったらしい。半目から白目をチラつかせて眠っている。

(ヒナタ、起きて。都市に着いたよ)

(うぅ……。あともうちょっと)

(『もうちょっと』じゃないよ。運転手に放り投げられても知らないからね。カールを起こしてさっさと車から降りて)

(ん……分かったわよ)

 そうして目を開けて動き出すヒナタ。

「ちょっと、起きなさい。都市に着いたわよ」

「あぁ……サンキューな」

 少し声が濁っているが、寝起きはヒナタより良いようだ。すぐに体を起こして車から出る準備を始めるカール。

「ふぅ、ようやく帰ってきたわね」

「だなぁ……」

 車で寝て緩和されたとはいえ、二人の顔には極度の疲労が写っていた。特にヒナタは初めて使うスキルで脳を酷使したため、まだかなり眠そうにしている。

「私はギルドに行って魔石を換金してくるけど、あんたはどうする?」

「俺は帰って寝る。ほら、俺が持ってた魔石。換金しといてくれ。俺への報酬は適当に振り分けといてくれていいから」

 以前折半してくれたことから、報酬について交渉をする必要はないだろうと考えるカール。そもそも今回の場合は特に疲れが酷いので、交渉する気力も湧かない。

「ん。分かったわ。換金しとくわね」

「気を利かせて変異体の魔物の魔石だけでも回収できたら良かったんだけど、悪いな」

 カールはヒナタをセーフティーポイントに運ぶのに必死で、中層の魔石を集めずにセーフティーポイントまで逃げ込んだ。そのため、カールの魔石袋はかなりスカスカなものとなっていた。

「良いわよ別に。命あっての物種だもの。欲張って死ぬよりマシよ」

 経験値に惹かれて危険に自ら足を運ぶお前が言うのか。そんなツッコミを入れたいところであるが、疲れているのでそのまま聞き逃すカール。

「そんじゃあ、またな」

「またね」

(はぁ、今回は赤字かしら。もうちょっと上層でモンスターを倒しておけば良かったわ……)

(ヒナタさ〜ん、ちょっとちょっと)

(何よ。今あんたの悪ふざけに付き合えるほど体力無いわよ。やるなら明日にしなさいよ)

 そうして魔石袋の方を指差すキューネ。キューネが何をしたいのか分からないが、とりあえず魔石袋を開けてみる。

(え、あんたこれって)

 そう、中に入っていたのは、中層で倒した魔物の魔石。キューネはカールが魔石を集める気が無いことを察知し、こっそりヒナタとカールを守りつつ魔石集めに勤しんでいたのだ。

(こっそり集めておきました)

 そう言ってヒナタに敬礼するキューネ。

(あんた、やるじゃない。これなら結構なリターンが期待できそうね……グヘヘ)

 そうヨダレを垂らして、この魔石達がいくらになるであろうかと皮算用をするヒナタ。ギルドに行く気力もさっきより湧いたようだ。少し早足になってギルドに向かう。

 ギルドに入ったヒナタ。ミナトを発見し呼び止める。

「ちょっと。あんたの大事なシーカーが帰って来たわよ。もてなしなさい」

「おう……ってお前、ボロボロだな」

「そりゃあもう、大冒険して来たのよ。今日の私は本気で疲れてるの。魔石換金して帰りたいからさっさとしなさい」

「相変わらず態度のでかい奴だな……いつもの場所で待ってろ」

 若干の呆れを見せつつも、いつものことだと聞き流すミナト。そうしていつもの個室に入ったヒナタ。椅子を横に並べて体を横にする。

(ふぅ……この椅子、寝心地悪いわね)

(そりゃ椅子は座る為に作られてるからね。ヒナタが横になる為に作られてるわけじゃないよ)

(うるさいわね。寝転べる場所がある、という事実が重要なのよ)

 そう言ってボヤーと天井を眺めるヒナタ。しかし、ギルドの清掃された天井にはシミなどなく、いつもの癖で手を天井に向け迷路をしようとするが、肝心の通路がないので結局手を下ろして呆然としている。口を開けて呆然とするヒナタの顔はアホ丸出しといった様子であった。そしてミナトがやって来る。

「お前、パンツ丸見えだぞ」

「別に良いじゃない。減るもんじゃないんだし。あんたにパンツを見られたくらいで動揺する私じゃないのよ」

「へいへい、そうかよ」

 そう言っていつもの馬鹿でかい計測器を机の上に置くミナト。体を動かして痛みを和らげているようだ。

「ちょっと、またステータス測るの? 良い加減飽きたわよ」

 その言葉にイラッときたミナト。ものすごい速さでヒナタに抗議する。

「何が『良い加減飽きたわよ』だ! 普通ステータスなんてものは定期検診みたいな感じで一ヶ月に一回測りゃ十分なんだよ! 『あら、3cmも伸びたの。大きくなったわね』とか、そんなもんで済むんだよ! お前が毎回毎回ありえない速度でレベルアップしまくるせいで、このどでかい機械を毎度持ち運ばなきゃいけなくなってんだろうが! お前を担当してから腰が悪くなってんだよこっちは! もうちょっと俺の体にも気を遣ってくれ!」

 そうものすごい剣幕で語るミナト。それを見たヒナタはいつもの強気を無くして、少し申し訳無さそうにしている。

「あらそう……それは悪かったわね」

「全く……それで? 今回の収穫は?」

「これよ」

 そう言って机の上に魔石袋を置くヒナタ。その重い音が、今回のダンジョン探索が豊作に終わったことを明確に告げている。そしてミナトは一つずつ魔石をトレイに出して、一つずつ物色する。

「これは中層……これも中層……こっちは上層……これは中層……」

 そうして一つずつ魔石を振り分けていく。そうして手に持つ中で、明らかに重い魔石を発見する。

「重っ……これウェアウルフの魔石か? よくもまた変異体を見つけて来たな」

「まあね。私、運は良いから」

 もはや運がどうこうとかで片付けられるレベルではない。間違いなく、このクソ生意気な少女は変異体を見る度に何の迷いもなく突っ込んで行っているに違いないと確信するミナト。一般的に見ればあまりにも狂人だ。変異体というのは、その地域で出る魔物の中で特別に強い。すなわち、そこら辺で狩りをしているレベル帯のシーカーにとっては基本、都合が悪いのだ。見つけたら基本的にはより強いシーカーに助けてもらうしかない。それを依頼化してシーカーの生存率を上げたのが、あの間引き依頼なのだ。自分より推奨レベルが高い変異体をほいほい追い回すこの目の前の鬼畜が異次元なだけなのだ。逆にその狂気から、こいつに追い回される変異体も可哀想だと魔物に同情してしまう。そんな事を考えていたミナトは、とりあえずその変異体の魔物を今までの上層と中層の魔物で分けていた区分とはまた別のところに変異体の魔物を置く。そしてまた魔石袋に手をやって新たな魔石を掴んだ時、さっきの魔石以上に重い魔石を発見する。

「重すぎるだろ……ってこれお前、もしかしてまさか?」

「レッドスパイダーの変異体よ。超頑張って倒したんだからね。高値で買い取りなさいよ」

 まさかだ。まさか。中層の魔石が大量に入っていることでもう十分驚いた。おそらくレコードホルダーであろう。シーカー始めて一週間以内に中層へ? どこのフィクションだよ。普通、中層まで行こうと思えば、一途にシーカー活動に勤しんでいた人間でも一年はかかる。そしてそこまでの道のりで大半は死ぬ。中層に行けるようになったなんて言えば、もう立派な中堅だ。しかし、今までこの目の前の非常識モンスターが非常識な記録を打ち立て続けている事を知っているため、もはや問い詰めることなどしない。「中層の魔石? 相変わらずお前は異端児だな」、そう思って流すことが出来た。しかし、これは違う。中層の『変異体』の魔石だ。中層の『変異体』だぞ? 中層の上の方の変異体でも推奨レベル70、80あることなんてざらだ。うん。意味が分からない。何を言ってるのだこの目の前の馬鹿は。そう思いながらも、実際に目の前には中層の変異体の魔物の魔石があるのだ。嘘であるはずはない。あまりの意味の分からなさに頭を抱えていると、もう一つの厄介な問題を思い出す。

「はぁ……ステータス、測ってみろ」

「分かったわ」

 そうして測定器に手を乗せるヒナタ。『ステータスオープン』と唱え、ヒナタのステータスが映し出される。

 【レベル】  43

 

 【スキル】  【夢】  【変速】

 【魔法】

「お前、昨日測った時は幾つだった……」

「確か26ね。あ、そうそう。言い忘れてたけど、新しいスキルをゲットしたわよ。効果は身体能力のアップ。動体視力とかも良くなって滅茶苦茶ハイな気分になれるわ。その代わり、使った後の疲労はやばいけど。まあ、それを加味してもなかなかナイスなスキルだわ。本当に、よく宝箱を見つけたものよ……」

 なんて楽しげに語っている。頭が情報でパンクしそうだ。レベル17アップ? 新しいスキル獲得? もう知らん。そうして何とかヒナタの言っている事を理解しようと沈黙を続けていたミナトだが、ヒナタはその沈黙を自身の話を聞かずにぼーっとしているのだと考え、ミナトに顔を近付けて言う。

「ちょっと、あんた話聞いてんの? とにかくそういうことだから。さっさと魔石を換金しなさい。私、今も超眠くてぶっ倒れそうなの」

 カチンと来たミナト。とんでもない速度でヒナタを捲し立てる。

「はぁ? 何が『話聞いてんの?』だよ! 聞いた上で意味が分かんねぇんだよ! レベルが43になりました? 新しいスキルが手に入りました? そんな気軽にレベルはホイホイ上がらねえしスキルも手に入らねえんだよ! お前が毎日毎日、意味の分からないステータスで帰って来るせいで、俺が必死で正当性を付けたお前の活動報告書を上司に何回跳ね除けられたと思ってんだ!? 眠いのはこっちも一緒だよ! お前を担当してから毎日毎日、お前の報告書を徹夜で書き続けてる俺の身にもなってみろよ! そんでようやく通った報告書も、周りの同僚から嘘つき呼ばわりされる始末だ! 分かったらもうちょっと俺の体に気を遣って、慎ましくレベルを上げてくれよ!」

 もう可哀想になって来る。でも事実だ。ミナトはヒナタを担当に持って以来、過重労働が続いている。意味の分からないヒナタの活動報告書が一向に通らず、通ったとしても同僚から嘘つき呼ばわりされるような始末だ。しかし、ミナトのそんな苦労はいざ知らず、ヒナタは折れた剣を見つめている。

「あ? お前、もしかして明日もダンジョンに潜るつもりか?」

「そうだけれど……」

 ヒナタから明日もダンジョンに行くと聞いたミナトは、その顔をヒナタに近付け、ヒナタの肩を掴んで言う。

「だめだ。俺が今何徹かましてると思ってる? お前が来てからは睡眠もままならないんだ。な? 明日は寝かせてくれよ?」

 ミナトは目をかっぴらいてガンギマリさせている。もはや薬物でもやっているのではないかと疑ってしまう目つきだ。目の下に溜まったクマがそれを強調させている。ヒナタに残された選択肢は一つしかない。

「……分かったわよ。明日は休むわ。全く、仕方ないわね」

「そうか、そりゃ良かった。金を持って来るからちょっと待ってろ」

 そうして裏に向かうミナト。ヒナタはキューネを見て言う。

(苦労してるみたいね)

(おそらく、主にヒナタのせいだけどね)

(私のせいじゃないわ。私に追いつけてない時代のせいよ。すぐに時代が追いついて、皆私にペコペコし出すんだから)

(そうだと良いね)

 なんてミナトを待って数十秒。ミナトが戻って来る。そしてその手の中には大金があった。

「30万ヴァルだ。端数は切り上げてやった。ほらよ」

 そう言って30万ヴァルをヒナタに渡す。そこそこの厚さの札束だ。ヒナタは眠そうにしていた目を輝やかせている。

「これ持って少しは娯楽に励め。ダンジョン狂いになるぞ」

 一定数いるのだ。シーカー活動にばかり熱中して他の娯楽を一切持たない人間が。こういう奴は、大概は戦闘狂になる。そしてその末路も大概は同じだ。新たな刺激を求め続けた結果、強いモンスターに命を奪われる。そのため、いくつか趣味を持って娯楽として楽しむことは、シーカーとしては案外重要なことなのだ。しかし、ヒナタにとってそんなことはどーでも良い。とにかく手に入れた大金に目を光らせている。

「おい、聞いてんのか?」

「分かったありがと! そんじゃあね! これで良い宿見つけてベッドインよ! ヒャッホー!」

 全く聞いていないヒナタ。ギルドから足早と抜け出して夜の街に消えていく。

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